影―087 世界竜(娘)
高校卒業してからぼっちデビューした作者。
『なんで高校卒業したのにまだ学園祭なるものがあるんだよ』という考えの元、学園祭抜け出してラーメン食べてきました。
結論、札幌のラーメンは美味しい。
光が止んだ先に立っていたのは、黒色の鎧に身を包んだマックスと、赤い糸のついた巨大な篭手を身につけるオリビアだった。
「……霊器。そうじゃったな、お主らもあの人も、霊器とやらは買い取ったのじゃったな」
白夜は思い出したようにそう呟いた。
けれどその様子からは『危機感』というものは一切感じられず、二人が霊器を使ってもまだ余裕がある事実を如実に表していた。
それには二人も苦笑を隠すことは出来なかったのか、口元に乾いた笑みを浮かべた。
「……これでも、まだ勝機が見えてこないって。どんだけ成長してんだよこいつは……」
「少しだけ、自信なくすのです……」
言って二人は――ニヤリと、頬を吊り上げた。
その様子に反応を示す白夜。
その様子は先程までの苦笑とは違う――何らかの、希望を見出している笑みだ。
しかもその希望を載せた作戦が今も進んでいるということの証明。彼女は太陽眼にさらなる魔力を送り込み、周囲へと僅かな変化も見逃さないようにと視線を向ける。
けれど周囲にはそれらしい危険は見当たらず。
「……は?」
ガクリと、膝が崩れた。
目を見開いて視線を下ろせば、そこにはカタカタと震える自らの足が存在しており、白夜はその正体に一瞬で考え至った。
「くっ、毒か!」
バリイイインッ!
背後へと振り払った魔力を帯びた腕が少し離れた窓ガラスを壁ごと叩き壊し、室内の空気が外へと逃げてゆく。
そしてそれを見て、残念そうに声を漏らすはネイルだ。
「き、気付かれるの、早すぎじゃないですか?」
蛇神メデューサ。
その本領は、吸血鬼すら『頭おかしい』と声を揃えて言うだろう圧倒的な不死力と、神に至ったドラゴンにさえ通じる程の猛毒を作り上げることにある。
しかも毒生成に関してはかなりの自由度を誇り、例えば。
『人外にのみ通じる、常温で気化する麻痺毒』
などと言ったものも作り上げることが出来るのだ。
白夜が気化した毒を取り込んでいたのはほんの数秒。外壁を壊された今、もう毒ガスの効果など望むことも出来ないだろうし、かと言って今の毒だけで彼女の動きを完全に封じこめるという訳でもない。
だか、それはあくまでも『完全に』、という話だ。
「行きます!『女神装甲』!」
ネイルという保護対象が役割を果たしたことで自由に動けるようになったアイギスが『女神装甲』を使用する。
ガダッと踏みしめた足が地を砕き、盾殴打の構えのまま白夜目掛けて突撃してゆく。
「くっ!」
先程までと比べて精彩に欠ける動きでなんとかその一撃を躱した白夜だったが、すぐにその回避した先を飛び退いた。
――シュンッ!
直後、数瞬前まで白夜がいた空間を、目に見えぬ何かが切り裂いた。
「……糸攻撃、なかなかに厄介な攻撃じゃな――ッ」
振り返り、腕を薙ぎ払う。
その先には体に闇を纏い、神剣を振りかぶったマックスが存在しており、竜と化した腕の表面に存在する竜鱗が、振り下ろされたマックスの神剣を受け止める。
「うおっ……、この霊装、気配隠蔽の能力もあるんだが――なっ!」
鍔迫り合いの状態からその腕を跳ねあげ、流れるような動きで白夜へと袈裟斬りを放つ――!
