13.最終決戦
13.最終決戦
やがて、装甲車が河岸に到達した……勿論対岸まで続く長い橋は、落としてあるため使えない。
飛べるって……装甲車の両脇から翼が出てきて飛行モードにでもなるのか?
「よしっ……じゃあ対岸まで飛んでくれ。念のために僧兵も同時に飛行術を詠唱してくれ。」
ここで事務長が、前席に向かって指示を出す……前席って言っても運転席の隣……あれ?そこにも座席があって、人がいる……つまり装甲車は52人乗りか?バスガイドではないのだろうな……そうか、奴が連続打撃魔法とかいうのを使う魔導士と言う訳か……つまり装甲車のエンジン……。
「彼は魔導士だから、飛行術も使える……だが装甲車は厚い鋼板で出来ているから、かなりの重量だ。更に兵士たちも乗っているからな……僧兵にも唱えさせて……川を渡るくらいは持つだろう。」
事務長の言う通り、翼も出ていないのに装甲車はふわっと浮き……そのまま前進し始めた。そうして川を渡り切って、対岸の街道に着地した。
「だったら車輪などつけなくても……魔導船のように高く上がらなくても、低空で浮かびながら進めばよかったのではないのですか?」
別に飛べるならそう言ってくれれば……俺が自慢げにピストンの仕組みを説明したからであろうか……
「いや……彼らはいつも工房で金属を鍛えるのに魔法を唱えているからな、高速打撃魔法であれば長時間持続できるが、慣れない魔法……ましてや飛行術ともなると短時間で限界が来る。
だから坊主のピストンとかいう運動で車軸を回せる仕組みは、動力として最適であるばかりか、使い慣れた魔法を有効活用できる組み合わせだったのだ。おかげで頑丈な装甲車が出来た……。」
成程……飛行術自体も難しいし、更にあまり使い慣れていないという事だ。なんせ飛んでいて落ちたら……いわゆる墜落だ……怪我人や下手すりゃあ死者が出かねないからな……。そうなるとやはり魔王軍との魔力の差……というか、魔法技術力の差と加えて魔術者の数の差というのは、かなり大きいといえる。
なんせ向こうは百万に対し、こっちは一万とちょっとだからな……無理もない。
上空の魔道船を追うように、装甲車は街道を走行していく。確かに魔導船の飛行スピードはさほど速くはない。こちらの装甲車は自転車で思い切り走るくらいの速さだから、恐らく時速20キロから30キロは出るかな?落とし穴がある度に人が下りて板を渡してから通行し、川に出ると僧兵も加わって飛行術とやらを唱えゆっくりと浮遊しながら進む。
それでも離されることなくついて行けるという事は、向こうは自転車でゆっくりと歩道を走っている程度のスピードと思われる。
日が暮れかけると魔道船は高度を下げて行き、やがて着陸したので、こちらも距離を置いたまま停車する。
「向こうは野営するようだな……こちらもここで野営とするぞ。」
広い平地を見つけて野営ポイントとするようなので、こちらも街道を降りて平地で野営準備に入る。魔王軍を途中で潜ませないように主要街道6台、迂回街道2台ずつの編成で進んできているのだが、遠目に見て明かりが灯されたのが分かるので、迂回街道のチームも気づいて野営の支度に入ったようだ。
「一晩中飛んで行って魔王国へ帰るのかと思っていました……。」
「あのスピードじゃあ休まず飛んでも魔王国まで、恐らく1日半はかかるだろうな。しかも人が飛行術を唱えて飛ばしているのだ……かなり疲れるから、夜は休まねばならん……それはこちらも同じだ。」
「この隙をついて攻撃を仕掛けるのはどうですか?」
「だから、向こうが寝入っている隙に、こちらから夜襲を仕掛けるなんてこともままならん。僧兵も疲れているから、結界を張ることは難しいだろう。
結界なしでボウガン隊と薙刀、槍隊で突っ込んでいくのは、自殺行為に等しいからな。向こうだって疲弊しているのは魔導士や僧兵たちだけで、魔法兵士は疲れてはいないはずだ。
だから日頃は通じない魔法攻撃が使えるとなれば、喜んで攻撃してくるだろう。こちらは一瞬で火だるまとなり、全滅だ……。」
「はあー……そうですか……。」
こちら側が有利なうちに、ある程度魔王軍に打撃を与えておきたいのだが、無理そうだ。だが……国境沿いまで戻れば、魔王軍の補給部隊とも合流できるだろうし……そこで部隊を立て直されると厄介だな。
こうなると投石器を帰してしまったのが失敗か……闇に乗じて投石攻撃……なんてのもあったかもしれない。今からでも呼び寄せられないかな……。
「闇に乗じて投石器で攻撃を仕掛ければよかった……なんて思ってはいないだろうな?」
「へっ?」
突然何を……事務長は超能力者か?テレパスなのか?
