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食うもの、食われるもの

◆◇◆


 ……夢を見ていた。家に帰ると、娘が足に飛びついてきて抱っこをせがむ。

 担ぎ上げて奥へ入ると、厨房で妻がシチューを作っていた。

 なぜか匂いは何もしなかったが、暖かでうまそうだと思った。

 妻は俺に気づくとにっこりと笑ってこう言う。


「おかしら!」


◆◇◆


 飛び起きると見張りに立たせていた男が切羽詰まった顔をしている。

 知らず知らずのうちに疲れが溜まって熟睡していたらしい。眠気で頭痛がするのを奥歯を噛みしめて無理やり覚醒させる。


「何人だ」


「10人ほど……全員騎乗してます」


 見張りの報告を受けて頭目の男は血の気がひいた。


「……囲まれてんのか?」


「いえ、それが……」


 窓から顔を覗かせ、見張りが手で指し示す方向を見る。





 来訪者たちはまるでこちらの事に気づいてないかのように堂々と街道の真ん中をこちらに向かってきていた。


「とにかく全員すぐに起こせ」


 気づかれずにやり過ごせるだろうか……いや、無理だ。

 せめて畑が背の高い麦やとうもろこしだったなら、と頭目の男は思ったがないものは仕方がない。


 手下達を起こして様子を伺うと、先頭の男が馬を降りてこちらに歩いてきた。

 警戒している様子はない。まさか話し合いが通じるとでも言うのだろうか……


 向こうは10人。こっちは12人。何も向こうだってこんなところで獲物もないのに命の奪い合いなどしたくはないはずだ。

 逃げるべきか、隠れるべきか、襲うべきか、対話にでるべきか。だが襲うと言う選択肢はとてもためらわれた。

 こちらに向かってくる男の歩みに隙はなく、油断していると言うよりも悠々と自信に満ちた態度に見えたからだ。


 頭目の男が合図を送ると、隻眼の男がこくりと頷いた。剣を鞘に納めて屋外に出る。


「よ~ぅ。兄弟。良い月が出てんなぁ」


 隻眼の傭兵が両手を広げ、けれどもいつでも腰の短剣を抜いて投げれるように意識を集中させたまま男に歩み寄ると。

 男はまるでケーキにフォークを突き立てるように、するりと自然な動きで剣を抜いて、そのまま傭兵の口内に剣を突き刺した。


「あ……ぉ……あ……?」


 あまりにも正確に口の真ん中を貫かれた剣のするどい切っ先が、うなじを突き抜けてまるで不格好なたけのこのように生えてくる。

 それは即死、と言うには少し長い死に方。驚愕に目を見開き、全身を震わせ、口からゴボゴボと血を溢れさせて膝から崩れ落ちた。

 彼が傷つけられた場所は、人体にとって致命的ではあった。だが意識を刈り取る場所ではなく、そして傷つけられた範囲があまりにも小さかった。





「やろぉぉぉぁああ!!」



 重装の傭兵がハンマーを振りかぶる。だがその一撃は振り下ろされる事なく、男に手首を斬り飛ばされてしまう。


「っ!!?」


 手首から先を失った両手を振り上げたまま重装の傭兵が固まった一瞬に、脇腹の鎧の隙間に剣を差し込まれる。

 喉からあついものがこみあげてくるのを感じ、傭兵は蹴り倒されて仰向けに倒れた。




「武器を捨てて逃げろ!! 散らばって森まで走れ!」


 男が剣を抜いてから10秒も立たない出来事だったが、その一瞬で相手が恐ろしい手練れだと十分にわかってしまった。

 恐らく他の男達も相当な手練れのはずだ。頭目の男は部下たちに指示を出し、時間稼ぎをするため室内で絶望的な籠城戦を決め込む。




「うわぁぁぁぁぁ!」


 傭兵達は必死に家を飛び出て必死になって走り出した。

 頭目の男がついてきていない事に気づいた者もいたが、こういう場面で躊躇する事は全てを台無しにする最悪の選択肢だと言う事を彼らはよく知っていた。


 来訪者の男は剣の血を拭うと鞘に納め、胸の前で半開きにした右手に力を込めた。


「巡り巡りて空へと還る。自由と狂気の奔流よ。我が名グラザの名において権限せよ……」


 男の右手に淡い緑の光の粒子が集まっていき


「ウィンドバースト!」

 

 突き出された右手から恐ろしい勢いの突風が巻き起こり、背を向けて逃げ出す傭兵達の背中に襲いかかる。

 不意に後ろから押された形になった傭兵達は次々に足をもつれさせ横転してしまった。



「やめろぉぉぉぉぉぉ!!」


「降参! 降参だぁ! 助けてくれぇ!!」


 地面を這いずり回る傭兵達を、男達は馬上から次々と突き刺していった。

 その光景をただ家の中から見つめる事しか出来なかった傭兵の頭目。そして室内に男が入ってくる。

 男が身に着けていたマントの、狼の頭を象った銀の留め具。それを見て頭目の男はハッとした。



「あ、あんたは……」


 頭目の男は剣を捨てて跪いた。


「待ってくれ。お、俺は敵じゃねぇ。手下にして欲しいんだ。これから南でおっぱじめるんだろ? ぜったいに役にた……うっ!」


 首を斬り飛ばされてから意識が消えてしまうまでの一瞬。その一瞬に自分の首を斬り飛ばした男と目が合う。



「狼の食卓に。ハイエナが招かれると思うのか?」


 

 ニヤリと笑うその顔を見て。頭目の男は話し合いを持ちかけた事を後悔した。

ブクマありがとうございます!

ちょっとわかりにくいので補足。

この場面に銀狼団の全員が揃っている訳ではなく、

交渉や下準備のために幹部だけで移動しているところです。

おっさん達はまだ村で会議中です。

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