影―092 影神VS時空神
予想以上に長引きましたが、次回で白夜編は決着です。次々回が後日談的な何かですね。
※まだ竜国編の前半です。
「……嫌じゃ」
目を見開き、肩を震わせた彼女だったけれど。
すぐに顔を俯かせ、その答えを導き出した。
「……そんなッ、そんな甘言に惑わされるとでも思うたか!? 妾はっ、妾は本心からここにいる! じゃから――」
「だから言ってるだろ、奪いに来た、って」
彼女が本音を口にしないことなど、分かっていた。
おそらく、ここまで至るのに多くの覚悟をしてきた事だろう。
様々な苦痛を背負って、それでも進んできたのだろう。
そんな奴に、説得なんて通じるとは思ってない。
逆に説得するだなんて、覚悟を決めた者への侮辱行為だとすら思っている。
だから僕は迎えに来たわけじゃない。
――奪いに来たのだ。
「お互いにけっこう消耗してるみたいだし、この方法の方が簡単でいいだろう? 本気でやり合って、勝った奴が好きにできる。僕が勝てばお前を強引に連れて帰る。お前の本音かどうかもわからない意思なんて知ったことか。それが嫌なら、殺す気で僕を叩き潰せ。二度と立ち上がれなくなるくらいにまで」
酷いことを言ってる自覚はある。
今まで多くの苦痛を背負ってきた彼女に、よりにもよって僕を殴れと、立ち上がれなくなるまで叩き潰せと。そう言っているのだ。
――けれど。
「それくらいの覚悟、もう出来てるんだろ?」
言って、体を影神のソレへと変化させ、左手へと月蝕を呼び出した。
「……あの力は、使わんのか」
「『血濡れの罪業』、か?」
あの能力は……正直、使えないというのが現状だ。
まぁ、白夜を相手にするとか、使いたいのはやまやまなんだけど。
『今のご主人様は、自身で思っている以上に消耗してます。恭香さんのお陰で立ち直れたとはいえ、まだ精神的に落ち着いていない状態。現状で聖獣化二つに、さらには私の力や、悪鬼羅刹の力まで使えばどうなるか……』
『言い難いようだから言ってやろうか? 暴走して一瞬でバァンだ』
『!?』
わざわざ伏せたところをクロエに言われてショックでも受けたのだろうか、ウルがなんとも言えない声を上げた。
とまぁ、そういう訳だ。
タダでさえなんとかギリギリのところで使用できていたあの力、流石に今の精神状態じゃ制御できない、って訳だ。
今この瞬間に混沌でも襲いかかってきたらまず間違いなく死確定なわけだが……、まぁ、それよりも先に白夜を奪う。そしたらきっとこの精神状態も治るだろう。
「言っとくけど、お前なんてあの技無しで十分だからね。あんまり思い上がるなよドM変態野郎」
「……」
少しだけ本性が出てしまったのだろう。体を震わせ、頬を赤らめた白夜だったが、すぐにキッと口を真一文字に結んで僕を睨み据えた。
「後悔することになる。そう言っても使わぬつもりか」
「あぁ、使わない」
というか使えない。
言って油断なく両の剣を構えると、白夜はため息一つ。
「『時空神』」
白銀色の光が瞬き、彼女の姿が時空神のソレへと変わる。
三年間、幾度となく戦ってきた。
お互い、相手の実力は完全に把握しきっている。
多分、自分のことよりも相手のことが、分かっている。
「……さて、やるか」
「……これで、全てを終わらせるのじゃ」
お互いの体から魔力が溢れ出す。
最初は混沌たちと戦って終わりにするつもりだったのに、いつの間にかこんな厄介な相手と戦うことになっている。
もしかしたら、これも混沌の思惑通りなのかもしれない。
だとしたら、あっぱれだと褒めてやろう。まんまとその思惑通りに行ったのだから。
