2.ハーレム?
2.ハーレム?
「何ですか?一体……。」
エスカレーターに関しては動きが複雑なので、このところ仮工房に入り浸って、事務長に俺が前の世界で見ていたエスカレーターの動きの詳細を、図を交えながら説明し続けている。
たしかステップが櫛歯みたいになっていたなあ……とか、下から出てきたときにステップがだんだんと盛り上がり、上の階につくとステップが下がって収納されて行っているみたいだった……など、覚えている限りの見た感想だけを、何度も繰り返し説明し続けた。
そんなある日、朝食後に工房へ向かおうとしていたら、突然王さまからのお達しがあるとかで、仮宿舎前の広場に、全員集合させられたのだ。
「分からん……だが、今後の王国での生活に関する重大発表があるとだけ聞いている。」
兵士長も何も知らされていないらしく、首をかしげながら発表を待っている様子だった。本来は王様を警護する近衛師団の兵士長なので、王都に常駐しなければならないのだが、王国軍の将軍も兼任させられたため、国境の安全が確保されるまでは帰るに帰ることが出来ず、未だに穀倉地帯で警戒に当たっているのだ。
なんせ元は15万もいた王国軍兵士が、今はたったの1万2千……連絡係の女の子たちを兵として認めたので、実際は12100名の兵士……その中で1万は魔法結界を張るための僧兵で、未だに国境を守っているのは魔法兵5百と僧兵百と元連絡係だったボウガン兵50に元工房の作業員だった薙刀兵50のみの7百しかいない。勿論工房作業員は日常は工房作業を行っているので実質650しかいないという事になる。
だから……当たり前だが兵士長も、宮廷魔導士改め特級魔導士レルムも、王都へ帰すつもりはない。2人が妻と子供がいる王都を懐かしむたび、賢者である事務長と勇者である俺が、その申し出を却下しているのだ。
ちなみにメリアンちゃんの妹2人は、同室だった連絡係の女の子は全員ボウガン兵としてこちらに駐留しているので、どうせならと彼女たちと同室させてもらうよう俺がお願いして、認められた。こちらでは4人部屋のベッド一つを借りて、5人部屋で生活している。
いずれ小作農家族が穀倉地帯へ移住してくる際に、こちらに学校も建設するため学業には問題ないはずだ。今の所はまだ……エルムグリム東部地域では学校含め公的機関は休業状態だからな。
《エルムグリム王のお言葉である……整列せよ!》
木霊魔法を使って天からの声が響き渡ると同時に、青空をスクリーンとして右半分に見慣れた口髭を蓄えた、恰幅のいい初老の男性が映し出された……エルムグリム王だ。
なんと……魔王がやったみたいに、空に画像を映し出す魔法は、王国にもあるんだ……へえ……魔王の究極魔法かと思っていたのにな……。
《魔王国軍侵攻に伴い、精鋭15万の兵のうち14万が失われ、現有兵力は十分の一以下の1万2千余りとなってしまった。それはつまり結婚適齢期の15歳から25歳までの年齢の男性が十分の一以下となってしまった事を示す。
戦後の復興を急がねばならぬときに、これでは人口増加は望みに悔い。その為、過去の例に則り、現時点で結婚適齢期の男性に限り重婚を許す。王令施工時に結婚適齢期の女性、最大8名迄の妻をめとることを許可する。共働きしてでも生活を維持し、子づくりに励め。
なお、この王令は今後10年間有効で、以降は新たなる重婚を認めない。10年以内に結婚して子づくりに励め。
また、特例として勇者殿は、10名迄の妻をめとることを許可する。勇者殿には10名の妻と生まれてくるであろう御子たちを養うに足る、給金を支給済み。
尚、婚姻相手は第一希望から戦功順に指名制とし、申し込まれた女性側から断ることは認める。断られたら、また別の女性を指名せよ。結婚適齢期の男性はこれから各自で婚姻相手を熟考し、指定用紙に記入して提出せよ。その際他者との重複と断られることを考慮して、20名迄の候補者を希望順に記載することを認める。
勇者殿の場合は断られる可能性はゼロに等しいと想定し、10名の希望者を本日より2日以内に発表してもらいたい。勇者殿の希望と重複せぬよう考慮して、他の適齢者は希望する女性を指名するがよい。
指名できる女性は、結婚適齢期の女性のみとする。1回目の提出期限は明後日より1週間以内とする。以上!》
東の空をスクリーンと化した、王令の通達は終わった。なんだなんだ?なんかとんでもないことを言っていなかったか?
