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霊媒師のセオリー  作者: 黒川博美
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想い出のオルゴール(後編)


第4章 枯れない花

 

 うららかな日差しのなか、ルークは自転車を押しながら傍らで町内会の地図を平げているアリスに尋ねた。

「この地図じゃあ、ハーツさん家が載ってるんだけどな……」

「うん。でもこの地図自体が古いからね。引越ししているかもよ。10年前の地図なんだから。ところでなんでよその町内会の地図なんかもってるのよ……」

 アリスは地図に目を落として、曲がり角の方向をルークに教えた。

 このあたりは下町と大きな家が隣り合わせになっているような界隈で、下宿風の建物の横に高い塀を巡らせた屋敷があったり、大きな病院などの公共施設や薬局といった建物があった。

 道端のパーキングに停めた車の向こうに、明るい緑色の蔦でおおわれた建物が見えてきた。見たところ2階建ての青い瓦葺きで、白い壁に、白い木製の垣を巡らせた洒落た感じの家だった。

「いくわよ!手紙だけでも受け取って欲しいわ!」

 張り切ってアリスは家の方へとズンズン歩いて行った。その時、白い木製の戸が開き、家の中から車椅子に乗った茶色い髪を背中でくくった女性が出てきた。女性は戸と外の道路との段差で引っかかり、手に持っていた紙袋を道路にぶちまけてしまった。

「大丈夫ですか!?」

 アリスは女性の足元に転がったオレンジを拾い集めつつ、素早く家の表札を確認した。

「ごめんなさいね。今日はちょっとおっちょこちょいなのよ」

 女性が、手動の車椅子を操り、完全に道路に車体を押し出しながら言った。ルークも自転車を道路脇に停め、オレンジ拾いに加わった。

「あの、失礼ですが、エリー・ハーツさんって方はご存知ありませんか?」

 アリスが最後のオレンジを紙袋に押し込みながら尋ねた。

「いいえ、そんな方は知らないわ。私もエリーだけど、苗字はドースだから……」

「そうなんですね。あの、10年程度前の話なんですけれど、この家にお住まいだったハーツさんのことは、ご存知ありませんか?」

「さあ。私は数年前から賃貸で住んでいるのだけれど知らないわね。大家さんに聞いてみましょうか?」

「いえ、そこまでしていただかなくても……」

 アリスは、オルゴールと手紙のことについてエリーさんにかいつまんで話した。

「まあ、ロマンチック」

「それはそうなんですけれど、手紙を引き取ってくれる人がいなくて……」

 アリスは困った顔でエリーに言った。

「私なら気にせずにオルゴールを売ってしまうけどねえ。ねえ、家の中でお話しない?オレンジなんて後で持っていけばいいのだから」

「え?そんな、ご迷惑でしょう?」

「いいわよ。私1人でさびしいもの」

 ルークの顔をちらりと見て、アリスはどうしたものか対応を探った。ルークはポーカーフェイスで、特にやめろとも言わなかった。

「そうですか?じゃあ、ちょっとだけ……」

 情報収集をかねて、アリスはエリー宅にお邪魔することにした。

 白い木の戸の向こうは、こじんまりとしているが、よく手入れされた庭だった。大きな植木鉢に植えられたさくらんぼの木が枝がしなりそうなほどたくさんの赤い実をつけ、露地では白地に赤い覆輪のあるアマリリスが栄養たっぷりもらって大きな花を咲かせていた。玄関までの小道には両脇にまだちらほらと花をつけている椿が植えられていた。 

