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完璧すぎて断罪された悪役令嬢、間違えることにしたら人が助かりました 〜完璧だった私が、間違いを選んだ理由〜  作者: はねださら


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第30話 揺らぐ正しさ

 誰も、すぐには動かなかった。


 ルカの小さな反応。


 それは。


 あまりにも小さくて。


 だが。


 あまりにも、はっきりしていた。


「……」


 空気が、変わっている。


 さきほどまでの“均された静けさ”とは違う。


 ざわめきでもない。


 混乱でもない。


 ――揺らぎ。


「……今の」


 誰かが、呟く。


「見たか?」


「……動いた」


 小さな声が、広がる。


 抑えられた興奮。


 確信しきれない希望。


 それが。


 静かに、広がっていく。


「……」


 私は、何も言わなかった。


 言う必要がない。


 今、起きたことは。


 誰の目にも明らかだから。


「……」


 エリゼは、動かない。


 ただ。


 ルカを見ている。


 その視線は、先ほどとは違う。


 観察ではない。


 確認でもない。


 ――疑問。


「……なぜ」


 小さく、呟いた。


 自分に向けるように。


「……」


 私は、その声を聞いていた。


 だが、答えない。


 答えられない。


 これは。


 説明できるものではない。


「……再現性がない」


 エリゼが、続ける。


 まるで、自分を保つように。


「条件が不明確。手順も曖昧」


 理屈を、並べる。


 これまで通りに。


「……」


 だが。


 その声は。


 ほんのわずかに。


 揺れていた。


「……それでも」


 私は、静かに言う。


 邪魔をするように。


「起きたわ」


 事実を。


 そのまま。


 エリゼは、何も言わない。


 言えない。


 それが。


 すべてだった。


「……」


 沈黙。


 だが。


 それは、終わりではない。


 むしろ。


 始まりだった。


 ――その時。


「……もう一度」


 エリゼが言った。


 ゆっくりと。


「同じことを、やってみなさい」


 ――。


 私は、少しだけ目を細めた。


 その言葉の意味。


 その意図。


 すぐに理解できる。


「……確認したいの?」


「ええ」


 即答。


「偶然かどうか」


 それは。


 彼女らしい判断だった。


 否定ではない。


 排除でもない。


 ――検証。


「……」


 私は、少しだけ考える。


 そして。


「……いいわ」


 頷く。


 拒否する理由はない。


 むしろ。


 必要だ。


 私にとっても。


「アメリア」


「うん」


 すぐに動く。


 もう、迷いはない。


 ――同じことを繰り返す。


 だが。


 “同じではない”。


 昨日とも。


 さっきとも。


 違う。


 反応を見て。


 調整する。


 少しずつ。


 慎重に。


「……」


 ルカの呼吸が、揺れる。


 ほんのわずかに。


 だが。


 確かに。


「……」


 指が動く。


 さっきよりも、はっきりと。


「……」


 目が。


 わずかに、強く動く。


「……」


 沈黙。


 そして。


「……再現された」


 エリゼが、低く言う。


 その声には。


 初めて。


 明確な変化があった。


「……」


 私は、何も言わない。


 ただ。


 ルカを見る。


 それで十分だ。


「……」


 エリゼは、ゆっくりと目を閉じた。


 ほんの一瞬。


 そして。


 開く。


「……訂正する」


 静かに言った。


 その一言に。


 周囲が、わずかにざわめく。


「完全に無効とは言えない」


 ――。


 それは。


 彼女なりの。


 “譲歩”だった。


 だが。


「……」


 私は、それを受け取らない。


 必要がないから。


 これは。


 勝ちでも負けでもない。


「……でも」


 エリゼは続ける。


「全体に適用するにはリスクが高すぎる」


 ――戻る。


 理屈に。


 構造に。


「……ええ」


 私は頷く。


「その通りね」


 否定しない。


 できない。


「なら」


 エリゼは言う。


「この方法は、例外として扱うべき」


 ――。


 私は、少しだけ目を細めた。


 その言葉の意味。


 それは。


 ――隔離。


 認めるが、広げない。


 構造の中に閉じ込める。


「……」


 私は、ゆっくりと息を吐く。


 そして。


「……それでもいいわ」


 静かに言った。


 エリゼが、わずかに目を動かす。


「……何?」


「一つでいい」


 私は答える。


「全部じゃなくていい」


 ルカを見る。


 その、小さな変化。


「……ここにあるなら」


 それでいい。


 ――。


 沈黙。


 エリゼは、何も言わなかった。


 ただ。


 私を見ている。


 その目に。


 先ほどまでとは違うものがある。


 完全な否定ではない。


 完全な理解でもない。


 ――揺らぎ。


「……」


 私は、その視線を受け止める。


 逸らさない。


 もう。


 逃げる必要はない。


「……」


 そして。


 静かに思う。


 正しさは。


 一つではない。


 構造も。


 固定ではない。


 壊れる。


 そして。


 ――変わる。


「……」


 火は、まだ小さい。


 だが。


 確実に。


 燃え始めている。


 ――その中心に。


 二人は立っていた。


 異なる正しさを持ったまま。

第30話まで読んでいただきありがとうございます。


ここでついにエリゼの「正しさ」が揺らぎ始めました。


ただし完全に崩れたわけではなく、

あくまで“例外として認める”という段階です。


この「認めるが広げない」という判断が、次の対立を生みます。


次話では、この“例外”が周囲にどう波及するかが描かれます。

そして主人公の立場がさらに変化していきます。


ここから物語はもう一段階深くなります。

ぜひブックマークして追ってください。

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