影―070 世代最強
なろうの他作品を見てると、みんな面白い上に文才あって、かなり自信なくしますね。
「端的に言えば、借りを返しに来たぞ天才野郎」
そう、彼――フカシは言い放った。
彼はニヤリと笑うとリリーへと手を伸ばし――たった一言、こう言った、
「『ド根性』」
バチチッ!
瞬間、彼女の体の周囲に火花が散り、次の瞬間、リリーがペタンとへたり込むと同時に、フカシが何か目に見えないものを握りつぶした。
「ほい、と。とりあえずこの嬢ちゃんの支配は握り潰しておいたぜ? ド根性さえありゃ何でもできる、ってな」
そう言って彼はバルコニーから飛び降りた。
そこにいるだけで伝わってくる――その、僕らとは格が違うと言わざるを得ないほどの戦闘技術。恐らくメフィストの剣術よりも、さらに上を言っているのではないかと思われる。
たしかこの男――進化という道を失い、成長速度も半減していたはずなのだが……、道が険しければ険しいほどに、大きな成長が待っているって事だろうか。
「はぁ……、久瀬も、凛ちゃんも、ビックリするくらいに強くなっていたけど……。やっぱコイツは、別格みたいだな」
薄々感づいてはいたのだ。
この男こそが僕らの世代の最強なのだろう、と。
僕はステータスが低いという欠点を持ち。
久瀬は精神的に若すぎるという欠点を持ち。
けれどもこの男は――欠点らしき欠点が見当たらない。
ステータスは高く、それに見合う以上の技術を身につけ、精神的にも僕程ではなくとも十分に成熟している。
僕がチートで補っているように、久瀬が仲間で補っているように、補うべき所が全くと言っていいほどに見当たらない。
その上、僕よりも若く、発展途上ときた。
これ程の逸材、恐らくは数千、数万年と待っても現れやしないだろう。彼が僕と同じ年になるまで研鑽を続けたら、とそう考えたら……、もしかしたら、その牙は混沌にさえ届くのかもしれない。そう思えてしまうのが驚きだ。
「まぁ、まだ僕の方が強いけどな?」
「あァ? ぶん殴るぞ天才野郎」
負け惜しみとばかりにそう言ってやると、薄々その事実には気がついていたのか額に青筋を浮かべるフカシ。フッ、僕と比べたらまだまだケツの青いガキって事だ。
そう考えていると、フカシのことを見たソフィアが目を見開き、「あぁぁぁぁーーっ!!」と声を上げた。
「きき、貴様ッ! 余をボコした奴ではないか!」
……余をボコした?
その言葉にフカシも僕と同じくソフィアの方へと視線を向けると――何故だろうか、彼は一発でソフィアの正体――旧ケリュネイア、現ヴァルトネイアに行き着いた。
……のだが、
「ん? もしかしてあの時ボコった鹿か? あの時は異能封じの角欲しくて襲ったんだが……、一本くれねぇか?」
「嫌じゃ! 絶っっっ対に嫌じゃ!」
その言葉を聞いて、僕はあの世界について思い出した。
ソフィア――かつてただのケリュネイアだった彼女が生み出した、意味不明なもう一つの世界。
そこで彼女は――重傷を負っていたのだ。
あの時は異能を封じられる彼女をここまでボコれる奴に心底恐怖したものだが(もしかしたらしてなかったかも)、その相手がこの異能封じを受けてもその異能そのものがほとんど無いフカシだと考えると……まぁ、辻褄は合うのかもしれない。
――と、そんなことを考えていると、城壁の外側から膨大な魔力が吹き荒れてきた。
一瞬メフィストか? とも思ったが、どうやら向こうの戦いについてはもう集結――というか、どういう訳か決着が付いたらしい。戦闘音はもう聞こえていないし、かと言ってメフィストを殺ったような感覚も、三人のうち誰かがやられたような感覚もない。察するに痛み分け、という所だろう。
ならば、この魔力は――
「まーだ生きてやがったか、あの白髪姉ちゃん」
フカシは獰猛な笑みを浮かべると、僕の隣を通り過ぎてそのまま城門の向こう側へと歩き出した。
「俺はお前に借りが二つある。一つは命をつなぎとめてくれたこと。そしてもう一つは――俺の地獄を、終わらせたこと」
彼は「これでも俺ァ、義理ってのを大切にする男でな」と呟くと、パンッとその拳を手のひらへと打ち込んで見せた。
「そこの眷属三匹とクソッタレな聖女を救った。ついでにこうして加勢もしたってことで。とりあえず借り、一つは返すぜ?」
「もう、それで二つになるんじゃないか?」
そうは言ってみたものの、多分この男は曲がらない。
「あァ? 俺が一つってんだ。文句なんざ言わせねぇぞ」
すると予想通り、曲がるような姿勢を見せもしないフカシ。