だが、そこには白夜の姿はなく、少し離れた安全な場所から彼女の気配が現れた。
「……そういやテレポートの能力もあったな」
今のは時間停止と言うよりは――正しく瞬間移動。
ギンの位置変換よりもある意味使い易い、時空間魔法が誇る代名詞である。
振り返ると、白夜は苛立たしげに歯を食いしばり、怒気を孕めて叫びをあげる。
「……何故、何故そこまでして妾に執着する!? 勝ち目など、あるはずがないと分かっているであろう!」
彼女の願いは――ギンが生き続けること。
その先に幸せがなかったとしても、自分の姿がなかったとしても、彼が生き続けてくれれば、それでいい。
故に、自分が犠牲になることで彼の心を壊し、勝ち目の見えない混沌の元へと下るように促した。それこそ、その真意を誰にも悟らせることなく、だ。
ここまでは上手くいっていたのだ。
けれど、その未来を邪魔する者達が現れた。
「もう妾に構うな! 妾はあの人の元を去った、自らの意思で、じゃ! なれば貴様らにどうこう言われる筋合いは――」
ないじゃろうが。
そう叫ぼうとした白夜に、エロースが叫んだ。
「あるよ! 大ありだよっ!」
彼女の目尻には大粒の涙が浮かんでおり、それを羽衣で拭ったエロースは怒ったように、
「私には難しいこと分からないけどっ、それでも白夜ちゃんが好きでそうしてるわけじゃないってことくらい分かるよ! それに……白夜ちゃんがいなかったら、親友くんが悲しむ!」
「……ッ」
その言葉は単純だった。
故に、核心を射ていた。
咄嗟に言葉を失った白夜。それはその言葉が正しかったということでもあり、彼女自身、それを自覚してしまったが故に。
「……もう、言葉で分からせるのは無理そうじゃな」
話すことを――止めた。
それを認めないという自らの意思を、行動で示そうとしたのだ。
彼女の体から膨大な魔力が迸り、そして――
「やぁやぁ、何故か仲間内で争っている愚かな友人達よ! 買い物に来たはいいが道に迷ったので教えていただけたりしちゃったりせぬか!」
「「「……あれっ?」」」
入口の方から聞き覚えのある声が聞こえてきて、皆は緊迫したシリアス空気を忘れて振り返る。
そこには紫髪ポニーテールの少女がネギの刺さった袋を手にして立っており、呆然と自身の方を見つめる彼女らを見て、その少女は、
「とりあえずお久しぶりと言っておこうか! 私の名前は伽月! 今現在進行形で『ハネムーンなう』な六歳児だ!」
そこに居たのは、本来ならばレオンの元に向かう予定だった、迷子の伽月であった。
☆☆☆
それは、一応ミリーたちの援軍と言ってもいい存在だった。
けれど、それは援軍と呼ぶにはあまりにも――
「ぷぎゃー! 超絶面白い(笑)展開ですな! あの主殿loveな白夜殿が主殿を裏切るとか……プークスクスっ、こ、これは傑作! しかも白夜殿を取り返しに来たはいいけれど主殿不在で望み薄とか……っ! も、もう腹がよじれそうで……ぷぎゃー!」
――厄介すぎたのだ。
『ぷぎゃー』と、個性的極まりない笑い声をあげる伽月に、白夜たちの心の中は一致していた。
(((ぶん殴って黙らしたい……)))
白夜VSその他という現状の中、彼女らは心の中で伽月VSその他という構図を作りかけてしまっていた。
しかしすぐに笑みを止めた伽月は、目尻に溜まった涙を拭いながら疑問を投げかけた。
「し、しかし……、白夜殿が抜けるとなると、『最も尊敬する人は?』と聞かれたら即答できるほどに敬愛している主殿の負担はとてつもないのではあるまいか?」
「……そんなものは知らぬのじゃ。あの人が妾の脱退に何を思おうと、妾には関係の無い話――」
「だなんて、嘘は良くないでありますぞ」
被せるように発せられたその言葉には、確かな怒気が含まれていた。
それを聞いた彼女らは驚いたように目を見開き、直後に、先程の様子から一転した伽月の言葉を耳にした。
「我ら従魔、そして眷属、仲間達は、大なり小なり、あの方に恩を感じながら生き続けてきたのだ。恭香殿は退屈な神界から連れ出してくれた恩。輝夜殿は迷宮に縛られていたところを救ってくれた恩。レオンは卵の状態で封印されていたのを孵化させてもらった恩。オリビア殿や、マックス殿、アイギス殿は監視という名目でこそあれ、世界中を見て回る機会を得た恩。とりあえず数名挙げただけでもこれだけの恩があり、その中でもとりわけ、白夜殿とソフィア殿が感じている恩は大きいはずなのだ」
伽月は白夜を睨みつけるように視線を送ると。
淡々と、その事実を突き付けた。
「死から、命を救ってくれた恩」
その言葉に、白夜は微かに顔を歪めた。
けれど彼女が何か言うことはなく、伽月は疲れたようにため息を吐いた。
「本当は、買い物するだけの予定だったのだが……、これは致し方なしといったかんじでありますかな」
言って拳を構えた伽月。
その拳からは紫色の炎が立ち上がり、
「私は堪え性がありませぬ故。一体何を考えてそうしているのか、なるべく早く話してくださらなければ――数分と経たずに、本気でやりあうことになりまするぞ」
あとは伽月VS白夜と、ド変態VS糞竜王をやって、多分ギンサイドに戻ります。




