3.一夫多妻制
3.一夫多妻制
「事務長!断ってはいけませんよ……王令をお忘れですか?」
声がしてふと顔を上げると、先ほど紙とペンをとってきてくれた工房の女性が、笑顔で事務長をたしなめてくれていた。
「そうですよ……受けなきゃダメです!」『そうだそうだ!』
更に周りの群衆からも……どうやら追い風が吹いて来たようだ。よっしゃーっ!
「ふっ……分かった……王様のご命令だし仕方がないな……今更冗談でしたなんて言っても、引っ込みはつかないから覚悟しろよ。それからあたしは結婚しても家庭に入るつもりはないから、工房の仕事は続けるぞ。そういう事も考慮して、申し込んでくれたのだろうな?」
「はいっ……もちろん構いません!と言うか……工房の事務長をやめられては、俺のつたない提案を現実化できる人がいなくなってしまうので、俺が困ってしまいます。」
やったぁ……小躍りして飛び上がりたいのをぐっとこらえる……。
「第3指名以降も決まっているのか?」
事務長がメリアンちゃんの名前……と思われる文字の隣の行に名前を書き加えた後、おもむろに目線を上げた。
「はい……第3指名はサッサーちゃんで、第4指名はアーミナちゃんにしようと思っています。」
2人ともメリアンちゃんと同室の元連絡係の女の子で、ボウガンが出来た当初に与えられた、リーダー格だ。サッサーちゃんは笑うとできるえくぼが印象的な女の子で、黄色のサラサラヘアーにぽっちゃりとした体形で、胸がともかく大きい……俺は巨乳好き……ではないつもりだが……やはり、大きいのはいい。
アーミナちゃんは栗色のロングヘアーで、すっきりとした目鼻立ちの典型的美少女だ。彼女は細身の体をしているのだが、それでも胸が大きく……以下同文……。
決して胸のサイズが選考基準ではないつもりで……彼女たちなら戦闘時もちょこちょこと話をしたことがあるし、メリアンちゃんが亡くなってからも何度か慰めに来てくれた……仲だ。メリアンちゃんの妹たちとも仲がいいし、丁度いいのではないかと思っている。
勿論、彼氏がいないことは確認済みだ。とはいえ……メリアンちゃん以外に気が合って、そんなこと聞いてみた訳ではない。連絡係の女の子は全員が地元を離れ、家族とも離れて城で寮生活を続けていると聞いたから、家族や彼氏と離れて暮らして寂しくはないかと聞いたところ、連絡係の子は全員がメリアンちゃんと同じく、魔王国の襲撃により家族や彼氏を失った女の子ばかりなんだそうだ。
身寄りや知り合いのいない子のほうが多いらしい。
サッサーちゃんとアーミナちゃんは、ご両親は健在だが二人とも彼氏なんていないと言っていたからな。
「きゃーっ……うれしいっ!文美雄様、ありがとうございますぅ。時々は元の世界の話をお聞かせください。」
「私もっ……大感激です!ありがとうございます文美雄様!私にも、元の世界のお話聞かせてください。」
サッサーちゃんもアーミナちゃんも、群衆に紛れて近くに居たようだ。2人とも指名されて喜んでくれているとは……勇気を出して指名してみてよかったぁー……なんせいくら法的に認められたとはいえ……王令ではあったとしても、第3妻とか第4妻なんて……いい気分じゃないはずだ。なのに……。
俺がいた元の世界にはいい思い出など全くないのだが……自動車がビュンビュン走っていて飛行機が飛んで外国へ……とか、本やテレビなどで見知った明るい世界の話をしてやるか……。
「サッサーとアーミナ……連絡係の女の子だったな……これでよし……と……続いて第5指名以降はどうだ?」
事務長が5行目迄書き終えてから、目線を上げる。発音よりもはるかに書いている文字が多いのは、もしかすると苗字とかがあって、そちらを書き加えてくれているのかもしれないな。
「いえ……かわいこちゃんばかり俺が独占するのはよくないと思うので、ここまでにしておきます。あまり話したことがない子を、外見だけで指名するのはその子に対しても失礼でしょうし、もう少し時間を掛けて知り合ってからにします。それで他の男性陣に先に指名されたとしても、それは仕方がありません。
