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完璧すぎて断罪された悪役令嬢、間違えることにしたら人が助かりました 〜完璧だった私が、間違いを選んだ理由〜  作者: はねださら


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第26話 正しさの証明

 エリゼ・ノクスは、迷わなかった。


 到着してから、わずか数分。


 すでに、集落の中心に立っている。


「まず、現状を整理する」


 その声は、静かで、よく通る。


 誰もが無意識に耳を傾ける種類の声だった。


「水の供給は不安定。医療資源は不足。作業効率は個々に依存し、体系化されていない」


 淡々と述べられる言葉。


 だが。


 それは正確だった。


 誰も、否定できない。


「……」


 私は、少し離れた位置からそれを見ていた。


 止めない。


 否定しない。


 ただ、観察する。


 ――かつての自分を。


「したがって」


 エリゼは続ける。


「即時に管理体制を再構築する」


 その言葉に、ざわめきが広がる。


「……管理?」


 誰かが呟く。


「ええ」


 エリゼは頷く。


「役割を明確に分け、無駄を排除する」


 そして。


 周囲を見渡す。


「全員、聞きなさい」


 その一言で。


 空気が変わる。


 強制ではない。


 だが。


 逆らいにくい。


 そんな“圧”があった。


「作業を三つに分ける。水、薪、医療」


 指を三つ立てる。


「それぞれに責任者を置く。判断は責任者が行う」


 合理的。


 明確。


 そして。


 ――分かりやすい。


「……」


 人々が、顔を見合わせる。


 戸惑い。


 だが。


 同時に。


 納得もある。


「……従った方が、いい気がする」


 誰かが、ぼそっと言う。


 その声が、広がる。


「……」


 私は、何も言わなかった。


 言う必要がない。


 これは。


 “正しい”。


 少なくとも。


 構造としては。


「……あなた」


 エリゼの視線が、こちらに向く。


「異論は?」


 問われる。


 まっすぐに。


「……いいえ」


 私は答える。


「理屈としては正しいわ」


 はっきりと。


 それは否定しない。


「なら問題ないわね」


 エリゼは、淡々と頷く。


 そして。


「あなたも参加しなさい」


 そう言った。


「……どこに?」


「医療」


 即答。


「あなたはそこに関わっている」


 ――。


 私は、少しだけ目を細めた。


 見ている。


 すでに。


 私の動きを。


「……分かったわ」


 私は頷く。


 拒否はしない。


 その必要もない。


 ――配置が始まる。


 人が動く。


 指示に従って。


 迷いなく。


 昨日までとは違う流れ。


 統制された動き。


「……すごいね」


 アメリアが、ぽつりと呟く。


 少し驚いたように。


「ええ」


 私は頷く。


「効率は上がるわ」


 間違いなく。


「……でも」


 彼女は続ける。


「なんか、変」


 その言葉に。


 私は、わずかに視線を動かした。


「……ええ」


 小さく同意する。


 何が変なのか。


 まだ、言語化できない。


 だが。


 違和感はある。


「……」


 医療の場に戻る。


 ルカ。


 そして、昨日の少女。


 状態は安定している。


 だが。


 油断はできない。


「状況は?」


 エリゼが入ってくる。


 迷いなく。


 躊躇なく。


「安定しているわ」


 私は答える。


「ただし、原因は不明」


「……」


 彼女は、わずかに眉を動かす。


「不明?」


「ええ」


「それでは管理できない」


 即座に、否定。


 迷いなく。


「仮説は?」


「複数ある」


 私は答える。


「だが、確定できない」


「なら」


 エリゼは言う。


「最も再現性のある方法を取るべき」


 その言葉に。


 私は、わずかに目を細めた。


「……具体的には?」


「水分管理と体温調整」


 即答。


「基準を設ける。全員同じ処置を行う」


 ――。


 私は、ルカを見る。


 そして、少女を見る。


 状態は違う。


 反応も違う。


 必要な対応も。


「……それでは」


 私は、静かに言う。


「対応しきれない可能性がある」


「例外を考慮すると、全体効率が落ちる」


 エリゼは、即座に返す。


「優先すべきは、最大多数の安定」


 ――。


 その言葉。


 その論理。


 完全に理解できる。


 かつての自分と同じ。


「……」


 私は、少しだけ沈黙した。


 そして。


「……一人は?」


 静かに問う。


「何?」


「その“例外”は」


 ルカを見る。


「切り捨てるの?」


 沈黙。


 ほんの一瞬。


 だが。


 確かに。


「……必要なら」


 エリゼは答える。


 迷いなく。


「それが全体のためになるなら」


 ――。


 その言葉は。


 正しい。


 論理としては。


 完全に。


 だが。


「……そう」


 私は、小さく頷いた。


 否定はしない。


 できない。


 ――ただ。


「……それで」


 ゆっくりと、顔を上げる。


「救えるの?」


 まっすぐに問う。


 感情は乗せない。


 ただ。


 事実として。


「……」


 エリゼは、少しだけ沈黙した。


 そして。


「安定はする」


 そう答えた。


「……」


 私は、何も言わなかった。


 その答えは。


 十分だった。


 ――救う、ではない。


 安定。


 維持。


 管理。


 それが。


 彼女の“正しさ”。


「……」


 私は、ゆっくりと息を吐く。


 そして。


 理解する。


 この対立は。


 単純ではない。


 どちらが正しいかではない。


 ――何を選ぶか。


 それだけだ。


「……いいわ」


 私は、静かに言った。


「やってみましょう」


 エリゼの方法を。


 そのまま。


 否定はしない。


 止めもしない。


「……判断は結果で行う」


 エリゼが言う。


 冷静に。


 合理的に。


「ええ」


 私は頷く。


 同じように。


「結果でいいわ」


 ――だが。


 心の奥で。


 静かに思う。


 これは。


 証明ではない。


 対立でもない。


 もっと。


 深いところの。


 ――“選択”だと。

第26話まで読んでいただきありがとうございます。


ここで「正しさの象徴」であるエリゼが本格的に動き始めました。

そして主人公と真逆の思想が明確にぶつかり始めています。


ここからは単純な勝ち負けではなく、「何を選ぶか」の物語になります。


次話では、この“正しい管理”が実際にどう機能するのかが描かれます。

そして違和感が少しずつ形になります。


ここから一気に面白くなるゾーンです。

ブックマークして追っていただけると嬉しいです。

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