「ガーデニングがお好きなんですね」

 車椅子を器用に操り、狭い道をいくエリーに感心しつつ、アリスが彼女の趣味を褒めた。

「そんなたいそうなものじゃないわ。ただの土いじりよ」

 そして、抱えているオレンジは、親戚の温室でできたものだと言った。

 きれいにニスを塗った木製の扉を開けて玄関に入ると花の香りが漂い、その靴箱の上にも、きれいに花弁の多いバラが活けてあった。

 「へー、ご親戚が近所に……」

「そうなのよ。だから何かあっても安心。私にできないことはすべてやってくれるの」

「それはいいですね」

 アリスは感心して相槌を打った。リビングに案内された2人は、ソファを勧められた。

「きれいなお家」

「まあ、ありがとう。気楽な一人者だからね。掃除だけは完璧よ」

 エリーはにこにこしながら、お茶を入れ始めた。

「台所も車椅子用に改装してもらったし、2階行くには手すりも付けてもらったわ。大家さんもいい人だし、ここはいいところよ」

「そうですね」

 リビングの広い窓から見える庭のおかげで、室内は実際よりも広く思えた。

「ルーク、お茶したら帰るわね」

 アリスは台所に行ったエリーに聞こえないように小さくつぶやいた。

「了解」

 同じく、ルークもこっそりと答えた。

「ミルクティーにしちゃってもいい?」

「はい、お願いします」

「私も同じで!」

 2人はエリーに答えると、テーブルの上に手紙の入ったオルゴールと、謎の鍵を置いた。

 ルークはエリーがお茶を運ぶのを手伝い、お盆に熱々のミルクティーの入ったティーカップを載せて運んできた。

 テーブルの上の物体を見て、エリーが悲しそうに言った。

「お役にたてなくてごめんね。前の住人のことはほとんどしらないの。おばあちゃんが一人で住んでて、そのあとは空家状態

が続いたってことしか知らないの」

「空家か……」

 ルークがつぶやいた。

「そこのお兄さんはなんてお名前なの?」

「ルーク・マクドネルです」

「お嬢さんは?」

「アリス・マーロンです」

「まあ、いい名前ね」

 自己紹介が済んで、エリーは大変上機嫌であった。戸棚からクッキーをだして振る舞い、お茶を飲むように勧めた。

「ずっとお一人なんですか?」

 アリスが当たり障りのなさそうな話題から聞いた。

「ええ、ずっと1人よ。でも友達はたくさんいるのよ?カルチャースクールに通って水彩画を習っているの」

 と、エリーは壁に掛けた水彩画を指さした。

「わあ。上手ですね!色の薄い部分もしっかりと描けてます!」

「ありがとう。生まれつき足が悪くてね……。それさえなければ実際に海にいったりできるのに」

「それじゃこの絵は写真か何かを見て描いたのですか?」

「そうよ。旅行雑誌のね」

 お茶を一杯いただく間に、女性同士の話が弾んだ。暇してるんじゃないかとアリスはルークをちらっと見ると、彼は会話を聞く役を結構楽しんでいる様子であった。

 お茶を飲み終わると、アリスはそろそろお暇しますと、エリーに伝えた。エリーはまた来てねとまんざら口先だけでもない風に言った。

 2人はオルゴールを持って、自転車に2人乗りすると、エリーに礼を言ってその場を後にした。

「いい人だったね」

 ルークの後ろで、アリスが言った。

「ああ。あんな強烈なのは久しぶりだ……」

「そんなに強引なおばさまじゃなかったじゃない」

「そういうことじゃないんだよ」

「?」

 アリスは首をかしげると、自転車が坂道に差し掛かったので、いったん降りて後ろから押して援護した。

「ありがとう。でも、またエリーさんとこに行くつもりか?」

「え?オルゴールの裏事情を知っているわけじゃないし、またお邪魔してもねえ」

「そうだな。あまり迷惑掛けるといけないからな……。とかいいつつ、君、彼女と電話番号を交換していただろ!」

「なに?気づいてた?」

 とぼけた顔でやり過ごそうとするアリスを、ルークはたしなめた。

「誰とでも仲良くなるんじゃないよ。子供じゃないんだから……」

「はいはい、もうやりませんよ」

 舌をだしてアリスは反省した振りをした。


 それから数日が経って、お茶会のことは忘れかけていた頃、学部での課題に励むアリスのもとに、一本の電話がかかってきた。

それはエリーからの着信であった。邪魔をしてはいけないと、絵の課題をこなしている学部の仲間から少し離れた場所に行って、アリスはその電話に出た。

「こんにちは。どうかしたんですか?」

『こんにちは。いきなり本題に入ってあれなんだけど、大家さんに聞いたら、あなたがお探しのエリー・ハーツさんは30年前に介護施設で亡くなったんですって。そこからこの家は空家になっって、10数年前にハーツ一族が手放したんですって。それで今は借家になってて私が住んでいるって寸法なのよ』

