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14.講和条約

14.講和条約

「おりゃあっ……だああっ!」


 当たるを幸いに遮二無二剣を振り回し、小鬼たちをひたすら後退させていく。左右でも薙刀兵たちが薙刀を振り回し、小鬼たちを威嚇して行っているようだ。前衛の小鬼たちは背中を見せて敗走を始め、隊列に大きな乱れを生じさせたためか、竹槍を投じるペースはかなり鈍ってきているようだ。


《全部隊は直ちに装甲車へ戻れ!》


 指示を受け、最後に刀を大きく振り回してからダッシュで装甲車まで駆け戻る。左右を見ると俺のチームは薙刀兵も僧兵も、きちんと隊列を守ってついてきてくれていたようだ。僧兵はまともな防具もないのに……俺の言葉を信じてくれて……だが彼がいなければ、俺たちは格好の魔法攻撃の餌食となっていたのだ……。


「はあはあはあ……被害は?どうですか?」

 この戦いが始まって初めてかも知れない……味方の被害の心配をするのは……


「ああ……さほどではない……僧兵だって中に鎖帷子を着こんでいるのだからな。それに山なりで飛んできたから、槍や薙刀で払うことは出来たようだ。だが……やはり簡易甲冑の槍兵と鎖帷子の僧兵に対しては、厳しい状況と言える。重傷者はいないが軽症者多数だ。今、治療系の僧兵が治癒魔法をかけている。


 魔法結界を張っていたからな……ただ竹槍を投げつけられただけなら物理結界で防げたし、風系魔法とかで遠くまで飛ばすこともできたはずだ。だが……魔法結界に阻まれ攻撃魔法は味方も出せず、更に結界切ってから呪文を唱えなおしていては間に合わなかっただろうな。


 あたしらが敵に対してこれまで行ってきたことを、逆にやられた……。」


 事務長が頭を抱えてうなだれた。被害はさほどではないが、心理的な圧迫感は甚大な様子だ。自分がステンレス製の鎧を着こんでいるおかげで、気が大きくなりすぎていた……


 装甲車はすぐ後ろまで前進してくれていたようだ……この圧力がなければ、突っ込んでいった俺たちだって小鬼たちに背後に回り込まれて、集中攻撃をくらっていたのかもしれない。


 装甲車の前面の編み目には投げつけられた竹槍がびっしりと突き刺さり、視界のほとんどを奪っていた。

 勿論竹槍程度では分厚い鋼板で覆われている装甲車……びくともしないが、鋼板のアミで出来ている前方窓には投げつけられた竹槍が次々に突き刺さっては砕け落ち、編み目をつぶしていったようだ……。


「すぐに後退してください!それから前方の竹カスをはじき出しましょう、視界確保が先決です。槍や薙刀の柄の先を使ってください!」


 まずは一旦後退し、前方の視界を確保しなければならない。装甲車を取り囲まれた状況で、一斉に魔法攻撃を仕掛けられたなら、永くは持ちそうもない。


 すぐに駆け出し刀を鞘ごと抜いて、前窓の竹カスを刀の柄部分で叩いて押し出す。薙刀兵たちもやってきて、長い薙刀の柄の先端を使って前方窓の編み目を叩き始めた。しかしやりにくそうだ……何せ狭い車内……薙刀の刃部分に革製のサックを被せてはいるが長いので、窓を叩くのに夢中になると前席の人にも結構当たる。


 それでも何とか弾き飛ばし、やがて視界が開けてくると他の装甲車はまだ後退しておらず、逃げ遅れているようだ。魔王軍が遠巻きにしながら、後方へ回り込もうとしているのが伺える。


「まずいです、後ろに回り込まれて周りから一斉に魔法攻撃を仕掛けられたら永くは持ちません。助けに向かいましょう!」


 とりあえず前方窓は開いたので、すぐさま反撃を提案する。ボウガンで攻撃しながらでも、味方装甲車まで辿り着けるだろう。


「待て!向こうは数が多い。こっち迄取り囲まれてしまうぞ!安全な位置まで下がらせよう。


 おいっ、各装甲車に後退するよう指示を出してくれ。それから先ほどのように、前方窓の竹カスは叩いて落とすようにもな。」


「はっ……」


《全装甲車に告ぐ、直ちに後退せよ!前方窓は槍か薙刀の柄部分で竹カスを叩いて落とせ!》


 事務長が前方に向かって命じると、すかさず大音量で指示が告げられた。しかもはるか上空から聞こえて来たぞ……天の声か?それとも……拡声器でもついているのか?そういえば……さっきも……


「奴は魔導士だからな……各種魔法を使いこなせる。木霊魔法と言って敵に対し位置を特定されぬよう、全く別の場所から声が聞こえる魔法効果を強化したものだ。」


 事務長が説明してくれる。成程……何でも魔法でかなってしまうから、拡声器とか発電とかそういった近代文明とは無縁なわけね……。


 指示通り、すぐに各装甲車が囲まれかけた小鬼たちの群れをものともせずに押し分け、後退してきた。

 装甲車には後方側にも網をはめて視界を確保しているのだ。


 丁度その時、迂回街道側を走行してきた装甲車が合流し、計10台が横1列に並んだ。数m間隔で並べばそこそこの長さであり、魔王軍もうかつに攻め込んでは来られない様子だ。


 そうしてはるか後方には荷馬車も……あれ?