「どどど……どういうことですか?」
「ああ……やはり始まったか……一夫多妻制……過去にも魔王軍に攻め込まれたときに、発令していた歴史があるようだな……。戦争で働き手の男が失われ、逆に女が多くなってしまう……男女比は各世代ほぼ1対1だから、現状の結婚適齢世代では男女比1対11くらいになってしまうわけだ。
そのいびつな社会構造を何とかするためと、産めよ増やせよとするために、一夫多妻制とするわけだな。妊娠から出産までに10ヶ月近くかかるが、男の場合は複数の女性と性交渉して妊娠させることが可能だからな。それで一度に多数の子供が生まれて来れば、人口問題が早期に解決できるわけだ。
もしかすると、この国で女性が兵士になって戦えなかったのは、このような政策を行うためかもしれんな。」
はあー……なんと……一夫多妻制って……沢山の女の子と結婚できるってか?正にハーレム……夢のような生活が……って……?
「そそそ……その……一夫多妻制に、おおお……俺もかか関係してますか?」
「ああ……坊主は勇者だから、10名迄と結婚できると発表があったではないか……。」
事務長が、少しにやけながら答える。やはり俺の動揺が伝わっているのであろうな……だってだってだって……えええ?……聞き間違いではなかったのだ……めっちゃ興奮するー……。
「そそそ……それは……じゃじゃじゃ……じゃあ……こっこの人がいいって……かか紙に書いて提出すれば、抽選か何かで選ばれた順に希望が叶っていくのでしょうかね?」
ううむ……動揺が止まらない……結婚するならと……誰かはもう決まっているのだが……下手に誰と結婚したいだなんて、叫ぶわけにもいくまい……誰かとかぶってはいけないからな……同じ女の子が指名されたなら……抽選か何か……かな?まさか力が強い方がって決闘とかか?争いは嫌だな……。
「いや……今回の戦争時の功績に応じて……細かな査定表があってだな……1万2千名あまりの兵士一人一人に戦功順位というものがついている。その順で希望する女性を射止めて行くわけだな。但し、女性側からお断りする権利もあり……だから、その点は注意が必要だ。
第一希望の女性が順に決まって行ったら、次は第2志望の女性が戦功順に決まって行くわけだ。いちいちその都度1人1人に聞いていくのは大変だから、まずは20名の女性を指名しなさいと言っていた。」
ははあ……言ってみればドラフト……みたいなものかな?この場合は重複したら、戦争での功績順に決まって行くと言う訳か……更に優先交渉権は功績で与えられても、女性側からお断りする場合も……。
「はあー……に……20名……を指名……ですか……でも俺……この世界に来てから日も浅いし、名前を知っている女性だって……恐らく20名もいない……。」
メリアンちゃんはじめ、事務長や連絡係の女の子たちとは話をする機会は多々あったが、それだってほとんど戦闘時に限られていたし、戦争が終わった今となっては事務長以外では、メリアンちゃんの妹と同室の連絡係の女の子と、工房の班長の女性くらいでしかない……ああ……もっと社交性が欲しい!
