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会議は踊る。されど進まず

舞台は再び会議室へ。26話の続きです。

「トレイランに侵入して傭兵達を襲撃するですって!?」


 会議室に動揺が走った。みんな驚いている。


「正気ですか!? ただでさえ戦争をふっかけられそうになっている今の時期に、王国の人間がトレイランの領内で殺人事件を起こすなんて!」


「やめてください村長! もしこれがきっかけで戦争が勃発したら。外患誘致で下手したら村人ごと全員縛り首ですよ!」


 アレンとコニーが珍しく口調を荒げて制止してくる。ことがことだけに仕方がないが……

 俺は自分の考えを整理する意味合いも含めて説明を続けた。


「確かに、お前達の言う通りこれは戦争の引き金になりかねない危険な任務だ。

 だが、恐らく傭兵団のいくつかが襲われてこの世から消えたとしても、本格的な調査など誰もしようとはしないだろう。その点に関しては信じてくれていい。

 今回の戦争は限られたパイを喰い合う争奪戦のようなものだ。その参加者が何人か消えたところで気に留めるものはいない。トレイランの騎士達も、農民達も、そして同業者の傭兵達ですら。誰も連中の死を悲しみはしないだろう」



 死んでも誰も困らないと言うのは悲しい響きだ……

 だが、例え殺されても痛くも痒くもない連中だったとしても。言いがかりをつけようと思えばいくらでもつける事は出来る。

 基本的に、懸賞金がかけられている人間を殺しても殺人罪は適用されないし。そしてその持ち物は討伐者のものになる。

 だがその辺りの法律は、その土地土地の領主の匙加減でどうにでもなってしまうのだ。俺達が王国の人間だとバレる可能性はかなり低いはずだが……

 


「この任務を誰にも気付かれずに遂行できる目算はかなり高い。だが、さっきも言った通り絶対に失敗が許されない。

 作戦の遂行時は念のために全員覆面を着装。当然、武装して兵士の恰好のまま国境を越える訳にもいかないから、短剣程度しか持ち込めない。

 本来なら近隣の村々で奪った装備も売る事も出来るだろうが、現地の人間との接触は一切禁止だ。現金や装飾品だけ奪って後は全て埋める」


「つまり目撃者は一切殺すと言う事ですか? 相手が降参した時も?」


「そう……なるな……」



「そんな。いくら相手が人殺しだからと言ったって、そんな暗殺者まがいのことを……」


 まだ少年のような顔をしたコニーが信じられない話を聞いたとばかりに青ざめた表情をする。

 ちらりとマナの方へ視線をやると、キュッと唇を噛んで押し黙っていた。言いたい事があるのだろうけど、口を出さないよう我慢しているのだろう。

 だがそれがかえって俺を躊躇させた。そしてアレンがとても辛そうな顔をして口を開く。


「村長。もし傭兵達が国境を乗り越え、我々の村に向かってきたのなら……その時は命をかけて戦います。ですが! いずれここにやってくる連中だとしてもです。我々の方から敵のもとへ出向いて叩くなどと言う事は許されません」


 俺はアレンの意見に首を振って答えた。


「アレン。お前も知ってるだろ? 柵もなにもないに等しく、子供たちを守って防衛戦などとても出来ない。俺達はニューゲートが破られた場合、その時点で即座に疎開する。そしてその前に予め金が必要なんだよ」


 力づくで奪う事は悪で。守る事は正義。それは時として立派な考えだが、戦いには有利不利と言うものがある。




「………………」


 会議室に重苦しい雰囲気が漂う。と、そこへダインが口を開いた。



「俺は……やりたい……」


 みんなの視線が集まる。この兄弟はいつも黙々と命令に従っている感じだったの少々面食らってしまう。


「俺達は、元々トレイランの生まれだ……村は傭兵達の略奪にあって両親は殺され、姉さんは幼い俺達を連れて難民になった……」


 自前の、とても低く落ち着いた声で淡々と語りだす。その眼には静かな炎が宿っていた。


「そこからの生活は、悲惨だった…… 姉さんはまだ生娘だったのに娼館で働き、病気をもらってミイラみたいになった……

 客をとれなくなった姉さんは、自分のせいで蓄えを減らしてはならないと……医者にもかからずに自分で首を吊ってしまった……」


 弟のベインは下を向いて拳を握りしめ、唇を震わせている。きっと計り知れない後悔があるのだろう。



「俺達には剣の腕も魔法の才能もなかった。でもいつかあいつらをぶっ殺してやりたいと思って兵士になった……

 村長が戦う機会をくれると言うのなら喜んでついていく……」


 ベインも続けた。


「あいつらはクズだ。どの傭兵がこの後どこを襲って、この村にどいつが来るのかなんて今はわからねぇよ。それでも、1人でもあいつらを殺すことで助かる人達がいる。

 下水道で魔鼠を追いかけたり、山間の村でキラービーの巣を駆除するのよりよっぽど世の中のためになるだろうが!」


 その声には復讐の怨嗟が色濃く宿っている。だが行動の是非はともかく憎しみで判断してはならない。あくまで冷静に、客観的に判断しなければ。

 俺は意見を求めるつもりでピエールとゴードンにも視線を飛ばす。


「自分らは村長についていきます。どちらに決断を下すにせよ、文句は言いません」


「自分も同じくであります」


「……そうか……」



 再び視線を落として思案を巡らせる。


「あの、すいません。よろしいですか?」


 そこで意外な人物が手をあげた。再び村に行商に訪れていた。商人のケイルさんである。

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