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20.突入

20.突入


「東の大陸の国の船団ですか……人種どころか国名も何も分からない相手で……我々にとって友好国なのか敵国なのかだって、まだわかりません。だから……絶対に戦いは避けなければなりません。


 どうしましょう……。」

 ううむ……切羽詰まった状況とは……まさにこのこと……


「下の新型船も雲の切れ間から見えるだけなので、下方の船は誰も我々のことは気付いていないでしょう。


 更に数里も離れていれば……見張り台がいくら高くても、バンターレ商会の船は船団からは見つけられていないはずです。飛行船のさらに上に昇ってようやく確認できる距離ですからね……船足から言っても数時間かかるくらいの距離はあります。


 だったら見つけられる前に……速攻で拿捕するのみです。兵士長殿やレルム殿を待ってはいられません……全員で乗り込みましょう。」


 すぐにダッフンバルト2世が突撃を提案する……確かに……船団に見つかると厄介だ。それに……こっちには魔族が5人もいるのだから、どんな重火器で武装していたとしても、負けるはずはない……だけど……


「分かりました……石炭係1名だけ残して、全員でバンターレ商会の船に乗り込みましょう。

 ですが……バンターさん、バンドレさん、バンドーさん……3人にお願いがあります。」


 遥か下方では、とっくに新型船を追い抜いてバンターレ商会の船に追いつかんとしているところで、既にダッフンバルト2世らは舳先の欄干に手をかけて、いざ飛び出さんとしている中で後方の3人を呼び寄せた。


「何かな?大丈夫だよ……船を沈めたりなんて決してしないから……金塊を積んで逃げてるんだものね……僕たちが運ばされたから……理解しているよ。安心してくれ。」

 すぐにバンドーが、笑顔を見せながら反応してくれた。でも……


「いえ……そうではなくて……」


「殺すな……ですよね?奴らに相応の恨みは抱いているだろうけど……殺さないで捕まえてほしい……そう言う事ですよね?」

 そうしてリーダー格のバンターが、補足してくれた……なんと物分かりのいい……


「そっ……そうです……その通りです……彼らは法に則り……さばか……」


「ううむ……先ほどまでの会話から……なんとなくそういった要求してくることは予想できましたけど……商会の人たちは……城であなたたちを躊躇なく暗殺しようとした……言わば理屈の通らない敵ですよ!


 養護施設の前でだって……状況が悪化したらすぐに我々に命が下って……後ろの建物ごと焼き尽くしてしまえと……指示されました。そのような凶悪な奴らの仲間なのですよ!


 我々が乗り込もうとしたなら……間違いなく短筒や長筒の火縄銃……もしかすると大砲迄出して撃ってくるかもしれません……おとなしく捕まろうなんて、微塵も感じさせない相手ですからね。


 そんな……死に物狂いで抵抗してくる相手……強力な物理結界を張れば今度は火炎や雷撃魔法で抵抗してきますよ……こちらだってそれなりに傷ついたりする可能性が高い……。


 だったらそんな難しいことせずに、船が沈まない程度の火力で一気に攻撃してしまえば……奴らは反撃のいとまもなくて全滅ですよ……。


 捕まえたところで……奴隷売買や奴隷を扱っていた関係者は、法律上死刑ですよね?


 タッタルン城地下で保護されていた妖精族や獣人族と違い……我々3人は数百年もの長きにわたって奴隷として扱われ、後半の二百年間は少しはましになったとはいえ、それでも檻に閉じ込められて、外に出る時は絶対服従の呪詛の下で使役されていたのですから……下の船に乗っている人たちは全員死刑確定ですよ。


 ここで躊躇う必要性は、ないのではないですか?」

 なんと……ご理解いただけたと思っていたら……あっさりと反論……俺の主張は覆された……


「でっでも……いくら悪人と言えども……ここで我々が手を下すわけにはいかないのです……法に則って、正式に裁かれなければいけないのです……。特に今は……絶対に守らなければならない子供たちが、この場に居ない今は……なんとしてでも捕らえて……公正な法の下に罰せないと……」


 それでも頑張って……何とか説得しようと試みる。


「ですから……何のためにです?結果は同じ事ですよね?死刑はほぼ確定なんだから……今ここで死んでも……捕まえたあと数日間だけ生きられるでしょうけど……結局裁判で死刑が確定して死んじゃうのですから……同じことではないですか?そもそも……あなたたちも一緒に下りるつもりですよね?」


「そっそれはもう……勿論……ご一緒に……心配ですからね……。」


「心配って……そんなに我々のことが信用できませんか?まあ確かに……我々だけで降りたなら……全員処刑……確定ですけど……でも……あなたたち連れて下りたとしても……結果は同じ事ですよ!


