ドールという同僚
「やあ、太郎さん。今日も良い天気だねえ。なんとも生きてるって感じだねえ」
会社の同僚であるドールはカンカン照りの海水浴場をバックにして大きく伸びをする。
「ええ。ハハ・・・・・・。でもこれは、ちと暑すぎやしないか?」
そう言って、太郎さんは紫外線を大いに浴びながら額の汗をぬぐうのだった。
遠くの方で波際に走って行く水着の少女達が見え、キャッキャと楽しげにはしゃいでいる。砂浜にはパラソルのシャドーに貴婦人が涼しげで、向こうのパレオの靡きが目を引く乙女は手庇なんかが妙に色っぽく見えて・・・・・・
・・・・・・けれども二人の男はスーツに身を包んでいた。仕事なのだ。
「いいじゃないか。なあ、この雲一つ無い青空! オフィスじゃあこんな青は見えないよ」
ドールは無欲主義者であるから相変わらず幸せそうだ。全く羨ましい限りだと太郎さんは思った。
ドールとは太郎さんの同僚で、体格が良く口周りいっぱいに生えた髭が特徴的な、一見すると熊のような男である。
いや、太郎さんに言わせれば「熊」であった。
というのも、彼はかねてから山奥で自給自足の生活がしたいと言っていたのだが、ついにこの前ログハウスの建設が終わったそうなのだ。話を聞いていると、いずれ、オフィスに土産とか言ってサケでも持ってきそうな感じで太郎さんは同期として頭を抱えている。
とはいえ、良い奴には違いない。そんな彼とビーチ沿いをしばらく行くと、いつの間にか人気の無い海岸に出ていて、本来の目的地である物寂しい空き家街へ辿り着く。
そうだった、仕事、仕事。
今日の依頼は、この空き家街のとある一軒家に「ホビー」という青年が居るから会ってきて欲しいというもの。
―――なかなかアバウトな内容だが、太郎さんの会社ではよくあることである。
しばらくしてドールが、
「太郎さん、ここじゃあないか? 例の家」
言うのでハッとして太郎さんは立ち止まった。見上げると、レンガ造りの家が静かに立っていて、
「ああ、ここだと思うよ」
太郎さんは答えた。
「ハハハ! 緊張するね、最初のノックをする時というのは。いつも俺は深呼吸してしまうよ」
全く、入社初日のくせに私の手を引いて3軒も酒屋に連れ回したのはどこのどいつだったか、と太郎さんは心の中で思った。
太郎さんはノックをした―――。
太郎さんは世界で初めてゾンビになった。次回に続く。




