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たかが一般人。されど兵士。

 シザーフライの襲撃があった日の翌日



「村長! 昨日はみっともないところを見せちまって、すいませんでした!」


「申し訳ない……」


 ベインとダインが謝ってきた。


 昨日。ヘルメスの煙幕に巻き込まれた彼らは、恐怖耐性のレジストに失敗して魔物ともども気絶していた。

 魔物を仕留めてすぐに介抱にあたったのだが。気が付いた直後の彼らは

 「恐ろしい。恐ろしい夢を見たんだ。それがなんだったのかは思い出せないが……」と、うわ言のように繰り返しガタガタと震えていた。


 一日中そんな様子だったので心配していたのだが、一晩たったらかなり回復したようで少し安心する。



「謝らないでくれ。こっちの方こそ悪かった」


「すいませんでした。ダインさん、ベインさん」


 ヘルメスもしゅんとなって項垂れるが、今回の件は完全に状況を見誤った俺のせいだ。

 ヘルメスは決して機嫌が悪かった訳じゃない。ただ。焦り、緊張、そして恐怖と言った負の感情が。彼女の力の制御を荒ぶらせた。


 状況を冷静に見れば十分に考えられた事態だ。そして、彼女と一緒に共闘するための訓練をきちんと行ってこなかった事も悪かった。

 あのままダインとベインを殺してしまっていたら、本当に申し訳がたたないところだった。改めて無事で良かったと思う。



「今回の件で俺も反省した。今後はヘルメスの能力に巻き込んでしまわないように、なるべく俺達で頑張るから……」


 俺の中にいる間はマナは魔法を使えないが。少しだけ俺自身の、闇属性と恐怖、即死などに対する抵抗が上がる。

 だから、ヘルメスと共闘するなら本来俺がもっとも相性がいいはず。なのにロクに剣が使えない俺はついついアレン達に頼ってしまった。

 このままではいけない。アレン達に稽古をつけてもらってはいるが、もっと俺自身の剣の腕を磨かなければ。


 だが、そんな俺の言葉にダインとベインは頭を振った。



「足手まといなのはわかってます! でも、どうか! 俺達も一緒に戦わせてください!」


「……お願いします……」


「いや、足手まといなんて全く思ってないよ。ただ、やっぱり普通の兵士がヘルメスと一緒に戦うのは危険だと思ってな……」


 もし俺が流れ弾に当たって急に怪我などしたら、ヘルメスが激怒するかもしれない。その際、魔法の効果範囲がどの程度に及ぶかわからない。

 下手すると即死する恐れがあるし。そうでなくとも悪夢に飲み込まれ、味方に襲いかかる危険がある。

 ヘルメスと一緒に戦うなら、ある程度闇と恐怖に対して耐性のあるものでないとダメなのだ。


 彼らに非がある訳でなく、こちら側の問題だと思っての提案。

 だが、ダインはゆっくりと首を振って、真っ直ぐに俺を見て言った。



「危険は……承知しています。それでも……あなた達と一緒に戦いたい」


 魔力もなにももたず、身体能力だって普通の一般兵に過ぎないダイン。そんな彼が、歴戦の剣豪をもたじろがせるような有無を言わさぬ迫力をまとっている。


「………………」


 両親を傭兵達に殺され、若くして娼婦となり、病気になって死んだと言うダイン達のお姉さんの話を思い出す。

 彼らが纏っているのは一年やそこらで身に着く空気じゃない。きっとずっと後悔して生きてきたんだろう。


 何の才能もないと言っていた彼らだが、それでも戦う事を諦めきれず兵士となった。

 だが、軍をひきいて盗賊団の討伐など滅多にあるものではない。それでも黙々と雑用のような任務をこなし続けてきたに違いない。


「俺達はバカでした。自分の力で冒険者になる事を諦めたのに。たまたま凄い人達と一緒になったからって、それで英雄みたいに悪いやつらと戦えるようになるんだって。

 でもそんなのただの勘違い。やっぱり俺達はただの一般人だ。でも、だからってここで引っ込んでたら。俺達なんのために生きてきたんでしょう!

 村長はいずれニューゲートの防衛戦に駆り出されるんですよね? お願いします! 俺達もそれまでに少しでも戦力になれるようになりたいんです!」


 チラリと横を見ると、ヘルメスが気の毒そうな目で見返してくる。


 彼らのお姉さんの末期の様子を直接みた訳じゃないので、想像で察する事しかできない。彼らの苦悩と後悔だって本当に分かち合える訳じゃない。

 だが、それでも今目の前にある熱意は確かに伝わってくる。彼らは真剣だ。なら、俺もそれに応えないといけないだろう。



「……ヘルメスと共闘するつもりなら、特殊な訓練を受けてもらう事になる。きっと……過酷なものになるぞ」


 ベインとダインが力強く頷く。


「もちろんです! なんだってやりますよ!」


「……感謝します……」



 俺も彼らの目を見て頷き返す。と、そこでドアの向こうで様子を伺っていたピエール達が入ってきた。


「ま、そういう事ならこいつらだけに良いカッコさせてらんないっすよね~」


「当然、我々も参加させてもらいますよ!」


「自分もであります!」


「僕もです!」


 まったく、こいつらときたら。若い連中の気にあてられて、なんだかこっちまで熱くなってきてしまう。



「よーし、お前らわかってんだろうな!? やるからには途中で小便もらすんじゃないぞっ!!」


『サー! イエッサー!!』


 こうして、アレン小隊の特訓が始まった。

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