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21.決戦

21.決戦


 あれ?……

「そう言えば……魔法結界に物理結界……魔法結界は物理攻撃を通す云々は俺も知ってはいますし、おかげで魔王国との戦争も勝つことが出来ました。けど……物理結界って……結界魔法って詠唱が長いから切り替えできなくって、魔法結界と物理結界使い分けるなんてできないはずでは、ないのですか?


 複数の魔法効果を同時に使える魔導士は知っていますけど……魔法結界と物理結界は相性が悪くて同時には存在しえないとも聞きました。最低でも10mは離さなければならないって……養護院では前面の広い空間を利用して両方使ってましたけども……それでも別々の魔導士が唱えていました。


 どちらの結界を使うのか……強烈な火炎で一瞬で黒焦げ……なんて嫌なので恐らくは魔法結界ばかりになりますよね?だったら物理結界の心配は無用ではないでしょうかね?」

 余りにも基本中の基本……のはずなのだが……俺が何か勘違いしているのだろうか?


「ああ……そのことか……これも極限魔法の一つで……詠唱の長い呪文をあらかじめ唱えておいて発動させず、体の一部に格納しておくことが出来る技法だ……両手足で4つまで格納可能だ。だから魔法結界と物理結界を1人で同時に唱えておくことも俺にはできる。


 相性が悪いのは解消できなくて同時に張ることはできないが……右手には魔法結界、左手には物理結界……みたいにして普段は格納しておくのだ。


 敵の攻撃の発動の瞬間……どちらかの手を前に出して結界を有効にする……その間約千分の一秒だ。反射神経はいい方なのでな……まあ……安心していてくれ。」


 バンドレはなんでもなかったかのように歩調を変えず、そのまま下りていく。なんともまあ……極限魔法って……凄い……太古の大魔導士が国境の山脈全体に結界を張って魔王軍が攻め込めないようにして、それが140年間も続いたというし……限界ってないのだろうか?


 バンターもバンドレもその継承者なのだよな……大魔導士の世界は人間だってかなり長生きだったらしいし、うまくすれば魔王はじめ魔族も……あと2千年くらい生きるなんてこともありえなくは……ないな……。



 地下……というか、甲板から降りた1階部分も同じく、通路がずっと向こうまで続き、左右が船室の壁であろう……階段は手すり含めて鉄製だったが船体自体は木製のようだ……白に近いがクリームがかったペンキが塗られているので、どの壁も同じく無機質には感じる。


「最初の部屋は船員らの宿泊部屋だ。確か4人一部屋だったかな……2段ベッドが両壁に設置してあるだけで、他は個人用の小さな棚があるだけの正に寝るだけの部屋だ。


 昼夜2交代なので常に2人は部屋にいるはずだ。まあここは……俺が1人で入って拘束するから、二人は騒ぎ出したり逃げ出したりしないよう、廊下で構えていてくれ。」

 バンドレはゆっくりと右側ドアのL字型のドアノブを回した……


「ぐぉー」「ごぉー」

 狭い……ドアの幅とほぼ同じ通路の左右に鉄パイプで補強された2段ベッドが設置されているようで、恐らく3畳間はないほど……2畳間……かな?各ベッドの幅は寝がえり打てるかどうか位の幅……


 バンドレがゆっくりと下段ベッドのカーテンを開けていくと、高いびきで寝ている船員が……その頭の上に手を伸ばしたバンドレは、すぐさま振り返って今度は左ベッドのカーテンを開けて、またもや手を伸ばした。


「次の部屋に行くぞ。」

 2人とも無防備に下段ベッドで寝ていた様子で、バンドレは満足そうに小さく頷きながら、今度は通路を挟んで対面の部屋の部を回し始めた。



 以降も……目を覚ましかけた船員もいたのだが寝ぼけ眼で……バンドレがあっさりと拘束魔法をかけて黙らせた。そんなこんなを10部屋ほど続け……


「船員は40名のはずだから、これで半分は捕らえたことになる。


 残る20名の船員の他は船長と一等航海士と砲長、サーベリアンと護衛兵が10名ほど……こいつらは部屋が1階だから、バンターたちが何とかするだろ。


「次の部屋がシャワー室で……夜勤の連中は全員部屋で寝ていたから誰も居ないはずだ。


 その対面のドアが食堂で……こっちにはコックが2名ずつ2交代で、厨房奥の部屋で寝泊まりしている。


 コックは兵士ではないが、それでも短筒を持たされているから気をつけろよ……こいつらは二人でとらえてくれ……出来そうか?」

 バンドレがすりガラス窓が上部に付いたドアを指さしながら、振り返って尋ねて来た。


「あっ……ああ……やってみます。」


 先ほど背中から手持ちにかえたボウガンを少し持ち上げ気味に答える……実戦で……人間相手に撃ったことは一度もないが……まあ……やるしかない……先端が鋭利でなくても喉に当たればやばいし、目に直接当たれば失明するかもしれない……かといって、腕とかじゃあ当たっても反撃してくるだろうし……