「坊主が考えそうなことは……あたしにもわかるさ……野営する陣地に投石すれば、効果は絶大だろう。さらに魔導船を直接攻撃できれば、甚大な被害を与えることができる。だがそれは……戦争協定違反となる。」
「戦争協定……ですか?」
「ああ……いくら戦争とはいえ、何をやってもいいわけではないのだ。この大陸に存在する国同士間で取り決めた、協定がある。それが戦争協定というものだ。
戦闘可能時間は朝食後から夕食までの、日の出ている時間と決められておる。他にも戦闘の意思を示さない相手には、攻撃してはいけない。捕虜は虐待せず、過酷な肉体労働はさせてはならない。敵国でも戦死者は供養せよ等……魔王国はあまり守ってはいないようだが、だからこちらも守らない……とはできない……国王様は誠実なお方だからな……。
だからあたしも投石器を帰すことに賛成したわけだ……あんなものあったなら、誰かが夜中に投石を始めかねないからな……皆魔王軍が憎い……それは同じだ。
家族や親せきなどが犠牲になったものも多いし、何より圧倒的な数の有利さを盾に攻め込んで来てやがるからな。しかも征服した国の国民は、奴隷以下の生活となる……坊主が工房にやってきて、あたし相手に色々な武器の話をしたときに、希望の光明を見たと感じたよ。
あたしら女はこの国では決して戦闘に参加することが出来なかった身だ。だけど……坊主が主張する武器であればあたしらだって魔王国相手に戦えるんだって思ったら、途端に生きる希望が湧いて来た。
だから坊主には感謝しているし、尊敬もしているが、無茶なことは出来ない。相手が魔王国であっても、あたしらは正々堂々と協定を守りながら戦うんだ。」
得々と説かれ、俺の浅はかな考えは否定されてしまった。
「わかりました……まあ俺も……無理に攻めることもないとは感じていました。おとなしく引き上げてくれるのであれば、そのほうがいいですからね。取り敢えず魔王軍を追って行って、向こうが攻撃の意思を見せない限りは、こちらからも手を出さないで行きましょう。」
無駄な闘いを避けるという事には、俺だって大賛成だ。それが協定違反となりうるのであれば、尚更避けねばならない。
交代で見張り番を立てて就寝となったので、メリアンちゃん達が腹筋やスクワットに励む横で、俺はようやくもらった刀で素振りの訓練。それと……頼んでいた弓矢も出来て来たので、与えられたハッカクさんたちとともに近くの木を的にして訓練を開始した。
翌日も昼間はゆっくりと魔導船は飛び続け、日が落ちるとともに着陸して野営を始めた。同時にこちらも停車して野営に入る。
「いよいよ明日の夕刻には国境だ。無理して飛べば国境を超えて魔王国まで戻ることは可能なはずだが……どうするだろうな……一旦国境手前で着陸して陣を張るのではないかな。
そこで救援物資を受け取り、更に魔王の指示を窺うだろう。戦況を考慮して、明後日の朝に全軍引き上げるか、あるいは攻勢に転じるかが決まるはずだ。
明日の晩は……下手をすると夜襲を仕掛けられるかもしれないから、うかつに眠りこけるわけにはいかないだろう。今晩のうちに十分な睡眠をとっておくように。」
事務長から、ゆっくり眠れるのも今晩までだとお達しがあった。ううむ……緊張して逆に眠れないかも知れない……。
「早ければ明日の夕方……おそくとも明後日の朝から最終決戦だね。」
「はい……そうですね。魔王軍がおとなしく引き上げるとは、誰も思っていないでしょう。魔王はかなり狡猾で、卑怯な手も平気で使ってくると聞いています。
