6.隣国への対応
6.隣国への対応
「視察団?……ですか?」
「ああ……お隣のタッタルン王国から、魔王国軍を撤退させて賠償金迄払わせるという完全勝利を挙げた秘訣を教えてほしいと、終戦時からしつこく何度も使者が王都へ来ていたようだ。
兵士長も宮廷魔導士も不在でとても対応できないと断っていたようだが、2人とも王都へ戻ったタイミングでの今回の使者は、どうしても断り切れなかったようだ。なにせ一応は同盟国だからな。」
寒風吹きすさぶ中、農閑期に引っ越してきた農家の人たちにも住居ビルは好評で、元々2K風呂なしに住んでいた人々にとって風呂付4LDKの新居は、正に夢のようだと何度も来る人来る人に頭を下げられた。別に俺のおかげではないのだがなあ……。
特に忙しい農家にとって食堂と共同浴場付きは有難いようで、若い兵士たちとの共同生活にも不満をいだいていないようで有り難い。なんせこっちは一夫多妻制なのだからなあ……僻んだりされても困る。
そんなある日一通の書面が伝令バトからもたらされた。視察団……がくる……。
「ええっ……同盟国って……俺が来てから一度も他国の軍隊なんて見なかったですよ。戦争当初の14万の兵が犠牲になったという戦いで、他国の軍隊も全滅したのですか?」
「いや……タッタルンとは同盟協定を結んでいて、魔王国軍に攻め込まれた際に降伏しなかったのは、我が国軍が魔王国軍を一旦引き込んで戦えば、その時に船団を組んで穀倉地帯から上陸し、魔王国軍の背後を突くという密約があったからだ。
ところがタッタルンは派兵せず、わが軍は2度の戦いでほぼ全滅させられた。」
「だったら協定違反ではないですか……戦況が不利な時は知らんふりして勝ったらなびいてくるなんて……そんな国……相手にすることないですよ。」
「そうもいかんのだ……現在この大陸には魔王国のほかに4つの国があり、その中でタッタルン国だけは人間の国であり、唯一の同胞国と言えるのだ。今ではほぼ同じだが、以前は向こうの方が国土面積が大きくて、人口は今では倍くらい多い……邪険には扱えん。」
「ええっ……だったら他の2国は何人が治めているのですか?」
「魔王国は魔族が治めているのは分かるな?そのほかに亜人が治めている国がある。しかもその亜人が2種類あって、妖精系の亜人と獣人系の亜人……それぞれが統治する国が存在する。」
「はあ?魔族以外にも……人間じゃない種族がいるのですか?妖精と獣人……って……。」
「驚くようなことか?……世界ではさまざまな種が混在して暮しているのだぞ。何も人間だけが種族で統治して国を形成して、生活していられているわけではないのだ。だがあいつらとは長年に渡って国交もないし、関わることは、恐らく今後もほぼないはずだ。
だが人間主体のタッタルン王国とは……交易の面からも外せないようだな……。」
なんと……流石異世界……人種迄異種様々……まあ……魔族なんてのが存在する世界だからな……見慣れてしまったが、小鬼だって申し訳ないがかなりの異形と言える。魔族に支配され搾取され続けていたという事を聞いたから、少しは同情の感情は芽生えつつあるのだが……。
「交易……ああ……貿易ですね?王国は工業国には見えないから、輸出するのは農作物ですか?あるいは機織りもの……繊維業は人手がかかるけど、王国はこれといった産業がなさそうだから恐らくそれですね?」
「おお……いい読みだ……王国からは米や麦の農作物と、絹や綿に麻などの織物等を輸出して、タッタルンからは主に海産物……だな。以前の王国は四方を山に囲まれた盆地で、海がなかったからな。
その弱みに付け込んでなのか……かなり高値で取引させられていたようだ。ぼう……いや……文美雄が漁師町を作ると宣言して海沿いへ出向いてくれたおかげで、わが国でも海産資源が豊富にとれるようになった。
おかげで以前は輸入に頼っていた魚介類の相場は、十分の一どころか物によっては二十分の一にまで下がった。それだけタッタルンは暴利を得ていたと考えられる。
だが、そんなことが明らかになったのも文美雄のおかげだな……。」
「いやあ……俺なんか何にもしちゃあいないですよ。ログハウスだって集会場だって、全てこっちの技術者と魔法兵や僧兵の方たちが建ててくれたんだし、何より漁師の人たちだって元々川で漁をしていた人を事務長が斡旋してくれたんじゃないですか。カキやホタテの養殖だって事務長が来てくれてようやく目途が……。」