「荷馬車はついて来たのですか?投石器は帰したのに……。」


「ああ……荷馬車には食料とボウガンの矢の予備を積んであるからな。向こうは装甲車ほど頑丈ではないので、距離を置いてついてきている。」


 成程……装甲車にも窓側座席に矢袋がセットしてあるし、側面の荷物入れに食料も入ってはいるが、せいぜい数日分だからな……荷馬車のフォローは必要か……。


「さてどうする?いつものように、10チームで魔王軍を蹴散らしに行くのは……やれないこともないが、かなり危険だぞ。戦える兵は少ないし、接近戦しかなくなってしまったからな。」


「そうですね……ステンレス製の鎧兜のボウガン兵と薙刀兵は竹槍程度であれば投げつけられても平気でしょうが、魔法兵士と僧兵はそうはいきません。今度こそ多大な犠牲者が出かねませんからね。


 かといって、僧兵なしで我々が戦えるかというと……そうではありませんからね。単独で飛び出していけば、敵に近づく前に魔法攻撃の格好の餌食となってしまいます。」


 とてもじゃないが装甲車から出て戦うのは危険と、俺だってわかっている。


「まあ、仕方がないな……これまで魔法戦以外の戦い方をしたことがなかったのだからな。あんな竹槍程度でも勢いよく投げつけられたら、そこそこ破壊兵器となるとはな……想定外だ……。


 かといって、このまま手をこまねいていては向こう側から仕掛けられて、いずれは全滅だぞ。なにせ数が違い過ぎる。」


「そうですね……だからここはひとつ……講和条約を締結しましょう。」

「こうわ……なんだそれは?」


「戦争を終わらせるのです。魔王軍は撤退してこれ以上攻め込みませんという宣言書を書いて、こっちはこっちでもうこれ以上魔王軍に攻撃を仕掛けませんという宣言書を書くのです。お互いの長……魔王と国王様が調印して宣言書を交換し合う……いわば協定書みたいなものです。


 まだ戦況はこちら側に有利……なんせ魔王軍は国境まで戻されましたからね、今のうちに条約を結んで帰っていただくのです。」


 今ならまだ……魔王軍だってこちらの武器を恐れているはずだ。竹槍をまねて作ったのは、魔法以外の武器の威力を知ったからに間違いない。


「しかし……向こうは食料の補給を受けて、しかも竹槍を手にして勢いを増しているのだぞ。素直に撤退するだろうか……」


「するもしないも……条約を結べなければ、こっちは闇雲に突っ込んでいくしかなくなりますよ。

 兵士長と宮廷魔導士のレルムさんを呼んで打ち合わせしましょう……後ろの荷馬車辺りで……。」


「分かった……暗号文で兵士長とレルムを呼んでくれ。」

「はっ……」

《〇△□&%$ ’&+*@》


「よし……目立たないように下りるぞ……。」

 事務長とメリアンちゃんとともに、そっと装甲車の後方ドアを開け、下車してダッシュで荷馬車の下へ駆け寄ると、すぐに兵士長がレルムとともにやって来た。


「こうわ……なんだそれは……。」

 事務長と俺が、簡単に内容を説明する。


「だが……応じると思うか?向こうはやる気満々だぞ!」

 やはり同じ反応だ……。


「向こうはまだ投石器の原理を知りません。そうして荷馬車があるという事は、最初に作った試作機の投石器を積んであるはずです。何事が起きるか分からないので、移動式のほかに馬車に積み込める試作機も持っていこうと、提案しておきましたからね。岩は不要として捨てても、試作機は捨てないでしょ?


 だから試作機で小さめの岩を奴らの鼻先まで飛ばして……荷馬車の裏で十分相手から見えないように、飛ばせるはずです……威嚇してやるのです。


 そうして……こちらは無駄な死者を出したくはないが、撤退しなければ攻撃を始めると宣言します。何だったらレルムさんの魔法でその辺の大きな岩を、浮かせて脅してやればいいのです。当てる必要性は全くないので、敵の鼻先であれば魔法結界も関係ありませんからね。


 その上で、撤退するならこちらからは攻撃しないと……講和条約を結ぼうと交渉するのです。」

 ほぼほぼインチキのブラフ攻撃だが……今となってはこれしか道はない。


「成程……講和条約となると王様の承認が必要となるが、王様は平和主義だから魔王軍が撤退するのであれば、賠償請求など望まぬだろう……いい考えかも知れぬな……。


 よし……レルムよ、至急王様あてに文書をしたため、講和条約を締結する旨報告するのだ。俺は先導車から、敵軍司令に向けて呼びかけてみる。向こうだって魔王に相談しなければならないだろうから……明日になるだろうが、その間は停戦となるだろうな……文美雄殿……俺が装甲車に戻ったら岩を飛ばしてくれ。」


「はっ……文書したためて、伝令バトを飛ばします。」


「わかりました……ではお願いします。」

 すぐに兵士長が駆け出し、レルムは懐から紙を出して書き始めた。


 俺と事務長とメリアンちゃんは、荷馬車の荷台へ向かう。


「ボウガンの矢の補充でしょうか?」


 すぐに荷台の上で荷物番をしている連絡係の少女が、問いかけて来た。薄黄色の髪をツインテにしていて、笑顔がとてもかわいらしい……多分俺と同い年か一つ下くらい……高1くらいかな?


