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いずれ最強へと至る道   作者: 藍澤 建
竜国編Ⅰ
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影―091 Silver Soul Online

サブタイになってる番外編の方も仕上げましたので、よかったら是非見てください。

向こうの世界でのギンの二つ名、やっと公開です。

 完全復活ッ!!


 ……なんて、そう上手くは行かないもので。

 怪我なんてしてないはずなのに体が鉛のように重い。

 普段通り歩けていないのがありありと分かる。

 頭も普段通り回っていないように感じる。なにせ会いに行ったゼウスにも目を見張られて驚かれたほどだ。

 今の僕は、前とは違う。


 悪い意味でも――いい意味でも。


「人間、一度くらい挫折を味わっとくもんだ」


 今回みたいな復活劇は、往々にして主人公が新たな覚悟を決めて、何故か一回り強くなって帰ってくるというものが多い。

 しかし、別に挫折を乗り越えたからと言って、その挫折した直前のステータスや技術がどうこうなるわけでもない。

 モチベーションは確かに回復するかもしれないが、それも万全とはほど遠い。

 それだけ分かっていて何故そんなことを言うのかと聞かれれば。


「壊れかけた心を修復して、……なんにも変わらないけれど、もう一度だけ歩き出せるから」


 なんにも変わりはしないのだ。

 決意をしても、僕は僕だ。

 知性の化物でなくなっても。

 ただの愚か者と成り果てても。

 それでもやっぱり、僕は僕なのだ。

 やっぱり挫折というのは、辛いものだけれど。しかし、それを乗り越えた先には――まだ見ぬ未来がある。

 現在にはなくとも、未来には成長があるかもしれないし、幸せだって、転がってるかもしれない。

 ならせめて、その幸せまでは歩いていこう。

 これだけ頑張ってきたのだ。

 最後に幸せになれなきゃ、嘘ってもんだ。


「……何故、どうやって! どうやってここまで――ッ」


 何故、彼女がここまで僕のそばを離れたがっているのか、ずっと考えていた。……ついぞ最後まで測りきることは出来なかったその真意ではあれど。


「……僕らって、本当に本音を隠したがる性格してんだな」


 目に見えて体を震わせる白夜。

 僕は弱音ばかりの本音を『知性の化物』という外骨格に隠した。

 恭香は僕に対する本音を『より良い相棒』という姿に隠した。

 そして白夜は――きっと、『裏切り者』という称号の裏に、その本音を隠したのだ。

 ……全く、どいつもこいつもなんでこう、似たり寄ったりな性格をしているのか。

 最高にめんどくさくて。

 最高に扱い辛くて。

 最高に付き合い辛くて。


 ――最高に、僕ららしい。


 心で呟いて、ニッと口の端を吊り上げた。


「こっから先は、隠すのは無しだ。ここはお見合い会場で隠し合い会場なんかじゃないからな」

「……え、まさかとは思うけど今のダジャレ?」

「違います」


 真顔で即答してやると、白夜は肩を震わせた。

 一瞬「え、今ので……?」とは思ったが、やっぱり違ったらしい。


「ほ、本音を隠す、じゃと!? 何を馬鹿馬鹿しい……妾がお主の元を去ったのは本心からじゃ! お主のような平気で死にに行こうとする狂人と共にいるのが嫌になったからじゃ!」

「……本当に、そう思うか?」


 たった一言。

 その心の内から漏れた言葉に、白夜は言葉を詰まらせる。

 平気で死にに行く狂人。

 それを僕と同一視してるのだとすれば、それは大きな間違いだ。


「……なぁ白夜、僕はさ。死ぬのが怖いよ」


 そうだ。僕は、死ぬのが怖いのだ。

 だけど、今まで頑張ってきたことが全て無に帰すことの方が、よっぽど怖いことに気がついた。

 今まで幸せになるために、みんなで平和に暮らすために頑張ってきた。その努力をすべて水に流され、仲間達を殺されること。

 好きな人と、結婚出来なくなること。

 ……そっちの方が、よっぽど怖い。


「……まぁ、色々怖くなった僕は、仕方なくまた歩き出した、って訳だ。色々と諦めろ、白夜」

「……ッ」


 白夜は悔しげに歯を食いしばる。

 しかしその瞳には『諦める』という文字は映っておらず、すぐに嘲笑を浮かべた彼女は。


「だからなんじゃ! 歩き出したってことは、お主が開闢を使う未来は変わらんのじゃろう! ならば妾にとってお主は他人じゃ、主従の関係など消え失せた、ただの他人じゃ!」


 肩で荒い息を吐きながら、そう言い切った。

 彼女の双眸はまっすぐ僕の姿を捉えており、僕が何も言わないことに気を良くしたのだろう。彼女はさらに言葉を重ねた。


「死ぬのが怖かろうと、お主は今まで通り歩いている限りはその【末路】へとたどり着く! 戦って、開闢の能力を使用して、結果無様に死んでゆく! その未来に一体何がある! どんな希望を持てば良いのじゃ!? そんなことなら、お主の隣になど、隣になど――ッ!」

