8.共同支援
8.共同支援
「ほほう……山の中の洞窟暮らしだった小鬼たちに、住居となるログハウスの作り方までお教えしたという事ですか?更に耕作地に乏しい魔王国に、わずかに残る平地の河川敷を農地に変える工作方法を教えた……。
成程……それで小鬼たちは自分たちの住居のログハウス作りと河川敷の畑の耕作に夢中になり、貴国へ攻め入る様子は見えなかったという事ですね。
おかげで貴国は安泰……ついでに食料も支援して、更に恩を売っておこうと……そうお考えですね?
ですが……そううまくいくでしょうか?魔王国はどこまでも貪欲で……特に小鬼たちは常に飢えている状態で、隙あらば他国へ侵入して食料を奪い、女性を凌辱して逃げて行く……暴挙を繰り返すような輩です。
今は敗戦のショックもあり、おとなしく農耕に明け暮れているのかも知れませんが、いずれ単純作業に飽きて他国を侵略しようと考えだすのではないですかね?その時に食料支援を続けていれば潤沢な兵糧があり、余計に他国へ攻め込む支度が容易になるのではないのでしょうか?」
ハーゲル王子はどこまでも小鬼たちを信用していなく、下手に支援すれば逆に利用されて、余計に攻め込まれるだけだと主張する。ううむ……タッタルン国も小鬼たちに攻め込まれたことがあるのだろうか?
「そうでしょうかね……魔王国がエルムグリムに攻め込んで無理やり奪取した穀倉地帯を、小鬼たちは140年もの間、それまで通りに豊かな農地として耕作しておりました。小鬼たちは荒れ地を開墾する知恵や技術は持ち合わせていなかったようですが、農耕地を耕作するような単純作業は継続できていた様子です。
ですがその間も……随分と魔王たちに搾取されていた様子で、小鬼たちが潤うことはほとんどなかった印象を受けました。そのため今回、140年前に大魔導士様が施した山岳地帯の大結界の効力が薄れて来たのを契機に、我が国へ攻め入ったのだと考えております。より多くの耕作地を奪取するために……。
そのため今回行う食糧支援は魔王たち貴族向けと、小鬼たち向けと完全に分けて行いたいと考えております。全て魔王城あてに送付してしまうと、末端の小鬼たちに届かない恐れがありますのでね……。
食料支援の目的は、飢えた小鬼たちがこちらへ侵入して悪さを仕掛けないためだと明確にしたうえで、小鬼たちを直接支援しなければならないと強調するのです。この意向を既に魔王には打診済みですが、魔王は了解していただけました。渋々かも知れませんがね……。」
事務長がハーゲル王子を何とか説得しようと、言葉を重ねる。
「ふうむ……魔王国は豊かな農産国で、農産物を妖精国や獣人国に輸出していた様子でしたが……勿論我が国も海産物と引き換えに米や麦など穀物を交換取引しておりましたが……小鬼たちから搾取していた疑いがあるという事でしたか……ふうむ……。
小鬼たちを少しでも潤してやれば、他国へ悪さを仕掛けることもなかろうと……そうお考えという事ですね?なるほど……ですが食糧支援を延々と継続するわけにはまいりませんぞ……如何なわが国でも国庫が圧迫されますし、それに妖精国や獣人国が魔王国だけへの支援には、苦情を申し立ててくるでしょうからね。
そうなったら今度は妖精国や獣人国へも支援を行いますか?そのような事は不可能と言えますぞ。
それよりも勇者様直々のご指導を頂いて、我が国の軍を強化する方がよほど得策としか……。」
少し納得をした様子を見せたが、それでも妖精国や獣人国を引き合いに出して、いつまでも食糧支援を続けられないだのと……あくまでも国軍の強化を主張し始めた。
「いつまでも食糧支援を続けると言う訳ではございません。敗戦の復興から立ち直るまでの、ほんの数年でよろしいのです。山岳地帯がほとんどの魔王国にはその土地向けの産業……林業や牛やヤギに羊などを放牧して育てる酪農が向いていると考えております。
我が国の林業家や酪農家が直接魔王国へ出向いて小鬼たちに直に指導する旨、すでに伝えて魔王に許可を頂いております。更に山の斜面にでも田や畑を耕作する農耕法もあるという事でして……その方法も含めて再度農業支援にも出向こうと計画しております。