結婚適齢期の男女比から言っても、女性全員が指名されてしまう訳ではないはずですし、互いを知ってから選んでも遅くはないと思います。」
決して残り物には福がある……なんて思っているわけではないし、恨みを買いたくはないから、半分指名までにしておくわけでもない。
15歳から25歳までの結婚適齢期の男女比は、1対11と言っていたからな。重婚が認められても一般男性は8人まで娶れるわけだから、全員がMAX迄指名したとしてもまだ3割残るのだ……全員指名後からでも十分に間に合うと俺は感じている。なんせこの国の女性は会う人あう人飛び切りの美女や美少女なのだから。
事務長のような、美人で教養もあってスタイル抜群の……いわゆる超絶美女が行き遅れて、結婚適齢期を外れる所だったのである。余りに美女が多すぎて、目移りしてしまって決められない……とかいうところなのかな?この国の男性は……本当にうらやましい限りだ……と、強く思う。
まあ今では俺も……その一員なのだがな……はあ……正に天国……。
「よし……じゃあこれをレルムに頼んで、明日の朝にでも天に掲示してもらうとしよう。それを見て他の男性陣が、希望者を用紙に書き記すことができるのだからな……まあでも……恐らく坊主に習って……他の者たちも半分くらいまでしか記入しないのではないのかな……。
結婚したいと考えている娘が複数いるやつなんて、そうそういるはずもないからな。それでも先に指名されて決まってしまっては困るから、無理やりにでも3,4人は候補を考える。だがその後はじっくりと考えて相談もしてから、それから決めるのだろうと思うぞ……。
でもまさか……来年15になる子を目当てに我慢しているのではないだろうな?王令はあくまでも現在15歳から25歳までの結婚適齢期男性が、戦争の犠牲となり十分の一以下となってしまったことに対する特例だ。来年以降15歳の成人に達する年代の男子は、別に少ないわけではないからな……。
だから対象の女性も王令施工時に結婚適齢年齢と決められている。
仮に坊主が来年15歳になる娘と結婚したい場合は今回の重婚はあきらめ、初婚として来年15歳になった娘と結婚するしか方法はない。勿論その場合は、他の娘と重婚はできない……対象の嫁は重婚可能年齢ではないのだからな……わかるか?」
書き終えた用紙をつまんで持って、ぱたぱたと振ってインクを乾かしながら事務長がつぶやく。なるほど……若い子がいいかも……なんて考えは通用せんと言う訳だ。もし仮にメリアンちゃんが生きていて、彼女が15歳未満だったなら、俺は重婚なんて諦めてメリアンちゃんに告白したであろうな……。
おっと……それよりも……
「あの……まだ正式に式も挙げていませんからいいですが、正式に夫婦になったなら俺のこと……子ども扱いするのはやめてくださいね。坊主ではなく……文美雄と呼んでくれることを希望します。」
いい加減、坊主は卒業したいと述べておく。
「ああそうか……すまなかったな……つい……ふっ……ふみお……か……分かった……。」
事務長が少し照れているのか、顔を赤らめうつむき気味に笑みを浮かべた。やはり美しいな……。
俺からの指名が終わったことを聞き取ったのか、周りを取り囲んでいた群衆はすべて消え、残ったのは俺が指名した事務長とサッサーちゃんとアーミナちゃんだけとなっていた。
「では……これからもよろしくお願いします。」
「こちらこそよろしくな……。」
「こちらこそ……よろしくお願いします。」
「よろしく……おねがい致しますぅ……。」
とりあえず3人と順にハグしてから、それぞれ職場へと向かって別れた。
それから8ヶ月……スーパー堤防づくりと、その上の高層住居建築は急ピッチで行われた。
