9.兵糧攻め作戦1
9.兵糧攻め作戦1
「どうだ?戦況は……。」
作戦が決まったのは、既に夕刻近くになっていた。事務長たちとともに梯子を使って城壁に登り、事務長が近くに居た連絡係の子に状況を確認する。
「はっ……本日はいつもより魔王軍の到達が遅れ、更に進軍も遅いようです。」
連絡係の少女は、兵士ではないがそれでも敬礼しながら答えた。
「そうだろうな……先晩は旧城下町の端の方まで落とし穴を設置したからな……敵もおいそれと前進できなかっただろう。投石があるから、上にも注意を払わねばならないしな……。
ようし……車輪のついた移動式の投石器も導入して、一斉射撃を行え!敵に壊滅的打撃を与え、早々に追い払ってしまうんだ!」
事務長が連絡係の子から手旗を受け取り天へと掲げ、前庭に向かって叫ぶ。すると大量の巨大な岩が一斉に城壁を超え、迫りくる魔王軍目がけて飛んでいった。
密度の濃い一斉射撃は魔王軍の隊列を乱し、いつものような弾幕を張る暇も与えなかった。魔王軍はひたすら敗走を続け、散り散りになりながら視界から次々と消えて行った。
「よし……では作戦を告げるぞ……。」
魔王軍が引き上げた後、前庭で兵士長が兵士全員を集めて指令を発する。
俺もメリアンちゃんも支給された鎧と兜を装備し、他にも連絡係の女の子を中心に選抜し、合計50名に鎧兜とボウガンが支給された。
「工房事務長と多田羅殿……それぞれを含み2チームに分かれ、魔王軍の兵糧輸送ルートに落とし穴を掘って妨害する。更に輸送隊も襲撃して兵糧を奪う……いいか!
チームの内訳は魔法兵士250名、僧兵50名、ボウガン部隊25名……多田羅殿のチームにはさらに多田羅殿が加わる。だから……325名のチームと326名のチーム2つに分かれて行動する。
それぞれのチームリーダーは工房事務長と多田羅殿とする。指示系統の確認を行うように。」
はあ?なんか今……とんでもないこと言ったようですけど?
「ままっ……待ってください……兵士長さんは一緒に行かないのですか?事務長さんがリーダーなのはいいですけど、俺はリーダーなんて無理ですよ。こっちのチームは兵士長さんがリーダーやってください。無理ならレルムさんでもいいです。俺なんかじゃあ絶対に無理です、お願いします!」
兵士長がとんでもないことを言い出した……なんで俺がリーダーなんてやらねばならんの?俺はあくまでも思いついたアイデアを適当に言っているだけで、それらを種々選択して、有効と思えば使うのは結構だけど、判断はそちら任せですからね!いわば参謀……いや違うか……只のアイデアマンでしかないわけでリーダーなんて無理!速攻で変更を訴え平身低頭……頭を下げる。
「それはダメだな……私は城の防衛のために残らねばならん。一緒に行きたいところだが、何せ精鋭兵士5百も出しているのですぞ。その上私迄出撃したら、この城はどうなる?兵糧の奪取が成功しても、戻ってきたら城が占領されていた……なんてことになったら困るだろ?
レルムも同様……精鋭の僧兵百名分働いてもらわねばならんから……彼も残ってもらう。
それにこの作戦は、多田羅殿の発案のはずですぞ!多田羅殿がリーダーをやらないでどうする?
