機―10 古代王国
もう気がついてる人いるみたいですが、後書きにて【重大発表】です。
――目が覚めたら、そこは空中だった。
……って、空中!?
自分で言っててなんだが開口一番、明らかにおかしな文脈に目を見開き周囲を見渡すと、そこはやっぱり空中だった。
少し陰った灰色の空。
周囲には天を突くかの如くそびえ立つ無数の『塔』が乱立しており、僕の周りに恭香、白夜、そしてギシルの姿は見当たらない。
「別のところに飛ばされた、か……」
言いながら、たまたま手の届く場所にあった地面と水平に伸びる鉄筋らしきものを右手で掴み、勢いを殺すようにくるりと回転。そのまま鉄筋の上に着地する。
恭香があの瞬間口にした言葉――禁呪『時間遡行』。
まあ、禁呪の中でも『黙示録』、『魂になっても』に比肩する超極大禁呪のうち一つだな、僕でも知ってるくらいの有名禁呪だ。
それはもう一つの禁呪『時間進行』とセットで用いられる禁呪であり、『時間進行』で過去から未来へと飛び、そしてあらかじめ『時間進行』使用時にセットしておいた魔力が尽きると同時、自動的に対となる禁呪『時間遡行』が発動、自らの体を元の時代へと転移させる能力。
まあ、未来で過ごしただけ自身の時代へと戻る『時間』もズレるそうで、時間進行の力を発動したその時、その瞬間に戻るわけではないらしいのだが。
「……なるほど、ね」
今回の件で、ギシルの正体がおおよそ明らかになった。
今の僕や白夜を大きく上回る性能を誇る自動人形。
なんらかの理由で大禁呪『時間進行』を使用、その際に『天魔族以外使用不可能』とされた禁呪のリターンを体に受け、一時的にその記憶が欠落してしまった。
んで、そのあとは僕らと出会い、魔王さんの城へと共にきて、そんでもって最終的にはあの時、あの場所であらかじめ使用していた魔力限界がやってきて『時間遡行』が発動した。
「……で、最後に苦しんでたのは欠落してた記憶が戻ったかなんかで」
――問題は、禁呪を使える自動人形の、その素性。
そう、大きく息を吐いて拳を握り締めると、どうしようもない嫌な予感に天を仰ぐ。
「恭香と白夜は……ギシルとの位置関係で飛ぶ時点が変化したか、単に僕とは居場所が違うだけか」
これで数年単位で違ったら笑えないな……。
そう思いながらも目の前の光景へと視線を向け直す。
そこに広がるのは、大都市だった。
どれだけ巻き戻ったかは知らないけれど、それでも過去に魔国と同じ場所に存在し、明らかに現代のどの都市よりも反映しているこの大都市の名を、僕はよぉーく知っている。
神王ウラノスの全盛期と同時期。
神霊王イブリースが眷属たちが周囲を闊歩し、その神王ウラノスの真っ向から対抗していた悪魔族と、神王ウラノス率いる神々との戦いが熾烈を極めていたころ。
その時代において、ここまで繁栄した都市の名など一つしか僕は知りはしない。
「人類史最古にして最大の大都市――『古代王国』」
――とまあ。
正直最終決戦終わって、一体どうしたもんかと思っていた僕。
もしかしてやっとトラブルに巻き込まれることのない平和な日常に戻れるのではないか、そんなことも確かに思ってはいた。思ってはいたのだ。
だが、しかし。
「そう簡単にはいかないってか……」
異世界転移、死からの転生、最終決戦、等々。
色々なことを体験してきた僕だけれど、さすがにタイムスリップだけは初体験でして。
いきなりのSF要素に頬を引きつらせながら、僕は大きく息を吐いた。
☆☆☆
さて久しぶりの独りぼっち。
なんだか物理的どころか時空的にもぼっち極めてる現状、もしかして生まれてきてから一番孤独なんじゃなかろうかと錯覚しそうになるが、とりあえず僕は隠れることから行動を開始した。
というのも――
「……なんだアレ」
魔力を使う必要がない『技能』ならば今の僕でも使えるわけで。
エルザ程とはいかずとも、それなりの高位レベルで気配、魔力を遮断した僕は、咄嗟に近く似合った塔の影へと隠れていた。
塔の影から小さく顔を出し、先ほどまで僕のいた場所(どうやら塔と塔をつなぐ橋の一部だったみたい)にはぞろぞろと空中を飛行する無数の自動人形――オートマタが集い始めており、その異様な光景にゴクリと喉が音を鳴らす。
『……確かに主は我らへここを指定したのだが。各機へと伝達、つい先日転移してきたあの凶暴な子供と同種やもしれん。十分に警戒しながら周囲を捜索せよ』
その言葉に、それら多くのオートマタたちが周囲へと飛び立ってゆく。
けれども僕の視線はその言葉を口にした一体のオートマタへと向いており、その姿に――いや、奴の体から滲み出るその雰囲気に、思わず頬を引きつらせてしまった。
「……おいおい嘘だろ、白夜以上――下手すればギルクラスだぞ、あのオートマタ」
機械仕掛け、と言う言葉がよく似合う男性型オートマタ。
金色の髪に、赤い瞳。その背中からは機械の翼が生えており、
まあ、実際に戦ってあのギルが負けるとは思わない。一対一で戦って全力の白夜なら何とか勝てるかもしれない、と言ったところだろう。
が、少なくともギルを前にして勝負にはなる。
そう思えるほどの圧倒的な力。
少なくとも、今の僕じゃ勝ち目は薄い。……うん、別に勝てないってわけじゃないんだよ? でも勝とうとしたら結構マジバトル勃発しちゃうくらいにはヤバい。体術技幾つか組み合わせて不意でも突かなきゃいけなさそうだし。
そう確信した僕は大きく息を吐いて――