 あなたたちに怪我がないよう守りながら戦うなんて……商社の中にだって特級クラスの魔導士はそこそこいますし……何より強力な物理攻撃をしてきますよ!そんな状況下で手加減して……殺さずに捕らえろだなんて……そんな無理難題……聞かなければなりませんか?」


 物わかりのいいと一瞬思われたバンターだったが、頭がいいからこそ……かなり難物のようだ。3人のリーダー格と言っていたからな……守りに入るのは、仕方がないのだろうか……


「勇者殿と賢者殿は、私とギレージュの二人でお守りするから……3人はフリーで……何とか殺さずに捕まえるという方向にならないだろうか?」


 するとここで、ダッフンバルト2世が間に入ってくれた。なんと有り難い……


「我々は法律家ではありません……検事ではないので、彼らの犯した罪を羅列して法規に照らし合わせ、彼らの罪を見積もることはできませんし、弁護士ではないので、彼らに寄り添い言い分を聞いたうえで、見積もられた罪が彼らの状況に見合っているかを天秤にかけることも出来ません。


 更に裁判官ではないので、見積もられた罪を弁護士の弁明を聞いたうえで公正に判断し、罪を確定させることも出来ません……法的な手続きを踏まえずに勝手に判断して行うことは、私刑でしかないのです。


 いくら法を犯したとはいえ、彼らは人間であり法に守られているのです。どうか……出来る限り捕らえる方向で……行動してください。先ほどの養護院でのことのように、本当にやむを得ない場合以外は、捕らえる努力をお願いいたします。」


 更に事務長が出てきて、深く頭を下げた……これでもダメなら……


「はぁぁ……人間ってのは、本当に面倒くさい人種ですね……あくまでも捕らえてください……ですか……厳しい要求ですね……バンドレ……如何ですか?守り切れますか?」


「ああ……船上だし、奴らだって強力な爆薬なんて使えないはずだ……だったら右手に魔法結界で左手に物理結界……って感じで……彼ら二人位なら、完璧に守ってあげられるはずだ。


 なんだったら物理結界で圧迫して……身動きできないようにしてやってもいいかもしれんな……だが……やり過ぎると圧死か船を破壊して沈没してしまうがな……。」


「バンドレは結界に専念して、王子様たち含めて人間を守ってやってくれればいいよ。僕とバンターの二人で、全員倒すさ……バンター……そう難しく考えるなって……全方位雷撃の威力を極力絞れば、気絶するだけで済ませられるはずだろ?何時も一瞬でその場を制することが出来るって、自慢しているじゃあないか……。


 甲板に出ている連中は一撃で倒せるとして……後は下りて行った先の船室や操舵室とかの連中だけど……僕が先鋒で出て数人程度だったら打撃で倒せるさ。残った分を王子様やギレージュ殿と一緒に、極力加減しながら、雷撃とかで気絶させていけばいいはず。火炎は絶対に禁止だよ。


 あくまでも出来るだけ……捕まえる!だよね?困難だったら少しは本気出しても構わないよね?身の危険を顧みず……なんて要求はしていないよね?」


 バンドレが少し折れかかって来てくれて、バンドーも渋々と言った感じだ。


「はい……あくまでもご自身の安全を優先した上で……出来る範囲という事で……その上で極力ご協力ください。」

 そうして事務長がまたもや頭を下げる。


「だってさ……だったらやれそうだから……いいんじゃない?


 それに……衆人環視の場で死刑宣告されたときのサーベリアンの顔も……見てみたいと思わないか?あと……いっつも事務所の奥の方の席でふんぞり返っていた次長の顔とかね……あっさり殺しちゃったら、そう言った楽しみも出来ないんだから……頑張ってみてもいいと僕は思い始めているよ。」


「成程……ものは考えようというわけですね……バンドレもよろしいでしょうか?」


「ああ……俺はどっちでも構わないのさ……もともと人間たちへの恨みだって……さほど深いわけじゃあない……お前たちほど俺の飼い主は、異常じゃあなかったからな……。だから……生かしたまま捕まえろと命じられれば、そのように動くだけだ……。」


「ありがとうございます。」

 やった……取り敢えず何とか殺さずに捕まえられそうだ。


「礼はいいですよ……まだ捕まえられたわけじゃあない。思いもよらぬ反撃を受けてやむを得ず……と言ったことだって想定できない訳じゃあありませんからね。じゃあまあ……ご期待に沿えるよう頑張ってやってみましょう。


 丁度真下迄追い付けたようですからね……王子様とギレージュ殿と私とバンドー4人でまずは下りて行きますから……皆様方は、バンドレと一緒に後から続いて下りてきてください。なあに……我々は、あの船の中は最下層の穀物蔵迄熟知しておりますから、ご安心ください。まずは操舵室を押さえたうえで、船を停めます。」