しかもこれは勇者からの提案でしてね……例え勇者が貴国へ出向いたとしても、軍への指導など行わずに魔王国への支援をひたすら提案するだけになってしまうと考えております。ですからなんとか……もう一度お考え直しを……お願いいたします。」
事務長はさらに農業や林業支援を行う予定だと説明し、それが機能し始めるまでの間の食糧支援の協力を求め、深々と頭を下げた。俺と兵士長やレルムも一緒に頭を下げる。
「はあ……勇者様のご提案ですか……流石に勇者様を引き合いに出されては……お断りするわけにはまいりませんなあ……ですが我一人の一存で決めることも出来ませんから……少々お時間を拝借できますかね。それと……何処か静かなお部屋をご用意願えれば……。」
暫く顎に手を添えて考え込んでいたハーゲル王子は、諦めたかのように大きく息を吐き、そうして部屋を要求した。伝令バトでも飛ばして本国へお伺いを立てるのかな?そうなると……2日は掛かるか……。
「兵士長……客間にご案内して差し上げなさい……。」
「ははっ……かしこまりました。」
王に促され、兵士長がハーゲル王子ら一行を案内してVIPルームを出て行った。
「はあ……緊張した……他国の第1王子様……だなんて、失礼なこと言わないか緊張しまくりでしたよ……事務長はさすがですね……。」
ご一行様の姿が見えなくなって、ようやく緊張の糸がほぐれて来た。緊張してぎゅっとこぶしを握り締めていたせいか、爪が食い込んで掌が痛い……。流石事務長……良く普通に会話できたなあ……。
「別にタッタルン王国から良い印象を持たれる必要性もないと感じたのでな……緊張などちっともしなかった。それもこれも……文美雄がかの国はどうにも怪しいと……言っていたからではないか。
他国の窮地には手も差し伸べず、自国が危うくなった途端に支援を要求してくるような危険な国だとな……。
そんな国の使者と親しくなりたいとも思わぬから、何とも感じなかったぞ。しかも……こちらからの要求自体が文美雄の提案ではないか……しかもそれなりに筋が通っている……。
だから……すごく話しやすかったぞ……それなのに……文美雄はどうして緊張しているのだ?」
事務長は不思議そうに首をかしげながら、俺の顔を覗き込んできた。
「わっ……たっ……たんま……。」
ようやく緊張から解き放たれたばかりと言うのに、いきなり美形に接近されるのは、本当に心臓に悪い。
「うん?どうしたというのだ?外国からのお客がそんなに珍しかったのか?」
それなのに事務長は、こっちの気持ちなどお構いなしにくっついてくる。
「はぁはぁ……いいいやっ……そっ……そうではなく……。」
「まあまあ……文美雄殿は大変に内気な方だから、見慣れない人とは話しにくかったのだろう。そう攻め立てないほうがいい……ようやく我々には慣れていただいたのに……また緊張するようになっても困る。」
「おおそうか……そう言う事か……人見知り……だな?悪かった……。」
俺の危機を悟ってくれたのか、兵士長が助け舟を出してくれ、ようやく事務長が少し下がってくれた。助かったぁー……。
「それはそうと……恐らくハーゲル王子はタッタルンへ本日の議事内容をまとめて、問い合わせるおつもりでしょうね。そうなると……伝令バトの往復時間を考えて、2日はこのまま待機ですかね?」
「ああ……彼らは伝令バトなど使用しませんよ……恐らく水晶球を使って、タッタルン王さまと直に打ち合わせをなさるおつもりと考えています。その為部屋を所望されたものと……。」
2日も先じゃあ、このままここで待っていても仕方がないと切り出そうとしたら、レルムが直接タッタルンとやり取りするはずと言い出した。
「はあ?水晶球を使って……占いでも始めるのですか?」
「いえいえ……御冗談を……先日、エルムグリム王さまからの王令の内容を、新国境堤防の住居の上空に映し出したではないですか……あれは王都から送付されてきた王令の内容を指示に基づき、空に映し出したものです。それより前には……魔王が王都を侵略攻撃する様子を空に映し出しましたよね?
