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完璧すぎて断罪された悪役令嬢、間違えることにしたら人が助かりました 〜完璧だった私が、間違いを選んだ理由〜  作者: はねださら


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第25話 再び、盤の上へ

 それは、静かな違和感から始まった。


 朝の空気。


 人の動き。


 視線の流れ。


 すべてが、いつもと同じ――のはずなのに。


「……」


 私は、薪を運びながら周囲を見る。


 変化はない。


 少なくとも、表面上は。


 それでも。


 何かが、引っかかる。


「……どうしたの?」


 アメリアの声。


 隣を歩きながら、こちらを覗き込む。


「……少し」


 私は答える。


「気になることがある」


「何?」


「……分からない」


 正直に言う。


 その言葉は、もう自然に出るようになっていた。


「ふーん」


 アメリアは軽く頷く。


「じゃあ、そのうち分かるでしょ」


「……ええ」


 私は小さく笑った。


 以前なら、その答えは受け入れなかった。


 だが。


 今は違う。


 ――その時。


「おい!」


 声が上がる。


 入口の方から。


 いつもとは違う、強い声。


「誰か来たぞ!」


 ――。


 空気が、一瞬で変わる。


 人の流れが止まり、視線が一方向に集まる。


「……外」


 アメリアが呟く。


 私は、無言で頷いた。


 そして。


 ゆっくりと、そちらへ向かう。


 ――集落の入口。


 そこに、数人の人影があった。


 明らかに、異質。


 整った装い。


 無駄のない立ち姿。


 そして。


 ――視線。


 周囲を観察するそれは。


 あまりにも。


 “慣れている”。


「……」


 私は、少しだけ目を細める。


 あの目。


 知っている。


 よく。


 知っている。


「……」


 その中心に立つ人物が、一歩前に出た。


 黒に近い濃紺の外套。


 無駄のない動き。


 そして。


 冷静な表情。


「……」


 その視線が、周囲を一巡する。


 人。


 建物。


 配置。


 すべてを、一瞬で把握するように。


 そして。


 ――止まる。


 私の上で。


「……」


 数秒。


 視線が、交差する。


 何も言わない。


 だが。


 それだけで、分かる。


 ――同じ種類だ。


 かつての、私と。


「……」


 その人物が、ゆっくりと口を開く。


「……なるほど」


 低く。


 静かな声。


「ここが、対象地域か」


 対象。


 その言葉に、周囲がざわつく。


「……誰だ」


 誰かが問う。


 警戒を隠さずに。


 その人物は、わずかに視線を動かす。


 そして。


「帝国監察官、エリゼ・ノクス」


 名乗った。


 簡潔に。


 無駄なく。


 その響きは。


 明らかに、この場所には合わない。


「……監察官?」


 ざわめきが広がる。


 当然だ。


 この場所に来るような存在ではない。


「本日付で、この地域の状況調査と是正を命じられている」


 淡々と続ける。


 感情はない。


 ただの事実の羅列。


「……是正?」


 アメリアが、小さく呟く。


 その言葉の意味を、完全には理解していない。


 だが。


 私は違う。


「……」


 その言葉が意味するもの。


 それは。


 ――介入。


 そして。


 ――再構築。


「……」


 エリゼの視線が、再び私に向く。


 今度は、はっきりと。


「……あなた」


 名指しではない。


 だが。


 明確に、私に向けられている。


「……リリアーナ・フォン・クラウゼン」


 その名が、静かに告げられる。


 ――。


 空気が、止まる。


 周囲の視線が、一斉に私へ向く。


「……」


 私は、何も言わない。


 否定もしない。


 驚きも見せない。


 ただ。


 受け止める。


「……やはり、ここにいたのね」


 エリゼが言う。


 その声には、わずかに。


 ――興味が混じっていた。


「……何の用かしら」


 私は、静かに問う。


 距離を保ったまま。


 だが。


 逃げずに。


「簡単なことよ」


 彼女は答える。


 まっすぐに。


「あなたの行動が、どれだけ非効率で、非再現的か」


 一拍置く。


 そして。


「確認しに来たの」


 ――。


 その言葉は。


 あまりにも。


 明確な“否定”だった。


 周囲がざわつく。


 理解できない。


 だが。


 私は。


「……そう」


 小さく頷く。


 驚きはない。


 むしろ。


 予想通りだ。


「……で?」


 私は続ける。


「確認して、どうするの?」


「是正する」


 即答。


 迷いなく。


「正しい形に」


 その言葉。


 その響き。


 その構造。


 ――すべてが。


 懐かしい。


「……」


 私は、ほんの少しだけ笑った。


 無意識に。


「……何がおかしいの?」


 エリゼの目が、わずかに細くなる。


「いいえ」


 私は首を振る。


「ただ」


 一歩。


 前に出る。


「久しぶりに見たと思って」


 彼女を見つめる。


 まっすぐに。


「“正しい側”の人間を」


 ――沈黙。


 空気が、張り詰める。


 誰も、動かない。


「……」


 エリゼは、何も言わなかった。


 ただ。


 こちらを見ている。


 測るように。


 そして。


「……そう」


 小さく呟いた。


「なら、ちょうどいい」


 一歩、距離を詰める。


「証明してみせるわ」


 低く。


 確実に。


「あなたのやり方が、間違っていることを」


 ――。


 その言葉は。


 宣戦布告だった。


 静かで。


 冷たくて。


 逃げ場のない。


「……」


 私は、ゆっくりと息を吐く。


 そして。


 思う。


 ――来た。


 これが。


 次の段階。


 そして。


「……いいわ」


 私は、静かに言った。


「受けて立つ」


 それは。


 衝動ではない。


 怒りでもない。


 ただ。


 自然な選択だった。


「……」


 火種は、再び灯った。


 今度は。


 小さな村ではなく。


 もっと大きな。


 ――“構造そのもの”を巻き込んで。

第25話まで読んでいただきありがとうございます。


ここから第3章に突入です。


新キャラ「監察官エリゼ」が登場し、主人公と真逆の価値観がぶつかります。

第2章で積み上げたものが、ここから試されていきます。


ここからは「正しさ vs 現実」の本格対立です。


少しでも続きが気になると思っていただけたら、ぜひブックマークをお願いします。

ここから一気に面白くなります。

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