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10.鉄道敷設計画

10.鉄道敷設計画 


 季節はすっかり春めいて来て、王都復興の為の住居ビル建設もある程度目途が付き、俺と事務長は早々にスーパー堤防の住居ビルに戻って来た。未だに……魔王国は要警戒国であり、気は抜けないのだ……。


 戻ってくるなり吉報が待っていた……なんと、俺の嫁……サッサーとアーミナが妊娠していると分かったのだ。2人ともに妊娠4ヶ月ほどで、秋ごろ出産予定だ。俺が18で子持ちになるとは……元の世界の生活では到底考えられなかったことだ。


 事務長はかなり年上なので、若くてぴちぴちの妻とばかりお楽しみ……子供が出来るようなこと……をしていたのかって?


 そうではなくて、今回のように事務長とは行動を共にすることが多く、どちらかというと事務長との回数が断然多いのだが、戦後の復興と魔王国への警戒感から、事務長が第一線から欠けることは許されないようで、兵士長とレルムに泣きつかれて避妊魔法を施しているらしい。避妊まで魔法なのだからすごい。


 妊娠しやすくなる魔法も存在するようで、魔王国との件や諸外国との関係が改善されて手が空き次第、魔法でできやすくすればいいと事務長は言っているのだが、俺は魔法ではなく自然に妊娠することが望ましいと主張するつもりだ。


 なんせいかにもこれから致しますよ……って宣言してからするみたいで、なんだか萎えそうで怖い。特に事務長の場合は専属魔導士がレルムだし……良く知っている関係性だけに、性生活の秘匿性は保ってほしい。


 他の新婚兵士たちも懐妊が判明したカップルは多く、もうすぐ出産ラッシュになると見込まれる。戦争で失った分を回復しようとする重婚政策は、成功していると俺は思う……何せ重婚を許しますよ……と言われなければ、すぐに結婚しようなどとはとても考えなかったはずだ。


 これは他のカップルたちも同様の様子で、一旦結婚したなら離婚できず死別しても再婚できないという、この世界のルールは厳しいと思う。離婚するつもりで結婚するやつはいないと思うが、結婚してみて性格や生き様が合わなければ、離婚もやむを得ないと普通は思うのではなかろうか……特に結婚する前は……。


 だから……重婚できるのであれば……まずは一人目だけでも……と踏み切った男は多かったはずだ。ついでにできればあの憧れの彼女も……なんて夢見て指名票のマスを埋めて行ったのではないだろうか……。


 このルールはどうやらエルムグリム王国独自のルールのようで、タッタルンでは離婚も重婚でさえOKという事のようだ。エルムグリムは常に魔王国の脅威に怯え、軍を整備するために11年間もの長い兵役を義務としているが、その間兵役につかない女性たちが社会を担っているのである。


 許嫁制度があるこの国では兵役途中に結婚するカップルが多く、嫁入り後は妻が旦那の家を支えて働くため、戻ってきて多少の諍いがあっても頑張ってきた妻と離婚してはいけない……また、長年男ばかりの軍隊生活を強いられてきて国に貢献してきた夫と、簡単に離婚してはいけないと双方への制約が課せられているようだ。


 まあ……そう聞けばわからんでもない……がな……。


 そんな情報を仕入れた矢先……スーパー堤防の住居ビルにも新卒の兵士が、千人規模でやってきた。期が変わって15歳となった新成人のおかげで、国軍部隊はほぼ倍の2万5千となったようだ。とはいえ……新卒兵ばかりでは、少々心もとないのだが……。


 昨年の戦後早々から教育方針ががらりと変わり、女性にも魔法教育が課されることとなった。そうして今年からの新卒兵士の半分は女性兵士だ。15歳から26歳までの兵役期間、1年交代で実家に戻り家業を手伝ったり就職する傍ら、兵役にも従事する。11年間だった兵役期間が、ほぼ半分の6年になったのは喜ばしい。


 これにより有事の際の兵力は以前の倍になるが、通常時の軍事費は変わらないのだ。有事の際に戦って国や家族を守りたい気持ちは、男でも女でも同じであると今回の侵略戦争で皆理解したようだ。


 当然ながら兵役を終える兵士もそこそこいるようだが、やはり戦争で著しく兵力を削がれた軍の立て直しが急務であるため、1年間に限って新卒兵士の教育係として残ってもらうことにしたようだ。


 いずれ魔王国の脅威が遠のいて行けば、兵役期間は短縮されるはずだ。そうなれば余計に女性が男性の代わりに嫁に行った家を守る……なんて義務がなくなり、いずれは離婚も許されるようになるのではないかと考えている。俺は別に離婚推奨派ではないのだが……やはり選択肢としてあったほうがいいのではないかと考えている。