それと同じことを今度は、水晶球に対して行うのです。この場合、双方に上級以上の魔導士が必要となりますが、それでも直に遠くの方と直接懇談が出来るので、大変便利です。」
なんと……スマホのテレビ電話のような機能が、魔法で実現できるという……本当にこの世界はなんでもありだな……。
「あれ?でも……戦争時もそうでしたけど、堤防住居と王都のやり取りはいつも伝令バトだったではないですか……レルムさんがいたのに……どうして伝令バトを使っていたのですか?特に最初の講和条約を結ぼうとした時など……あれは王様からの親書を直接受け取る必要性があったからでしょうか?」
戦争時もそうだが、いつもは伝令バト以外使っているのを見たことがない。内容が皆に知れ渡ってしまうから、空に投影するしか遠距離通信する方法がないのであれば別だが……水晶玉を使って相互に映し合えるのであれば、そのほうがはるかに速く意思伝達が出来るはずだが……。
「だから……遠距離会話を実現するには、双方に上級以上の魔導士が必要なのだ。今のエルムグリムには、上級以上の魔導士はレルムともう一人、王都西の疎開地にいるのみだ。だから……一方通行の伝達しかできないから、通信手段としては用いていないのだ。
なにせ相手に伝わったかどうかも、確認できぬのだからな……怖くて重要な話など出来ぬ。重婚のお達しは、適齢期の兵士が多い堤防住宅と疎開先の両方で中継されたはずだ。
魔王がエルムグリム王都を襲撃する様を空に投影して我々に見せつけようとした時には、魔王軍の中にも上級クラスの魔導士……恐らく魔族が潜んで居たのだろうと推察している。しかも王都襲撃の魔王軍と、穀倉地帯の魔王軍の両方にな……そうでなければあのような真似はできん。
勿論魔族が乗船していた魔導船は、状況が悪化した時点で即刻撤退したはずだ。」
俺の素朴な疑問に対し、事務長が詳しく説明してくれた。そうか……確かになあ……14万の兵士が失われたのだものなあ……しかもそのうち精鋭が4万……その中に上級クラスの魔導士がどれだけいたことか……勿体ない話だ……。
「失礼……大変お待たせした……。」
テレビ電話の話題で盛り上がっていたところへ、ハーゲル王子ら一行が戻って来たようだ。やはり直接顔を突き合わせての相談は、かなり早くて助かるなあ……。
「貴国からの申し出に対して、わが王と議論を重ねておりました。そうして勇者様自らのご提案という事であれば、無視するわけにはいかないという結論に達したところです。支援物資の輸送方法や量などの詳細は今後詰めることとし、我が国も貴国からの提案に賛同して魔王国に対する支援を行うことといたします。
但し、条件がございます。
一つ……支援物資の物量と品目はエルムグリム王国とタッタルン王国共に、同一品目で同量であること。加えて、こちらからの要求によって、貴国の送付物資の目録をいつでも確認できるようにすること。
これは送付物資の品目や量により、魔王国が受け取る際の印象を公平に保つ目的がございます。特に必要な米や麦など……必需品を握られて、副菜ばかり支援させられてはたまりませんからね。
一つ……タッタルン王国からの支援は、3年をめどに打ち切らせていただく。
我が国だってさほど潤っているわけではありませんからね……国内の貧困政策をないがしろに、他国ばかり支援していると世論に叩かれてはたまらないからです。3年程度であれば、敗戦後の復興支援という形で、何とか貢献させていただくつもりです。
一つ……食料支援の見返りとしてエルムグリム王国は勇者様が提案なされて所蔵している武器を、タッタルン王国が必要とする数だけ供与する事。
これは……食料支援の交換条件という事でしたので、確約いただけますよね?