リーダーとは言っても、大まかな作戦指示を出すだけだ。ここは引いて逃げるとか攻め込むとかの重要な判断をね……魔法兵士は魔法兵士で、僧兵は僧兵でそれぞれ班長格はいるから、彼らにどこに穴掘るかおおまかな指示だけ出せばいい。道に迷ったら右行くか左行くかの指示もね……出来ますね!?」
しかし兵士長もレルムも一緒には行けないと主張する……更に強い口調で、俺がやらねばいけないと告げられてしまった。どうする俺……。
「大丈夫ですよ……文美雄様なら絶対いいリーダーになれます。」
その様子を聞いていたのか、メリアンちゃんが俺だったらできると背中を押してくれた。
メリアンちゃんは俺と一緒のチームだから、彼女の存在は有り難い。加えて俺のボウガンは試作機なので、50丁の数には入っていないらしい。つまりボウガン兵は51人いるので、25名と26名に分かれて作戦行動を行うことになった。まあ……俺みたいなのは役立たずだから、おまけみたいなものだけど……。
「わかりました……でも、穴掘る位置と右行くとかの指示だけですよ……戦闘になった時に戦隊は右方向へ展開して敵左翼を突くとか……そんな戦術まがいな指示なんてとても出せませんよ!」
仕方ない……渋々だけど引き受けよう……まあいいさ……失敗したって怒られるという事もないだろう。穴掘る場所と右行くとか左行くとか決めるだけならな……。でも……大勢の兵の命がかかっているのだからな……気が重いな……
「おお……多田羅殿は戦術などにもお詳しいのかね?それは頼もしい……おーいハッカクとターレムちょっとこい!」
兵士長が大声で呼び寄せると、2人の男が駆け寄って来た。1人は兵士長と同様、光り輝く甲冑を身につけた兵士と、もう一人は僧侶服を着ているが烏帽子はかぶっていない。2人とも長い竹槍を持っているようだ。
「ハッカクは魔法兵の班長格で、ターレムは僧兵の班長格だ。彼らを常に多田羅殿の側に居るよう命じておくから、彼らを通じて指示を出してください。
よいか……多田羅殿は異世界からこの国を救うために召喚された方だから、彼の言う事を真摯に受け止め、命じられたとおりに行動するように。いいな?」
「はっ」「はっ、かしこまりました。」
兵士長に命じられ、2人の兵士が俺の前で膝を折り傅いて頭を下げた。2人とも見た目は20代後半くらいだろうか……ひえー……人生の大先輩に……恐れ多いな……。背の高さは160いくかどうか……俺よりも低め。でも体は肉付きがよく、鍛えていると見え二人ともがっしりとしている。
見た感じ他の兵士たちも同じような体型で、どの兵士も俺よりも身長は低めだ。女の子たちも小さく体が華奢だと感じていたのだが、どうやらこの世界は男女ともに現代日本よりも少し小さめと言えるだろう。俺ですらこの世界では、大きい方の部類に入りそうなのだからな……。
「ボウガン部隊へは、メリアンを通じて指示を出せばいいだろう。これでチーム編成は終了だね。」
兵士長は満足げに笑みを見せ、俺たちのもとを去って行った。
「そちらも指揮系統の確認は終わったようだな。じゃあ愚図愚図してはいられない……出発するぞ。
残留組の班長に、落とし穴の蓋をして回るよう指示しておいたから、あたしらはそのまま出て街道を迂回して魔王軍の向こう側へ回り込む。急がないと夜明け前に落とし穴掘りきれないからね。」
兵士長と入れ替えに、事務長がやって来た。スコップ担いで、やる気満々だ……。
「わかりました……落とし穴と橋を落とす順番と、分担を取り決めましょう。」
「おっおお……わかった……おーい、地形図を具現化できる僧兵1人こい!それと魔法兵班長と僧兵班長も呼んで来い!」
すぐに事務長が、向こうのチームの班長クラスを呼び寄せ、僧兵に3D地形図を現出させた。こっちはメリアンちゃんとハッカクさんとターレムさんが残っているので丁度いい。
「我々のチームはこちらのう回路を行きますから、事務長さんのチームはこっちのう回路を進んでください。」
国境からほぼ一直線の主要街道を左右に迂回するルートを、それぞれのチームが担当する。
「それで……こちらのチームは途中から穴掘りと橋を落として進みます。事務長さんのチームは何もせず急いで進んで、魔王軍を迂回できたら本線に戻って、極力魔王軍の近くまで一旦戻って近づいてから、穴掘りと橋を落としながら国境に向かって進んでください。ちょっと危険ですが、百万の大群の魔王軍はさすがに背後を突かれるとは予想していないでしょうから、後方は恐らく手薄だと思っています。」
