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完璧すぎて断罪された悪役令嬢、間違えることにしたら人が助かりました 〜完璧だった私が、間違いを選んだ理由〜  作者: はねださら


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第29話 壊すという行為

「……何をする気?」


 エリゼの声が、背後から飛ぶ。


 低く。


 抑えられているが、明確な警戒がある。


「……」


 私は答えない。


 必要がないから。


 もう。


 言葉の段階は終わっている。


 ――行動の段階だ。


「アメリア」


「……うん」


 短い返事。


 迷いはない。


「水を」


「分かった」


 それだけで伝わる。


 説明はいらない。


 理由もいらない。


 ――昨日までの積み重ねがある。


「……勝手なことは許さない」


 エリゼの声。


 一歩、近づく気配。


「管理下にある以上、個別判断は――」


「……そうね」


 私は、遮った。


 静かに。


 だが、はっきりと。


「“管理下”なら」


 ゆっくりと振り返る。


 エリゼを見る。


「でも、ここは違うわ」


 その一言で。


 空気が、止まる。


「……何?」


「ここは」


 私は言う。


「“生きている場所”よ」


 ――。


 沈黙。


 一瞬。


 だが。


 確実に。


 何かが、揺れる。


「……言葉遊びね」


 エリゼは、冷静に返す。


「意味は変わらない」


「ええ」


 私は頷く。


「あなたにとっては」


 そして。


 前を向く。


 ルカの方へ。


「……」


 呼吸は安定している。


 だが。


 目は、昨日と同じ。


 ――止まっている。


「……」


 私は、ゆっくりと手を動かす。


 布を外す。


 配置を変える。


 風の流れを変える。


 そして。


「……水」


 アメリアが戻る。


 私はそれを受け取る。


 ほんの少し。


 慎重に。


「……」


 口元へ運ぶ。


 昨日と同じではない。


 量も。


 速度も。


 反応を見ながら。


 調整する。


「……」


 ルカの喉が、わずかに動く。


 ほんの少しだけ。


 だが。


 確かに。


「……」


 私は、その変化を逃さない。


 続ける。


 少しずつ。


 確実に。


「……非効率ね」


 エリゼが、冷たく言う。


 後ろから。


「時間がかかりすぎる。再現性もない」


「ええ」


 私は答える。


 振り返らずに。


「その通りね」


 否定はしない。


 する必要もない。


「なら――」


「でも」


 私は続ける。


「動いている」


 ――。


 その一言で。


 空気が、止まる。


「……」


 ルカの指が、わずかに動く。


 昨日よりも。


 確実に。


「……」


 呼吸が、変わる。


 ほんの少しだけ。


 だが。


 リズムが変わる。


「……」


 目が。


 わずかに、動く。


「……リ……」


 かすれた声。


 だが。


 確かに。


 音になっている。


「……ルカ」


 私は、その名を呼ぶ。


 静かに。


 まっすぐに。


「……」


 ルカの目が、こちらを捉える。


 今度は。


 はっきりと。


 焦点が合う。


「……」


 沈黙。


 だが。


 それは重くない。


 ――動いている。


 確かに。


 前に。


「……」


 私は、ゆっくりと息を吐く。


 そして。


 振り返る。


 エリゼを見る。


「……これが」


 小さく言う。


「何?」


「“壊す”ってこと」


 はっきりと。


 迷いなく。


「……」


 エリゼは、何も言わない。


 ただ。


 こちらを見ている。


 その目に。


 初めて。


 明確な揺れがある。


「……あなたのやり方は」


 私は続ける。


「正しいわ」


 それは、事実だ。


「でも」


 ルカを見る。


 もう一度。


「それじゃ、ここまで来ない」


 ――。


 沈黙。


 完全な。


 誰も、何も言えない。


「……」


 エリゼの手が、わずかに動く。


 何かを言おうとして。


 止まる。


「……」


 その様子を見て。


 私は、静かに思う。


 これは。


 勝ち負けではない。


 正しさの証明でもない。


 ただ。


 ――一つ、壊しただけだ。


 決まっていた流れを。


 均された構造を。


 “例外”を。


 受け入れない形を。


「……」


 そして。


 その隙間から。


 ほんの少しだけ。


 “変化”が戻ってきた。


「……」


 私は、もう一度ルカの手を握る。


 今度は。


 少しだけ、力を込めて。


「……大丈夫よ」


 自然に、そう言う。


 根拠はない。


 保証もない。


 それでも。


「……」


 ルカの指が、わずかに応える。


 ほんの少しだけ。


 それでも。


 確かに。


 ――そこに、“意思”があった。


「……」


 私は、ゆっくりと目を閉じる。


 そして。


 思う。


 これでいい。


 完璧じゃなくていい。


 正しくなくてもいい。


 ただ。


 ――選んだ結果が、ここにある。


 それで。


 十分だと。


「……」


 目を開ける。


 エリゼを見る。


 彼女は、まだそこに立っている。


 動かずに。


 何も言わずに。


 ただ。


 見ている。


 ――壊れたものと。


 そこから生まれたものを。


「……」


 その沈黙が。


 すべてを、物語っていた。

第29話まで読んでいただきありがとうございます。


ここでついに主人公が「壊す」という行為を実行しました。


それは敵を倒すことでも、論破することでもなく、

“構造の外に一歩踏み出す”という選択です。


そして初めて、「意思のある変化」が明確に描かれました。


次話では、この行動が周囲にどう影響するのか、

そしてエリゼがどう動くのかが描かれます。


ここから一段階、物語のレベルが上がります。

ぜひブックマークして追ってください。

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