46. 大切なもの
俺達は再び城の上部にある部屋の大きな二枚扉の前にいた。
「同じことを繰り返す気ですか?」
「いいや。見てろよ」
扉に手を掛けた。
「あ、一つ確認な。お前はこの高さから飛び降りても問題ないよな?」
「はい。それが何か?」
「お前、俺の側から離れるなよ」
「?……はい」
俺は勢いよく扉を蹴破って中に入った。やはり、ムスリクは虚な目の男、この国の王を食い殺そうとしている。
「ムスリクーーー!!!」
作戦は単純。やられる前にやれ。
「コーイチ!」
「ジンノ!」
シカバとエペの驚嘆の声を後ろに俺はムスリクの体に体当たりをした。急な攻撃に対する力の制御は出来なくてもこっちから攻撃する分には加減が出来る。俺はムスリクと一緒に窓から中庭へと落ちた。
ここまでは計画通りだ。
窓から飛び出した俺達に向かって影が襲い掛かってくるが、俺の力ですぐさま消える。
「出ろ出ろ出ろ!」
俺は女神だ。女神は羽を持っていた。俺の前前前世のモークシャは羽をもがれてしまったが、俺はもがれてない。俺にも羽はあるはずだ!
「頼むーーー!!」
ムスリクの体を決して離さないようにぎゅっと抱き締めた。
地面に叩きつけられる直前、体が空に浮きあがった。
「や、やった! 俺はやったぞ!」
巨大な狼の体を持って宙に浮いている。背中から白い翼が生えているのが見える。ふわりと地面に着地した。その瞬間羽は光の粒になって消えた。
ムスリクは唸り声をあげて俺を見ているが、攻撃して来る様子はない。
「ムスリク」
ゆっくりと彼の顔に手を伸ばし、その頬に触れた。
「怖がらせてごめんな」
彼は俺の目をじっと見つめ、唸るのを止めた。
「俺は、お前が大切だよ」
狼になってしまった彼の頭を抱き締めた。淡い光が俺達を包み込む。
そうしていると俺達がいた上層階の窓からメモリーが落ちて来た。窓から顔を出したシカバとエペに手を振ってから俺はメモリーに向き合う。
「ムスリクを頼む」
「貴女は何処へ?」
「美世子のところに行く」
「居場所がわかるのですか?」
「うっ……」
そうだ。俺、美世子達がいる場所知らなかった……。
「え、えへっ。め、メモリーさん……教えてちょーだい?」
こ首を傾げて彼女に懇願してみた。
「はあ……地下です」
呆れた様子でメモリーは呟いた。
「おっけー! 地下だな! 行くぜ!」
『ジ、ジ……ジンノ……ノレ』
「え?」
言葉を発したのは、ムスリクだった。魔獣の姿の彼の口から唸る様で聞き取り辛いが確かに彼の声が聞こえる。
「ムスリク!」
『イ……ソゲ』
ムスリクが鼻先で俺を背中に持ち上げ、走り出した。
「え、ムスリク! お前はメモリーと!」
叫ぶが彼の耳には届いていない様だ。スピードを落とすことなく城の扉をぶち破る。俺は背中に必死に背中に掴まった。
彼が走るのは見覚えのある廊下、そして、図書室に走り込む。地下とは、ブラン婆さんの部屋のことだとわかった。
図書室には悪霊が何体も浮かんでいる。彼らが一斉にムスリクに入り込む。
『グ、ガガガ……』
ムスリクの体に赤黒い紋様が浮かぶ。
「ムスリク! てめえら! ムスリクから出て行け!」
俺はムスリクの体を抱き締める。光が彼の体を覆い、悪霊が体の外へと飛び出した。
「よっしゃあ! やったぜ!」
『ジン、ジン……ガガ』
「よしよし、ムスリク。大丈夫だ。お前は俺が守る」
『ア、ガ』
再びムスリクが走り出す。地下へと続く小さな扉を周りの壁ごと破壊して階段などものともせずに一息に降りて行く。
そしてブラン婆さんの部屋の扉も壁ごと破壊した。
「これ、婆さんに怒られるやつだ」
ようやく動きを止めたムスリクの背から降りてあたりを見回す。ブラン婆さんの姿が見えない。しかも、扉と壁を破壊してしまったことを差し引いても、部屋が荒らされている。メモリーが城の住人は地下に集められていると言っていた。彼女もこことは別の城の地下に集められているのだろうか。
『ジン、ノ……』
ムスリクは破壊してしまった瓦礫を掻き分けていた。そこには、さらに地下へと続く扉があった。
「この先か?」
ムスリクが唸り声をあげた。肯定しているようだ。
「この先は狭い、お前はここで待っていてくれ」
『ジ、ジン……ジン』
「大丈夫だよ。お前が来たら地下が崩れちまう」
唸る彼の頭を撫でて落ち着かせてから俺は更に地下へと続く梯子を降りて行った。
降りた先には洞窟が続いている。幸いにも洞窟内は松明には照らされているが足元は悪い。この先にトライバルと闇の王がいるのか。もしかしたらブラン婆さんもいるのかもしれない。
何回もブラン婆さんの部屋には通っていたが、こんな洞窟があるなんて知らなかった。この先には何があるっていうんだ。
その先には小さな扉があった。一瞬の躊躇の後、思い切って扉を開けた。中にトライバルと闇の王がいた。
「何故……」
闇の王は俺の登場が予想外だったらしい。驚愕に目を見開いた。
「やあ、これで役者は揃った様だ」




