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いずれ最強へと至る道   作者: 藍澤 建
第一席 魔国編
612/671

機―11 影の民

これを誰かが読んでいるとしたならば、作者はそろそろ仕事帰り、煤けた体を引きずりながらコー○ャンフォーへと向かっている頃だろう。

そして発売されている(であろう)この作品を眺めてニヤニヤしながら、パシャリと写真を一枚とって、きっと一冊も買わずに帰ってくるのであろう。おそらく。


ということで、本日発売『いずれ最強へと至る道』の第一巻!

もしもコーチャ○フォーに御用の方は、普通に鉢合わせるかもしれないのでその時はどうぞ宜しく!

 響いた声は、女性のモノだった。

 周囲に溢れかえった白い煙幕。

 ソレを前に硬直した僕らをよそにどこからともなく現れた覆面の人々が僕の体を担ぎ、最寄りの塔へと走り出す。


「な……、ちょ、あ、アンタら……!」

「黙っとき兄ちゃん! あんなのと真正面から戦うなんて無茶無謀、奇行狂行の域さえあるよ!」


 僕を担ぐ覆面のうち一人の女性――おそらく声からして先ほどの声の主だろう、彼女は僕の焦りを帯びた声にそう叫ぶように返すと、一目散に自身に追随する覆面たちを率いて塔へと向かって逃げ出した。

 彼ら彼女らの速度は並みの冒険者すら凌駕する勢いで、推定でもSランク冒険者相当、ぶっちゃけ『並み』の域からは大きく逸脱した身体能力――ではあったのだが。


「――発見、同時に殲滅する」


 響いた男の声。

 同時に目の前、白い煙幕を突き破って一体の自動人形(オートマタ)が出現し、金色の瞳がギラリと物々しくも冷酷な光を帯びる。

 その右手には一振りの剣が握られており、それを振りかぶる自動人形を前に目を剥いて硬直する覆面たちに、僕は咄嗟に足を延ばしてその剣を蹴り上げる。

 ギィンッ、と甲高い音が響いて奴の腕が大きく上へと跳ね上げられる。

 ……他でもない『全盛期の神王ウラノス』がかかわっていた以上、おそらく久瀬竜馬の持つ肉体、器が全世界においてトップクラスの性能を誇ることは間違いない――が、僕のコレだって結構いろんな人が頑張って作ってくれたんだ。


「おい、お前ら僕のこと舐めすぎだろうが」


 僕を担ぐ覆面たちの肩に手を置いて足を振り上げると、顎をめがけた容赦ない一撃にオートマタは限界まで目を見開きながら上体を逸らして回避する。

 が、おかげで体勢が大きく崩れた。

 スッと着地、拳を構えると同時に周囲へと気配察知を行うが、それでも十数秒以内にここへと辿り着けるような機体は偶然にも感じられず。


「助けてもらって悪いけど」


 呟きと同時、眼前のオートマタが大地を蹴って走り出す。

 その速度は紛うことなき到達者のソレ。その異様すぎる光景に苦笑しながら、僕は大きく息を吐く。

 そして――一閃。


「が……ッ!?」


 研ぎ澄まされた正拳突きが奴の腹へと直撃する。

 濁った悲鳴が口の端から漏れる中、足の甲を踏みつけ、肩を掴み、衝撃を逃がすことのできない姿勢で奴の顔面を掌で打ち抜いた。


「『破鐘掌(クラッシュ・ベル)』」


 突き抜ける衝撃。

 精密機械には外的欠損より内的欠損の方が響くだろうさ。

 そういう思いからのその一撃は想定以上に聞いたのか、奴は首から鈍い音を立てながらその場に倒れ伏し、その光景に唖然と目を見開いて硬直している覆面たちへと僕は大きく声をかける。


「今のうちだ! さっさと逃げろ!」

「……っ! わ、私たちが助けに来たはずだったんだけど……!」


 言いながらも素直に逃げ出してゆく覆面たち。

 その姿から視線をそらして振り返れば、そこには煙幕を突き破ってこちらへと向かってくる二体のオートマタ。奴らは僕の前に倒れ伏した同胞の姿を見て目を見開いているが――いや、お前ら馬鹿だろうと、そういわんばかりに僕は嘲笑する。

 どれだけ高性能でも、所詮は機械。

 一定の傷を与えれば動かない非生物、成長も想定外も何もない、ただの物。


「お前らよりかは、血反吐吐いて向かってくるただの馬鹿の方がずっと怖いぜ」


 ちょうど片手の指の数くらい思い当たるけど。

 そう言って――次の瞬間、僕の姿はオートマタの懐に現れた。

 ――絶歩。

 高位の魔眼所有者にはまず間違いなくこんなにもやすやすと通用しないような技。それを前に眼前のオートマタは二体とも限界まで目を見開いており、僕はそいつらの頭を掴み、大地へと思い切り叩きつける。