それを見て僕は、深いため息を一つ吐いた。
先ほど、欠点が見当たらないと言ったような気もしたが、ことここに来てこの男の弱点を見つけてしまったようだ。
僕は背後で闘争心を迸らせているその青年から視線を外すと、内心で疲れたように呟いた。
(世代最強は、どうやら大が付く程の頑固屋らしい)
またの名を、脳筋と呼ぶのかもしれないが。
☆☆☆
背後から、戦闘が勃発した音をいくつも聞きながら、アルファは城壁の外に足を踏み出した。
「さて……と。ここに来た目的、三つのうち一つは果たせたっわけだが――」
彼がこの国に――否、正確にはギンの元に来たのには、主に三つの目的があっての事だった。
うち二つは、ギンに対する二つの貸しである。
そのうちの一つはこれで返せたと考えて差し支えないであろうが――あと二つ、片方がギンへのもう一つの貸しとして。
「俺ってよ。大悪魔、ってのとは、まだ戦ったことねぇんだわ」
そう、彼はこれまで、大悪魔という存在と戦ったことがないと。そう思い込んでいた。
実はどこかの哀れな大悪魔を一体狩っている彼ではあるが、彼にとってあの頃のバアルなど――それこそ、そこらの魔物と大差ない雑魚である。
「だからこそ、あの野郎に勝ったっていう大悪魔、サタンって野郎には期待してるんだ」
彼の三つ目の目的。
それは――大悪魔サタンと、戦うこと。
だがしかし、いくら戦いたいと願ったところで、彼にはトラブルメーカーの才能は全くと言っていいほど似なかった。
故に、悪魔らしい悪魔と戦ったのもこの国に来て、戒神衆と邂逅した時が初めてだし――
「けれど、あの程度かと。すこし不安もあるわけだ」
アルファはそう言って思い出す。
相対したのは戒神衆――総勢五十余名。
一体一体がルシファーと互角と言っても差し支えない彼らではあったが――
彼の相手としては――不足が過ぎた。
だからこそ、彼は見極めたいのだ。
黙ってあの男へと借りを返し、いつかあの男へと来るであろうトラブルを待つべきか。
あの男に頼らずに自らの力でサタンを探しだすべきか。
あるいは――
「とっとと借りを返して、あの男と殺りあうか」
個人的には、最後の選択肢が最も魅力的に感じられた。
なにせ彼はあの男と戦い、一度敗北を喫しているのだ。もう一度戦って、勝ちたいに決まっている。
けれども多分――今戦っても、また敗北する。
(あの野郎……ちったァ追いついたかと思ってたが、まだまだ俺より半歩――いや、一歩先を行ってやがる)
だからこそ倒したい。
あの、この自分たちの世代において最強だと、誰もが声を揃えて言うであろうあの知性の怪物を、負かしてやりたい。
(悔しい限りだが……あの男は俺らとは別格だ。ステータスで勝ろうと、数で勝ろうと、アイツが誰かに殺される未来なんざ訪れやしねぇ。確信できる)
声に出してしまえば、きっとあの性格の悪い男のことだ。このネタで暫く弄られ、運が悪ければ更なるあだ名を命名されるような気もしないでもない。
だからこそ、アルファは内心でそう呟くとと同時に、心のどこかで安堵した。
あの男の――好敵手のいない世界なんてつまらない。どれだけ努力しようが、どれだけ力をつけようが、どれだけもう追い抜いているだろうと思っても、決して追いつけない。
――そんな相手。
あの男がいるからこそ、彼はいつまでも『努力』し続けていられるのだ。
逆にあの男が完全な敗北を喫したり、殺されたりなんかした日には――
「……いや、それはないか」
それは無い。そう彼は思い直した。
大悪魔サタンは、戦闘が開始された段階においてはあの男と圧倒的力量差を誇っていたと聞く。けれどもその差は徐々に詰められ――最後には、痛み分けにまで持ち込まれた。
あれだけ力量差があってもなお、殺せないのだ。
そんな殺しても死ななさそうな相手、たとえその大悪魔のボスが相手をしたとしても、殺せるだなんて思えない。
故に、彼は安心してその選択肢を選択できた。
「アイツは誰にも負けやしねぇ。なら、安心してその『痛み分け』ってのして見せた、もうひとりの化物を標的に出来る」
彼の視線の先には、こちらへと殺意の篭った視線を向けてくる白髪姉ちゃんの姿があり、彼はニヤリと笑みを浮かべると――
「さて、標的はお前じゃねぇが、とりあえず、大悪魔っていう存在の強さ、思い知らさせて貰おうか?」
彼はとりあえず、その時まで。
彼の味方として、標的を待ち続けようと心に決めた。
さて、皆さんは誰が世代最強だと思いますか?




