11.凱旋につぐ凱旋
11.凱旋につぐ凱旋
「敵の補給路を断ったばかりか、更に大量の兵糧迄奪い取ってくるとは……よくやってくれた。本当に文美雄殿は救いの神のようだな……。」
城に入った時にはすでに日付が変わっていた時間であったので、皆そのまま自室に戻って泥のように眠った。
翌日の正午過ぎになって腹がグーグーなって目が覚め、顔を洗っていたらメリアンちゃんが顔を出したので、2人でブランチ。(と言っても朝食の残りもの……この国では昼食の習慣はない)だがなんと……いつもの味気ない朝食に玉子焼きと、デザートにリンゴがしかも一人一個ずつついていた。
これはメリアンちゃんの同僚の連絡係の子たちも同様らしく、やはり奪取した魔王軍食料と戦況の改善効果が大きいようだ。先の見えない状況で少しでも生き永らえようと切り詰めていた食糧事情が、これからは改善されるという事だった。
その後王様の謁見室へと向かったら寝坊を怒られるどころか、王様は大変に喜ばれていた。
「いやあ俺なんか、大した事出来ていませんでした。敵軍との戦闘は大方ハッカクさんとターレムさんの指揮によるものでしたし、作戦指示は事務長さんがやってくれましたからね。それになにより、兵士長さんたちが城から打って出てくれたのが大きかったです。あれがなければこちらは力尽きていました。」
俺なんか女の子たちのボウガンの弦を引いてやっていただけで、戦闘が終わっていたようなものだった。碌な活躍も出来ずに、あれよあれよという間に戦況が改善し、勝利したような感じだった。だから皆の活躍のおかげだし、城を守り抜いてギリギリのところで打って出た兵士長さんを賛美しておく。
「それだって坊主の読み通りだったじゃないか……城から打って出ることも予想していたからな……城壁沿いに敵軍を切り崩しながら進んでいく作戦も見事だったし、本当に大した奴だ……。」
既に事務長さんは謁見室に来ていたらしく、部屋の隅から声をかけられた。見ると、ハッカクさんやターレムさん(勿論魔導士レルム)達も謁見室で俺が来るのを待っていたようだ。
「いえいえ俺なんか、適当にその場で思いついたことを言っているだけでして……たまたまそれに近い事で旨く行っているだけで、皆さんたちだけでもその指導力で何とか出来ていましたよ。」
「いやそれは違うぞ……あたしらだけだったら、投石器なんて考えつかなかったし、落とし穴自体は獣害の野生動物を捉える時に罠として使う時もあって知ってはいるが、戦争に使おうなんて思いもよらなかった。
ましてやボウガンなどは正に新兵器だったし、槍や薙刀だって……古くて廃れた過去の技術を蘇らそうなんて、そんな思考はなかった。つまり……坊主が来なければ、この国はとっくに魔王軍に占領されていただろう。坊主は紛れもなく救世主だよ。」
事務長さんはなぜか最初から俺を贔屓目で見てくれている。俺のつたない説明でも親身になって聞いて真意を探ろうとしてくれるし、何より投石器だってボウガンだって俺はその機構の詳細を知らないで適当に概略図を描いただけだ。それを試行錯誤し創意工夫して試作できたのは、ひとえに事務長さんのおかげと言える。
俺の下手な図の通りに作ってみて……縮尺だって適当だからその通りに作ったならかなり不格好なはずだ。それでうまく動かないからこれはダメだ……と評価されていたなら、何も進まなかったのだ。
なのに、どうにもこうにも……こんなふうに何でもうまくいくなんて……ちょっと出来過ぎだ。何かのどっきりとかやらせ……じゃないよな……何より登場する女性が誰もがとびっきりの美女とかわいこちゃんというのが、本当に気にかかる……ここが天国であれば納得するのだが……。
「本当ですよ……やはり私の召喚術は正しかった……我が国の……いえ……この世界の救世主を召喚できたのですからね……。」
これ見よがしに魔導士レルムが続く……まあ、彼にしてみたら……呪文最後の方の一文字を言い間違えただけで、大魔導士どころか魔法すら存在しない世界から、間違って俺を召喚してしまったのだからな。
しかも俺を追い返すどころか、代わりの正規の大魔導士を召喚する事さえ不可能だったのだ。彼らの当初の落胆の度合いは……想像に難くない……なのになぜか……ことごとくうまくいってしまうのだ……。