そう……結局俺はただ同行しただけで、何の役にも立たなかった。せいぜいログハウスづくりの材木運びの手伝いや、地引網を引く手伝いとか網の補修程度で、張り切って行った割りには何の役にも立たなかったな。
これはと思って挑んだ鮭のふ化と稚魚の養殖も……結局失敗してしまったしな……。
「そんなことはないぞ……行ったのはあくまでも川の漁師だからな……渓流で投網をふるうことはあっても、足のつかない深い海は怖くてとても近づかなかったはずだ。川でも深みはあるだろうが、そこでは釣り糸を垂れる程度で、手漕ぎボートで長時間の釣りすらやったことがない連中ばかりだった。
そんな奴らに、手漕ぎボートでせいぜい1キロ程度沖まで行ってくるだけの地引網漁を教えて、多大な収穫を得られるようにしたではないか。遠浅の砂浜での潮干狩りとかで慣れさせて、素潜りでのタイやカニやエビにタコなどの突きん棒漁を教えたのも文美雄だ。ゴムチューブとやらを使った突きん棒は、すごい発明だぞ。
子供のころから夏の暑い時期は川遊びして素潜りは慣れていても、暗くてどこまでも深く広い海に等、誰も入って行きたがってはいなかったはずだ。なのに順に慣れて行ったから、今があるのだ。
いずれ大型船が完成すれば、沖合まで出て漁をする若者が多く出てくるだろう。それもこれも地引網や素潜りなどで、多大な収穫の喜びを知ったからこそなのだぞ。
しかも動力は帆船ではなく装甲車と同じく、高速打撃魔法を使おうと考えている。スクリュウとかいう回転させて船を進める動力の伝達の技術も文美雄に教えてもらっていたからな……帆船だと操船技術の習得に時間がかかりそうだし、タッタルンから帆船を購入する必要性があったのだが、自国で造船できるのも大きい。
文美雄がいなければ恐らくいまだに海で魚取りをしようなんて動きは、行われていなかったはずだ。下手したらタッタルン国に漁場を貸し与えることになっていたかも知れない。
初めての水揚げを堤防の寮にも送ってくれただろ?早速食堂で魚料理が出て、連絡係の子や工房のものたちだって、海の魚なんて初めて食べるというものたちも多く居た……というか、あたしを含めほとんどがそうだった。本当においしいって皆大喜びで、文美雄に感謝していたぞ。
あっとそうだ……そもそも網の材質……蜘蛛の糸魔法を使うと提案したのも文美雄だったな。あれは大評判でな……今では川の漁師の投網にも使われるようになった。更に釣り糸にもな。なにせ軽くて強いし目立たない……その為川でも仕掛け網漁が行われるようになったくらいだ。
それもこれも全て文美雄のおかげだ。」
事務長が笑顔で俺のことを讃えてくれる。まただ……なんか俺のやることなす事……全てがうまくいきすぎてる気がするな……なんか怖い……まあでも……永く海がない国だったから、海での漁には臆病だったのはうなずける。
対する日本は海産資源が豊かな国だったからな……社会科で習う程度の知識……しかもうる覚えですら役立ったのは有り難いな……。
「話を戻すが……タッタルンからの使節団の目的は、百万もの魔王軍の軍勢を打ち破った戦術を知りたいという内容だ。それで……投石器もボウガンに落とし穴も……全て文美雄の発案だが、どこまで打ち明けていいのか許可を頂きたいと連絡が来ている。弓に槍や薙刀だってそうだしな……。
今やタッタルン王国だって魔導船を使えば、いつ魔王軍に攻め込まれてもおかしくはないわけだ。それまでの侵略対象だったこの国が、魔王軍を打ち破ってしまったからな。戦々恐々としているようだ。」
褒められてうれしくて舞い上がっていたら……現実に戻された……。
「ええっ?でも……タッタルンにボウガンや投石器などの兵器の作り方を教えたら、それこそ簡単に魔王軍を破ってしまうでしょ?そうしたならまたまた侵略対象は、この国に戻ってしまうじゃないですか……。
今や魔王国は山ばっかりで、碌な耕作地だってないんですからね。せいぜい穀倉地帯東の魔王国側の河川敷で、キャベツや玉ねぎなど育てるくらいで……まあ、米や麦だってやれないことはないだろうけど……それだって王国側から派遣された技術者が教えたものだし……。
それでも何十万人分なんて……無理でしょうからね……。
そもそもタッタルンは魔王国に攻め込まれて困っているこの国に対して、見て見ぬふりをしていた国なんでしょ?しかも以前はこの国に対する海産物の貿易で、暴利を得ていた……そんな国……今後も付き合うべきかどうか、今こそじっくりと検討するべき時なんじゃあないですか?」
