地下の解剖室 2
地下の解剖部屋。
二人の男と手術台の上の太郎さんだけがそこに居た。
チャキチャキ・・・・・・カチャ・・・・・・・・・チ・・・・・・・・・・・・ブチ・・・・・・・・・・・・・
解剖をする独特な音。
あと聞こえるのは・・・・・・・年配の執刀医による愚痴の声。
「・・・・・・まったく。こう適当に捌いてそれっぽくしろというのは、なあ、簡単そうで難しいわけだよ。ホント。あっちは別に棺桶の外身だけ見てそれでオーケイなんだろうけど。なあ」
助手の若い男は黙って居る。年配の執刀医はそれを気にしていないようだった。
「・・・・・・うん。俺だってこんな仕事したかないんだ。こんな、やばい仕事だけ請け負って。あ、メス。そうそう、もっとね、こう、ヒトを治すとか、不治の病の解明!!みたいな仕事を夢見ていたのさ、子供の頃は。あい、ハサミ。なあ、お前もそうだろう?」
執刀医が何か大きな内蔵をブチッと引き抜く。
「・・・・・・ああ、でも、お前は別の仕事とかやってるもんな。 ・・・俺とは違うか」
おい、汗。と執刀医は言った。
それを聞いて、助手の男はぼんやりと執刀医の汗を拭きながら、何か考え事でもしているような表情で居る。
しかし、やはり執刀医の男は彼に興味は無く、ただ、ああ、モラトリアム故の茫然自失か、わっかいなあ、などと思っただけであった。だから・・・・・・
「・・・・・・ああ。いっそ真面目に解剖してみるか? 久々に」
関係の無い愚痴話は続く。
「大学の講義みたく、こう一つ一つ解説をつけてさあ、ちゃんとしてみるってのは。なあ。別にこの仏さんを細切れにしてもそれくらいのこと許してくれるだろう。俺だって頑張ってるんだから・・・・・・ああ、すまん汗をもう一度・・・・・・で、そうだ。うん。以外にいいかもしれないな。なあ? どうせもう俺はこの地下から出られそうに無いみたいだ。ヒューストンのジョンは随分前に消されてしまったし、俺だって時間の問題だろう? ・・・・・・ん? ああ。お前は大丈夫さ、まだやらかしてねえだろ? なあ。俺は、もう、ほら、“あの下”でやらかしちまってっから・・・・・・」
・・・・・・地下室では今の時間が分からない。ただ、愚痴話は長く続いたことは確かである。そして、少し疲れた彼がふうっと大きく一息つく頃に、
「・・・・・・うん。と言ってももう開けられる内臓は全部開けて、盲腸も親知らずも、取るべきものは全て取ってしまったわけだが・・・・・・・・・・・・・・・ん? おい」
ふと、彼は何かに気付いたようだった。
「俺は、確かにさっき盲腸をとったよなぁ?」
ああ。確かに側の机の上のトレーには切り取られた盲腸が親知らずの横に置いてある。
しかし、
「・・・・・・・・・・・・治ってやがる」
その数日後、地下解剖室の近くのとある墓地にて深夜、雷雨の中の光をうけて一つの十字架の下から、バッサァ!! っと泥まみれの腕が飛び出した。
腕が出て、肩が出て、頭が出ると、泥が雨に流されてその正体が稲光に照らされる。
太郎さんだ。
この時の太郎さんはさながらスリラー映画に登場するゾンビそのものであった・・・・・・