 こんな物理技も、きっと尽くを飲み込み喰らい尽くすラスボスには通用しない。そもそも今の僕の戦闘力って身体能力だけだし、下手すりゃ久瀬やギルにだって通用しない。

 が、こいつらには通用する。


 その理由は単純明快――こいつらが機械だから。


 いくら高性能でも予想外のことにはフリーズしてしまう。

 フリーズすれば、一瞬その動きが硬直してしまう。

 そんでもって、その『一瞬』ってのはある時、ある瞬間からは相手を殺し得る大きな『隙』へと変わってしまうわけで。


『……ジジ……理解、不能、な、ニモノ……だ、貴様』

「おう……まだ生きてたか」


 見れば首をおかしな方向に曲げたまま倒れ伏しているオートマタが心底驚いたように声を漏らしており、その姿に口の端を吊り上げ、僕は顔面を地面へと叩きつけられ、暴れているオートマタ二体の頭蓋へと押し付けた掌を強く押し付ける。

 途端、掌から伝わった衝撃が頭蓋を砕き、地面へと無数のヒビを刻み込む。

 手に掴んでいたオートマタ二体の体からぷしゅうと煙が上がり、体中から力を失い大地に力なく倒れ伏してゆく。

 その光景に薄く開いていた瞼を限界まで見開いたオートマタは――次の瞬間、遥か前方、覆面たちの控える扉の前に現れた僕に限界まで目を見開いた。


「さすがに二度も使ったら次は通じないかもだけど……」


 言いながら目の前で驚く覆面たちの背中を押して扉の向こうへと押しやり、僕もまたその扉の向こう側へと歩き出す。

 明らかに魔力で出来たその扉。僕の持つ『転移門』と同種であろうソレがどこに繋がっているのかなんてわからないし、この覆面たちが敵か味方かすらわからない――が、それでも。



「おい機械、次会うときは全滅する時だ、首洗って待ってろ」



 お前らは僕の仲間に手を出した。

 なら、お前らは誰がどう言おうと、世界がお前らを肯定しようと、僕にとっちゃ絶対的な『敵』そのもの。全滅したって文句は言えないだろうさ。

 そう笑って拳を突きつけ、僕は覆面たちの後に続いた。




 ☆☆☆




 かくしてそこに広がっていたのは、巨大な空間だった。

 窓一つない、まるで巨大な岩の中をそのままくり抜いたような大きなドーム状の空間。

 そこには地上のソレほどではないが、それでも見渡す限りの街並みが広がっており――


「下手に動くんじゃないよ!」


 響いた声に、小さく目を見開いた。

 周囲を見渡せば、先ほどまで僕を助けんと動いていたはずの覆面たちが僕らへと銃を向けており、後頭部へと銃口の固い感触が触れる。

 その光景に思わず拳を握りかけたが、けれどもすぐに大きく息を吐くと、改めて彼女らへと話しかける。


「……助けてくれて助かった。んで、どういうことだ?」

「どういうこともなにも……そういうのはアタシらがききたいんだがね」


 そう返すは背後の女性。

 彼女は僕の後頭部に銃口を突きつけたまま、どこか緊張したように言葉を重ねる。


「まずは自己紹介と行こうかね。アタシらは『影の民』、この街の『表』に反感を抱くか、あるいは迫害、除外されたかで表に居られなくなった異端者の集まり。んでもってここはそんな人々が暮らす『影の街』……って感じさ」

「……なるほど」


 幾つか引っかかる部分こそあるものの、とりあえず彼女の言っていることの大半は理解できたため、そう彼女の言葉に相槌を打つ。

 すると背後から大きく息を吐く声が響き、グリッと後頭部へとより強く銃口が付きつけられた。


「アタシらの目的は単純明快、表でのさばってる化け物共の一掃。んでもって国の奪還。……まあ、光明も何も見えない状態だし、中には夢のまた夢だって馬鹿にするやつもいるわけだが……つい先日、表の化け物共に敵対してる小さな嬢ちゃんを見つけてね」


 まあ……うん、白夜のことだろうな。

 オートマタたちの言っていた言葉からそう推測すると、背後から鋭い視線が背中に突き刺さる。


「――正直、唖然とするほかなかったよ。化け物だった、あの表にのさばってる化け物をちぎっては投げ、ちぎっては投げ……いったいどうなってんのか目で追うことすらできなかった。それほどまでに化け物だったってこと、そんでもって『表』に敵対してるってことだけはハッキリわかった。そんで、これはアタシらにとって好機なんじゃないかと思った」

