12.反撃開始
12.反撃開始
「明日までにボウガン50と槍350も増強できそうだぞ。こちらは現在の竹槍兵に持たせるつもりだ。これで攻撃力が倍加するだろう。」
事務長が、増援は装甲車だけではないと発表する。ついに主力戦闘に男性兵士が加わってくるという事だ。互いに結界で魔法を封じ合い、男性魔法兵士はほぼ戦闘参加できず、竹槍を持って威嚇が主体だったが、これで本戦に参加することになりそうだ。
ついでに俺がリクエストしていた刀と弓もいただけるという事だった。まあ……俺の場合は正にかっこつけだけなのだがな……。
その日の夕食は、鶏肉と野菜を甘辛く煮つけたものと汁物(味噌味だがしょっぱい)にご飯と、みかんかリンゴどちらかのフルーツを選択できた。俺がこの世界に来た当初の携行食並みの食事に比べたなら、格段の向上である。勿論今日も、メリアンちゃんと一緒に楽しいご飯だ……。
しかも聞くところによると、この世界というかこの国は米が主食のようで、日本と同じような短粒種米のようで水田で稲作しているらしい。(これは魔王国でも同様で、その為国家間での領地争いが絶えないんだそうだ。)味噌があるという事は醤油もあるはずで、海苔の佃煮なんかがご飯のお供に出てこないか今後期待だ。
ラーメンなんかもあるといいなあ……。なければこんな感じの麺と味で……といった説明で、事務長辺りが作ってくれないかなあ……絶対この世界の人たちにも、うける味だと思うのだが……。まあ、平和になってからだな……。
翌朝、朝食後に城の前庭に集合して、本日の作戦指示と部隊編成を決める。
「えー……城下町は約2キロの城壁と同じ幅で、中央街道から250m間隔で道路が伸び、碁盤目のように道路が整備されています。中央街道を2台の装甲車で出発し、各辻ごとに1台ずつ百mずつ順に遅れながら行軍していきます。
つまり、先頭の2台が集中攻撃を受けながら突き進み、両サイドは逃げまどう魔王軍を逃さないよう国境まで追い詰めて行くのです。2台ずつの投石器と馬車は、距離を保って中央街道をついてきてください。」
事務長にお願いして作ってもらった黒板に石灰を固めて作ったチョークで、長方形で表す装甲車を逆V字に配置して描いてみせる。反撃開始の戦法は神々の戦術を使わせていただく。
「本来は数的に圧倒している側が用いる戦法と理解していますが、今回はこちら側からの一方的な攻撃により圧倒的優位な立場ですから、この戦法で行けると思っています。
街道に出たなら3つの街道に分岐して進み、国境の町は同様の碁盤目構造なので、もう一度隊列を戻します。
先頭が国境1キロ地点まで到達したらその位置を保つので、両端の隊から順に加速して前進し、兵を追い立てながら最終的にV字型になるまで前進します。つまり魔王軍を包み込むようにするわけです。ここまで行けば魔王軍は降伏して、国境を超えて逃げて行くしかなくなるでしょう。
城下町の落とし穴は、昨晩ある程度埋めておくようお願いしておきましたが、大丈夫でしょうか?」
「ああ……城壁手前から城下町の1/4程度までは埋めてある。それ以降は場所が分かっているから、板を渡して進むから問題ない。」
城下町の辻ごとに掘った落とし穴に、わが軍が落っこちてはどうしようもないので、確認しておく。
「作戦は理解できましたか?では、お願いいたします。」
「これから、参戦メンバーの配置を指示する!」
すぐさま兵士長から部隊編成が告げられた。
俺とメリアンちゃんと事務長さんを中心とする、女性ボウガン兵と薙刀兵を中心とした部隊250名で装甲車5台に分乗。兵士長と魔導士レルムを中心とした、男性ボウガン部隊と槍隊を中心とした部隊で装甲車5台に分乗で、計10台が2班に分かれて隊列を組むことになった。
それぞれ2台ずつ移動式の投石器と荷馬車が同行する。
とはいえ総勢6百名と少しの部隊のため、基本的には全員で行動を共にするが、分隊が必要な場合に備えて2班に分けておくという事のようだ。