 ついでに……と言っては失礼だが、サッサーとアーミナのご両親が疎開先からスーパー堤防住宅へ引っ越してきた。どちらも地方都市で商売を行っていたらしいのだが魔王軍侵攻で廃業状態のようだ。住居ビル入居者は優先的に農地を貸し与えられるので、農家に転業目的で引っ越してきたという事だった。


 まあ……農家で移住済みの家族も多いし、農業指導なども充実しているようだし何とかなるだろ……取り敢えず、ようやくご両親ともご挨拶が出来……(なんだか出来ちゃった結婚みたいで申し訳ないのだが)身重の妻と一緒に結婚の許しを請うて、了承されたのでほっとした。


 ちなみに事務長のご両親はすでに他界されていて、唯一の家族である妹さんとはタッタルンの王子の来訪時に、王都でご挨拶は済んでいる。(勿論夫であるレルムも同席した)


 期が変わって、様々な統計発表があった。エルムグリムの人口は約2百万と言われていたようが、今は180万人。戦死者も相当数いたようだが、魔王軍が王都に向けて進行を始めた際に、魔王軍に掴まることを恐れて隣国のタッタルンへ逃げ出した難民が相当数いたらしい。幸いにもタッタルンとは友好な関係を築けたので、早々に帰国出来るだろうと事務長が言っていた。


 ちなみに約70歳だったエルムグリムの平均寿命が、昨年の戦士者多数で50台にまで落ちたらしい。


 スーパー堤防の住居ビルに習い高層建築による王都再開発を進める復興計画は、近くに大河がないためエスカレーターの常時稼働が難しく、階段で辛くなく上れる6階までとした。ビルの基礎工事を終え、上物も半分程度は出来上がっているようだ。


 それでも以前までの木造平屋と比べると、地下2階地上6階建ては十分高層建築だ。


 俺はついでにお城の周りに堀を掘って、そこに水を引いて警固をより厳重にするべきだと主張しているのだが、飛行術で兵が飛んでくる魔法世界……結界が防備の要で城壁や堀などは、余り重要視されないようだ。


 それでも物理結界と魔法結界は併用できないため城壁が存在するはずで、そのような観点からのお堀はあったほうがいいと主張して、ようやく認められた。城壁の周りを取り囲むように幅10m以上の区画を確保して堀を掘らねばならないのだ。城下町を再整備する今しか拡張検討することは出来ないので、助かった。


 問題となっているのは国会議事堂を再建造するかどうかで……勿論旧国会議員らは早急な再建と議員への再任を求めて連日王宮へ詰めかけている様子だが、自ら勝手に議員辞職して王政復古を取り決めただけに、王様が首を縦に振らない限り認められそうもない。


 他国に攻め込まれただけで簡単に政権運用を放り出して逃げ出すような議員など、何の役にも立たないから王政のままでいいのではないかと俺は主張しているのだが、王様の考えとしては国民一人一人が満足する政治を、たった一人の権限で判断してはいけないと、議会の復活を望んでおられるようだ。


 とはいえ……その議会が、逃げ出した旧議員達による運営でないことは、王様も認めていらっしゃる。


 王都が復興して住民たちが疎開先から戻って来た時点で総選挙を行い、新たに国会議員を選出するという計画が、されているようだ。その為、国会議事堂も高層ビルとして建築されるようだ。


 魔王国へは既に食糧支援も始まり、更に林業や酪農の専門家による小鬼たちへの技術支援も順調に進んでいる。棚田の開梱手順に関しては、俺が前の世界で見ていた世界遺産とかいう棚田の風景を絵に描いて説明し、農家の方に大まかに理解していただいた。


 本来なら棚田にひく水の水源をどう確保するかなどが問題となるはずだが、水は近くの湖から魔法で氷を切り取るかのように数百リッター単位で持ち運んでこられるらしい。多量に運ぶには中級クラスの魔力を有する者が必要らしいのだが、数十万はいる小鬼たちの中には中級クラスの魔力を持つものは多数いるため問題なし。


 小鬼たちは使える魔法は初級魔法に限られるのだが魔力は人よりもはるかに強力で、初級魔法でも人が放つ中級に相当すると言われているようだ。


 山を階段状に切り取って行く作業の際、材木として輸出するために魔法で破壊するのではなく斧で木を切り倒した後は、土系魔法で地面を簡単に大きく切り取っていけるので、一つの山を階段状にするだけなら数日で終わったと聞いた。


 山を切り取った土砂は魔王国の山側の海岸線は切り立った崖となっているので、その海岸の埋め立てに使うようお願いしておいた。うまく埋め立てが出来たら貴重な平地となるし、技術が確立次第そこでエビの養殖でも始められたら小鬼たちも喜ぶと思っている。