「坊主の場合は違うぞ……坊主の場合は恐らく功績が大きいからだろうな……10名総取り……というか、まずは坊主が希望する女性10名指名して、それと重複しないよう他の男性陣が指名する女性を20名分書いて提出しろと言っていたな。だから坊主は2日以内に指名しなければならないそうだ。」
「はあ?……いやいやいや……俺が好きな子を、まず最初に発表するわけですか?しかも10名分……国中に知れちゃうわけでしょ?もし断られたらどうします?女性側に断る権利あるって言ったじゃないですか……。
さらに最初の指名は優先されても、2番目以降は他の人の第1指名が済んでからになるわけでしょ?重複していたなら変えなければならないし、外れた人の名前まで……全国に知れ渡るのは……ちょっと……。
他の男の人たちは紙に書いて提出するって言っていたじゃないですか……書いた名前を全国に発表されるわけではないですよね?なんで俺だけ……???この世界の出身ではないからですか?」
俺の功績を一番に評価してくれたのはうれしいのだが、だからと言って俺の好みの女の子を10名分……名前を晒せと言われても困るぞ。そりゃあ……重婚可なのだから、お互いの気持ちが通じ合ってうまくいくのであればいいのだが、もし断られたり他の人の上位指名ですでに決まっていたなら、その名前を知られるだけで恥ずかしいじゃないか……逆に俺が指名することでその子が注目され、指名が殺到することだって……。
「だから……坊主の場合は、指名された女性は断らないろうという目論見があるから、10名全部先に公表しろとなっている……坊主の指名は全て第一優先されるわけだ……だから他の男性と重複したとしても、全て坊主の指名が優先されるから、他の男性は坊主が指名した子は避けよと言っていたぞ。」
「はあ?……ちょっとそんな分不相応な優遇……世の男性陣から恨みや嫉みを買っていじめられたり、夜道を歩いているときに後ろから刺されたりしませんか?」
身に余る好待遇は、逆に命の危険が伴うのだ……。
「ばかな……この国のものの中で、坊主に対して尊敬や感謝の気持ちを抱いているものが大多数で、ほぼ全員が坊主に対して好意を持っている。恨みや嫉みなど負の感情をいだいているものなど、1人もいないはずだ。
それはそうだろう……あの圧倒的不利な状況からこの国を勝利に導いたのは、紛れもなく坊主の功績なのだからな……。
だから安心して10名分指名すればいい……今すぐに10名全員と言う訳でもないのだぞ……王令施工後10年以降は新たな重婚を認めないという事は、10年以内なら後からでも指名できるという事だからな。」
ははあ……なるほど……流石事務長……理解度が半端ない……同じ放送を聞いていたとはとても思えないな……だったら今すぐ10名の嫁を考えなくてもいいという事だ。
他の男性たちに取られて困る……という思いを抱いている人など……たった一人しかいないのだからな……。
「わかりました……じゃあ、じゃあ……第1指名はメリアンちゃんにします。」
この戦争が終結したなら打ち明けようと思っていた相手は……彼女しかいない。今となっては気持ちを確認できないのが残念だが……
「ふん……却下だ!」
意を決して第1指名を発表したのだが、即刻却下されてしまった。
「どうしてですか?メリアンちゃんは命を懸けて、俺を救ってくれました。俺の嫁第1号は彼女しかいません。」
それでも負けずに、速攻で反論する。
「この国では離婚は認められていないし、死別したとしても再婚もできない。一度結婚したなら、どのような境遇に陥ろうとも、夫婦は添い遂げなければならないことになっている。その為成婚率は低く50%だが、姦淫罪もあるから未婚の母など認められないし、浮気や同棲などは論外だ。
だから死亡したメリアンを指名出来たとしても、10名の枠は1名分減るのだぞ!いいのか?それで……。」
事務長は不機嫌そうに、顔をしかめながら教えてくれた。事務長の言いたいことは分かる……俺が恩返しの意味を込めて一旦はメリアンちゃんを指名したのだろうと想像し、だがこの世界では死別した以降の成婚は認められない事実を伝え、10名枠の心配をしてくれているのだ。