「城に籠って籠城しながら戦うのは昨日で最後だ。本日は城から打って出る。魔王軍を国境まで追い詰め降伏させて、我が国から追い出すのだ!いいか、これが最後の正念場だ!力を振り絞って頑張れ!」
『おーっ!』
事務長が演壇の上に立って大声で兵士らに檄を送ると、前庭は大歓声に包まれた。皆士気が高まっているなあ、魔王軍なにするものぞ!だ……。
「魔王軍がやってまいりました。」
城壁の上の連絡係の女の子が大声で叫び、途端に手旗が振られ始め、投石器の投石が始まる。
「ようし、全軍乗車せよ!」
兵士長の号令で全員装甲車及び移動式投石器と荷馬車に分乗する。
「全員乗車したな?出発するぞ!」
事務長さんが後席に向かって確認した後、装甲車がゆっくりと動き始める。兵士長さんと魔導士レルムが乗る装甲車も同時に動き出した。
城門がゆっくりと開き2台揃って表に出ると、魔王軍兵士が突進してくるところだった。なんと……
「竹槍を持っているな……奴らも馬鹿じゃあないという事だ。」
事務長が忌々しそうにつぶやく。
そう……小鬼たちの手には先端を鋭くカットした、竹槍が握られていたのだ。流石に2日連続の白兵戦による敗戦で、向こうだって学習したのだろう。ボウガンなんてぱっと見だけでは工作しようもないし、ましてや敵地だから工房だってないはずだが、竹槍程度だったら竹林を探せば手に入るわけだ……。
こっちだって緊急の間に合わせとして、竹槍部隊を編成したわけだからな……真似られたわけだ。
こちら側の圧倒的なアドバンテージが、やや向こう側にも傾き始めているともいえる。このままではまずいぞ……なんせ圧倒的な兵力の差に対して、武器の優位性だけで少数でも何とか戦えていたのだ。何とかせねば……えーと……えーと……そっ……そうだ!
「あっ……あのー……今やこちらはまともな槍と薙刀になっています。ボウガンだってありますし、勿論投石器だってあります。武器的な優位差は、まだまだ詰まってはいない(はずです)。
竹槍は所詮竹です……それでも節の部分は強度があるので、そこを避けて薙刀や槍の刃の部分で掃ってやれば、容易に砕けるはずです。槍で敵を突き殺す必要性はありません、ひたすら薙ぎ払って竹槍を砕いて行けば、それだけで敵は手も足も出なくなります。うまく戦って、相手の戦意を喪失させるのです。いいですか?」
『おおっ!』
なんとか、皆に力を与えられたと思う。何せ上半身ほぼ半裸の小鬼兵と違い、こっちは鎧兜で武装しているのだ。竹槍程度であれば、何とか戦い方でほぼ無効にしてやれるはずだ。
「ようし……今坊主が言った内容を、各装甲車あてに伝令を伝えるのだ。」
「はっ」
事務長が薙刀部隊の兵士に、伝令役を申し付けたようだ。すぐに一人の兵士が装甲車を飛び出して駆けて行った。装甲車はいったん停車した後、再び魔王軍兵に向かって進み始めた。
「まずはボウガンで、相手を威嚇しましょう!」
魔王軍との距離百m程で前方窓からボウガンで矢を発射し始めると、面白いように魔王軍兵士に当たって倒れて行く。これで距離を詰めているうちに、竹槍を持つ前衛兵を数十人は仕留められるはずだ。
ボウガンの弦を引きながら後方を見ると、順に装甲車が城門から出ては左右に散って行く。その装甲車に向かって先ほどの伝令係が、駆け寄ってはメモを手渡ししているのが見えた。
「よしっ突撃だっ!席順通りにチームを組んで進め!」
装甲車が進み、魔王軍と十mくらいの位置まで達した時点で、事務長が突撃の指示を出した。俺の列が先頭なので、いの一番に下車して突進していくが、いつも通りのチーム編成で戦えるので、随分と気が楽だ。
ボウガンで矢を発射して前方の兵が倒れると、左右の兵たちが一瞬たじろぐ……間髪入れずに突っ込んできた薙刀兵が、構える隙も与えずに両手で頭部をガードしている魔王軍兵士の竹槍を薙ぎ払い破壊していく。
指示通りに、薙刀や槍では直接兵士に攻撃は加えずに、竹槍だけを先につぶしていく作戦だ。手に持つ竹槍が真ん中から砕け散った途端、魔王軍兵士は青ざめ……というか元々まっかな肌色をしているので、それが紫になったというわけではないのだが……慌てて後方へと逃げだしていく。