「おお……わかった……それでそっちは魔王軍を迂回した後も少し進んで落とし穴を掘り、橋を落としながら進んでから少し戻って、本線のあたしらと合流するわけだな?」
「ご明察です。それでそのまま本線を橋を落としながら落とし穴も掘って国境へ進み、迂回路の合流地点まで進みます。この辺りまでに恐らく敵の補給部隊がやってくるでしょうから、それを急襲して出来れば食料を分捕ります。魔王軍が何を食べているのか分からないので……虫とかなら捨てましょう。
それからう回路を事務長さんたちが来たルートを進み、落とし穴を掘り橋を落としながら戻ります。」
俺が考えた兵糧攻め作戦を披露しておく。まあ……単純な作戦だ。
「おおいいな……それで数日から半月くらいは敵の補給は断てそうだな……うまくすれば、戦争継続困難となってすぐに逃げ帰るかな……?」
事務長が頷きながら笑顔を見せる。
「そうやって帰っていただけるとありがたいですけれどね……ですが、百万の大軍を維持するための食料は、半端な量ではないはずです。恐らく当初はそれぞれ兵糧袋に米や肉など持たせていたでしょうが、手持ちではどう頑張っても数日分が限界でしょう。以降は運ばねばなりません。
1人一日5百グラム食べると控えめに考えても、百万の大群だと50万キロになります。これはすなわち5百トンで、大型の荷馬車でもせいぜい1トンくらいしか運べないでしょうから、それが5百台必要になります。
それが毎日必要となると……大変な行列で大きな負担となります。」
兵糧を襲うと提案した後で、その必要性を俺なりに数値分析した結果を披露しておく。大型荷馬車5百台の行進なんて……控えめに見てこれなので大変な負担だし、これを襲われたらひとたまりもないはずだ。
こちらでの計量単位がグラムなのか分からないが、翻訳機能で適切な単位に換算されているのだろうな。
「恐らく魔王軍は、我が国がこんなに抵抗すると思っていなかったはずだ。占領してしまえば食糧は手に入るからな。だから国境から王都迄の距離を計算して、数日分の食料を各自に持たせて百万の軍勢で攻めて来た。
ところがこっちには異世界から召還された坊主がいたから……坊主の発案で色々な武器や戦術を展開して、何ともう5日も抵抗していると言う訳だ……流石の魔王も計算違いしたという事だ。
かといって、無理でした……なんて兵を引き上げることもできやしない……ここまでに莫大な戦費がかかっているだろうし、降伏して逃げ帰るとなれば我が国に多額の賠償金を支払わねばならないからな。
だから……兵糧を補給してでも継続して、何とかして王都を陥落しようと必死なはずだ。その兵糧に目をつけたところは、流石坊主だ……このような説明を、昼間王さまにできていたら、もう少し王さまも安心できたであろうがな……。」
「いっいえ……俺は適当に兵糧攻めをしたらどうか?って提案して、後からそれなりの理由をくっつけているだけなんで……だからその場ではうまく説明できないというか……緊張もするし……。」
俺は昔から口下手で、思っていることの半分も人に伝わっていないんじゃあないかと感じていた。でもこの世界ではそんな俺の言う事でも真摯に受け止め、分からなければ何度でも聞き返して理解しようとしてくれる。だからなのかな……俺も素直に自分の考えを打ち明けられるようになってきたようだ。
「まっ……坊主はまだ若いし、まだまだ成長するさ……。じゃあ出発するぞ!」
『はいっ!』
事務長掛け声の後、全員で大声で檄を入れ、それぞれ自分の隊列に戻って行軍を開始した。
事務長たちのチームと分かれ、馬車がようやくすれ違えるくらいの細い街道を少しずつ進んでいく。
「ここからがう回路の本道ですね……遠くに魔王軍が野営している明かりが見えてきました。」
しばらく進むと轍の入り組んだ道から幅が少し広まった、まっすぐな道へと交差した。丁度家々が建ち並ぶ村の入り口が見えるが、既に立て札などは破壊され、よく見ると家々も壁を壊されゴーストタウン化している。
魔王軍侵攻が始まり、国境から王都迄のすべての町の住民は疎開させられ、畑や田んぼに家もすべて破壊されたわけだ。まあこちらとしては、橋を落とそうが街道に落とし穴を掘ろうが、誰にも文句を言われないので助かるが……