開戦当初、我が国の十万の兵士が全滅したそうですが、この時は20万の兵を魔導船に乗せ、本来は攻撃不可地域であるはずの民家が密集する街中に、家々を破壊しながら降り立ち後方へ回り込み、挟み撃ちを仕掛けて全滅させたと聞いております。この時に収穫した農作物を売りに町まで出かけていた両親が犠牲となりましたが、非戦闘員である民間人だけでも何万人も犠牲となったそうです。
ですから……決して油断してはいけません。最後の最後まで……魔王軍が降伏の白旗を上げて、この国を去り居なくなってしまうまでは、決して攻撃の手を緩めてはいけません。」
夕食はいつも通りにメリアンちゃんと一緒なのだが、このところメリアンちゃんは、ずいぶんと興奮している様子だ。ボウガンで多くの兵を攻撃し、中には葬った兵もいたはずだし、少なくとも戦況の改善に多大な貢献をした一人であろう。
それもこれも……魔王軍は両親の仇であるからで、本来は優しくおとなしい子なんだろうなあ。
ボウガンの弦だってまともに何回も引くことは出来ない……細い腕と華奢な体をしている女の子なのだ。
そんな子を……他の連絡係の子や、工房の女性たち含め本来は戦闘に参加しない非戦闘員たちを兵士と化し、殺人マシーンとまでは言わないが、殺傷力のあるボウガンや薙刀を使って敵兵を攻撃していくことに、何のためらいも持たなくさせる戦争という行為は……空恐ろしく感じさせる。
俺だって……当初はこわごわで……小鬼たちの体すれすれを狙って矢を射ていたのだが、メリアンちゃん達の話を聞いて俺も踏ん張らねばと……今では小鬼たちの胸を狙って致命傷を与えようと攻撃している。
アーケードのシューティングゲームではなく、相手は生身の体なのだ……と頭の中では理解しているのだが、やらねば今度はこちらがやられる……と、ある意味殺傷という行為に神経がマヒしだしてきている。
思い起こせば闇に乗じて投石器で野営する陣目がけて攻撃を仕掛ければ……なんていう発想だってそうだ。
岩を投げてしまえば着地地点は見えないから、そこで何が起こっているのかあまり考えていない。投石器の破壊効果は認識しているつもりなのだが、それにより多くの敵軍兵士が下敷きになって息絶えるとまでは発想が繋がっていないのだ。ううむ……怖いな……俺……。
だからこそ……最低限のルールである協定を守る……という戒めが大事なのかもしれないな……。
この日も素振りと弓矢の訓練を夜中まで行った。メリアンちゃん達は腕立て腹筋とスクワットを、念入りに行っていた。
3日目も無事に終わり、敵軍に大きな動きはないが、それでも煮炊きをする煙が初めて多く見られたと、装甲車の屋根に上って見張りをする兵から、報告が上がって来た。やはり国境まで到着し、魔王国からの救援物資を受け取ることが出来たのであろう……恐らく5日ぶりのまともな食事……のはずだ。
少しびくびくしながらも、それでも前夜興奮して眠れなかった分、ついうとうとしてしまい……気がついたら朝となっていた。連日の素振りと弓矢の訓練で腕はパンパンだ。
「おとなしくこのまま、魔導船に全軍乗り込んで引き上げてくれませんかね……。」
顔を洗って朝食後、事務長や兵士長らと久々の作戦会議だ。
「いや……無理だろう。見張り番の報告によると、僧兵含め多くの兵士が長い竹槍を持って、攻め込む気満々の様子らしい。敵は徹底抗戦だな……国境まで戻ったのは、あくまでも食料調達のためだったようだ。
改めてここから、エルムグリム王国を征服のために進軍開始……と言ったところだろうな。」
俺の楽観的予測は、兵士長の報告によりあっさりと否定されてしまった。
「でも……食料調達だけだったなら、魔導船を使えば前線迄落とし穴にも引っかからず、橋が落ちていても問題なく届けられたのではないですか?」
なぜわざわざ荷馬車を使って兵糧を輸送しようとしていたのか、疑問点が残るな……。