優秀な薙刀兵は、それに満足せずにさらに次列の竹槍を破壊していくので、こちらも遅れずにボウガンの弦を引き、矢をセットして慌てている魔王軍兵士目がけて発射していく。
数十m程も突き進んだだろうか……途端に視界が開けて来た……目の前に何重にも重なって行進してきた魔王軍兵士が敗走を始め、収拾がつかなくなっているのだろう。もう……前方の俺たちに対抗しようとしている兵士など……それこそほぼ皆無の状況だ。
「敵は敗走を始めた、装甲車に乗りこめ!チームごとでの深追いはするな!」
すぐに横方向から事務長の適切な指示が飛ぶので、それに従いダッシュで戻って装甲車に乗り込む。
素早く点呼をして全員怪我無く無事に戻ってこられたことを確認し、装甲車が発車する。
「そろそろ……落とし穴を埋めていない区間に達しますね……気を付けてください!」
落とし穴は城壁側しか埋めていないので、そろそろ落とし穴が各角や辻ごとに開いているはずだ。まあ……魔王軍が先に引っかかって穴が開いていることは確実なので、分からずに落ちることはないだろうが、装甲車だって急には止まれないから、十分な注意が必要なはずだ。
「そうだな……おいっ、数名下りて、足場の板を渡しながら進むぞ。」
事務長の指示が出て、6名の薙刀兵と僧兵が装甲車を降り、装甲車下部から長い板を取り出して前方に駆け出し落とし穴にかけ、丁度車輪の幅に合わせてセットした。成程……穴を埋めなくても板の橋を渡せば装甲車は通って行けるか……。見ると隣の装甲車からも人が出て、板で橋を渡しているようだ。
「あの……せっかく作っていただいた移動用の投石器ですが、今回は使用を取りやめたほうがいいと思います。竹槍を真似て使ってきたように、投石器も真似て使われる危険性があります。
ボウガンは複雑な構造をしているので、詳細を知らなければ恐らく真似ることも難しいでしょうが、投石器は形とやり方さえわかれば、構造は単純なのですぐに真似される危険性が高いです。
これまでは城壁があって向こうから岩を飛ばしている機構は分からなかったはずですが、平地の決戦で使用すると容易に仕組みを知られてしまいます。魔王軍が投石器を作成し、何千台と運んできて城攻めをされたなら、結界は全く役に立たないので恐らく1日持たないでしょう。
残念ですが、視界のいい場所で投石器は使用しないほうが今後のためです。」
ついでに竹槍を真似されたことに関して浮かんだ懸念も伝えておく。投石器がなければ、魔王軍が板塀などで陣営を築いていた場合、攻略にかなり手間取る事になるが、それよりも相手に使われた場合の方が恐ろしい。
今回は運よく魔王軍を追い払えたとしても、半年先や1年先に投石器の大編隊を組んでこられては、ひとたまりもないのだ……。
「おおそうか……成程……確かに人が反対側に勢いよく乗って飛ばす……何て機構は、何でも魔法で行おうと第一に考える、あたしらの世界じゃあ到底考えつかなかったことだからな……それでも使っているところを見ていれば、簡単に原理は分かるな……残念だが仕方がない……投石器は城へ帰そう。おいっ!」
すぐさま事務長が伝令役の子に指示をし、その子は装甲車を降りてダッシュで後方を進軍してくる投石器へと向かった。
「ふうむ……向こうは陣営を後退させるつもりのようだな……主要な橋を落としておいたから、死に物狂いで突進してくるかとも考えていたのだが、向こうの隊長は冷静なようだ……。」
暫く魔王軍の姿を見ずに装甲車が進んでいくと、遥か前方に黒い飛行物体が浮かんでいるのが幾つも見え始めた。あれは……なんだ?鳥にしてはバカでかすぎる……飛行機……いや、飛行船……か?
「なっ……なんですか……あれは?飛行要塞……とかですか?大砲で撃って来たり、岩とか落として攻撃してきますか?」
ついに魔王軍の秘密兵器の出番なのだろうか?