「では、この辺りから落とし穴を掘り始めましょう。闇雲に掘っても効果が薄いので、道の両端を掘ったら次は道の中央を掘るように、互い違いに穴位置を変えながら進みましょう。こうしておけば、恐らくどれかの穴に引っかかるはずです。穴と穴の間隔は、10m程度にしましょう。」
掘った穴に立てる竹串と、穴をカムフラージュするための竹の上部の細い部分や笹の葉など、荷馬車5台に分配して運んできている。勿論スコップもだが……。
その荷馬車がぎりぎりかわせるくらいの間隔で落とし穴を掘っておけば、相手は位置を知らないので、大抵はどこかの穴に落ちるだろう。終戦後は使われていない穴は安全のために埋める必要性がある為、余り数を多くしたくはないし、無駄な労力は避けたい。念のために穴位置が分かるよう、目印を置いておく。
いつもと違い男の兵士が3百人もいるし、落とし穴づくりは急ピッチで進んでいった。魔王軍本体に感づかれないよう、ぎりぎりの薄明りの下での作業であったが、段々と夜目にも慣れてきて作業は順調に進んだ。
途中、街道にかかる橋は順に落としながら進み、後陣を超え魔王軍の本体が街道から確認できなくなった時は、すでに夜が明けかけていた。魔王軍の長さは約10里と言われていたから、恐らくこの世界の距離単位の1里はおおよそ4キロくらいかな……。夕方出発して深夜中作業しながら歩き通し……途中から交代で馬車の荷台に乗せてもらい休憩はしたが、かなり疲れた。
「では朝食休憩をしてから、更に5里ほど先まで穴を掘りながら進み、少し戻って本街道へ回り込みます。」
朝食とトイレ休憩をすませ、更に迂回街道を国境へと向かって穴掘りしながら突き進む。携帯してきた食事は、1食当たり乾パン数個と氷砂糖と水が入った竹筒1本。乾パンをそのまま食べようとすると、口の中がからからになってしまうので、唾液が出る氷砂糖は非常にありがたかった。
辺りが明るくなったのと糖分補給で頭も冴え、作業はこれまで以上に進み、1里戻って本街道への分岐を進んでいったときは、まだ昼には十分な間があった。
「へえ……こっちは迂回街道の倍は道幅があるね……。」
「はい、エルムグリム王国の本街道ですからね。大型の馬車が片側2台ずつ余裕ですれ違える道幅があります。
でも……迂回街道にはそれなりの良さがあるのですよ……何より古くからの集落が多く、人の行き来も本街道に負けていません。本街道沿いは新興の住宅が多く建っていて見た目もきれいだったのですが、旧家の多い迂回街道沿いも、それなりに味わいがありました。
私の生まれ育った村は、先ほどまで居た迂回街道をずっと国境沿いまで進んだ先にありました。まだ魔王軍が侵攻する前、両親が国境の街まで収穫したものを治めに行った際に魔王軍の侵攻に巻き込まれて犠牲となったのです。
魔王軍が通った後には草木一本すら残らないと言われますが正にその通りで、両親の遺体どころか遺骨の一部さえ見つかりませんでした。一緒に街まで出かけて助かった知人の方に両親の訃報を告げられ、村が一望できる丘の上に母の形見の櫛と父の革靴を遺骨代わりに埋め、そこをお墓としたのです。
異国を征服しようとの欲望のために、いきなり侵攻してきた魔王軍に対し、両親の敵討ちをしようと私は幼い妹たちを連れ王都に向かい、何度も頼み込んでようやく連絡係の1人として採用されたのです。
本来女性は戦闘に参加できませんが、正規軍の大半がすでに犠牲となったこともあり、城の外壁に登って敵軍の動向を検知する連絡係となったのです。勿論……私が命を落としても何も悔いがない事と、出来れば故郷の丘の上に、両親とともに葬られることを願うと、既に遺書をしたためてあります。」
恐らく故郷の村に近づいてきて、色々と思い出したのだろう。俺が尋ねても余り悲惨な過去を話そうとはしなかったメリアンちゃんだったが、今日は詳細に両親と自分のことを話してくれた。
「もう少し……もう少しだよ……何とか魔王軍を追い返して、ご両親のお墓に報告できるさ。だから……頑張ろう!」
「はいっ! 文美雄様がいらっしゃったおかげで、女の私も第一線で魔王軍討伐作戦に参加できるようになったこと、本当に感謝しております。ありがとうございます。」
メリアンちゃんが涙をぬぐって少し微笑み、深々と頭を下げた。