「はい、勿論です。それで……メリアンちゃんの妹たちを俺の妹として引き取って、面倒を見たいと考えています。妻の妹なら俺の義理の妹だから、世間的にいいでしょ?」
メリアンちゃんは俺のことなど、なんとも思っていなかったかもしれない。だから……断れないことをいいことに、彼女を嫁に……だなんて大それたことをしてもいいのか?と何度も悩んだのだが、彼女が気にかけていた妹たち……メリアンちゃんが死んだことで恩給が出ることにはなったが、新卒兵の恩給なんて雀の涙だ。
これから小中高と通わなければならないというのに、親も姉も戦争で奪われてしまい、頼れる親戚もいないようだ。だったら、それを最大の理由として、メリアンちゃんには我慢してもらおうと思っている。彼女の妹たちを俺の妹とするために、戸籍上の妻となっていただくのだ……。
「ああそうか……ふう……そう言う事か……わかった……いいだろう……お前の想いが、天に召されたメリアンに届くことを願って、名前を記そう……坊主はどうせ、字が書けないのだったな?おい……すまぬが工房へ行って、紙とペンをとってきてくれないか?坊主の花嫁候補の名前を記さねばならん。」
王令の発表も終わり、始業時間間近という事もあって三々五々と散って行く中、事務長が見知った工房の女性を捕まえて、筆記用具をとってくるよう命じた。
「はいっ……ちょっと待っていてくださいね。」
彼女は笑顔で工房へ、駆け出していった。
「はぁはぁはぁ……はい……どうぞ。」
そうして一分もたたない時間で、ダッシュで戻って来た……一緒に、既に引き上げていた工房の女性たちを引き連れて……。
「なんだなんだ……何が始まるの?」「どうしたの?」「勇者様の花嫁候補が決まるらしいわよ。」
更に帰りかけていた人たちが立ち止まり、騒ぎを聞きつけて戻ってくる人たちまで現れ、一瞬で俺と事務長の周りに人だかりが出来てしまった……まずい……こんな中で、俺の好みの子の名前を打ち明けるのか?
「ようし……第一指名がメリアンとして……お次が本命とも言えるな……今度はちゃんと生きているお相手を指名するのだぞ……第2指名は誰だ?」
事務長が白い用紙に幾何学模様とミミズがのたくったようなのが合体した見慣れぬ文字を書き記したあと、興味津々の様子で笑みを浮かべながら尋ねて来た。ううむ……勇気がいるなあ……でも俺が指名すれば断られないのだったな……だったらいいか……。
「第2指名は……事務長さんです!」
言っちゃった……もう引き返せないぞ……。
「はあ?愚かな真似を……笑えんな……駄目だ!却下!」
あっさり断られてしまった……なんで?
「ちょちょちょっと待ってください!おお俺が指名すれば、断られないのではなななかったのですか?だっだから勇気を振り絞って、皆がいる前で指名したのに……どどどどうして断るのですか?」
半ば涙声で、すがるように一歩一歩事務長の方へ近づいていくと、事務長はそのまま後ずさりを始めた。
「公衆の前でふざけるからだ!いくら何でも……悪ふざけ過ぎるぞ。大人をからかうものじゃない。あたしだって女だからな……ふざけてからかわれて後で冗談でした……なんて言われたら、傷つくのだぞ!」
「ふざけてもいないし、冗談なんかじゃありません!真面目な俺の気持ちです。事務長さんは、俺がこの世界へ来てから初めての俺の理解者でした。人に慣れていなくて口下手の俺の、しかも突拍子もない考えを真摯に受け止めて形にしてくれました。
事務長さんがいなければ戦争には勝てなかっただろうし、俺は勇者になれませんでした。だから……というだけではなく、事務長さんはとても美しいしスタイルも抜群だし賢くて……言葉遣いは乱暴ですが優しいのは分かっているし、俺にとっては世界で2番目に大好きな女性です。一番はメリアンちゃんなので済みません……。
だから……お願いです、俺と結婚してください!」
そう言って直立のまま目をつぶって頭を下げる……これで断られたなら仕方がない、女性側に拒否権があるのだったな……。
「でも……あたしはずいぶん年上だぞ。結婚適齢期を外れる寸前で、もうすぐ26だ。」
「でも……指名範囲内ですよね?だったらお願いします!」
こうなりゃもう……なんとしてでも事務長を射止めるのだ……深く深く頭を下げる。