「あれは魔道船……だろうな……あたしもそれほど詳しくはない。魔法のことなど教育を受けていないから、この戦争により急遽調べた程度だ。
たいほう……?よくわからんが、あれは兵器などではない。馬車や船などと同じく、ただの輸送手段だ。」
俺の問いかけに、事務長が少し首をかしげながら自信なさげに応えた。
「輸送手段……ですか?」
「ああ……余程の使い手の魔導士がいるのだろう……しかも沢山な……数千人乗れるくらいの大きな船だ。木材を組んで作ったとしても相当な重さになるはずだ。更に人が数千人乗り込むのだからな……。
それを空中に浮かせるだけでも大量の魔力を使うと聞いている。恐らく数十人の魔導士に加え千人以上の僧兵が口調を合わせ呪文を唱え、魔道船を浮かせて飛ばしているのだろう。上空から岩を持ち上げて落とすなど……とても敵に攻撃を仕掛けるような余裕はないはずだ。
百万人規模の軍隊ともなると、魔道船を使って移動手段としないと、隊列を正常に維持できないのかもしれないな……あちらこちらへはぐれてしまうのが出ることを懸念するのだろう。
特に今回は兵糧攻めのために、主要街道の橋をある程度落としてしまったからな……向こうも魔道船を用いるしかなくなったのだろう。準備のいいことだ……そうして向こうの軍の隊長は、これだけ劣勢になっているのに死に物狂いで突進してこないだけ、冷静と言える。」
「れいせい……ですか?」
「ああ……もし仮に向こうが竹槍を持って死に物狂いで突進して来たとしたなら……百万の兵でも恐らく全滅だろう。なにせ装甲車の装甲は分厚い鋼板だ。竹槍などでは傷ひとつ付けられないし、更に僧兵が中で結界を張っているから、魔法攻撃は当たり前だが無効だ。
こちらはボウガンに槍に薙刀で……覗き窓から攻撃を仕掛けられるからな……こちらの被害は最少で、向こうは次々倒されていくから、じり貧だ。
だからここは引いておくのが正解……恐らく国境近くの平野迄引き上げるのではないかな……流石にそこまでは落とし穴も掘っていないし、補給部隊とも合流でき兵糧だって手に入れられるだろう。
そこで最終決戦を仕掛けてくるか、あるいは国境超えて引き上げてくれるか……まあ……あまり変に希望を持つことはよそう。こっちはどこまでも魔王軍を追い詰めて行くだけだ……。」
「なるほど……そうですか……じゃあこっちも国境近くまで追っていくわけですね?そこで最終決戦か……腕がなるなあ……あっでも……投石器帰しちゃったから……全軍相手にするとなるとしんどいですね。」
やはり事務長はすごい……女性は魔法教育など受けられないとメリアンちゃんが言っていたからな。それでも魔導船のことも、推察しながら大軍勢の輸送手段として理解している。その聡明さで、数々の武器を作り出してくれたのだからな……ううむ……尊敬……。
「まあ仕方がないだろう……坊主の言う通り、投石器の仕組みが向こうに伝わっては今後の戦いに支障が出る。1時的に優勢になっても、後で反撃されてはかなわん。」
事務長が深くため息をついた……やはり投石器なしでの戦いは、それだけ不安なのだ。何せ敵はまだまだ大軍だからな……。1時期は空が真っ暗になるほど……数百隻の魔道船が宙に浮き、遥か向こうへゆっくりと飛んでいった。こちらも装甲車で、魔王軍を追い続ける。
「ああっ……橋はどうするのですか?落とし穴と違い橋では、板を渡すくらいでは渡れませんよ……第一渡せるくらい長い板を持ち歩けるとも思いませんし、あったとしても長すぎて、自重で折れてしまいますよね?
どうするのですか?まさか……橋をかけながら進める……とでも?」
そうだ……補給部隊が魔王軍前線へたどり着けないよう、主要街道に落とし穴を掘り、更に橋はことごとく落として回ったのだ。今となってはあだとなる……向こうは魔道船で飛べるというのに……。
「ああ……それは問題ない……こっちも飛べる……。」
事務長がにやりと笑った……ううむ……ビューティフル……。




