機―17 眷属
ハッピーハロウィン!
を昨日に迎えましたどうも作者です。
ちなみにハロウィンの晩餐はハンバーガーと鍋でした。パンプキンどこいった。
「おおおおおおおおおおおおぉいッ!?」
叫んだ。
叫ばずに入られなかった。
目の前にはすでにロウリィの姿はない。
どころか先ほどまで煌々と魔力の光を放っていた転移門すら今や跡形もなく、あまりにもぶったまげた現状に思わず背後のドリーへ振り返る。
「ろ、ろぅ、りぃ……ガクッ」
そこには消えた妹の名を呟き、同時に意識を失って崩れ落ちたドリーの姿があり、彼女が魔力枯渇による気絶症状だと察するまでさして時間はかからなかった。
「お、おおおい!? ちょっと? ねぇちょっと待て、え、何これどうなってんの? ドリー居ないとここから出れないとかそういう感じじゃないのこれ!?」
たまたま夜営(必要かどうかは不明)だった兵士の男へとそう問いかけると、彼はなんとも言えない微妙な表情を浮かべて視線を逸らす。その反応がなによりも明らかにその事実を告げていた。
――転移門以外に、この場所に出入口はない。
いや、正確に言えばこれだけの人が生活している以上昔は『あった』のだろうが、おそらく今は無くなっている。埋められたのか、隠されたのか。いずれにしても外行きたいから開けてくれと言ってすぐ開けられるような代物でもない。
なら、天井ぶち破って出ていくか。
そうも考えたが、けれども魔力無しの今の僕にイフリートをぶん殴った時と同じような威力を出せるかと聞かれれば……くそぅ! 打つ手が何ひとつとして存在しない!
「か、考えろ、考えろ……ッ」
魔力供給のスキルなら彼女と魔力を共有し、僕には使えない魔力を彼女に使わせることも可能だろう。が、かつて【生命の燈】を使った代償にそういうのも含めて『開闢』のスキルは消失してる。
ならアイテムボックスから万能薬でも神の髪でも取り出して使用し、彼女を復活させる――のも無理。そもそも魔力使えないからアイテムボックス自体が使えない。
ならば……吸血鬼の超スゴい版『神血鬼』である僕の血はおそらく神祖の吸血鬼も蒼白の不死力を宿しているだろう。それを彼女に飲ませて……どうやって飲ます? いや、口移しとか漫画とかじゃあるかもしれないけど、こんな兵士たちの見守る中、街のリーダーに自分の血を口移しで飲ませる輩とか不審者以外の何者でもない。
ならば……どうする?
どうしよう、神頼み以外の何一つとして思い当たる選択肢が見当たらないんだが。
絶望しか見当たらない現状を前に天を仰ぎ、神に祈るようにして気配察知の範囲を広げてゆく。
そして――。
「……はっ?」
――目の前に、他でもない【転移門】が現れたのは、その直後のことだった。
☆☆☆
「数が多いのじゃ!」
白夜は叫んだ。
場所は国中に立ち並び、入り組んだ塔のうち一つ。
その内部に身を隠した恭香、ギシルを前に、彼女は疲労を一切隠すことなくそう告げる。
「……正直、今までの危機とは一線を隠すね。今まではピンチって言ってもたかが知れてたけど、さすがに単体単体が能力値的に格上の化け物が三桁とか――」
恭香はそこまで言って身を震わせる。
なにせ、相対するオートマタはステータスだけでいえば間違いなくギルと同等。マトモに戦えば白夜ですら勝ち目はなく、辛うじてスキルや特殊能力を駆使して優位に立てる程度の実力しかそこには存在していない。
そして、到達者の中でも白夜の消耗力は、かの混沌に次いで大き過ぎる。
「はぁ、はぁ……っ。興奮、する以外で息を荒らげるなぞ、主様と戦う以外に、ありえないと思っておったのじゃがな……」
既に戦闘開始から数分以上が経っている。
到達者になることで全体的に能力値が向上したとはいえ、未だ太陽眼の時間停止、そして月光眼による空間把握にはかなりの消耗を強いられる。
「ギンは……まだ、動いてないね」
恭香は能力を使って彼の位置を確かめる。
場所は現在位置よりはるか下方。おそらく地下深くに存在しているであろう巨大な空間に彼の気配は感じられる。
恐らくそこは、オートマタたちですら場所を把握しきれていない完全なる安全地帯。
白夜の消耗もかなり進んできた。
正直、今のギンがマトモな戦力になるとは到底思えないが……それでも、無理矢理現状に楯突くよりかは一時撤退し、ギンの回復にでも力を入れた方が余程生産的だ。
「……白夜、ここは一旦引こう。不幸中の幸い、ギンの位置はこっちで把握しきれてる。白夜の転移門でそこに飛んで、ギンの魔力を使えるようにした方がいい」
「……そのようじゃな。正直、あの群れを妾一人で相手するとか無茶がありすぎるのじゃ」
白夜は両の瞼を閉ざして苦笑する。
再度開いた彼女の瞳にはいつもの輝きが戻っており、これだけの激しい戦闘の中、冷静さを損なっていない白夜を前に、恭香は――
「……謝罪、おそらく、それは悪手」
隣から響いた声に、目を丸くした。
見れば顔に影を落としたギシルはその顔に悔しさを滲ませており、普段から無表情な彼女が見せた表情に首を傾げて――次の瞬間、体の芯に怖気が走り抜ける。
