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利なくば動かざる

「あの、すいません。よろしいですか?」


 手をあげたのは商人のケイルさんだった。


「どうぞ」


 彼は咳ばらいを1つすると、みんなを見渡して口を開いた。


「ゲオルグさんの意見も、アレンさん達の意見も、納得のいくものです。ただ、ベインさんもおっしゃっていましたが……どの傭兵が今後この村を襲うのか予想がつかない。

 村の防備に有用なのはあくまで疎開のための資金だけです。傭兵の総数を減らす事と、この村の防衛は直接は関係ないですよね? 実際には別の目的であるにも関わらず、行動を正当化するために理由付けをしているようにも思えます」



「……否定しません」


 痛いところを突いてきたな。確かに結局なんのかんのと理由をつけたところで金が欲しいだけだ。

 「人殺しなんだから殺されても文句は言えない」なんて言うのはあくまでこちらの主張であって、ありとあらゆる立場からそれが肯定されている訳ではない。


「そして、アレンさんの言うように我々のせいで戦争が引き起こされればそれは許されません。ですが今回はどうでしょう? 反対に我々がおとなしくここで待っていたところで、いずれニューゲートは破られるのでは?」


「ですが! だからと言って開戦のきっかけを作っていいと言う事には!」


「待て、アレン。最後まで聞こう」


 ガタリと立ち上がったアレンを手で制すると、彼はハッとして申し訳なさそうに座りなおした。



「見つかれば外患誘致で縛り首……そのために、誰にも知られずに任務を遂行するか。あくまで領内で迎え撃つか。そこで意見が分かれている訳ですよね?

 ですがどうでしょう? 今回そもそも私たちが目を向けるべきは王国なのでしょうか?」


「…………と、言うと?」


 あぁ、薄々言いたいことがわかってしまった。だがしっかり聞いておいた方が良いと思い、先を促す。




「これも先ほどゲオルグさんがおっしゃったことですが。傭兵達を殺したところで今回トレイランの懐は痛みません。因縁をふっかける口実にしたあとは特に興味もないでしょう。

 で、あればもうトレイランのギルドで正式に護衛の依頼を受け、堂々と彼の者らを蹴散らしてしまってはどうでしょう。そして現地の民衆達を味方につけてしまうのです。アケレイの英雄。ゲオルグここにあり、とね」


「……そのままトレイランに留まり。現地の協力を得た上で逆に子供たちを北に疎開させると?」


「そういう事ですね」


「…………」



 ケイルさんの言う事は一見筋が通っている。一度トレイランの視点から状況を整理してみよう。

 戦争が終わってお払い箱になったからと言って、それだけで傭兵達をその場で皆殺しにする事は出来ない。

 それをすれば次に大規模な戦争になった時に、誰も帝国に味方しなくなるからだ。帝国はあくまで、軍に対して反逆した者だけを処刑すると言う線引きをしている。

 

 ここで、外国人である俺達があたかも正義の味方のように。領内で傭兵達を蹴散らした場合、連中にとってこれほど都合の良い乱入者がいるだろうか。

 帝国にも様々な派閥が存在する。まして今や皇帝が代替わりし、終戦へ向けて動いている時期だ。目立つ事のリスクばかり考えていたが、名を売る事で得られる後ろ盾もあるはず。


 疎開すると言っても、南に行けば同じような状況の難民達に埋もれてしまうし、どこまでいけば安全なのか境界が曖昧だ。逆にトレイラン側に疎開すると言うのは盲点かもしれない。


 国家が我々を守るのなら、そこに忠誠心は生まれる。逆もまた然りだ。

 マクラーレンのおやっさんがなんて言うかを思えば頭の痛いところではあるが……



「と、ここまでが建前」


 どうしたものかと思っていると、ケイルさんが貼り付けたような笑顔のまま立ち上がる。

 一体何をするんだろうと思ったら、彼は真剣な顔になって地面に膝をつけて頼みだした。


「お願いします。私の姉が嫁いでいった村を守ってやってくれないでしょうか……元々、正規の冒険者や用心棒を雇う事も叶わない閑散とした村です。ロクに報酬もお出し出来ないとは思いますが、なにとぞ。なにとぞ……!」


 


 あぁ、そういう……

 何も解決しないのに懸念だけが膨らむ会議の様相。

 

 だが、俺はそんな会議室を後目に、1つ別の考えが浮かんでいた……

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