 ダッフンバルト2世らと軽く目配せした後バンターは作戦の概略を説明し、彼を先頭に4人は次々と舳先から飛び降りて行った。


「じゃあ……我々も行くとしようか……飛行術の経験はあるのか?」

 4人が下りて行ったすぐ後……多分1分も経ってはいないタイミングでバンドレが口を開いた。


「おっ俺も事務長さんも……過去に一度だけだけど、断崖の上まで連れて行ってもらった経験があります。慌てないでじっとしていればいいんですよね?」


「ああ……結構詠唱も長いし、一旦バランスを崩すと調整が難しい魔法なのだ。魔導船のような箱を操る場合は不安はないのだが、単独で飛行する場合は足の下に何もないからな……大抵の奴は慌ててじたばたし始めてバランスを崩し、浮力を失って墜落だ……飛行術での移動速度よりも自然落下の方がはるかに速いからな。


 普通は数m程度の高さでの飛行訓練を積んでから運んでやるのだが……高いところまでの経験が一度でもあれば大丈夫だろう。落ち始めたら助けにはいけないという事を十分認識して、俺にしがみついて動かずにじっとしていてくれ。


 魔導船は魔道船で……低空を軽く走る程度の速さでしか進めないし……その不便さを考えると……魔導船よりもはるかに高空を高速で移動できる、この飛行船とやらは大した発明だぞ……。


 大型船だったら直接着船だって可能だろうが……まあ今は敵方の船に降りるわけだからな……船で直接下りようものなら……大砲の一撃で粉みじん……だわな……いくら物理結界を張っていたとしても、宙に浮いているのだからな……砲弾衝突の衝撃で大きく吹き飛ばされてしまうわな。


 じゃあ降りるぞ……二人とも俺の後ろに回って、ズボンのベルトをしっかりとつかんでいてくれ。」


 バンドレに促され、奴のズボンのベルトにしがみつく……先ほどまでは、何か尋ねられなければ会話に入ってこなかったので、口数の少ない寡黙な性格なのかな?と感じていたのだが……案外こまごまと、分かりやすく説明してくれるんだな……もしかして気遣ってくれているのかな?


 ふわりと体が無重力となった様な感覚がして、自然と舳先の欄干を飛び越えてから降下に入った。ビルのエレベーターの上下動の時のような、上昇時には重力を感じ、下降時は体が浮くような感覚……ではなく、飛行術の最中は、体がふわふわと無重力になった感覚が続き、何の抵抗もなく上下前後左右に勝手に動いていく。


 まあ……勝手に……と言うのは俺の意思ではなく……という意味であり、バンドレが操作して下方の船に乗船しようとしているのだが……。


 高いところは苦手で目が回りかねないので、なるべく正面よりも上……つまり空を見上げながら降下していく……俺の意思で動くわけではないので目をつぶっていてもいいのだが、真っ暗で体がふわふわ浮いた感覚と言うのもちょっと怖いので、目だけは見開いている。



 何分経過したであろうか……さほど永い時間ではないのだが、視界に建物のような窓付き箱型が入ったかと思ったら、足裏に感覚が……正に地に足がついた瞬間だ……甲板ではあるのだがな……


「あ……ありがとうございました……。」

 怖がりなので、無意識下で思い切り力を込めて掴んでいたのであろう……両手ともにがちがちで、バンドレのベルトからほどくのにちょっと時間がかかった。


「あれは……死んでいるのか?」


 事務長はと言うと……足がつくかつかないかのタイミングですぐに動き出し……甲板で倒れていた人の元へと駆け寄って行った。まあなあ……事務長だったら恐らくレルムに頼んで何度か飛行術経験しているのかもしれないな……いや……そう言うことにしておこう。


「息はあるし……ハルシューさんに教わったやり方で脈も確認できた。生きているようだが……体が硬直しているように見えるのだが……これは、拘束魔法か何かなのか?」


「ああ……恐らく全方位雷撃で甲板の連中は一撃で気絶させ、それから拘束魔法をかけて行ったのだろう。


 バンターもバンドーも術者以外は解けない強力な拘束魔法が使えるからな……そのまま置いておけばいい。

 約束を守っているようだが……甲板のように上方から位置捕捉が出来れば……バンターなら楽々仕留められるさ。だが……狭くて細々と装置がある船室ではどうだろうかな……あまり期待はしないほうがいい。


 俺たちも続くぞ……。」


 バンドレに促され、甲板中央にある艦橋入り口の扉を開けて入って行く……外から見た感じでは、入り口のすぐ上2階部分が操舵室のようだ……前方に大きなガラス窓が見えるので、間違いないだろう。


