マナの秘策2
暗闇の中から何が飛び出してくるかわからない、と、言うような。未知のものに対する恐怖と言うのはタネを明かしてしまえばどうと言う事はない。
どんな恐ろしい幽霊の姿でも。静止させて明るい場所で友達と一緒にまじまじと見つめれば、いずれ慣れてしまうだろう。
その恐怖していたものが実害のないものだと、やがて理解するようになるからだ。
では、今度は未来の実害に対する恐怖はどうか。例えば高速で地面に激突すれば死ぬ、と言う事を頭が理解していたとして。崖から飛び降りてから死ぬまでの間、恐怖を感じずにいる事は出来るだろうか。
やった事はないが、人によっては可能な者もいるのだろう。それは元々の性格の故であったり、今までの経歴によるだろう。
でもそれは無知ゆえに、と言う側面が多分に含まれると思う。なぜなら落下の最中、特に痛みは感じないからだ。
……20m弱の高さから落下して、全身の骨が粉々になる重傷を負ったとしよう。その男を治療後に落下地点まで無理矢理連れていき、今からもう一度落とすと言った場合。その男は平常心でいられるだろうか。
これは非常に難しい。この恐怖を克服すると言う事は痛みを克服すると言う事と同じ意味になってしまう。
もし、あらゆる生命の光を反射しない特異点があるとして。日常を彩るはずの生命の気配がそこだけ真っ黒に抜けてしまうとして。誰もがその存在を、死そのものだと強制的に認識してしまうのなら。
一体だれがその恐怖を克服できるだろう。
我々は死について考えないようにする事は出来る。死んだ事がないからだ。
だが、死、そのものを理解してしまった時。一体誰が正気を保っていられるだろう。
◆◇◆
「わ、わかってはいましたがこれほどとは……」
アレン達は三角座りになってガタガタと震えだしてしまった。
マナに状態異常の回復魔法を使ってもらいながら小休憩となる。
「恐怖魔法や混乱魔法の直撃には耐えられなくても。煙幕の中ででも平常心で動けるくらいには鍛えたいところだなぁ。じゃないとヘルメスが不慮の事態で激怒した時に即死しかねない」
まぁ俺はマナの力でインチキしているので、本来ならアレン達にあまり偉そうな事は言えないんだが……
「ど、どうすればいいんでしょうか……?」
コニーが捨てられる子犬のような目で見上げてくる。美少年だからなんか罪悪感が半端ない。年上のお姉さんとかやばいんじゃないだろうかこれ。
「やっぱ慣れるしかないと思ってたんだが……別に火傷をしたからと言って火耐性が上がる訳じゃないしなぁ」
恐怖の耐性ってなんなんだろう。と、思っていたらマナがなんか服の裾を引っ張ってくる。
「ねぇねぇ。やっぱり相手の事を恐がらないようになるためには。相手の事をもっとよく知るべきだと思うの。みんなもっとお姉ちゃんと交流を持ったらいいんだよ」
なるほど。「これは味方の煙幕だ」とハッキリ理解すれば恐怖心は和らぐと言う事か。
「で、具体的には?」
「ちょっと耳貸して?」
片膝をついて耳を傾ける。
「っふーー」
「あひゃん!」
耳に息を吹きかけられ、変な声が出てしまう。
「…………」
「…………」
横に振り向くとマナが猫みたいな顔をしていた。
こめかみグリグリの刑に処したあと、気を取り直してテイク2
「あうぅ。ちょ、ちょっと緊張を紛らわそうとしただけだったのに……」
「子供かお前は! ……で? なんなんだ?」
「あのね、ごにょごにょごにょ…………」