一つ……食料支援したところで魔王国の脅威が消え去るかどうか不明確であり、タッタルン王国が他国からの脅威にさらされたときは、直ちにエルムグリム王国は救援の兵を差し向け共に戦うことを約束する事。
以上の4点をお約束願いたい……。」
ハーゲル王子はタッタルン国王との打ち合わせ時にメモっていたのであろう……A4サイズの用紙を広げて目を通しながら要求を告げた。成程……全て言いなりにはならないという事だ……。
王子が話し終えた時点でエルムグリム王は大きく頷き、事務長に向かって目配せした。
「貴国からの条件……大まかには了解いたしました。
詳細内容はまとめて文書化いたしますが、一つ目の条件に関しましては、互いの支援物資の目録は、必要時に開示請求できる……という事でよろしいでしょうな?」
そこで事務長が、タッタルンからの一方的な開示請求権ではないことを確認する。
「そ……それはもう……勿論ですぞ……互いにね……。」
「ありがとうございます。二つ目の条件に関しましては、エルムグリムからの農業林業支援が、3年以内に実を結ぶよう、鋭意努力することをお約束いたします。
それで……3つ目の条件ですが、勇者が提案してエルムグリムが製作した武器のご説明は、後ほど一つずつ詳細に行わせていただきます。貴国で製作可能な技術があるものは試作品をお渡しするだけとし、それ以外は必要数を供与させていただきますが、その上限は、エルムグリムが所有する数とさせていただきます。
魔王軍と戦って勝利したエルムグリムが所有する数で上限……そうさせていただかないと、何万何十万と要求され、かなえられなくなって不履行だと申し立てられても困るからです。勿論、原材料費と加工費……利益は一切上乗せせずに、原価分のみ請求させていただきます。ご納得いただけますか?」
「あっああ……貴国が所有している数を揃えていただければ、それで十分ですぞ。更にわが国でも製作可能な武器があれば……勿論自国生産したいのでよろしいですぞ。」
「ありがとうございます。最後の4つ目の条件ですが、これは当たり前ですが、エルムグリム王国が他国から侵略攻撃された場合、直ちにタッタルン王国が兵を差し向けて共に戦う……という、双方に当てはめて明記して問題ありませんか?
その際……今回魔王軍に攻め込まれる以前は、エルムグリムとタッタルン王国とは同盟の協定が結ばれていて、魔王軍がエルムグリムに攻め込んだ場合は、タッタルン王国が船団を率いて魔王国へ攻め込むことになっていたはずですが、全く履行されておりません。
おかげで初戦で14万もの兵を失う事となりました。この協定不履行をどうご説明なさるおつもりですか?
貴国が協定を順守なさっていれば、勇者を召喚する必要もなかったとも考えておりますが……。」
そうして最後に、嫌味ともとれる辛口の切り返しを行った。
「その件に関しましては、協定書をもう一度ご一読願えればよろしいかと……。」
事務長からの厳しい追及にも、ハーゲル王子は平然と笑みを浮かべて見せた。
「協定書をもう一度見てみればわかるとおっしゃっていますか?」
事務長が、余りの対応に唇を震わせながら確認する。
「そうです……協定書の最後の欄……我が国と同盟を結ぶ相手はどうなっておりますか?」
「それは……エルムグリム共和国連邦となっておりますが?」
「我がタッタルン王国が同盟の協定書を交わしたのは、あくまでもエルムグリム共和国連邦相手でして……魔王軍に攻め込まれた時点で議会は解散し、貴国はエルムグリム王国になりましたよね?よってこの時点で同盟は破棄されたものと、わが国では判断しております。
わが国では真摯に同盟の約束を果たそうと、協定書を交わした相手である共和国議長以下、議員及び関係者の方々を国賓扱いで我が国にご招待し、戦時中も安全にお過ごしいただきました。
十分に協定書の内容を果たしたものと自負しております。」
なんというとんでもない理屈……を並べ立て、ハーゲル王子は自信満々にソファにふんぞり返った。




