影―071 完全無欠
今回は戦闘シーンにけっこう話数をかけようかと考えてます。
『強いのかわからない!』というキャラが何名かいると思いますので。
僕には一人――親友がいる。
久瀬?
はっはっは、あれはただの知り合いだ。
ならば誰かって聞かれたら……まぁ。
『君は――馬鹿だな』
ふと、そんな言葉が頭を過ぎる。
『出会った頃は、私以上の天才だと、そう疑って止まなかったが、けれども君は馬鹿も馬鹿、大馬鹿者だ』
彼女は少し怒ったように、そう言った。
たしか、これは僕が少し無茶をした時のことだったろうか? ……そうだった、穂花に絡んでいたあのギャル達のバックにいたヤクザたち。アイツらとドンパチやった時の、帰り道だったはずだ。
夕焼け色に染まる空。
逆光で彼女の顔はよく見えなかったが、怒っていたことだけは確かだったように思える。
『効率的だ、非効率的だと世間を罵っていたはずだが、それが自分に関係あることとなると、途端に知性が消えて、野生が表に出てしまう。今回だって私が間に合ったから良かったものを――』
たしかに今回は、僕の単独行動に気がついた彼女が、対軍用破壊兵器を持ち出してこなければ危なかった。だけど、それを素直に認めるのも小っ恥ずかしかった僕は、それに対して『はいはい』とテキトーに相槌を打つと、それを聞いた彼女はさらに怒ったように声を上げた。
『君はっ……君は、そのままだといつか死ぬぞ!? その身を犠牲にするなど馬鹿げている! 自己犠牲の精神もそこまで行くと――ッッ!?』
そういった所で、彼女は目を見開いて固まった。
彼女は一体、何を見たのだろうか。
きっと僕を見ていたのだろう。けれども彼女は僕の何を見て、そう驚いたのか。
――まぁ、その答えも今からすれば、明確だ。
『自分の命と、お前の命。どちらかが犠牲になって、どちらかが助かるのだとすれば。僕は迷うことなくこの身を捨てる』
それは――狂気。
とびっきりの、子供の頃から作り上げられたその狂気。
自分より他人の方が大切だ、なんてのは偽善だろうし、それを何のためらいもなく言ってのける僕は偽善者だったかもしれない。
けれど、僕は思うのだ。
『この世界に、友達の命ほど、重いものなんてないんだよ』
家族にも心を開けず。
先生にも心を開けず。
そんな僕の心を開いたのは――彼女だった。
友達だった。
だからこそ、僕はそう言い切ったし、彼女は疲れたように、それでいて少しだけ嬉しそうに。
『君は、そういう男だったな』
そう、呟いたのだった。
☆☆☆
「さて、こっちもやるか」
僕はそう呟くと、周囲へと視線を巡らせた。
白夜と輝夜はもう完全に復活しており、それぞれ面白そうに顔を歪めている。大方仲間と腕試しを出来る理由ができて喜んでいるのだろう。
僕としても、やっぱり白夜と輝夜、二人を同時に相手するのは骨が折れる。なるべくしたくない。
相手側の戦力は、白夜、輝夜、暁穂、藍月、浦町、エロース、そしてソフィアだ。
対してこちらの仲間(仮)は、恭香、オリビア、マックス、アイギスに、どこかに隠れてるんだろうミリー。
そして――
「ゼロ、アイク、ユイ! そいつらとは戦うな!」
僕の言葉に、驚いたように僕の方へと振り返る三人。
彼女らの相対していた相手は――浦町、エロース、ソフィアの三人だ。あのバケモノ三人の相手――流石に天魔族と言えどもキツすぎる。
「恭香、とりあえず白夜、止められるか?」
『無謀にも程があるんだけど……』
そうは言うけれど、それができるだけの力があるだろうが。
そう考えると同時に彼女は本の状態から人型へと姿を変える。
「オリビア、お前はソフィアの相手を頼む。お前以外じゃ相手にもならなさそうだしな」
「はいです! 分かったのです!」
そう言ってオリビアがソフィア目掛けて走り出してゆき、それを見送った僕は、マックスとアイギスへと視線を向けた。
「二人は両サイドで暴れてる怪獣二人を頼みたい」
そう言って両サイドへと視線を向けると、片や鬼たちを蹂躙している白銀色のペガサスが。片や正しく怪獣大決戦をしている暁穂の姿があった。
騎士組とはいえ、彼らも成長している。今の二人になら暁穂たちの相手も務まるだろう。
「ゼロ! お前らはあそこの鎌持ってる金髪を相手に頼む! あのバカがアスモデウス殺すまで持たせればいいから!」
これは賭けにも近い。
彼女らがこの三年でどれだけ強くなっているのかは完全なる未知。天魔族二人に、あのフカシの実の妹だ。かなり強いだろうとは思っているが――まず間違いなく、輝夜には届かない。
だから『勝て』とは言わない。僕は『持たせろ』と言ったのだ。こう言えばゼロのことだ、ムキになってしまうかもしれないが――まぁ、ムキになって勝てるならそれはそれで問題ない。
そして最後に――
「僕は、あの二人を相手する」
僕はニヤリと笑みを浮かべて、その二人へと視線を向けた。
確かに、強さだけでいえば白夜や輝夜がトップだろうと考える。
だが――
「多分、あの厄介を倒せるのは僕だけだろう」
その視線の先にはニヤリと笑みを浮かべる彼女が立っており、その隣にはエロースが浮遊していた。
「やはり来たか」
そりゃ来るさ。
なにせ、コイツの厄介さは、僕が一番知っているのだから。
「よく言うだろう? お前を倒せるのは――僕だけだ、って」
「……はぁ、買い被られたものだ」
買い被り……ねぇ?