相手が困った時には手を差し伸べず、自分たちが困ったらすぐに救いを求めてくるだなんて……どれだけ勝手なんだ……そんな国……付き合うべきじゃあないと俺は思うけれどな……。
「まあそう言うな……そんな国でもやはりこの国と同じ人間の国なんだ。魔王国に攻め滅ぼされて、魔族の国に生まれ変わるのは防がねばならん。虐殺に凌辱に奴隷など……領民たちが、不幸になってしまうからな。
だから……王様は出来るだけなんでも開示してほしいようで、もし文美雄が同意してくれるのならタッタルンへ行って直々に戦術含めて指導してもらいたいと依頼文が来ていると、書いてある。」
事務長が赤いビロード地の表装にくるまれた、格調高い巻物を開いて見せてくれたが、何を書いているのか俺にはさっぱり……だが、紛れもなくエルムグリム王からの依頼書であろうことは分かる。
確かになあ……タッタルン王はどうなろうとも、国民がなあ……ひどい目に合うのだけは……。
「分かりました……俺が発案した武器の供給……でもそれには条件があると伝えてください。」
「条件……とな?どんな条件だ?」
「はい。恐れているのは、魔王国からの侵略攻撃ですよね?特に穀倉地帯をエルムグリムに取り戻されたから、食料危機とかで侵略攻撃されては堪らんと考えているはずです。次に狙われやすいのは、やっぱりタッタルン王国でしょうからね。そこで……魔王国に対する食糧支援を約束して欲しいのです。」
「食料を……支援……食べ物を魔王国に送ると言うのか?」
「はい、そうです。食べ物に困るから、他の国の食料を奪おうと戦争を仕掛けると思うのです。逆に十分な食料があれば……しかもその食料を支援してくれている国であれば尚更、襲おうとは考えないじゃないですか。
魔王国側の堤防工事に出向いた技術者の方たちが、ついでに小鬼たちの住処としてのログハウスづくりや、広い河川敷を畑にする工作の方法を教えてきたと聞いて、感心していたんですよ。
身内や知人を殺された人だって多いはずなのに、偉いなあって……穀倉地帯の収穫の大半を魔族に搾取されていたとも聞いて、小鬼たちはメリアンちゃんの仇でもあるけど、今では同情しています。
そこでさらに大量の食糧支援を行うのですよ……なんせ穀倉地帯がないと魔王国なんて山ばかりで、耕作地なんて本当にほとんどないはずですものね。戦争を仕掛けてきたくらいだから、ある程度大量の物資は蓄えているはずだけど、既に1年近く経過しているわけです。食糧難にそろそろなるのではないかと……だからタッタルンと共同で、魔王国に食糧援助を行うわけです。勿論無償でね……。
そうすれば平和が保てますよ……と言ってタッタルンも誘うのです。」
「ふうむ……共同で食糧支援をなあ……。」
「そうしてその見返りとして、要望通り槍や薙刀は……見せてやれば自分たちでも作れますよね?鍛冶技術はあるでしょうからね……。落とし穴だって手順を教えてやるだけで済む。
投石器は中央の架台部分を大きく鋼板で囲って、溶接で開けられないようにして、物理結界の強力な魔法を施せば、細かな仕組みは伝わらんでしょ?途中からベアリングを入れて摩擦もかなり軽減できるように改善しましたからね。欲しけりゃ作ってあげますよ……とすればいいのです。
透視魔法ってあります?もしあれば鋼板の内側に鉛板を貼れば……X線だって通さないって何かで見た記憶が……だから念のために貼っておきましょう。部品類の一部は外装の鋼板に直接溶接して、無理に分解しようとすれば構造自体が破壊されるようにして置きたいですね。
弓だってあれはしなりの違う木材を、更に縦横組み合わせて貼り合わせているのでしょ?その組み合わせは正に事務長の研究の成果でしょうが、これだって強力な物理結界を施して輸出すればいいのです。
ボウガンは……いくら覆っても仕組みはバレバレですよね……機構は複雑でも動作は目で見て確認できるから……だからボウガンと装甲車は輸出はしない方向で……魔王軍に対して大きな効果を上げた兵器であるからこそ、やめておきましょう。
態度がおかしい国だから、下手に武器製造の技術を指南して大量に作られて、それでこの国へ攻め込まれでもしたら堪らないですよ……なんせ平気で裏切った国なんでしょ?敵は魔王国だけとは限りませんからね。タッタルンがこの国を攻めて弱らせてしまえば、魔王国の侵略対象はまたこっちへ偏るでしょうから……。