だけど。
――なぁ、混沌。多分最初で最後のお願いになるとは思うけど、僕達の戦いは、もうちょっとだけ待ってくれないか。
一生のお願い。
これほどまでに残しておいてよかった、と思うものもなかなか無いのではなかろうか。
「さて、伝えろよメフィスト」
相手側じゃ、お前しか僕の心読めないんだから。
「恭香、これ預かっといてくれ! なんとなく雰囲気で持ってきただけの奴だから!」
「ええっ!?」
原始魔法でテキトーに作り上げたシスター服を纏った彼女は、投げ捨てたバラの花束をわたわたとしながらなんとかキャッチする。どうしよう可愛い。
思わず頬を緩めながらも、空いた右手へと神剣シルズオーバーを召喚し、握りしめる。
挫折してから、初めての戦闘だ。
体は重いし、精神状態もあまり良くない。
――まぁ、控えめに言わなくても絶不調。
だけど。
「何でだろうな。負ける気がしない」
今までになく、心に熱い炎が燈っているのを感じていた。
☆☆☆
「ハッ!」
膨大な魔力を両の短剣へ流し込む。
左の短剣からは血色のオーラが吹き上がり、右の短剣からは白銀色のオーラが立ち上る。
まずは現状確認だ。
太陽眼が普段よりも充血していることからも、多分彼女はついさっき『時間停止』を使ったのだろうと思われる。それも数回か、あるいは限界を超えた一回か。
そのため、あの厄介な技はしばらく発動できないだろう。Lv.4の太陽眼でこれ以上時間を止め続ければ失明の恐れがある。僕の回復力上、あれ一回で僕を倒しきることなど不可能。なれば、僕を倒さねばならない彼女としても、戦闘中に切り札を失うような真似はまず出来ない。
なればこそ、そこに勝機が存在する。
「――『絶歩』」
直後、体を深く沈みこませた僕が白夜の懐へと入り込む。
目を見開く白夜。
僕は普段から、あまりこの技を使わない。
たしかに見破られ辛いこの技だが、高位の魔眼持ちや、一部の化物たちには通じない可能性が出てくるからだ。
だからこそ、なんの疲れも出ていない太陽眼に向かってこの技を発動することなどまず有り得ないのだが――
「そっちもなかなか、消耗してるみたいだしなッ!」
直後、銀炎に包まれた右腕が『ヌァザの神腕』へと変換され、シルズオーバーを握ったまま掌底の構えをとる。
シルズオーバーで切り込むよりも、恐らく体の内部にダメージを与えた方が白夜相手には効果的だ。
そう分かっていたが故に取った行動だし、数度、実際にソレをやられてシャレにならないと分かっていた白夜は、本気でその一撃を躱しに入るだろう。
「くっ、『テレポート』!」
目の前から白夜の姿が掻き消え、打ち込んだ掌底は空を切った。
そしてその直後、バランスを崩した僕へと襲いかかった、凶暴な殺気。
三百六十度、全てを見渡せる月光眼は捉えていた。白銀の時空剣を周囲に浮かせながら僕の背中へと襲いかかってくる、白夜の姿が。
彼女の瞳を除きこめば、その瞳には『困惑』と『警戒』の色が混じっていた。
それもそうだろう、僕がこんなわかりやすい隙を――
「作るはずが――ないだろう?」
直後、彼女の周囲を浮いていた時空剣のうち一つと、僕の体が入れ替わる。
――位置変換。
連発するのがきついため、普段は回避専門に使わせて貰っているこの能力だが――本領は、攻撃だ。
「『暗殺』」
右手に握る神剣シルズオーバーの柄を、ぎゅっと握りしめる。
真下には僕の存在に気が付き、目を見開いてこちらを見上げる白夜の姿があり、その背中へと、その剣を振り下ろす――!
ガキィィンッ!!