「まずは下を確認するか……2階には操舵室があって、船長他の乗務員が数名いるはずだから、恐らくバンターたちは、そっちへ向かっているだろう。


 1階の奥は船長室や客室に会議室などがあるが……上へ向かったやつらが次に向かうだろうから、効率よく攻めるために俺たちは下だ。下には船員たちの寝室や食堂、武器庫に穀物庫等があるからな……昼間の人数は少ないはずだが、制圧しておいた方がいい……何か武器は持ってきたのか?」


 扉を開けて入ったところは無機質な、補強用のパイプなどがむき出しになった、通路のような場所だった。2階へ向かうクリーム色のパイプ手すりの、グレーチングステップの階段が横向きですぐ目の前にあり、そのすぐ奥には下方階へ向かう階段の下り口が見える。


 上り階段右側壁にはドアがあり、左右には通路が伸びていて、10mほど先で奥へと曲がっているようだ。

 先鋒の4人とは反対の地下……いや……甲板下……かな?へ向かうという……なぜ?どうして? 


「ああ……あたしらはボウガン……弓矢のように、装着した矢を勢いよく飛ばす装置……を装備している。十分に殺傷能力はあるはずだが殺さず捕らえるだけなので、矢先は鋭角ではなくただの木の棒を使用する。」


 答えに詰まっていたら事務長が代わりに答えた……ボウガンも改良され少々小型化……以前のように弓先に付けた鐙につま先を挟み、腰のフックで弦を引く……と言った仕様ではなく、架台の中央部分が半分に折れるようになっていて、てこの原理で射出バーを弦ごと引いて、戻せばセットされる仕様と改善された。


 威力と飛距離は半減したが、このほうが手持ちのまま再セットでき連射が利くし、屋内戦なら十分だ。


 更に弓の射出口部分はスライドの扉を設け、いわゆる安全装置で、ここをスライドさせなければ発射できない仕組みとした。おかげで矢をセットしたままで先を下に向けても矢は落ちないし、スライドさせて発射口を開くと自動的に照準器が中央にくる仕組みで、命中精度も格段に向上した。


 勿論これも……そういやこんなふうに弦を引くタイプのボウガンも映画だったかアニメだったかで見た覚えがあると……結構最近になって思い出したのを、事務長に話して作ってもらったものだ。


 だがこれは……そこそこ複雑な構造らしく、実現化に相当手間取った……アニメだと実現不可能な構造でも書けてしまうし、流行りの3Dプリンターでしか作りえない構造だったら、ほぼ不可能であきらめかけていた。


 なんと……事務長がかかりきりで2週間掛かってようやく試し打ちが出来る試作品が出来たので、最初にこっちを思い出さなくてよかったと、昔の俺を誉めた記憶がある。


 現在の軍の標準装備は、新卒兵には旧式ボウガンと新式ボウガンの半々……選択可能となっている。(ちなみに俺も事務長も両方所有していて、用途に応じて使い分けることにしている。)


 軽いし小さめなので、鎖帷子と道着の時はリュック代わりに背中にしょっていれば両手も自由なので便利だ。安全とは言い切れないタッタルン赴任に際し、ステンレスの重い甲冑の場合は刃のない剣を帯刀し、接近戦はやりたくない道着の時はボウガンと決めた。勿論矢先は尖らせず、ただの棒……を射かけることにしている。


 事務長も簡易装備は剣道の防具……胴は薄いステンレス製で、面も布部分には薄いステンレス板を入れている……を使用することにしたのだが、バンドレの結界があるので面はつけない様だ。


「そうか……だったら俺は防御を担当するから、二人で攻撃して制圧してくれ。特級までなら俺も攻撃魔法を使えるが、防御と攻撃両方……特に人を守りながらの戦法は、あまり得意ではない。


 どうしても攻撃に注意が行くので、二人の防御がおろそかになってしまうと、王子様に恨まれるからな。


 俺は防御に徹する。いいか……前方が一様に緑色に見える場合は魔法結界だ。物理攻撃はそのまま通るから攻撃してもいいが、前方が白色若しくは黄色の亀甲模様の場合は物理結界だから、攻撃は通らないからな。


 かといって結界は前面に張るだけだが、結界を避けて俺から離れるのはやめてくれ……何度も言うが、王子様に叱られたくはないので、怪我のないよう十分注意してくれよ!」


 そう言いながらバンドレは俺たちの前を歩き始めた。なんだか……真面目と言うか……作戦行動に徹底しているというか……見かけはごついのだが繊細な心を持っているのかな?


 バンドレに続いて2階へ上る階段を回り込み、船倉へと続く階段をゆっくりと下りていく……

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