「いや……積んである投石器の試作機をおろしてこれから使う……手伝ってくれ。」


「はいっ……では御者の魔法兵さんと僧兵さんも呼んできます。」


 すぐに連絡係の少女は、前方の御者席目指して駆けて行った。10頭立ての馬車で御者席が8人乗りなのは、馬と荷物両方に結界を張る為だろう。すぐに8人の男たちがやってきて、今度は荷台から2mに分割した投石器を下ろし、組み立て始めた。


「なんと……飛ばす岩が一つもないのか?」


「はあ……投石器は帰すようご指示でしたので、馬が疲れぬよう重い岩は全て下ろして進めと言われました。

 結界を張るための僧兵の方も、ほぼ空の荷馬車だけなら6名で十分と、大半がお戻りになられました。」


 連絡係の美少女が、申し訳なさそうに俯き気味に答える。いやいや……君が悪いわけでは……


 投石器は組み上がったが、飛ばす岩が積んでいない……なんと……周りを見渡しても、川沿いでもないのに適当な岩が、道端にごろごろしているはずもない……。


「あっあれは……調理用の油ですよね?ちょっともったいないですが、あれに火をつけて飛ばしましょう。」

 予備の食料を積んであると聞いたので荷台を覗いたら、油を入れた壺が見えた。


「試作機の角度と距離表は持っていますか?」


「ああ……試作機に貼り付けてあるからな……ここまで歩いて来たから、装甲車までの距離は大体分かる。

 そこから十mほど先の地点まで飛ばせばいいわけだ……試作機でも十分射程内だな。」


 すぐさま火を熾し油壷のコルクの蓋を外し熱し、熱くなったら紙をのせて壺の首で紐で結んで蓋にする。それを投石器の発射口にのせてから、火のついた木の枝を蓋の紙をそっと破って突き刺す。魔法で温めてもらおうとしたら、魔法効果というのは呪文を発している間の1時的なものなので、向かないそうだ。


 2人の兵が呪文を唱えて体重を増加させ馬車の荷台から勢いよく飛び降り、投石器の片側に飛び乗った。すぐさま火のついた油壷が弧を描くように飛び、装甲車の屋根を超えた先で火の手が上がったのが見えた。


 こちらの見立てでは魔王軍には届いてはいないだろうが、攻城戦で一度ひどい目に合っているのを覚えているはずだから、十分脅威に映ったことだろう。


 兵士長の装甲車から魔王軍に向かって、木霊魔法を使って何やら告げているのが聞こえてくるが恐らくは魔王国語……何を言っているのかさっぱり分からない。


「よしっ……岩もない事だし、試作機は片づけて荷馬車に詰め込むとしよう。もう用なしだからな……。」


 事務長は冷静に兵士らに指示を出し、今度は試作機を分解させて荷馬車に積み込ませた。たった一度の投石にも拘らず、兵士たちは文句も言わずに片付け始めたのはさすがだ……俺だったら文句たらたら……。


「さあ……戻るぞ……。」

 片付け後荷馬車の少女たちに礼を言って、装甲車に戻った。


「おお……取り敢えず停戦……となったようだな……。」


「そうですね……黄旗が上がっていますね。」

 乗車そうそう前方を見た事務長がつぶやき、メリアンちゃんも頷いた。


「あの……黄色い旗が停戦の印なのですか?」


 見ると、魔王軍陣地の最前列の兵士の竹槍には黄色い布が……一本だけではなく数本おきにずっと掲げられていた……更に横を見ると、こちら側の装甲車の覗き窓から黄色の布が垂れ下がっているのが見えた。


「ああ……戦争協定では1時停戦時は黄旗を掲げ、その間は攻撃を仕掛けてはならないとされている。


 流石の魔王軍もこの項目は守るはずだ。やはりあの火のついた油壺を飛ばした効果だな……敵は攻城戦と同じ攻撃をされては堪らんと、魔王に対して終戦を要望したのだろう。なにせここは国境の山脈を背にしているから、逃げ場がほとんどないのだからな……容易に的になって下手すれば百万の兵が全滅だ……と、信じたはずだ。


 坊主の読みが的中したようだ……よくやった。」

 事務長が満面の笑みでほめてくれた……はぁー……ビューティフル……もっと微笑んで……。


「やっぱり文美雄様はすごいです。尊敬いたします。」

 メリアンちゃんは俺の両手を自分の両手で包み込み、上下に大きく振りながら喜んでくれた。ううむ……やっぱりメリアンちゃん……ラブ……。


お忙しいところ大変恐縮ですが、この小説の感想や評価およびブックマーク設定などしていただけますと、今後の連載継続の励みともなりますので、よろしくお願いいたします。

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