「じゃあ行くぞ……気をつけてな……。」

 今度もバンドレが先頭で、ゆっくりとドアノブを回してドアを開ける……


「まだ夕飯には早いぞ!早飯の連絡は受けていないから、もう少し待っていろ!」


 部屋は恐らく10畳ほど……長テーブルが2列に置かれていて、多分十数名ほどで満員だろう。奥の方にカウンターがあるようで、その向こう側が恐らく厨房なのだろう、カウンター越しに怒鳴られた。


「厨房側にもドアがあるのだが、食材が保管されているから常に施錠されている。だから食堂入り口から突っ込んでいくしかないぞ、いいか……いくぞっ!」

 バンドレがカウンターに向かって駆け出したので、俺と事務長も続いて駆けだす。


「なんだ?バンドレ?お前っ……どうした?お前らの餌は、裏口へ回って取りに来る筈だろ?それに……まだ船員らが食い終わってないから、どれだけ余るかわからんぞ……後で出直せ!」


 まさか裏切って敵方についたと知らないコックが、バンドレを認めて更に怒鳴って来た。話し方と語句で、彼らが商社内でどのように扱われていたのか……丸わかりだ……。


「お前っ……何事だ?こいつらは?」

 すぐさま食堂奥に達し、カウンター越しにボウガンを構えて見せると、更に怒鳴り続ける。まあ……食堂内には誰もいないから、いいのだが……。


「おとなしくしてくれ……あなたたちを逮捕する。」

 極力冷静な口調で告げてみた。


「ちいっ……馬鹿野郎っ!寝返りやがったな?」

 しかしボウガンを知らないのか二人とも臆することなく舌打ちすると、すぐさま厨房右奥へと駆けだした。


「ぐわっ!」「ぐっ……」


 仕方なく彼らの背中目がけてボウガンを発射……俺の放った一撃は手前にいた口髭男の右わき腹に当たり、事務長の一撃は奥にいた浅黒い顔の男の背中のど真ん中に命中し、二人ともその場に蹲った。


「おお……一撃で制圧かよ……なかなかやるな。」

 バンドレは満足げに笑みを浮かべ、カウンター越しに彼らの方に向かって両手を高く掲げて、何事か呟いた。


「奥の船室の二人は俺が行って拘束してくるから、ここで待っていろ。」

 バンドレはカウンターの向こう側へと周り込むと、右奥のドアを開けて中に入って行った。



「よし……じゃあ次へ行くか……次は一つ下の……砲室と貨物室だ。」


 戻ってきたバンドレは何事もなかったかのように……息も切れてはいない……まあ……残りのコック二人とも寝入っていたのだろうな……そのまま歩きだして食堂を後にした。



「この先には船員がいるし、貨物室には護衛兵もいるはずだからな……砲室は火薬を扱うから、火気厳禁だ……雷撃も火炎魔法も……水系魔法だって火薬が湿るからご法度だ。使ってはこないはずだから……短筒と長筒を始めとした物理攻撃に気を付けろ。バンドーと仲良しの体術の師範もいるからな……こっちも要注意だ。


 物理結界主体になるから、こちらも矢は撃てないから注意しろよ。矢を充填して撃てるようになったら声を掛けろ。向こうが火縄銃を撃ち終わった時を狙って、1秒だけ結界を解くから、その時に撃て。


 相手は火薬と弾を詰め込み済みの銃を何丁も用意してあって、素早く持ち替えて撃ってくるからな。悠長に狙って撃てる暇なんて、ないと思って頑張れよ。」


 通路を戻って先ほど下りてきた階段を回りこみ、さらに下へと向かう階段をバンドレ先頭に降りていく。

 いよいよ本格的な戦闘だろうな……それだって……俺たちを気遣って楽な方を回してくれているのだろう。主力は上の方だろうな……



「いいか……このドアの向こう側は砲室だ。左右の壁に大砲が備え付けて有り、砲兵が常に控えている。少し奥中央に壁で囲まれた部屋があり、そこが貨物室だ。


 そこには輸出用の宝石などが保管されていて、護衛兵がついている。恐らく金塊はそこにあるはずだ。貨物室は壁も鉄製で、正に金庫のような構造をしているから、上から4人が下りてくるのを待った方がいいが、砲室くらいは制圧しておきたい。やれるな?」