 電話の向こうのエリーは元気そうだった。

「そんな事情があったんですか。わざわざ調べていただいてありがとうございます」

『残念だけど、ハーツ氏について調べられるのはここまでなのよ……』

 電話の向こうでエリーは残念そうだった。

「いいえ、感謝していますよ。この件は私たちでなんとかしますよ」

『そう?それでね、ひとつお願いがあるんだけど、いいかしら?」

「何ですか?」

 アリスは可能な願い事であれば、無下に断るのも嫌だなと思いながら、エリーに先を促した。

『鍵のかかった日記帳があってね……。なんとか開けてしまいたいの』

「鍵付きの日記帳?またロマンチックなものをお持ちですね。それって普通の鍵ですか?」

 魔法鍵での苦い記憶から、アリスはなんとなく聞いてみた。

『わからないの。鍵穴本体からして大分小さいし、飾りみたいなものかと思ったけど、無理に開けようとして壊してしまっても仕方ないし……』

「わかりました。お手伝いするのが可能かわかりませんが、知り合いの店に聞いてみますね!」

『ありがとう』

 電話入ったんここで切れた。アリスはルークが鍵屋で名刺をもらっていたことを思い出し、彼に連絡をとった。

「あ、もしもしルーク?たしかモーガン商会の名刺をもらってたわよね。さっきエリーさんから電話があってね」

 要件を手短に伝えた後、アリスはルークに聞いた。

「お手伝いに行っちゃってもいいわよね?」

 それに、ルークが笑いながら言った。

『俺が嫌だって言っても行くだろう?』

「あなたが嫌だっていうなら、ちょっと考えるけどね……。まあ、行くわね」

『わかった。鍵を開けるだけなんだな?ちょっとルイスに連絡してみるよ』

「ありがと」

 アリスは電話を切ると、ルークからの返信を待ちつつ、また課題の油絵制作に戻った。今回のは学部の単位を取るためと、学内での評価を決めるための大切な課題であった。

(金食い虫とは言わせないわッ!)

 なんだか父に言われた怒りが再燃してきて、アリスは絵筆を強く握った。蚤の市で買ったスプーンとアクセサリーは、もうすでにネットオークションに出していた。落札期限まではあと1週間で、割合と客の反応が良かった。

(まあいい感じ。時間が空いたらアンティークについても軽くベンキョウしよう。ルークに頼っててもいけないからね)

 彼女は心の中でそう考えると、自分の作品を離れたところから見るために、席を立った。

 すると、携帯電話のメールに、ルークからの着信があった。

「なになに?どんな鍵でも出張しますって?交通費のみ別料金……って。」

 アリスは一報を受け取ると、エリーに電話をかけ直した。彼女はかなり喜んでくれ、さっそく店の電話番号をメモに控えた。

しかし、話はここで終わらず、見せたいものがあるからと、その鍵屋の予約時間にアリスとルークを呼んだ。

「またお邪魔していいんですか?邪魔になりません?」

『大丈夫よ。おいしいクッキーも用意して待ってるから、おいで?』

 なんだか喋り方と強引差が自分のあばあちゃんに似ているなと思いながら、アリスはエリーに行くと伝えた。電話を切って、ルークにも確認したが、彼もこの時間帯は空いているようだった。