信用できませんが、国民のためと言われたなら無視はできません。だから協力はするのです……魔王国に攻め込まれないようにするには、どうすればいいのか……食料支援が一番だと教えて、共同で行うのです。」
信用が置けない国だから、何でもかんでもすべて教えることは出来ないだろう。ノウハウは出来るだけ秘密にしておきたいし、更に条件も加えたい。
「なるほど……確かにタッタルンは一度協定を破った国だからな……しかも魔王軍に攻め込まれて風前の灯火というのに、完全に無視していた……同胞の人間のことを何とも思っていない、信頼はおけない国という事だ。
信用はできないが魔王国が他国へ攻め込まないよう、共同で支援を行う……いい考えかも知れん。」
「そうです……魔王国が攻め込まないためと言えば、いやとは言えないでしょ?断るのだったら、武器の輸出は行いませんよ……と言えばいいのです。魔王国に攻め込まれないための食糧支援を断るのだから、武器の供与も不要なはずですからね……。
永遠に……とは言いません。山ばかりの魔王国での耕作向けの、棚田という農法もあるのです。農家出身の魔法兵も多いと聞きましたが、もう一度小鬼たちの所へ行って、農業指導できないですかね……。
ついでに林業も……出来れば羊や牛にヤギなど……の酪農も……教えていただきたい。」
「なんだ……?小鬼たちに林業や酪農をやらせると言うのか?」
「はい……そうやって外貨を稼ぐことができるようになれば国も潤うし、よその国へ攻め込もうとは考えなくなるのではないかと……金持ち喧嘩せずと言いますからね。十分に食べるものと寝るところ、着るものがあれば、何も命がけでよそと喧嘩しようとは考えないものですよ。
魔王国は山ばかりなんだから材木の輸出に適していますよ……エルムグリムだって、復興のためにかなりの木材を必要としているでしょ?エルムグリムの山脈は小さいし低いから、材木だってすぐに使い果たしてしまいますよ。材木を輸入して服や布などの織物を輸出してあげればいい。
勿論植林だって教えてあげないと、禿山ばかりになってしまいますからね……植林しながら順繰りに伐採していく本当の林業を指導するのです。
さらに高山だとカモシカとかあとは……カシミヤなんてヤギだかヒツジだかの仲間で、高級な羊毛がとれるみたいですよ。それらを育てればいい金に……。」
「なるほど……小鬼だって言語がある種族なのだからな……教えれば何だって……現に穀倉地帯の耕作を、エルムグリムから引き継いで140年間も行っていたのだからな……分かった……だが……ボウガンと装甲車なしで魔王軍に勝利したと納得してもらえるかどうか……疑問だぞ。」
事務長が渋い顔をする……確かにな……投石器は強力だが所詮は固定して使う兵器。他には弓矢と槍に薙刀だけで勝利したとは……説明しにくい……。
「丁度、ボウガンに代わる手軽な兵器を考えていたのですよ……ボウガンは連射が利きませんからね。それでこの……パチンコを作ってもらおうと考えていたのですが丁度良かった……。拾った石ころでもいいのですが、鉄の球なんか袋に入れておけば、いくらでも連射が利きます。
殺傷力は低いですが、弾を陶器で作って片側にイガイガに尖った突起をつければ、威力は倍増で量産が利きますよ……反対側は持ちやすいように細長くしておけば……。」
事務長に先が二股に分かれた木の枝で枝ぶりのいいものにゴムチューブを結び付けた、いわゆるパチンコを披露する。装甲車のタイヤ制作時にゴムがあることが分かったので、漁師町に行く際にそれをチューブ状に細くしてもらったのを利用している。これで射出可能な銛が作れた訳だ……。
ゴムチューブ中央部分に牛革の射出帯を取り付け、新兵器としてパチンコを作っておいたのだ。これは構造が簡単なので、俺でも試作が出来た。
「取り敢えずこんな木の枝ではなく、砂型作って鋳鉄で量産すればいいのです。輸出用はね……国内向けは鍛造で作ればずっと薄くて軽いのが出来るでしょ?」
「ほほう……これなら弾を工夫すれば殺傷力は上げられるな……しかも連射が可能となれば、確かにこの兵器で魔王軍を追い詰めたともいえるはずだ。ボウガンの矢は弓矢だったという事にすればいいのだが、まだ熟練度が足りていないからな……わかった……そう言う方針で行こう。
さらに王様と魔王国との付き合い方含めて、検討するとするか……。」
事務長はすぐに王様あての文を書き始めたようだ。