たしかにまあ……武術大国だったのが、魔王軍の魔法相手に手も足も出せず、やむなく異世界から大魔導士を召喚して急場をしのぎ、以降は武術よりも魔法技術を磨くことに国力を傾けたのだからな……。
余りに極端な政策変更とはいえ、やむを得ないといった感も否めない。百万の兵を動員できる魔王軍の軍事力を考えたなら、弱小国のこの国は全軍事力を魔法技術の向上に賭けるくらいしかやりようはなかっただろう。
だからこそ……とは言える。魔王軍に押し込められたが、それでも挽回できたのはしっかりした魔法結界で城壁を守れたことと、魔法結界を通すことができる物理力による武器を俺が発案できたからだ。
魔法結界がなければ投石器なんて瞬く間に燃え尽きただろうし、ボウガンの射程に入る前に炎弾や雷に打たれてやられてしまっただろう。それもこれも……魔法による防御力あってこそ……。
「本当にそうだ……一時は討ち死しかないと諦めていたのが、今日になってもしかすると魔王軍を追い払って勝てるかも知れないと、本気で考えられるようになってきた。それもこれも全て多田羅殿のおかげだ……感謝するぞ。」
王様は玉座に腰かけたままではあるが、それでも俺の顔を見て何度も頭を下げられた。
「そんな勿体ない……皆さんが、異世界から来た只の高校生の俺の話を真剣に聞いてくださったからですよ。」
「いえ……文美雄様は本当に救世主様なのですよ……勇者様なのですよ……。」
メリアンちゃん迄……まいったなあ……超絶美少女のメリアンちゃんが笑顔で寄って来てくれるのは、本当にうれしいのだけど……化けの皮がはがれた時が怖すぎて、なんだか素直に喜べない……。
「それで……だ……装甲車だが……本日2台完成した。40人乗りだが、坊主の言う通りに座席を配置し、真ん中の通路に補助席を設けたので50人乗れる……動力用の魔導士と運転手含めれば52名だ。
明日までには10台揃うはずだが……それで、魔王軍を追撃できるか?」
和気あいあいに褒め合っていたら、本題とばかりに事務長が切り出してきた。ううむ……工房の人たちは、一体いつ寝ているのであろうか……謎だ……。
「そうですか……恐らく今日も魔王軍はゆっくりと近づいてきて、隙を見て城壁にくっついて一斉に魔法攻撃に入るはずです。昨日は俺たち遊撃隊が外に居ましたが、今日はいないのでかなりやばいはずです。
ですから……装甲車の試運転かねて、城門を開けて突っ込んでいってみますか?2台で突っ込んで城門前にある程度空間を作れたなら、そこに城内から打って出る隙間が生まれます。装甲車の窓からはボウガンを発射できる構造なので、薙刀兵とともに飛び出せば十分な陣営は作れると思っています。」
装甲車が出来たのなら、それなりに戦術も変わってくる。防御力を武器に突撃掛けて、敵陣を後退させることが出来るはずだ。
「おおそうか……そうなると1台にボウガン10名と僧兵10名に薙刀兵30名と言ったところか。薙刀は足りないから、正規の槍も百本ほどできたから槍兵も加えよう。
残るボウガン30と竹槍兵490に僧兵80は、装甲車である程度敵をかく乱したら打って出るわけだな?
なかなか面白い作戦だ……これだと親衛隊千5百は城内で万一に備えられるので、より安全と言えますな?」
事務長が笑みを浮かべながら兵士長の方へ視線を向けた。
「ああ……その作戦はいいですな……私も打って出るつもりですぞ……。」
「私も突撃隊に志願いたします。」
いつになく兵士長も魔導士レルムも戦闘参加に積極的のようだ。やはりここまで連日の勝ち戦に、気も大きくなってきているのであろう。
「魔王軍は遠距離から突進してきて投石を躱して城壁に貼りつき、城門の結界目がけて炎弾を集中攻撃してきました。現在後ろ門用の僧兵が応援し、何とか結界を保っている状況です。
今回は城の側面側にも多くの兵を配置して、伏兵の攻撃に備えているように見えます。」
本日の作戦が決まったところで、連絡係の女の子が戦況を告げに来た。やはり思った通りで、しかも絶好のタイミングと言えた。やはり昨日と同じ轍は踏まぬと言う訳か……側面攻撃には備えている訳ね?
