表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

36/41

円陣

 訓練場……と呼ぶには少々粗末な広場。

 草も生えているし、地面に埋まって掘り出せない石が顔を覗かせてもいるが。まぁ、贅沢は言えない。


 小隊のみんなに集まってもらって話をはじめる。


「訓練を始める前に少し話を聞いてくれ。俺達はいずれ南下してくる脅威に対して備えなければならない。だが、備えると言ってもいつどこで誰と戦うのか。それはまだわからない」


 地面に木の枝でざっと地図を描く。


「まず、トレイランの議員たちの政争でタカ派が抑え込まれた場合。この場合はトレイランの本隊は南下してこない。

 その場合は恐らくニューゲートは落ちないだろう。知っていると思うがトレイラン側の城門と城壁は非常に強固だ。

 銀狼団がどれほどのものか俺も実際に見た訳ではない。だが、いくらなんでもあそこの守りを傭兵達が正面から突破出来るとは思えん。地理的に包囲出来る場所でもないしな」


「そう……ですね。はい」



「これはあくまで予想だが。その場合マクラーレン閣下は俺達を城壁の防衛には配置しないと思う。恐らく一般兵でも事足りるはずだし、敵も命がけで攻城戦などやろうとは思わないはずだ」


 ニューゲートの領主は信用ならない男らしいが、おやっさんの方から兵士が派遣されるだろう。流石に中央からも援軍がくるはずだ。


「さて、ここで閣下が最も危惧しているシナリオ。付近に大きな船が接岸できる港はないが、小舟ならニューゲートを迂回する事が出来る。そして散発的に上陸してきた傭兵どもがこちらの領土を荒らし、いずれ治安維持の名目でトレイランの軍事介入の口実を作ってしまう流れだ」


 帝国生まれ帝国育ちのならず者たち。それの征伐を名目に軍事介入してくるなど、どんなマッチポンプだと思わないでもない。だがやつらはやる。そうやって西海岸の国がいくつも消えていったのだ。


「が、しかし」


 俺はダインとベインにチラリと視線を向ける。


「その場合、国内に侵入した傭兵達は思いっきり叩いていい。むしろ連中を完璧に叩き、自力で治安を維持することでトレイランの世論に対して訴える事が出来る。その際俺達は遊撃隊として動く事を期待されるだろう」


「はい……」


「やってやりましょう!」


 ダインとベインが力強く頷いて拳を打ち付ける。うむ、やる気は十分だ。



「しかし村を留守にして防衛は大丈夫でしょうか?」


 アレンが尋ねてくる。


「正直万全……とは言えない。一応村を焼き払ってシグリスに疎開させる手も考えておかないといけないが、それをやると閣下との約束を破ってしまうしな。だが、一応その点に関しては俺とケイルさんに任せて欲しい」


 じきにこの村に関する黒い噂が流れるはずだ……絶対とは言えないが、無理に近づいてくる者は少なくなる、はず。遊撃隊として俺達がどれだけ活躍出来るか、にもかかっているな。



「問題はトレイランの全軍が有無を言わさず進軍してきた場合だ。話を聞く限り、現状では可能性は相当薄い。だがもしそうなった場合は、もうどこからどこまでが戦場になるかわからない。中央の会った事もない連中から訳のわからん指令がくだされる可能性もあるし、お前らも配属先を転換させられるだろう」


 ニューゲートが破られた場合、近隣の村々はトレイランに従属するだろう。それでも軍の規律次第では略奪、蹂躙されてしまうのだが。

 最悪、俺達も王国側の騎士や兵士と戦って敵前逃亡したり、反旗を翻す事も考えないといけない。まぁ流石に兵士であるアレン達の前で口には出さないが。


「それは……最悪ですね」


「だが。先ほども言ったが、トレイランの政情的にいきなりこうなる可能性は低い。それにそんな大軍が迫ってきたら流石に事前に察知できるはずだ。なので当面は遊撃隊として動く事を念頭に入れて訓練をしようと思う」


 さて、ちょっと意地悪な演出になってしまうかもしれない。だがもう一度身をもって確認しておいた方がいいだろう。


「言うまでもないが。少数対少数の戦いでは、先に相手を見つけて先手をうった方が圧倒的に有利だ。そして俺達の場合それは更に重要になる」


 パチン、と指を鳴らして合図を送る。すると今まで気配を消して立っていたヘルメスが「わっ!」と少し大きな声を出した。



「うおおぉぉぉぉぉ!!?」


「ああああああああ!?」


 途端、大の男達が転げまわり、腰を抜かしてジタバタともがいている。

 「驚かせてすまなかった」と一言断って話を続けようとしたが、再開するのに5分以上かかってしまった。





「も、もう大丈夫か?」


「な、なんとか……」


 みんなまだ顔色が悪いが、なんとか話が出来る状態までに回復したようだ。

 待ってる間、ずっといたたまれない様子で顔を赤くしていたヘルメスにも悪い事をした。


「っと、驚かせ過ぎてすまなかったが。ヘルメスはご覧の通り気配を消すのが得意だ。それに相手に恐怖を感じさせたり、混乱させる事については右に出る者がいない。つまり先手をとれるならこっそり近づいて恐慌状態にしてしまえば勝ったも同然だ」


 みんな「わかるよ。わかり過ぎるよ」と言わんばかりに首を凄い勢いで振る。身をもって体験するとはこういう事だろう。



「だが、無敵と言う訳じゃない。敵に魔法使いがいれば察知されてしまうし、レベルの高い剣豪などがいても察知されてしまう。あくまで気配を消すだけで完全に見えなくなる訳じゃない。

 それともう一つ問題がある、敵に先手をうたれた場合だ。その場合も恐怖の力を使えばヘルメスに近接で斬りかかれる者は限られるだろう。だが厄介なのが飛び道具だ。そこで……」


 


「こうでしょうか?」


「うむ、悪くないぞ!」


 俺とヘルメスを中心にして円陣を組み、360度方向に盾を構えてもらう。


「ヘルメス、もうちょっと姿勢を低く出来るか? ピエール、もうちょっと内に寄るんだ。コニー、他のみんなみたいに盾を斜めにしろ。矢ってのは上からもくるからな」


「ま、マスター? なんか凄い狭いし恐いんですけど!」


「大丈夫。狭ければ狭いほど安全なんだ」


 なぜ俺もいるのかと言うと、誰かが怪我をした時にマナに代わってもらって中心から回復魔法を使うためだ。



「ま、マスター! 近いです! 近いですよ!」


「近いとなんだ? どうかしたのか?」


 この状態でヘルメスの魔法を使い。それに俺達が耐える事さえ出来れば、近接ではほぼ無敵になる。そのはずだったのだが……


「むぅ………………っもう!」


 急に少しだけ機嫌を損ねる。と、なると当然



「うおおぉぉぉぉぉ!!?」


「ああああああああ!?」


 円陣は見事にガラガラガッシャンと崩れ。俺達は頭を抱える事になった…… 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