『発見、なるほどここに居たか転移者よ』
――背後から響いた声に、限界まで目を見開いた。
勢い良く背後へと視線を向けると、そこには先ほど視界に映していたオートマタと似たような顔だちをした一体のオートマタの姿があり、その姿に思わず悲鳴を上げそうになる。
「……嘘ん」
『各機へと伝達。β56より伝達、急ぎ終結せよ』
――β56。
その言葉にどうしようもなく嫌な予感を覚えた僕は――直後、己が耳を疑った。
ジジジジ……とノイズ音が響いてそちらへと視線を向けると、そのオートマタの隣の空間に時空の穴が生み出され、その中から目の前のオートマタの同等の力を持つだろうもう一体が現れる。
……いや、それどころじゃない。
ジジ、ジジジ、ジジ、ジ、ジジジ、ジ、ジジジ、ジジ……。
響き渡るノイズの大合唱。
周囲を見渡せばそこら中に同じような時空の穴が生み出されており、その数は五、十、二十、三十……五十を超え、いまだその数は止まる気配を見せやしない。
『推測、気配遮断の使い手か。先日の子供は転移使いだったが、今回は我らに有利やもしれんな。なにせ機械相手に気配を殺したとて意味はない』
いやいやいや、言っとくけど気配察知も極めれば機械相手にも通じるからね? というか僕も結構極めてる方だからそれなりには通じるはずなんだけど……。
言いながら僕を囲むそれらの軍勢を見渡した僕は、大きく引きつった笑みを漏らして口を開く。
「……何体いんだよ、お前らさ」
『我ら主に作られし属型【β】、全百機』
――全、百機。
それはつまり、白夜と同等の化け物を、同時に百体相手にしなけりゃいけないってことでもあり。
「……あれっ、勝ち目どこ行った?」
そう思わず呟いた僕を、一体誰が責められようか。
絶望的な現状、それでも拳を構えて相対した僕に対し、眼前の全百機オートマタは口をそろえてこう告げる。
『転移者、仮名【黒髪】へと問う、我らが【ORIGIN】はいずこへや』
途端、一斉に構えられた奴らの右腕が膨大な熱量を噴射する。
その容赦の欠片もない一斉放射に大きくその場を飛び退ると、同時に先ほどまで僕のいた場所を薙ぎ払ってゆく無数の熱線。
それらは瞬く間に背後の塔を穿ち、融解し、ドロドロとした真っ赤な鉄の塊へと化してゆく。
その威力はさながらギシルが放った光線のようであり、それらが幾本も重ねて放たれたのだ。その威力は全快時の僕の全力魔法攻撃にすら匹敵する……かもしれない。
まあ、いずれにしろ――
「うん、勝てない!」
僕は清々しいまでの現状にそう叫ぶ。
いや、さすがにこれは勝てないって。
今まで覚醒とかなんだとかいろいろしてきたけど、さすがにもう出し切っちゃいましたって。これ以上覚醒できる要素とか頭の中探し回っても皆無だって。
そう言いながら迫り来る光線を回避しながら走り出すと、同時に上空から無数のオートマタが襲い来る。
『断定、貴様は【ORIGIN】を知っている。故に問う、我らが【ORIGIN】はいずこへや』
「知るか! なんだそのオリジンって……ッ!」
言いながら単体で向かってきたオートマタの顔面を蹴り飛ばし、同時に上空を飛行する数体のオートマタを足場に、上空の橋の上へと着地する。
恐らくこいつらの『強み』はその威力。
絶対的な攻撃力、光線による圧倒的な破壊力。
それだけ見れば才能値的にはあの火力馬鹿――久瀬竜馬にすら匹敵する逸材。そんなのが百体も集まっているのだ、こうして素早さだけならこっちに理があるが、それでも……。
「……さすがに、無茶あるよな」
そう笑って、僕を囲うそれらのオートマタを見上げる。
見れば彼らは皆一様に僕へと向かって赤熱する右手を構えており。
『推奨、おとなしく居場所を吐け。さもなくば先日の暴力的な子供と同じ末路へ至るぞ』
その言葉に、思わず眉尻がピクリと跳ねた。
先ほどからちょくちょく聞こえてた単語――『暴力的な子供』。
いやまず間違いなくアイツですよね。あのドMドラゴンですよね。
そう言いたくって言いたくってしょうがなかった僕だけれど――
「……おい、まさかお前ら――」
――末路、と。
その言葉には、いい思い出が全くない。
なにせ、一度その末路とやらに至って死に絶えたのだ。
だからこそ、いい思い出は何もない。
『肯定、あの子供は話を聞かず、どころか我らが主へと暴言を投げた。故にあのような末路へ至ってしかるべき。なればこそ、貴様は我らに――ッ!?』
そこまで言って、眼前のオートマタたちが目を見開いたのが分かった。
見れば先ほどまでとは一転、明らかに怯えたように瞳を揺らし、ダラダラと冷や汗を流し始めるオートマタたち。奴らの視線は皆、僕の体へと注がれており――
「――おい、殺すぞお前ら」
瞬間、溢れ出す膨大な殺気。
魔力が使えない? だから何だと言わんばかりに迸る純然たる【死】の気配を前に、オートマタたちは初めて焦ったように右手を構え直す。
かくしてその右手は再度赤熱を始める。
光線が来る、そう、再び回避せんと身構えた僕は――
「今よ! あんた、早くこっちに来なさいな!」
直後、響いた声と同時に周囲を覆い尽くした煙幕に、思わず目を点にした。
【書籍化決定!】
いつもご愛読ありがとうございます!
突然ですがこの度、主婦の友社のヒーロー文庫様より、この作品の書籍化が決定致しました!
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