 下りた先は中央の通路もなく船の舳先の内側の反対側は一面壁となっていて、中央にドアが一つついていて、有無を言わせぬかのような口ぶりでバンドレが振り向いた。体もでかいが顔がごついので、結構な迫力がある。なんだよう……自分が一番戦闘向きのような体をしているというのに……


「あっああ……何とかやってみます……。」

 敵が何人いるかも分からないし、余り自信はないが頑張るしかない。


「よしっ……手筈通りにな……矢をつがえたら声をかけるのを忘れるな!」

 バンドレがドアノブに手を伸ばし、ゆっくりと右に回してから静かにドアを開けた……。



「おや?バンドレじゃあないか……お前たちは確か……反逆者たちを仕留めにいったはずだろ?どうしてここにいる?後ろの二人は何者だ?」

 砲室に入った途端……バンドレを認めてやはりここでも声をかけて来た……元仲間だからな……


「反逆者はお前たちの方だろ?お前たちを捕まえに来た……抵抗せずにおとなしく捕まれ。」

 今度はバンドレがおとなしく捕まるよう通告した……


「ちいっ……裏切ったな?おいっ……追手が……」

 男が振り返るのを見てすぐに矢を放ち、男が倒れるのを確認……すぐにボウガンを折り曲げて弦を引き矢をつがえる。


「なんだ?侵入者か?バンドレが?」


 中は……8畳間ほどの広さの部屋のようだった……部屋の奥中央にはまた壁がありドアが……恐らくそこが貨物室。壁は途中で途切れていて、船の壁に沿って左右両側が通路のような構造……この通路に砲門があって左右に攻撃するのだろうな……声を聴き両方の通路から男たちが群がって来た。


 皆手には短筒や長筒……武装している……すかさず俺が右から来た先頭の男を……事務長が左の先頭の男目がけて矢を放った……


「ちいっ……有無を言わせずか……」


 二人を一瞬で倒され襲撃を自覚した男たちはすぐさま手に持つ火縄銃を構えて狙いを定める……だが……瞬時に目の前が黄色の亀甲模様で覆われた……こいつは物理結界だな?


 ドンドンッと言う破裂音とともに銃身から煙が上がるが、こちらには何も飛んでこない……全て結界が弾いているのであろう……完璧防御だ。


「矢をつがえた発射準備完了!」

「あたしもだ……」


 すかさず弦を引き矢をつがえてバンドレに合図を送る……少し間を置いて亀甲模様が消えたので、狙いを定めていた奴目がけて引き金を引く……すぐに亀甲模様が復活したが、今度も二人が蹲るのを確認……。


 それを2回繰り返し、取り敢えず目の前に立っている男たちはいなくなった。


「砲室には指揮者1名と4人ずつ2班が配置されているから、これで全員のはずだ。砲室の制圧は完了だな。」


 バンドレが亀甲模様の結界を消し、数歩歩いては倒れた男たちの上に右手をかざし拘束していく。こっちは不安なので、矢をつがえたままボウガンを構えて、左右の通路を警戒しておいた。


 左右にある通路は幅2mくらいあり、想像通りに3m置き位に船壁に四角い穴が開けてあって、大木の幹ぐらいの太さの大砲がそれぞれ設置されていた。台車は架台に乗せられ、通路には鉄製レールが敷かれていて移動式……恐らく海が荒れた場合は中に波が入ってこないよう、防水壁を閉めるのだろうな。


 大砲を後ろに下げて頭を出して下を見下ろしてみたら、海面までは5,6mくらいはありそうだった。まだこの下には何かありそうだな……。



「残るは貨物室だけだ……まだこの下には穀物倉庫があるが……そこは米や麦……普通なら穀物を積んであるだけだから……生き物がいるとしたらネズミぐらいなものだろうし、今回の出航の目的は金塊輸送だろうから、穀物倉は空かもしれん……そっちは無視してもいいだろう。


 さて……どうしたものかな……正に金庫のように丈夫だし……しかもこの船の大黒柱ともいえる屋台骨に繋げて補強してあるはずだから、下手に破壊攻撃すると船ごと沈んでしまいかねない。