 次の日、アリスはちょっとしたお礼の花束を持って、ルークと部室で待ち合わせた。興味深々の他の部員たちを笑顔でやり過ごし、ルークがやってくるのを待った。

 自転車でサークル棟までやってきたルークは荷物を前かごに載せて、アリスを荷台に座らせた。 

「花束か。彼女、喜んでくれるといいな」

「もらって嫌がる人もあまりいないと思うわ」

 他愛ない会話を続けながら、彼らは大通りを渡り、もう一度地図を見ながら進んだ。ルークも大分、二人乗りには慣れてきた様子で、最初の頃の頼りない運転よりは随分マシになってきていた。

 エリーの家につくと、ちょうどルイスのやってくる時間帯と重なっていた。呼び鈴を鳴らすと、エリーが出て、家のなかに入ってくるようにと2人をうながした。

「こんにちはっと。久しぶりだな、元気してた?」

 そこへ、片手に道具箱を下げたルイスが徒歩でやってきた。

「ルイス君!ちょうどいいタイミングだったね」

「そうだよ、お嬢さん!道に迷いまくって、ようやくたどり着いた!」

 ルイスはルークにお客の紹介の礼を言うと、彼らと一緒に家の中へと入っていった。

 アリスはエリーに、招待の礼に花束を渡し、エリーは花の匂いを嗅ぐと、喜んで花瓶に生けてくれた。

「お邪魔します、ドースさん」

 ルイスはエリーに挨拶すると、さっそく彼女がテーブルの上に置いていた鍵付きの日記帳を見始めた。

「これは普通の鍵だと思いますね。でも、どっかでこの型式の鍵を見たような……」

 ルイスは頭に手をやって考えると、ふと思い出してアリスに問いかけた。

「あの、オルゴールについてた鍵!持ってる?」

「ええ、今回もオルゴールと一緒に持ってきたわ」

「それ、貸してよ」

 ルイスに頼まれるままに、アリスは小さな金色に光る鍵を渡した。

「これだよ、これ!」

 小さな鍵穴に、鍵はピッタリと収まった。しかし、そこから先が問題であった。

「回らない」

 ルイスが独り言をつぶやいた。

「じゃあ、違う鍵なの?そうよね、オルゴールといっしょに売られていたんでしょ?私はオルゴールの持ち主じゃないから、

当然のことなんじゃない?」

「いいえ、この鍵であってるはずなんです。もしかして、魔法鍵なのかな?ドースさん、試しに一度この鍵を回してくれませんか?」

「ええ、わかったわ。それと、私のことはエリーって呼んでちょうだい」

「ありがとうございます。それじゃ、これを」

 鍵と日記帳を受け取ったエリーは、小さくため息をついたあと、一息に鍵を回した。すると、鍵はすんなりと回り、日記の封印は解かれた。

「やっぱり魔法鍵だったか……」

 ルイスは真剣につぶやいた。

「ありがとう。これであなたたちついた嘘も帳消しにできるわ……」

『え?』

 アリスとルイスが声を合わせて驚いた。

「まあ、嘘というか、記憶が定かでなかったというか、そんな感じですかね」

 ルークが平然と下様子でエリーに言って、日記を見るように勧めた。

 彼女が開けた日記帳には、しおり替わりにオルゴールに入っていたのと一緒の花が押し花になって入っていた。

「ごめんなさい、お騒がせして!」

 彼女は日記を抱きしめると、小声で言った。

「いいえ、楽しかったですよ」

 ルークが静かに言うと、エリーは涙ぐんで言った。

「私も。こんなに楽しいのは久しぶりだったわ」

 そこへ、家のインターホンが鳴った。エリーが出ると、2人の警察官が家に入ってきた。

「あの、ここは空家のはずなんだけれど、あなたたち、どうやって入ったのかな」

 若い方の警察官が、主にエリーに向かって言った。

「私が呼んだのよ」

「空家?」

 アリスが不思議そうに言った。壁にかかった絵も、出してくれた紅茶も、十分家やエリーに馴染み、持ち主のいない空家の雰囲気がするものはなかった。

「そうですね。俺たちはお邪魔しただけだから……」

 ルークは笑いつつ、エリーに言った。

「だって、あなたは30年前に死んだエリー・ハーツさんなんだから」

 アリスのルイスは驚いてエリーを見た。警察官はなにを言っているのか分からないようで、ルークとエリーをまじまじと眺めた。

「バレちゃった?」

 エリーはいたずらっぽく微笑むと、日記を持ったまま微かな光に包まれてかすみのように消えていった。

 警察官のうち中年のほうが、驚いて家から逃げていった。残された若い方の警察官も、エリーの消えたあたりを凝視しつつ、後ずさった。

挿絵(By みてみん)