「あの魔導船はそれ自体が重いといったではないか。更に人が乗ると重くなるので僧兵も加わって飛行術を唱えているだろうと……つまり魔導船で物資を輸送するためには多くの僧兵が必要となる。
魔導士数十人で飛ばせるのは空の魔道船だけだ……だが僧兵は戦闘に参加している兵と、自国を守っている兵もいるはずだから、流石の魔王国もそこまで兵を割けないのだろうな。なにせ百万の兵を出兵させているのだからな……その為兵糧輸送は陸路を荷馬車を使って……という事になる。」
「成程……だったらなにも百万の兵で攻め込まなくても……50万だったなら、物資の輸送だって楽に……。」
「魔王軍の戦い方は圧倒的武力で敵を取り囲み、自軍は安全に敵兵を葬るというやり方だ。それには何倍もの兵力を送り込む必要性があるのさ。巨万の兵で敵国を踏みつぶしてしまおうというやり方だ。
今回だって、恐らく数日の行軍でこの国は落ちる予定だったのだろう。兵糧の救援は想定外だったはずだ。
坊主が召喚されたことは、魔王軍にとって想定外の大打撃だったという事だ。」
「そんな……俺なんかの力じゃないですよ。皆さんが優秀なだけ……じゃあ完全復活した魔王軍は手ごわいでしょうが、突進していくしかないですね?」
いつもながら事務長の推察は的確で、言葉が明確で分かりやすいのだが、どうにも俺のことを過大に評価し過ぎているようで、何やらくすぐったい気持ちだ。。
「ああ……まだまだこちらが有利であることは間違いがない。元から魔法立国であった魔王国では、鍛冶技術もないのだろう……槍や薙刀をまねることは出来なかったようだからな……竹槍なら砕くのみだ。」
『おーっ!』
事務長の檄が飛び、皆一斉に右手を天に向かって突き上げた。さあ……最終決戦が始まろうとしている。
「全軍、装甲車に乗り込んで突撃だ!」
すぐさま装甲車に乗車し、進軍が開始された。敵軍までの距離は約百m……先制攻撃は……やはりボウガンの射撃だ……敵がひるんでいる隙に下車して突っ込んでいく……ボウガン兵と薙刀兵と僧兵が座席ごとにチームとなって突っ込んでいった。しつこく構える竹槍を、粉みじんに打ち砕いてやるのだ……。
と思っていたら……とんでもないことに……
「うわっ……やっ……槍が降ってくる!」
敵小鬼まであと10m程まで近づいたタイミングで、後方列から一斉に竹槍が投げつけられてきた。上空が真っ暗になるほどの大量の竹槍が、自分たちの頭上目がけて降り注いできたのだ。
「まずいっ……しゃがみ込まないでください!ボウガン隊と薙刀隊のステンレス製の甲冑を着ている人たちは立ち上がって、他の兵士たちをカバーしてください。銅製の簡易甲冑の槍兵・ボウガンチームは装甲車が近ければ逃げ込んでください!」
皆怯えて屈みこみ小さくなっているので、鎧を着こんでいるものたちに立ち上がるよう指示を出し、装甲車に近いものはすぐに引き上げるよう声をかける。
「槍を投げるのを防ぐために、正式な鎧を着ている部隊を先頭に突っ込んでいってください。恐らく接近戦では味方に当たるから竹槍を投げつけられないと思うので、頑張ってついてきてください。薙刀兵と槍兵の方、僧兵の方のガードもお願いします!」
すぐに腰の刀を抜いて、目の前の兵士目がけて突っ込んでいく。竹槍は後方の兵士が投げつけているので、突っ込んでいって妨害しなければいけない……逆に距離を詰められれば味方にも降り注ぐので、向こうも竹槍は投げられないはずだ。
如何に殺傷力が低い竹槍とはいえ、あれだけ大量に降り注げば急所に当たっている兵もいることだろう。急いで隊列を立て直し、安全に装甲車へ非難させねば……やられた……向こうはこの作戦を練って、準備していたのだ……。