「ぬ……ッ!?」
迫り来る轟音。そして閃光。
咄嗟に恭香とギシルの体に触れて『テレポート』を発動した白夜は、少し離れた場所からその攻撃を目指し――限界まで目を見開く。
「ま、また厄介なのが出てきたの……ッ!」
その一撃は、尽くを抉り、消失させていた。
先程まで彼女らのいた場所は跡形もなく消し炭となっており、どころかその威力は収まることを知らず、潜んでいた塔と、加えて大地にまで大きな傷跡を抉りつけている。
「――おや、これを躱すかい。流石は未来。私の想像を超える範囲で発展してるようだ」
彼女らの耳を打ったのは、男性の声。
聞いた覚えのない声に恭香と白夜がその声の方向へと視線を向ける中、ギシルは一人、身を打ち震わせる。
「ま、さか……」
「おや、まさか想像していなかったわけではあるまい? 私が遥か遠い未来にまで感覚を飛ばし、お前の存在を逐一確認、そして現代に戻ってくる瞬間を待ち構えていたということくらい」
――それは、赤髪の男だった。
金色の瞳はまるで機械のよう。
白衣に身を包んだその体は半分以上が機械に覆われており、人造人間といった様相を呈すその男は冷ややかな冷笑を浮かべているばかり。
「――なるほど、のぅ」
その男を前に、白夜が拳を構える。
その表情はどうしようもない焦燥に染まっており、頬を一筋の冷や汗が流れ落ちる。
「……再度、謝罪。今、あの男を前にして、やっと全ての記憶が戻ってきた。そして、告白。私はかつて、この男から逃げるためだけに時間軸を超えた」
言い換えれば、時間軸を超える以外に逃亡する道が存在しなかったと。ギシルほどの実力者の口から放たれたその言葉はどうしようもない絶望として二人の心に影を落とす。
「全ては、この男が作り出した。私も……あの人形達も。故に、この男がいる限りあのレベルの化け物達がいくらでも量産される。結論、それは悪夢以外のなんでもない」
相も変わらず冷笑を張りつけたその男を前に、ギシルは確かにその名を呟く。
「神霊王イブリースが眷属……【機界王ギシギブル】」
その言葉に、二人の焦りが一層に加速する。
二人の知るもう一体の眷属【炎魔神イフリート】は、不幸にも最悪の二人を相手取ってしまったために大敗を喫したが、それでも全能力を解放したギルをして手も足も出なかった実力は変わることなく健在だった。
そして、白夜が全能力を解放したギルと戦えば、おそらく待っているのは敗北だけ。
つまるところ、何が言いたいかと聞かれれば。
「……ちと、荷が重すぎると違うかの」
呟いた白夜へ、その男――機界王ギシギブルは右手を構える。
途端、その掌に集った魔力量は彼のイフリートの一撃にすら匹敵しており――。
「到達者……まぁ雑魚だな。一分あれば事足りる」
放たれたのは、致死の一撃。
マトモな回避など間に合わない。
刹那にギシギブルの言葉を思い出した白夜は咄嗟に恭香の体のみを抱えて転移すると――案の定、放たれた光線はギシルの直前で霧散し、奴の舌打ちが聞こえてくる。
「私がソレを壊さないと察したか。なるほど頭はそれなりに回るらしい。――が、牽制攻撃に瞬間移動でしか対応出来んとは、その時点で底が知れるな」
「ぬぅ! さっきからなんじゃか上から目線でムカつく奴じゃの! 物理的にも精神的にも!」
物理的にも自分たちを見下ろしているその男へと叫ぶ白夜。
されど転移した先に待っていたのは――無数のオートマタ達による襲撃だった。
「確信、我らが主、機界王がお見えになった時点で貴様の死は確立された」
「ま、またお主らか……っ!」
咄嗟に反撃しようとして……されど、唐突に背筋を突き抜けた危機感に太陽眼を発動、世界の時間を停止させると――次の瞬間、眼前へと迫り来ていた『拳』を前に目を見開いた。
「……まじ、かの」
それは、他でもない機界王本人の拳だった。
時間を停止して初めて気がつく、彼がいつの間にか自分の眼前へと現れ、拳を振り下ろしていたという事実に。
一瞬でも時間停止が遅れていたり、はたまた発動までの時間がコンマ数秒伸びるテレポートを選んでいたりと……少しでも選択が異なっていたら、おそらくその時点で死んでいた。
――圧倒的な、力の隔たり。
視認することも出来なかった。
反応することなど以ての外。防御力に些かの自信は持っているが、それでも……おそらく一撃であっても耐えられるかどうか微妙なところ。
加えて、これでもまだ【底】は見せていない。
その事実を前にどうしようもない乾いた笑みを浮かべた白夜は――拳を握る。
「時間が動き出すまで、あと三秒」
あまり時間は残されていない。
おそらく逃げるのが得策。この誰も動かず、誰も察知できない子の瞬間に、恭香を引き連れ逃げるのが最善手。
されど。
「なんじゃか態度がムカッとくる。ので、三秒間じゃけフルボッコの刑に処すのじゃ!」
彼女は拳を振りかぶり、容赦なく機界王の顔面へと振り落とす。
かくして白夜のフルボッコから始まる、命をかけた逃亡戦の幕が開けた。