「私たちが話していたのは、お化けだったの?」

「え?俺はどうすればいい……」

 アリスとルイスは混乱の真っ只中であった。

 出張料金は?とか言っているルイスに、外から戻ってきた警察官が声をかけた。

「君?この家は30年前から空家でね?出るって噂の家だったんだよ」

「実際に出ましたね。ところで、代金をもらい損ねたけど……」

「まあ、我々もみてしまいましたから。君たちも早く家から出てくれないかな?」

 若い警察官が、報告書になんて書こうとブツブツいいながら3人を促した。

 ルークはアリスの背中を押しつつ、家から出て行った。アリスは最後に家の中を振り返ると、壁に飾られていた絵も消え失せ、色あせ、剥がれかけた壁紙を見るのみであった。

 

「今回の事件を総括します」

 アリスは部室でルークと並んで座っていた。今日は珍しく、部屋には2人だけしかいなかった。

「なんだい?」

 ルークが読みかけていた文庫本から目を上げて尋ねた。

「知らない人についていってはいけませんでした!」

「当たり前じゃないか」

「お化けだってわかっていたら、なんで先に言ってくれなかったの!」

 アリスに八つ当たりされて、ルークは目を閉じてため息をついた。

「悪かったよ。楽しそうにしていたから、つい……」

「つい、じゃないわよ。警察官が来たからエリーさんは旅立っちゃったけど、あのままだと、私たちお化けの人の友達認定のままだったのよ?それでいいの?」

「まあ、イレギュラーな友情だよね」

 アリスは呆れてルークから目を離した。そこへ、ルークがアリスの手のなかに何かを押し込んできた。

「なあに?」

 それは白い小さな箱で、天辺には金色の文字でロゴが描かれていた。

「よかったらもらってくれ。気に入らなければ売ってくれても構わない。新品だから、それなりの値がつくだろ」

「え?結構有名なとこのじゃない」

 アリスは箱を開けた。そこには、小さな花をデザインした、金色のイヤリングが入っていた。

「売るなんて……。大事にさせてもらうわ」

 彼女は箱を閉じると、ルークの頬に軽くキスをした。

「ありがとう」

 真っ赤になったルークはもう一度文庫本に目を落とすと、そのまま黙ってしまった。

 その時、咳払いが聞こえ、本棚の影からブッダが出てきた。

「もういいですか?」

『…………』

 2人は無言で彼を迎えた。その後の沈黙はかなり気まずいものがあった。

「我が怪奇文学サークルも、出会い系サークルに昇格か……」

 もう1人、先輩も本棚の影から出てきた。

「もういい」

 ルークは赤くなったまま、部室を出るとそのまま帰ってこなかった。

「私も……」 

 アリスも学部棟にモドリマスと言って部室を後にした。

「うむ」

 バイバイと手を振るブッダと先輩に見送られつつ、アリスは考えいていた。

「教訓:予想とは外れるためにある……」

 格安のオルゴールとか、部室に今は2人きりとか、うまくいくと思い込み過ぎていたのである。

 あのオルゴールも、エリーさんとともに消えてしまった。が、まあいいやとアリスは思った。他の品物が

結構いい値段で売れたからである。

「これに味を占めて本業を疎かにしてもね……」

 アリスは少しの間、副業は封印しようと思った。そこに、携帯電話に着信があった。それはルークからであった。

「『蚤の市、もしよければまた付き合うよ』……。って、あれデートだったんだ」

 さっそく決心を揺さぶられつつ、アリスは首をかしげた。


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