大河の王国側の河川敷を削り、有効川幅を広げながら掘った土を堤防側面に積み上げ、堤防の幅を広げて行くのだが、内側に移す幅分河川敷を3m掘ってその土を堤防として盛り上げる。この方法であれば河川敷幅が狭まっても実質有効流域は変わらないので、大雨の時に堤防の決壊などの危険性は現状と変わらないはずだ。
俺の記憶では河川工事の場合は川を1時的に堰き止め囲いを作ってから、その中の水をポンプでくみ上げて川底の土砂を掘って行くようだが、この世界では魔法の物理結界を張ることにより、川の流れをその部分だけ遮断することができる。更に川底の泥や砂も魔法で吸い上げてしまうので、見る見るうちに工事が進んでいく。
こんなことができるのであれば魔法結界と物理結界両方を同時に張っておけば、魔王軍は投石器の餌食にならなかったのでは?と質問してみたら、物理結界と魔法結界は相反する魔法であり、互いに干渉しあって打ち消し合うので、同時に使用することは出来ないんだそうだ。
しかもどちらの魔法も詠唱が長いので、攻撃を受けてから結界を変更するなんてことも不可能なんだそうだ。
これまでの戦争経験から魔法攻撃による被害の方が格段に大きいので、戦争時は魔法結界を布陣するのが一般的となっているようだ。
そんな背景があるからこそ、俺が提案した投石器はもとより、装甲車なども強力な兵器となったのだな……と、改めて認識した。
元の世界の俺は友達もおらず、ほぼ家にこもりきりだったが、それでも学校の行き帰り等の時間、工事現場を見つけては、ただじっとその様子を眺めていた。時には学校もさぼって一日中眺めていた。
護岸工事などで土を盛った後や、基礎工事前に地盤確認で地面を掘り返した後など、早くても半年、長ければ2から数年は地盤が固まる迄養生というか、待ち時間があるようだが、この世界は違う。
地面から水分を蒸発させる魔法(反降雨魔法など)や、地面を固く固める魔法(土系魔法)等を駆使して、瞬く間に地盤を安定化させ、スーパー堤防が完成した後すぐにビル工事が始まった。
勿論高層ビル工事も、足場などほとんど組まずに飛行術や物質浮遊魔法を駆使して、手早く進んでいく。それでもコンクリートが固まるまでの待ち時間は必要なようで、基礎工事は養生含めて3ヶ月間、ビル建築工事は3ヶ月かかり、その後2ヶ月はコンクリートが固まるまでの養生期間と言う長期計画だ。
「ぎょぎょ……とな?なんだ……それは……。」
「ぎょぎょではなくて、漁業ですよ……もしかして、言葉がないから翻訳がうまくいかないのかな?その……魚を捕る仕事です。釣り竿使ってする釣りとかもそうですが、こう……網を使って魚を捕る……見たいな。」
「ああ……漁のことだな?ここほどの大河ではないが、王国にも川は何ヶ所か流れているからな、川で投網を使って魚を捕る漁師はおるぞ……漁を習いたいのか?確かにな……広い大河だから大物が……。」
スーパー堤防拡張工事が終わり基礎工事が始まる頃、俺は新たな仕事を見出す為動き始めようとしていた。
ビルの基礎工事から移り変わる姿を毎日眺めていたい気持ちはやまやまなのだが、このままただ隠居生活とするわけにもいくまいと、一念発起した。
「いえ……川でもいいのですが……今回は海で……。」
「うみ……とな?」
「はあ……この穀倉地帯の南東側は畑が途切れ少し土地が高くなった低い丘があって、その先は防風林が植えられていて、さらにその先は広い砂浜の海岸線になっています。
折角海があるのだから海で漁をしたらどうかな……と……海産資源だって豊富かも知れませんよ。サケとかマグロとかカツオ……など……エビにタイ……なんて高級品でしょうがね……。砂浜があれば潮干狩り……なんかで貝だって豊富かも知れない……なんせ手付かずみたいだから……。」
そうなのだ……穀倉地帯の状況確認で回った時に海岸も確認したのだが、小鬼たちには漁をする風習がないのか、海岸線には小舟すら停泊してはいなかった。あんなでかい魔導船を浮かせて飛ばせているのにだ。もしかしたら素潜りで銛で突いて魚をとっていたのかもしれないが、本格的な漁業などしていなかったに違いない。