果たして自分と同じかそれ以上に頭が良く、人の考えていることを覗き見できて、更には未来さえ見通せる相手を「格下」だなんて思えないが。
それに――今回に至っては世界神様まで一緒ときた。
「本当なら、どっちか片方だけでも十分なんだけどな」
運が良かったのは両方が後衛だということくらいだろうか。
だがしかし、この二人が近接戦闘も得意としていることは百も承知している。つまりは二人とも、後衛だからといって近接戦闘に持ち込めばそれで終わり、というわけには行かないのだ。
僕はフゥと息を吐くと、右手に月蝕を、そして左手に神剣シルズオーバーを握りしめると――
「『悪鬼羅刹』」
瞬間、僕の身体中を紅蓮色の鎧が多い尽くした。
生憎と、今手元にはあの三人はいない。故に、血濡れの罪業や聖獣化なんかは使えない。それはステータスの低い僕からしたらかなりのデメリットなわけなのだが――だからといって、易々と手を引くわけにも行かないのだ。
僕はスッとその二つの剣を構えると、血色と銀色の軌跡が空中に映し出される。
そんな中、僕はその瞳を爛々と輝かせると――
「さて、タバコ野郎にばっかりいい所待っていかれるのも癪なんでな。行くぞ浦町、エロース。本気で行くから――」
――間違えて、死んだりするなよ?
その言葉と同時に、僕は大地を蹴って走り出した。
☆☆☆
「ハァァッ!」
「うっ、くぅぅぅ……」
僕の一撃をエロースが防いでみせた。
神剣の方で切りつけたはずだが――見れば、彼女の手には魔力によって召喚された『神弓』が握られており、それを両手で剣のように握って防いでいたのだ。確かに弓ならば刀身がないため、剣ならば刀身であろう場所を触っても何ら問題がないのか――っと。
ダダダダタッ!!
僕のいた場所へと無数の弾丸が襲来し、僕はガキィンッといくつかの弾丸を防ぎながらも何とかその場から退避する。
そして――その回避した先で、僕を中心として巨大な魔法陣が展開された。
――未来予測。
完全無欠なる彼女が得意とする未来読み、そしてもう一つの能力――孔明の陣。
恐らくは戦闘中、エロースが珍しくも外した弓を起点として発動したのだろうが――さすがは浦町、この戦闘中、偶然の一打をうまく使用して魔法陣を書き上げるとは……。天才もいいところである。
僕はそう感心しながらも。
「『位置変換』」
瞬間、エロースと僕の姿が入れ替わり、そして――
「発動・『強化の陣』」
その言葉に、目を見開いた。
彼女のその能力は、それぞれの陣にそれぞれの効果があり、魔法陣の能力を変えたい場合はまた一から魔法陣を組み立てなければならない。
つまりは――
「最初から、こうすれば君はエロースと位置を変えるだろうと、わかっていたさ」
瞬間、僕の背後から声が聞こえ――僕は、咄嗟にその短剣を背後へと突き刺した。
だが――
「残念、外れだ」
その突きを、いとも簡単に受け流した彼女。
彼女の口元には笑みが浮かんでおり、その視線の先には――こちらへと弓を構える、エロースの姿が。
カチリ。
僕の後頭部に銃口が突きつけらる。
「……おかしいな。浦町、お前は『自らの意思』じゃないと思ってたんだが……」
自らの意思でなく、あくまでもアスモデウスに操られているだけ、だったのならば未来予測なんて高等技術、彼女と同じレベルまで使いこなせるはずもない。
つまりは、この女。
「君とは、ずっと仲間だったからな。たまにはこうして手を合わせてみるのもまた一興、というやつだ」
だからこそ本気で殺りに行く。そう彼女は呟いて。
「あくまでも遊戯だ。油断して死んでくれるなよ?」
どこかで言った覚えのある言葉とともに、僕の鼓膜を銃声が突き抜けた。