 後は階段状にした土地を鍬で耕して、枯れ葉や枯草でたい肥を作って混ぜながら肥沃な土地へ開墾していく地道な作業で、こればかりは魔法で……とはいかないので小鬼たちが必死で頑張っているらしい。


 全ての山を禿山にして耕作地にはできないので、低くて海岸線に面している山をいくつか選定して、棚田の指導は1ヶ月ほどで終了したようだ。これなら十分今年の収穫に間に合う時期だ。



「鉄道……とな?鉄で道を舗装するのか?」


「いえ……道の上に鉄のレールを敷いて、線路の上を列車が走るのです。列車の動力は魔法ではなく蒸気機関……火を燃やして水を加熱し沸騰させ、蒸気の圧力でピストンを動かして車輪を回すのです。恐らく高速打撃魔法で車輪を回すよりも、倍くらいはスピードが出るはずです。


 王都から旧国境の穀倉地帯までは、何百人も一度に運べるような大きな列車を日に何本も往復させたいです。多分片道12時間くらいで、着けるのではないかと……その沿線沿いに街を作って行けば、街も大きくなるし人や物の流通が良くなりますよ。


 王都は今再建中で、終わり次第戦争で破壊した町々の復興が始まりますよね?始まる前に鉄道を敷きたいのです……街が出来てからじゃあ、街のど真ん中に線路を敷くことは出来ませんからね。」


 事務長に俺が描く大規模な都市計画を説明しておく。別にビルの街並みや、自動車が終始行きかう騒がしい都会が懐かしいわけではないのだが、それでもある程度のインフラ整備は必要だと俺は思っている。


 まあ……何でも魔法で解決できると思っているこの世界……人の移動でさえも魔導船を使って千人単位で……簡単に実現できてしまうのだがな。それでも……蒸気機関であれば上位の魔導士を何十人も必要とすることもなく、石炭火力でいけてしまうのだからな。


「ふうむ……どのような仕組みだ?」


「はあ……俺のイメージでは……こう……窯があって燃料を燃やします。窯の上には上方を細い管に接合した容器の中に水を入れておいて、その水を窯の熱で温めて蒸気に変えるのです。


 熱せられた蒸気は何百倍もの容積になって管を通って、摺動するピストンがある筒に入って行き、ピストンを押し込みます。押し込まれたピストンは車軸に結合されたアームを動かし車輪が回ります。


 今度は蒸気が来る管を塞いでピストンが入った容器の上を開放して蒸気を抜くと、回った勢いでピストンは上に戻って行き、容器にまた蓋をします。そこですかさず管を開けると蒸気が入ってきてピストンを押し下げ……この動きを延々と繰り返すわけです。


 ピストンとアームの連結を、クラッチでつないだり切ったりできるようにしておけば、止めたいときにブレーキをかけられます。これがいわゆる蒸気機関という奴で……まあ、俺も詳細な機構は知らないけど、大体授業で習ったのはこんな感じではなかったかと……。」


 科学の授業で蒸気機関やエンジンなどの内燃機関の概略を習った時に受けた、イメージを説明しておく。まあ……事務長なら何とかしてくれるはずだ。


「ほっほう……高速打撃魔法の代わりが蒸気機関……と言う訳だな?なるほど……燃料は薪でよいのか?それとも火炎魔法の方が細かく火力調整できるからよいかな?」


「なるほど……火炎魔法の方が窯が小さくできるからいいような気もしますが……火炎魔法を使ってしまったら、装甲車を高速打撃魔法で動かすのと何ら変わりはないじゃないですか……結局魔法を使える兵士がいなければ動かないし……疲れるから1日中は動かせない……。」


 やはりなんでも魔法で事を成し遂げようとする風潮のこの世界……結局魔法なんだよなあ……俺だって魔導船のこと知ってたら、装甲車なんて言い出さなかったよな……なんせ浮くからタイヤいらないし……。


「そうでもないのだぞ……火炎魔法は初級から中級の魔法で、魔法兵士であれば誰でも使える。対する高速打撃魔法は熟練の術者……魔導士クラスでなければ使えないし、しかも魔力を多く使うから長時間は使えない。


 魔導船を浮かせるのに多くの魔導士を必要とすると以前説明したはずだが、装甲車のように高速打撃魔法の術者たった一人だけで数十人ものせて動く乗り物は、大した発明と言えたのだぞ。今度はさらに魔法兵士なら誰でも使える火炎魔法で、何十人も運べる乗り物が実現するのであれば、それだけで素晴らしい事なのだ。」


 事務長は真剣なまなざしで、顔をしかめる俺を見つめて来た。はあ……なるほど……同じ魔法でも使えるクラスが限られたり、使うのに制限があったりするのだな……火炎魔法は大衆的と言えるわけか。


「だったら……スーパー堤防から旧国境までは、田んぼを削れないため畦道を進まなければいけないのです。その為、座席横2列のトロッコ列車程度かな……と思っていたのですけど……試しにこっちを先に作ってみませんか?小さい車体だから大きな窯は無理だと思っていたけど、魔法ならいけますよね?