勿論王国は旧国境では四方を山に囲まれていたからな……しかも140年間も……海洋関係の仕事などとうに廃れているはずだ。だが折角取り戻した領土なのだ、海だって活用したい。
「ふうむ……それで?」
「はあ……事務長さんは当面住居ビル建設で忙しいと思いますが、俺は知る限りの知識はすでに伝えずみで、これ以上逆さにして振っても何も出てきません。そうなるとビルが完成するまで何ヶ月間も何の役にも立てなくなりそうなので、その間俺なりにこの国に貢献したいなあと思っています。
それで……スーパー堤防も完成したので、魔王国へ派遣されて向こう側の堤防工事やログハウス建築の指導から延々工事に携わっていた魔法兵や僧兵の方たちの手が、少しは空くのではないかと……その方たちを何名かお借りできれば、防風林前の丘にログハウスを何軒も立てて、漁村を作ろうかな……と考えています。」
「ははあ……面白そうだな……だったらレルムに頼んで伝令バトを飛ばして、川の漁師たちに海への転職を持ちかけてみてもよい。川と言っても渓流程度だから、さほどの収入はなく林業や農業との兼業が大半のようだからな。海での漁業で暮らしていけるのなら転職者は多いはずだぞ。
だがしかし……海での漁というのはどうやるのだ?投網ではひざ下くらいの浅瀬でしかできぬぞ。」
海での漁を提案したら、漁師を斡旋してくれるという話になった。こちらに来ている兵士たちの兵役後の職業の一つとして募集しようと考えていたのだが、これはラッキーだ……すぐに始められそうだ。
「それは有り難いですね……まず最初は地引網漁……から始めたいと考えています。こう……大きく長い網を一方を海岸に置いて、もう一方を船で運んで沖まで行って網の真ん中部分を下ろし戻ってきます。
そうして海岸で何人もが網の両端を持って思い切り引けば……浅瀬の海の底まで網が垂れていて魚に逃げ場はなく……沢山の魚やカニやエビなどが網に引っかかって……捕れるはずです。
それでその……網の材質なのですが……木綿や麻……だとかなり太くなってしまうのですよ……丈夫じゃないと途中で引きちぎれてしまうので……かといってステンレスワイヤーでは重すぎて……何かいいのないですかね……元の世界では丈夫な化学繊維で編んでいたようなのですが……。
なんか色々……フッ素加工とか炭素繊維とかナノチューブなんて話も……自然界だと蜘蛛の糸……などは重さの割に強さが半端なく、その構造を研究中……なんて科学番組で見た記憶が……。」
魔王国の話ではあるが魔導船なるものが存在するから、恐らくログハウス建築チームなら木製の船くらい訳なく作ってくれるだろう。だがしかし問題は丈夫な網だ……余り太過ぎたらすぐに目立つから魚に逃げられるだろうし、金属ワイヤーは重い上に光るから不適と考える。
地引網はまだしも、はえ縄とか仕掛け網の場合は特に目立ってはいけないのだ……そんな繊維……。
「ああ……蜘蛛の糸が良ければ、蜘蛛の糸を無限に吐き出す魔法が存在するぞ。蜘蛛の糸に絡めて敵を動けなくしてしまう、攻撃魔法とも防御魔法ともつかないものだが、魔導士なら誰でも使えるはずだぞ。」
とか言ってたらなんと……蜘蛛の糸あると……魔法万歳!
「蜘蛛の糸の粘着玉はいりませんから、糸だけ出してそれを紡いで繊維にして……網を作れますよね?」
「ああ……小動物ならまだしも、大型動物や人間相手だとかなり大量に吐き出さないと補足できないから、あまり人気のない魔法のようだが、紡いで糸にして網を作って繰り返し使用するのか……いい考えかも知れんな。投網をどこまでも長く幅広にすればいいのだろ?川の漁師を呼べば恐らく作ってくれるはずだ。」
「わかりました……じゃあログハウスチームの方十人くらいと、魔導士は一人でもいいですかね?……後は川の漁師の転職希望者……網を作れる人限定で……募ってください、お願いします。」
「分かった……。」