「では、直ちに兵を整えて反撃に移るとしよう。うまくすれば敵にまたもや大打撃を与えられるかもしれんぞ。」
事務長の号令の下、皆ダッシュで城の前庭へと降り立った。
そこには黒い艶消しに塗られた大型バスというか装甲車が2台、投石器の隙間に置かれていた。
「闇夜なら全く目立たずに移動できるぞ……高速打撃魔法も空打ちだから、移動中ほとんど無音で風切り音程度しかしない。夜目の利くやつにハンドル操作させれば、隠密作戦だってお手の物だ。」
この装甲車……鋳鉄の車輪に厚いゴムを巻いて、多少乗り心地はよくしてある。更にエンジンは魔法だが、ブレーキは車軸をパッドで挟んで減速させるタイプで、更に前輪は独立しておりハンドルで進行方向を変えられるようにしてある。言うなれば魔法車なのだ。
車の機構など俺の知識はそれほどでもなかったが、事務長に色々と俺の知っている車の動き方を説明し、事務長ら工房の人たちの知恵を結集して作り上げたといっていい。
窓は前方と後方だけで、側面は座席の横の鋼板に細長くスリットが入れてあり、その上を蓋するように鋼板が覆って有り中からしか開けられなくなっている。その隙間からボウガンの先端を突き出して攻撃するのだ。
この世界にガラス窓があるか分からないので、前後の窓は鋼板を四角く80センチ角程度2つに切り欠き、そこにメッシュの細かい鉄網をはめ込んである。こうすれば視界は確保できるし、石など投げられてもガードできる。更に前方に向けてもボウガンの発射が可能となっている。
「ようし……全員乗車したな?中央の補助席は降ろすと降車の邪魔になるからな、中央の奴は吊革につかまって立っていてくれ。よしっ出発だ!」
すぐさま兵を準備し、薙刀兵士らとともに装甲車に乗り込む。左右に5名ずつボウガン兵が窓際に一つ置きに陣取り、スリット窓から外を窺って、突進しながらまずは攻撃を仕掛ける手はずだ。その間の外側の席に僧兵が座り、魔法結界も怠らない。これにより強烈な火炎魔法も雷撃魔法も防御できる。
ぎぎぎぃーと軋み音を立てながら、ゆっくりと城門が開いていく。それでも緑色の結界が守っているから呪文を唱えている魔王軍は侵入が出来ず、無言の我々だけが往来可能なのだ。
それでも装甲車が結界から前方を突き出した途端、爆音にも似た破裂音と目も眩むような閃光がほとばしる。
こちら側が打って出たことを知り、魔王軍が一斉攻撃を始めたようだ。ううむ……遮光ガラスが欲しい……。
「すぐに僧兵は魔法結界を張れ!敵軍の塊の中迄突進!」
委細構わず突っ込めと、事務長の檄が飛ぶ。
装甲車はゆっくりとそれでも確実に魔王軍との距離を詰め、しまいに魔王軍の間を割って中に入って行った。
「今です!左右の窓からボウガンの先を出して、発射してください。当たっても当たらなくても構わずに、連射してください。魔王軍がひるんで少し下がったら、薙刀部隊は装甲車から出て突撃してください。
遅れずボウガン隊と僧兵部隊が続きます。いいですね?」
『おおっ!』
すぐさま側面スリット窓から、ボウガンの一斉射撃が始まった。魔王軍兵士は両足を踏ん張り両手を前に突き出す姿勢で、一斉にその掌の間から炎弾を装甲車目がけて発射してくるので、ボウガンの矢は面白いほどよく当たった。避けたくても前列が避ければ次列の奴に当たる為、ほぼ百発百中でシューティングゲームより楽な戦いに思えた。
最前列に陣取っていた俺は時折装甲車前方に位置を変え、前方窓から矢を放った。装甲車の座席脇には矢袋が設置してあり、2、30は放っただろうか……次第に魔王軍がじりじりと後退を始めたのが分かった。
「ようし、全軍突撃だ!」
薙刀兵3名に対してボウガン兵1名と僧兵1名……座席順に必ずこのチームで連携をとって戦う作戦だ。順序良く装甲車を駆け下りては、魔王軍に向けて突撃していく。
なんせこちらは魔法結界で覆われ、魔王軍の魔法攻撃はすべて無効化できる。なのにこちらの薙刀やボウガンでの攻撃は、魔王軍の魔法結界を突き破って魔王軍兵士に達する……いわばこちら側だけ攻撃手段があって、向こうはただひたすら逃げるだけ……相手の両手を縛って戦っているようなものなのだ。
とはいっても、これはあくまでもこちら側が優位に戦いを展開している場合のみであり、例えば俺のチーム5名だけが孤立してしまい、魔王軍兵に囲まれて360度全方位から一斉に魔法攻撃を仕掛けられたのなら、僧兵1人で張り続けられる魔法結界は何分も持たないそうだ。つまり、いつでも全滅の危険性はついて回る。