 旧国境から王都迄を結ぶ鉄道は、車体も大きくしたいから魔法より燃料を燃やす蒸気機関がいいと思います。


 トロッコ列車で蒸気機関の仕組みの実験はできるから、いい肩慣らしになると思いますよ。本番の燃料は、北方の部落の人たちが、冬場の暖房でストーブを焚いていると聞いたので、その燃料の石炭がいいと思っています。石炭は俺がいた世界でも、SLと言って蒸気機関車の燃料でしたからね……。」


 まずは穀倉地帯をトロッコ列車で横断しようと思っていたのだが、大きな蒸気機関にはできないし、石炭を常時補充する作業場所の確保も難しいと思っていた。だが……魔法でいけるならこんな便利なことはない。魔法と蒸気機関のハイブリッドだ……この世界らしいと思う……。


「分かった……早速工房で、火炎魔法を使った蒸気機関とやらの模型を作ってみよう。」


「はい……それで……並行して何ですけど、線路は先に敷いておきたいのですよ。座席2列だけのトロッコ列車の幅であれば、あの狭い畦道でもぎりぎり単線で引ける思っているのですよね。畦道は人や馬車や装甲バスも通るので、潰せないですからね。


 勿論そのまま堤防を登って鉄橋を渡り、渓谷を通って旧国境の街まで行けると思っています。


 堤防の坂を上る時には車体の下に車輪と一緒に回る歯車をつけて、斜面側に歯車の受けとなるギザギザのレールを足して敷けばいいのです。歯車の歯が噛み合って滑らずに上って行けるはずです。


 いずれはトンネルを掘って川の下をくぐりたいですけどね……ついでに海岸沿いの漁師町へも、単線でもいいからトロッコ列車の線路を敷いておけば、こことの行き来も楽になると思います。」


「ほほう……では早速、まずはトロッコ列車の車体の試作を行い、その車輪幅に合わせて鉄のレールを敷いていく工事を始めなければならんわけだな……レールというのはどのような形をしているのだ?線路を地面に敷くと言っても、ただ置けばいいのか?曲がる時にはどうするのだ?」


「はあ……確か……こんな形で……車輪側の外側がこうやって2本のレールに挟まれて動きます。基本はひたすら直線にまっすぐ敷設しますが、車輪はテーパーになっていて、こう……曲がる時のレールに当たる面が微妙に変わって行き……。


 この辺りは記憶だけなので……テーパーになった車輪と曲げたレールを作ってみて、試してみていただけませんか?恐らく適正なテーパーの角度や、レールを曲げられる角度なんかも、実験で割り出さなければ俺は全く知りません。」


 またまた丸投げ……なのだが、まあいつものことだ。


「ふうむ……急いで試作と実験をせねばならんようだな……あまり時間が経ってしまうと、本番用の鉄道の線路が敷けなくなってしまうかもしれん。」


「まあ……どの道、お城があるから王都の中央に線路は敷けませんけどね。お城の北か南側の面……どちらかに駅舎を作るつもりで、王都の端を通る計画にすればいいと思います。そうしておけば王都からさらに西へも、鉄道が敷けるでしょ?


 問題は……王都迄の街道に沿って線路を敷く時ですよ……先に建物を建てられてしまったなら、まっすぐにレールを並べることが出来なくなってしまいますからね。用地買収だけでも先に行っておかねば……。」


「なるほど……そうか……大至急王様に文書を送り、レルムたちにお願いして破壊した町や村の復興の際の用地範囲を決めておけねばならんな。線路の用地は……装甲車2台が余裕ですれ違える幅があればいいだろ?勝手に線路に入ると事故が起きるから柵を設けるとして……その1.5倍ほど確保しておけばいいか。」


「レールはそのまま地べたに置くのではなくて、水はけがよくなるように少し盛り上げた上に砂利を敷いて……枕木という昔は木だったのが今はコンクリート製のはず……を置いた上に、鉄製の杭みたいなのでレールを固定するのです。それが線路……ですね。」


「なるほど……その分も考慮する必要性が……。わかった……早速動き始めよう……。」

 事務長がすぐさま工房の班長クラスを集めて、各班の分担を決めてそれぞれに説明を始めた。


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