第33話 選択の重さ
夜は、静かだった。
昼間の混乱が嘘のように。
だが。
それは、落ち着いた静けさではない。
――沈んだ静けさだった。
「……」
私は、外に出ていた。
火の灯りから、少し離れた場所。
誰もいない。
それが、今はいい。
「……」
目を閉じる。
思い出す。
あの瞬間。
指を指した時。
選んだ時。
そして。
――選ばなかった方。
「……」
胸の奥が、重い。
息が、少し浅くなる。
「……」
私は、ゆっくりと息を吐く。
整える。
崩れないように。
――逃げないために。
「……ここにいたんだ」
声。
アメリアだった。
静かに、近づいてくる。
「……ええ」
私は答える。
振り返らずに。
「……」
彼女は、隣に座る。
何も言わない。
ただ。
同じ方向を見る。
それだけ。
「……」
沈黙が続く。
だが。
不快ではない。
「……ねえ」
アメリアが、ぽつりと言う。
「何?」
「……後悔してる?」
――。
その問いに。
私は、すぐには答えなかった。
考える。
正確に。
「……しているわ」
やがて、そう答えた。
はっきりと。
「……そっか」
アメリアは、短く頷く。
それ以上は何も言わない。
「……」
私は、続ける。
「でも」
一拍。
「後悔しているからといって」
言葉を選ぶ。
ゆっくりと。
「間違いだったとは、言えない」
――。
その言葉は。
自分に向けたものでもあった。
「……」
アメリアが、少しだけこちらを見る。
「変なの」
いつもの言葉。
だが。
今は少し違う。
柔らかい。
「そうね」
私は、少しだけ笑った。
自分でも分かる。
これは。
これまでの自分ではない。
「……」
私は、空を見る。
何もない。
ただの暗闇。
それでも。
「……分かったの」
小さく呟く。
「何が?」
「選ぶっていうのは」
私は言う。
「“正しい方を取ること”じゃない」
ゆっくりと。
一つずつ。
「……うん」
アメリアが、静かに頷く。
「……どっちも正しくない」
私は続ける。
「どっちも間違っているかもしれない」
それでも。
「……選ぶしかない」
――。
沈黙。
だが。
その言葉は、重く残る。
「……それでもやるの?」
アメリアが聞く。
試すように。
だが。
優しく。
「……ええ」
私は頷く。
迷いなく。
「やるわ」
それは。
もう決まっている。
「……なんで?」
彼女が、さらに聞く。
私は、少しだけ考える。
そして。
「……選ばないと」
静かに言う。
「何も変わらないから」
――。
その言葉は。
あまりにも単純で。
だが。
あまりにも本質だった。
「……」
アメリアは、何も言わなかった。
ただ。
少しだけ笑った。
「……そっか」
それだけ。
それでいい。
「……」
私は、ゆっくりと立ち上がる。
もう。
迷いはない。
完全ではない。
だが。
十分だ。
「……行くの?」
「ええ」
頷く。
「明日もあるから」
――。
その言葉は。
自然に出た。
特別な意味はない。
だが。
それがすべてだった。
明日も。
また。
選ぶ。
同じように。
苦しみながら。
それでも。
「……」
私は、歩き出す。
戻る場所へ。
もう一度。
あの場所へ。
――選び続けるために。
それが。
今の私にできる。
唯一のことだった。
第33話まで読んでいただきありがとうございます。
ここで主人公は「選択の本質」に辿り着きました。
正しいから選ぶのではなく、
選ぶことでしか前に進めない。
この気づきが、最終話へ繋がります。
次話は、エリゼとの最終的な対話です。
価値観の決着がつきます。
そして最終話へ。
ここまで読んでくださって本当にありがとうございます。
ぜひ最後までお付き合いください。