だから深追いはせずに、他チームと連携をとりながら少しずつ進んでいくしかない。後ろをとられないよう、常に装甲車の位置を意識しながら、敵が回り込まないような陣形を保って戦う必要性がある。
何せ魔王軍百万(ここ数日である程度は減っただろうが、まだまだ多い)に対し、こちらは1万数千と言いながら、実質戦っているのはわずか7百に満たない兵士なのだ。恐れを知らないというか……あくまでもこちらサイドが圧倒的優位な戦法で勝ち続けているからこそ、成り立っている作戦なのだ。
一度でもへまをして総崩れになったなら、次の突撃は誰もが尻込みするようになるだろう。そうならないよう、細心の注意を払って戦い続けなければならない。
こちらが装甲車から出て突撃したことを受け、城からもさらに竹槍隊を中心に兵士が突撃を開始したようだ。
戦況はさらにこちら側に傾き、城門前方から魔王軍を蹴散らし、一定距離を保てる状況になり始めると、今度は城壁越しに、投石が始まった。
竹槍や薙刀を恐れ後方に下がると城壁から距離が出来、そこは投石器の射程距離に入る。待ってましたの一斉射撃に魔王軍は逃げ場を失い、遮二無二俺たち目がけて突進してくるが、結界に阻まれて近づけないどころか、薙刀やボウガンの矢の格好の餌食となって倒れて行く。
しまいに追い詰められた魔王軍の陣形が崩れ、後方が透けて見え始める。城門から離れた位置の兵士から順にダッシュで城壁から離れて行っているようだ。ぐずぐずしていたならボウガンや薙刀の餌食にされかねんし、追い詰められる前に逃げ出してしまえと、敵前逃亡するやつらが現れだしたようだ。
まあ……気持ちは分かる……俺が魔王軍に参加していて今の状況なら、真っ先に逃げ出しているさ……今ならまだ投石器の餌食になる確率は低いからな……。魔王軍の攻撃はどれだけ頑張っても今の所効果がないし、やむを得ないといえるだろう。
恐らく物量で押せ押せの状態で何度も攻め続け、しまいに敵軍が疲弊して結界が保てなくなり、やがて軍門に下る……的な戦い方しか想定してなかったのだろう。たまたま俺が参加して、魔法が使えない世界から来たからこその戦法を発案して莫大な効果が得られたのは、この国にとって運がよかったのかな?
まあ……正規の魔法が発達した世界から大魔導士召喚出来ていたなら、恐らく俺の発案をいちいち読み解いて、試行錯誤して武器を作るよりもより簡単に、スマートに勝てたのかもしれないが、現状うまくいっているので、まあ俺を召喚してしまったことを後悔しないで済んでくれそうなのは有り難い。
装甲車で城から突撃してから、恐らく1時間も経過していないだろう……城壁前面に貼りついていた魔王軍は全て逃げ去るかあるいは討ち死にし、城壁の上から見ても敵軍の姿はいなくなったようだ。
そうだ……本日も魔王軍に対して勝利を挙げることが出来たのだ。やった……。
いつものように魔王軍の死骸は荼毘にふし、街道沿いの空き地に穴を掘って灰を埋め、墓石代わりの岩を置いておいてやる。こちら側の死者は本日もなく、負傷者も軽微なものにとどまったのは幸いだ。
「本日もよくやってくれた。本当に素晴らしい勝利だ。」
王様の謁見室での戦況報告会も皆笑みをたたえていて、雰囲気は最高だ。王さまも大喜びで、玉座から立ち上がって出迎えてくれた。
「やはり装甲車の防御力は大きいな。敵軍に囲まれてもそれ自体の耐久性も高いため、結界が通常よりも数倍は永く持ちそうだ。明日には10台揃うから、予定通り魔王軍の追撃を始めるとするか?」
事務長もご機嫌な様子で、兜を右手で高くつき上げながら勝ち鬨を上げた。
「そうですね……装甲車と移動式の投石器で出撃しましょう。投石用の岩は荷馬車に積んで同行すればいいと思います。その分……僧兵は百名ほど追加していただきたいのですが、大丈夫でしょうか?」
装甲車10台に僧兵各10名ずつ分乗すると百名となり、投石器と昇降台及び荷馬車に結界を張るための僧兵が足りない。しかもこちらは物理防御力ほぼゼロだから、僧兵はその分だけ多く必要だろう。
「魔王軍を国境まで追いやることが出来れば城は安全となる為、その分結界用の僧兵は割くことができます。だから百名なら十分捻出可能ですよ。」
魔導士レルムも増兵を快諾してくれた。こうなりゃイケイケだ!