しかし、響き渡るは金属音。
振り下ろしたはずのシルズオーバーは白夜の背後に浮かんでいた黒色の輪に弾かれ、その反動によって少しだけ体勢を崩しながら離れた場所に着地する。
――瞬間、目の前へと迫る無数の時空剣。
「その輪っか、そんな使い道あったのかよ――ッ!」
あれだけのタイミングだったにも関わらず、攻撃を防ぎ、さらには咄嗟に反撃してきたその戦闘の才能に、思わず苦笑いせずにはいられない。ついでに攻撃の防ぎ方にも。
左眼に送った魔力が月の眼へと白銀色の光を灯し、一気に視界がスローモーションへとなる中、両手に握った短剣が血色の魔力を吹き出した。
「野性解放――20%ッ!」
野性がその頭角を表し、体中に力が満ちてゆく。
知性の化物を捨てたことにより、野性の力をより苦労することなく汲み上げることができるようになったのか、二割でもまだ少し余裕が感じられた。
その上『野性』そのものがこの戦いには乗り気なのだろう、今回に関しては体を蝕む感覚が一切と言っていいほどに感じられない。
「ハァッ!」
全てを貫通し、相手の肉体のみを傷つけるその時空剣。
それを僕は――叩き斬った。
――魔法破壊。
月光眼、そして超直感をフル活用し、魔法の核となる部分そのものを叩き斬る技術。つい最近まではこの時空剣を斬るのもかなり難しかったが、サタン戦において覚醒し、Lv.5へと成った月光眼は――思った以上に使い勝手がいい。
向かってくる時空剣の数――合わせて十五。
今切り裂き、魔力となって霧散していった剣を鑑みると、残り十四か。
これを全て短剣で叩き斬るとなるとかなり面倒くさい。と言うかそんなことをすれば隙が出来てしまう。
――ならば。
「忘れがちだけど、これでも僕って後衛なんだよな」
左手の月蝕を変換して指を鳴らす。
直後、代わりに現れたのは巨大な黒の十字杖。
そしてそれと同時に僕の背後へと召喚された、時空剣と同じく十四の渦動魔法陣。
「『破魔の銀槍』」
魔法陣の中より現れるのはそれぞれ銀色の炎、氷、雷。
それらが徐々にダークレッドへと染まってゆき、銀色と血色の二色構成へと変化してゆく。
「行けッ」
十字杖を振り下ろすと同時、それら十四の槍は時空神目掛けて突き進んでゆく。
目指す先は寸分違わず――魔法の核。
パアンッ、と。
衝突した時空神と槍は小さな爆発を起こして魔力へと消えてゆき、それが連続して十四回、耳朶を打った。
爆発により砂煙が舞い上がり、僕からは白夜の姿が、白夜からは僕の姿が視認できなくなる。
恭香は……逃げたみたいだな。流石にこんなにガチバトル繰り広げてる中、か弱い(笑)幼女が生存していられるはずもない。
「……さて、僕相手に魔法を放つなんて馬鹿げたことをしてくれたわけだけれど」
右手の神剣シルズオーバーを返還すると、左手に握った十字杖を右手に持ち直す。
この状態、このタイミング。
魔法を放ち、全く効かなかったのならば。
……もしかして、もしかしたら彼女は――
『ヴオアアアアアアアアアアアアアッッ!!』
天地を震わす咆哮が轟き、煙の向こう側から巨大な爪が僕めがけて振るわれた。
「常闇ッ」
言葉に応じ、僕を包み込むように常闇の黒色透明な手が召喚されるが、その爪はその手越しに僕をぶん殴る。
思わず歯の隙間から呻き声が漏れ――直後、耐えきれなくなった僕は勢いよく教会の壁を突き破り、外にまで吹き飛ばされてゆく。
「くっ――そ! 教会の中で竜化とか、まさかとは思ったけど頭イカれてんだろうが!」
地面に十字杖を突き立ててなんとか勢いを殺し、その飛び出してきたばかりの教会へと視線を向ける。
そこには、教会の屋根を突き破って姿を現す白銀竜の姿があり、かなり金かかったんだろうなって教会は跡形もなく吹き飛ばされていた。
「あー……これは、竜王ブチ切れるんじゃないのか」
アイツら相手にして生きてたら、の話だけど。
言いながら十字杖を返還すると、パンッと両手で合掌した。
「行くぞクロエ! 白夜が相手だ、手なんて抜いてたら一瞬で殺されるぞ!」
『殺されやしねぇと思うが概ね同感だ! フルパワーで行くからしっかり制御しろよ!』
クロエの声が脳内に響き、体の中から膨大な白銀色の魔力が溢れ出してくる。
体からチリチリと銀炎が吹き上がり、周囲の大地がピキピキと音を立てて銀色に凍りつき、バチバチと体中が帯電を始める。
馬鹿みたいに溢れ出してくる魔力に口の端を吊り上げると。
「行くぞ!『聖獣化』ッ!」
周囲へと白銀色のオーラが迸り、その中から巨大な白虎と化した僕が姿を現した。
次回、ギンと白夜