「――白夜」


 ――その名を呼んだ。

 ずっと僕の隣に居続けてくれた、愛しい人の名前を。


「好きな人と結婚出来ないって、結構辛いんだよ。それこそ、挫折くらいはそれだけで乗り越えちゃうくらいにはさ」


 言って口元を緩める。

 僕は、恭香と結婚出来ないのが嫌で、怖くなって、半ば脅されているように歩き出した。

 だからこそ分かるのだ――白夜の、苦しみも。



「なぁ白夜。泣きながら(・・・・・)、そんな嘘言わないでくれよ」



 その頬には、大粒の涙が伝っていた。

 言われて初めて気がついたのか、白夜は焦ったようにその涙を拭ってゆくが、それが途絶えるようなことはない。


「な、なんで……っ! なんでじゃっ!」


 拭ったそばから溢れてくる涙に、彼女は困ったように、焦ったように。そして悲しそうに顔を歪めた。

 好きな人と結婚出来ないのは、辛いもんだ。

 それこそ、どれだけ本音を隠していても、どれだけ本音を押し殺していようとも、たった一瞬でそれらが溢れ出してくるくらいには。


「絶対に死なない、なんて確証のないことなんて言えないけれど、それでも」


 お前が悲しむ姿は、見たくないんだ。

 肩にかついだ花束を彼女の方へと向けると、僕は改めて、この場所へと来た目的を口にした。



「白夜。『彼氏』として、君を奪いに来た」



 主従の関係はもうないけれど。

 だからって、こっちの関係まで壊れることなんて、あるはずもないだろう。




 ☆☆☆




 全能神ゼウスは、つい先程彼に頼まれたことについて、実際に可能かどうか考えていた。


『ゼウスには――――を預かってほしい』

『そして、もしもそうなったら。それを違う世界に送ってほしい。――――そのものが、成長できるような世界に』

『その間に死神ちゃんが保管してるはずの【媒体】を使って――――を作ってくれ。そして――――を――して――』


 その要求を思い出して、ため息を吐いた。


「……私には、考えつかなかった未来」


 それは、ありとあらゆる可能性を知っていたはずの彼女でさえ、あまりにも小さすぎて見落としていた未来の可能性。

 今まで歩いてきた彼の歴史。そのうち一つでも異なっていれば到達できなかったであろう、正しく奇跡としか言いようがないその未来。


「……ギンくんは。ここを目指すって、いうの?」


 ……無謀が過ぎる。

 普通ならばそういうのだろうけれど、生憎と彼は、その未来にまで至る全ての条件を既に満たしていた。

 まるで、ずっと前からこの未来を予期していたかの如く。


「……やっぱり、かなわない、なぁ」


 彼の頭脳にも、彼の隣に立つ、あの少女にも。

 ゼウスにはついぞその未来も、そして彼を元気づけることも出来なかった。

 だからこそ。


「……せめて、頼まれたことくらいは。死ぬ気でやりきる」


 彼に頼まれたことを『二つのこと』を実現するには、全ての神々の力が必要だ。

 いや、もしかしたらそれだけでは足りないかもしれない。彼が率いる執行機関のメンバー、全員の力も借りなければ不可能だ。

 といっても、そこまでの大仕事になるのは主に一つ目のお願いに関してだ。

 二つ目は――彼女ひとりでも、何とかなる。


「――が、成長できる世界」


 ふと、ある言葉が頭に浮かんだ。

 体を離れ、意識だけを異なる世界へと飛ばす。

 それはひどく難しいことだけれど、奇跡が幾つも重なって、その技術を実現出来ている世界線があることを、全知全能の神ゼウスは知っていた。

 その技術の名前こそが――



「Virtual Reality――通称『VR』」



 違う世界に送るのではなく。

 異なる世界の、電子世界そのものに送り込んでしまえばいいのではないかと、ゼウスは考えた。


「……それなら、――をアバターに変えて、それそのものを成長させることが出来る」


 全ての条件が満たせるその方法。

 ゼウスはスッと右手を横に払うと、それと同時に彼女の周囲へと透明なウィンドウの数々、そしていくつものキーボードが現れた。


「……決めた。ギンくん、君から預かったものは、異世界のVRMMO、その世界の中へと送ることにする」


 それにはまず、それ専用のゲームを作らなければならない。

 それも、多くの者達がプレイするものだ。

 簡単に彼から預かったものがバレないようにするためにも、かなりのクオリティ、かなりの人気を誇るものにしなければならない。

 故にゼウスは――自分でそのゲームを、作ることにした。


「世界構成としては、珍しい『階層世界』に。それぞれ、東西南北のボスと、階層ボスを倒したら次の階層に行ける。……全階層は、後で設定するとして」


 ――問題は名前だった。

 ありふれているのは、やはり三文字で省略して読めるような英語表記の名称だ。

 彼のために作るゲームだから……ギンから、G?

 いや――Silverから、Sにしようか。

 そして二つ目は――そうだ。アレにしよう。

 そうして出来上がった名前は、ゼウスにとっても満足のいくほどにしっくりと来るゲーム名で。



「――Silver Soul Online」



 通称――SSO。

 ゼウスは満足げに微笑むと。


「……ギンくん。楽しんでくれるかな」


 その未来は、本来辿ってはいけない未来。

 最悪の、下らない【末路】に至った未来。

 けれどこれは、それで全てを終わらせないための選択肢。

 その末路の先に続く。



 彼の物語が――終わらないための、物語。



まぁ、詳しくはご想像にお任せします。

前回最後のギンのお願いがギルだったり、番外編だったり、そこら辺に色々関係してきます。

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