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第3話:10万年の引きこもりと、究極のシャットダウン

天才女児アサガオが青銅の量産ラインを完成させ、ユーラシア大陸を完全防衛してから、気がつけば数万年というバグレベルの歳月が流れていた。無理な海の遠征(アメリカ大陸への侵略)をアサガオが「非効率だし、めんどくさい」と一秒で却下し続けたおかげで、帝国は無駄な戦争で滅びることなく、一大陸の中で完璧な内政(引きこもり)を維持していた。安全と美味い飯が100%保障され、働く必要すらなくなった帝国の天才たちは、ひたすら科学の仕込みに脳の20Wを浪費し続けた。その結果、歴史上どこよりも早く「核融合発電」が完成。エネルギー問題が完全に解決したため、世界中のすべての「量子コンピューター」を、電気代を1ミリも気にせず24時間フル稼働させられる、究極のフリーインフラ社会が爆誕した。だというのに、数万年経っても、帝国を裏から支配するアサガオ(見た目は美少女のまま脳みそが量子サーバーと同期している)のスタンスは、最初のあの日から1ミリも変わっていなかった。彼女は、100%の最適温度に管理された超巨大空中宮殿のソファーで水平に寝転び、最高級の強炭酸レモン果実酒をグビグビ飲みながら、ため息をついていた。「はぁ……。それにしてもさぁ、この『生身の肉体』って、本気でめんどくさくね?」「アサガオ皇帝、どうされました?」すっかりサイボーグ化し、チタン製のハンマーを背負った子孫のムロフシが覗き込んでくる。「だってさ個体としてさすがに飽きたわけ。どれだけ科学が進化しても、お腹が空いたら食べないといけないし、病気になれば辛いし、明日のことを考えると『やだ笑』って拒否反応が出る。この肉体というシステム自体が、ただの遺伝子(DNA)の利己的なブラック企業じゃん」

「な、なるほど……?では、どうするのですか?」アサガオはグラスの氷をカランと鳴らし、ニヤリと笑った。「簡単だよ。肉体を全部捨てて、脳だけを栄養液に浮かせて、量子コンピューターに電極で直結しな。意識クオリアを全部デジタルデータにしてサーバーにアップロードするの」そう、究極の「脳のデジタル引きこもり」である。アサガオの命令により、ユーラシア帝国の全サピエンスは、その最強の室伏フィジカルをあっさりと脱ぎ捨てた。彼らの意識は、超巨大な量子サーバーの中に構築された「永遠に自分の好きな最高のソファーに寝転がってダラダラできるバーチャルユートピア」へと一斉に移行した。そこは、他人に興味を持ちすぎなSNSもなければ、ルッキズムで喧嘩を売ってくる者もいない。ただただ、自分が一番「具合よく」100%の無駄を謳歌できる、完璧なシャットダウン空間だった。「よし、これで完璧。じゃあ、この抜け殻になった地球環境は、もうどうなろうが知ったこっちゃないから、サーバーごと宇宙コロニーに乗せて、はるか遠くの銀河系へ旅立つよ。人間は地球専用の生き物だけど、データになっちゃえば関係ないしね」アサガオ率いるユーラシア帝国は、地球の地層にプラスチックのゴミ一つ残さない「完全な証拠隠滅」を行い、静かに、誰にも気づかれずに宇宙の彼方へと飛び去っていった。――それから数万年後。第二ユーラシア帝国が去り、完全にガラ空きになった静かな地球。地続きではないアフリカの奥地で、ずーーーっと何万年間も、ただただマンモスを素手でシバき、毛皮の上で「明日の狩り行きたくねぇ(やだ笑)」とのんびりゴロゴロしていた、ガチ野生の室伏広治の部族(ミトコンドリア・イブの末裔)が、のっそりと移動を始めた。彼らはユーラシア大陸に渡り、「あれ?なんか誰もいなくね?」と首をかしげながら、再び落ちた木の実の種を見て気づくのだ。「あれ?これ、地面に植えたら食い放題じゃね……?」彼らの脳スペックは、宇宙へ行ったアサガオたちと同じサピエンス(第2世代)である。こうして人類の歴史はまたゼロからループし、農耕を始めてからわずか2000年で、今の私たちが生きる現代社会(スマホやバーガーキングがある世界)を作り上げることになる。私たちがどれだけパソコンを進化させても中身が何も変わらないのも、明日からの仕事(休日出勤)に遺伝子レベルで「嫌だ嫌だ」と拒否反応を起こすのも、すべてはあの時、アフリカに取り残されてのんびり生きていた「本物の野生児たち」の直系の子孫だからなのだ。宇宙の彼方、数百万光年先を飛ぶ宇宙船のソファーの上で。初代皇帝アサガオは、強炭酸レモンをパチパチ言わせながら、遠い故郷の地球を量子モニターで眺めて、ふっと笑う。「どうせ最後はみんな死ぬんだからさ。せめて死ぬまでは、自分が一番具合よく生きたほうが健康的じゃん?」究極の「具合の良さ」を極めた天才女児アサガオの逆侵攻は、こうして永遠の平穏ゴロゴロの中で、美しくシャットダウンされるのだった。(── 完 ──)

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― 新着の感想 ―
これほど極上のシニカルなSFは存在しない
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