 奴らが死ぬのは俺は構わないのだが……まずいのだろ?この辺りは水深もかなり深いから……後で金塊を回収するというにも無理があるだろうしな……。」

 バンドレがその太い腕を胸元で組んで、じっと目を閉じた。


 目の前のドアには先ほどまでのL字型のドアノブではなく、映画などで見る大金庫のような車のハンドルにも似たステンレス製の大きく丸い金具がついている……。


「ふうむ……ダイヤル錠どころか鍵穴すらついていないから……これは中に人が入って警固するタイプでしょうかね?中から鍵を掛けたら中からしか開けられないような構造……そうなると厄介だなあ。


 先ほどまで砲室で砲撃もあって結構騒がしかったですからね……中の人たちは恐らく襲撃されたことには気づいていますよね?中はどれくらいの広さで、どれくらいの人が警護しているか想定つきますか?」

 取り敢えず情報を引き出せるだけ引き出して……後は事務長任せ……とはいかないかなあ……


「貨物室の中は……幅が5m程で奥行きが10m程はある。結構広いぞ……宝石に金銀や細工物など高価なものを輸送するためのもので、中にはトイレもあって籠城用に携帯食など2週間分は常備されている。


 そういや気密構造とかで……船体が沈んでも重い貨物を放り出せば貨物室だけで浮かんでいられる構造だと聞いた覚えがある……船が沈もうとするときには屋台骨との補強を爆破して、単独で貨物室だけ浮かんで救助を待つ手筈だったな……。


 俺たちが運んだ金塊の量から察すると、恐らく半分は埋まっているだろうから……浮かぶのは無理だろうがね……護衛兵は通常10人だが、金塊輸送ともなるとサーベリアンのことだ……お付きとともに中に一緒にいるかもしれん。


 だから……最大で恐らく13人だな……護衛兵はどれも拳法や剣術に槍術の達人ばかりだし、サーベリアンのお付きは二人とも俺たちの指導教官で特級魔導士に匹敵するはずだ。かなり手ごわいぞ……。」

 ひえーっ……特級魔導士二人に拳法など体術の達人が10人だって?しかも……


「うーん……ぐずぐずしていると、東の大陸からの迎えの船団が合流してしまいますよね?視認できていないにしても木霊魔法で連絡とり合っていれば、大体はどのあたり航行しているか分かりますからね。


 もしかすると襲撃されたことも報告されていて、向こうは全速力でこっちへ向かっているかもしれない……あと数時間もないかもしれませんね……4人が下りてくるのを待っている余裕はないかもしれませんよ。」


「そうだな……東の大陸の船団との交戦は絶対に避けなければならない……合流されたなら、こちらは撤退するしかなくなるだろうな。それまでに何とかせねばならん……。」

 顔をしかめながら事務長も舌打ちをした。



「ああっ……そうだ……気密室って……鉄板で覆われた金庫のような構造をしているのですよね?だったら気密性は確かに高いだろうけど……空気の出入りがなくて13人もの人が中に入っていて、息はどうやってしているのですか?酸欠になりませんか?酸素を作り出す魔法があるのでしょうか?」


 当たり前と言えば当たり前のことに気がついてしまった……だが……そんな魔法だってあっても不思議ではない。


「うーん……分からんな……素潜りするときに顔の周りに空気玉を作る特級魔法はあるが……それだって10分と持たん。それでも潜ってサザエやアワビを取るのに便利だから……夏場など商社の連中に休みの日には駆り出されて港まで行って唱えてやった記憶がある。


 特級術者は商社内でもかなりの偉いさんだからな……気楽に海など誘えないから……俺たちを連れてよく行ったものだ。結構な小遣い稼ぎになるようで……だが……分け前どころか飯さえまともなものは食わせてくれなかったな……外の空気を吸えたのだからありがたく思え……って言われるのが落ちだった。」


 バンドレが顎に手を当て、首をかしげて見せた……。


「何処か部屋の上方か天井に……開閉式の通気口があるのだろうな。弱い風魔法を使って定期的に空気の入れ替えを行っているのであろう……その通気口を見つけ出して……外から塞いでやればいいのだな?


 そうすれば酸欠で苦しくなって……自分から扉を開けて出てくるという寸法だ。」


 事務長がにやりと笑みを浮かべた……よく見ると貨物室の天井は、2mちょっとある砲室の天井とは別で、数センチの隙間がありそうだ。やはりいつでも切り離せるように単独の構造をしているのだ。

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