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リアリー・ジューンという女

 Bar U22は女が一人グラスを磨いているだけのバーだった。

 女は一人、ガラスのワイングラスをもう何度目かのことのように(意味は無いが)洗練だけはされてしまった手つきでそれを磨いていて、そのバーの一種の背景とか化してそこに居た。

 派手だが胸の大きな女である。


 太郎さんがU22に入ると、戸に掛かった鈴が小さく鳴った。女はそれに気付いて、


「あ。お客だ」


 無愛想というよりも、空を眺めてふと飛行機でも見つけたかのようなそんな口調で、言う。

 それに対し太郎さんは明らかに自分より歳の若いこの女を、そうと気付きながらわざわざ無礼なその口調を咎めることはせず、ただそれだけの小さな小さな砂粒ほどの威厳を持ってして、


「まだやっているか?」


 と尋ねたのであった。


  

 店内にはそんな二人を余所にして、どこぞの名前も知らないポップロックが流れるのである。



 それが最初だった。

 後に、U22は「ユー・ツー・ツー」って呼ぶのだと知ったが、じゃあ、その「U」は何の略かと聞けば、


「・・・・・・ええっと、特に意味はないよ。ある外国語から音だけ拝借したけれど、もうどういう言葉だったかも忘れちゃったわ」


 と彼女は言った。彼女というのは、リアリー・ジューン。女の名前だ。


「嫌な名前よ“リアリー”なんて。男の名前なんだもん。親がね、アタシがお腹の中でいつも暴れるもんだから間違えたんだって」


「ハハハ、それはジョークだよ。きっといい意味をつけたのさ」


 ・・・・・・いつだったかそんな話もした。

 どういう経緯でそうなったかは、もう忘れてしまった。

 けれど、それは最初の最初だって同じで、初めてバーに入ったあの日に何を話したか、太郎さんはもうはっきり覚えていない。


 ただ、そんなことも今思えば懐かしい記憶だったのだ。



 今、太郎さんは薄れゆく記憶の一つ一つを思い出そうとしている。

 はじめてゾンビになってから幾らか経って、太郎さんは窓辺に頬杖をついて独りその作業に耽るのであった。


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