「――んで、次の『そういう奴』を待ってた、ってわけか」


 恐らくこの時代に転移されたのは四人。

 僕、恭香、白夜、そしてギシル。

 あの瞬間において転移の発動中心――つまりはギシルからの距離が離れていた順に、白夜、僕、恭香、となっており、もしもその順にこの時代に転移されてくるのだとすれば――おそらく、僕が二番目。


「……ま、アンタらの正体なんざ知らないけどね。でもアンタら、見る限りあの化け物共の敵なんだろう? だったら仲良くできるんじゃないか、と思っての行動でね」

「……仲良くしたい相手の後頭部に銃口なんて突きつけるか普通」


 彼女の言葉に苦笑交じりにそう告げると、背後で彼女が肩をすくめたのが分かった。


「なに、こういうのは『ようこそ!』って向かい入れた方がいいってのが定石だが、そういうのはある程度まで、って相場が決まってんだよ。ある一定以上強い奴にはこういう対処を取らざるを得ない。たとえこの状況がアンタにとって危機でもなんでもなかったとしても、自分より絶対的上位に位置する生物を前にした瞬間の行動、ってのはある意味人の性ってもんだろう?」


 まあ……うん、そうだろうね。

 よくある勇者召喚→お姫様「ようこそ勇者様方」→ステータス確認→勇者発見、みたいな流れだって、そもそも召喚された当初の勇者がさほど脅威でも何でもないから行える『条件ありきでの様式美』、って奴だろう。

 簡単に言うと、召喚されたのが混沌みたいなラスボスオーラ纏ってたら普通に武器向けちゃうよね、って話。なんなら腰抜かして失神してしまうまであるけれど……まあ、武器を向けられてる時点でこの覆面たちはそれなりに強い、ってことなのだろうさ。


「別に多くを聞くつもりはない、別にアンタだって私たちにそれほど強く介入したいってわけでもないだろう?」

「まあ……うん、それはそうだけど」


 この世界にだって来たくて来たわけじゃない。

 用事なんてのはせいぜい、白夜を拉致したあのポンコツどもをぶちのめすこと、せっかく過去に来たってことでボケてない頃の初代魔王――ユラン・ロードに話を聞くこと、恭香とギシルを無事に保護すること。そんでもって元の時代に戻る術を見つけること。

 それ以外で別段、この街に――というか、この時代にかかわるつもりなどさほどなく、下手すれば未来が変わってしまう可能性がある以上、そもそも『出来るだけ関わらない』ってのが正解なわけで。


「詳しくは聞かない、ただ、相手には出来得る限りで協力する」


 彼女はそう告げ、僕の後頭部から銃口を退ける。

 まあ、その条件だったら僕も彼女らに協力せざるを得ないのだが――ソレにしたって、意味不明な文明の中、現地人の協力が得られるというのは大きなメリットとなる。


「その条件でよければ力を貸してくれないかい? 旅人の兄ちゃんよ」


 かくして差し出された手を、僕は迷うことなく握り返す。

 僕は僕のために、彼女らは彼女らのために。

 お互いに、お互いの力を利用する関係性。

 まあ、端的に言えばそういう感じなのだろうが――まあ、いつまでもこの世界に居るわけでもなし、短い付き合い、そっちの方が分かりやすいだろう。


「それじゃあ改めまして、僕はギン=クラッシュベル」

「ああ、そういえば名乗るのがまだだったっけか……」


 僕の言葉に苦笑を漏らしながら頬をかいた彼女は、自らかぶっていた覆面を脱ぎ捨てる。

 その向こう側から現れたのは……いや、なんかものすごーく見覚えのある顔で。

 さらさらと揺れる金色の髪に、その瞳は紫色に煌めいている。

 まるでどこかの魔王様をそのまま大人にしたような彼女を前に頬を引きつらせる僕を前に。

 彼女は屈託のない笑顔を浮かべ、その名を告げる。



「初めまして、アタシの名は『ドリー・ユラン』、この一族――『ユラン族』の長をやってるモンだ」



 ――ユラン、と。

 なんだか探していた名がものすごく身近なところから出てきたこと。

 それと、あの『ユラン・ロード』がどのユランかわからないことに、僕は思わず頬を引きつらせる。

 かくして絞り出すように、たった一言こう呻く。



「……これは、一筋縄じゃ行かなそうだな……」



 なんだか、人生史上最も厄介な人探しになりそうである。



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【新連載】 史上最弱。 されどその男、最凶につき。 無尽の魔力、大量の召喚獣を従え、とにかく働きたくない主人公が往く。 それは異端極まる異世界英雄譚。 規格外の召喚術士~異世界行っても引きこもりたい~
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