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いずれ最強へと至る道   作者: 藍澤 建
和の国編
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閑話 友の行方

 手に持っていた箸が、指から零れ落ちた。


「…………なぁ、今、なんて言ったんだ?」


 気がつけば僕の体は震えており、唇はカサカサに乾いていた。

 聞きたくない、聞き間違えだと信じたい。

 けれども、僕目の前にいる彼女――ゼウスは。


「ごめん、ギンくん。私がこっちきてる間に――」



 ――アポロンが、殺された。



 その言葉に、僕は何もすることが出来なかった。




 ☆☆☆




 僕は再び、神界へと訪れていた。

 今度は僕一人。

 いつも一緒に来てくれた父も。

 ましてや、いつも出迎えてくれた、友もいない。


「……たしか、あっちだったか」


 僕は迷うことなく、そちらへと歩を進めた。

 ふと、ゼウスの言葉が頭を過ぎる。


『彼女が……その、死んだ、のは、間違いない。……けど、何故か太陽が、消えてない。死神のところにも、魂が来ていない』


 ということは、つまり生きているのだと。

 そう考えることは――出来なかった。

 僕は、その巨大な建造物の前で立ち止まった。

 ここは、あそこの花畑から最も近くに位置する神々の街。その中心部に、彼女の――太陽神の神殿は存在していた。

 周囲を多種多様な神族が闊歩しており、神界に存在する人間――つまりは僕に訝しげな視線を向けてくる。


「……アポロン」


 そう呟くけれど、返事は返ってこない。

 僕は顔を俯かせると――その直後、僕の肩へと手が置かれた。


「――ッッ!」


 もしや、そうなのではないか。

 そう思って振り返った僕だけれど――


「おい貴様、人間だな? なぜ人間がこんな場所にいる? ……しかも太陽神様の神殿の前、ま、まさか貴様がッ!?」


 目の前には――警官だろうか? 紺色の制服に身を包んだ神族が僕の肩を掴んでいた。


「……くだらな」


 それは、誰に向けた言葉だったろう。

 生きているかもと、そう信じた僕に対してか。

 話しかけておいて自己完結しているこの男に対してか。

 あるいは――


「き、貴様ッ! 下らないとはなんだ! 神界に不法侵入した罪で逮捕する! 一緒に来てもらおうか!」


 そう、僕の腕をつかむその男。

 けれども彼は、すぐにその手を離すことになった。



「あるいは――こんなことをした、糞野郎にか」



 瞬間、僕の体から膨大な威圧感が吹き荒れ、この街全体――否、神界そのものを包み込んだ。


「今気が立ってんだ、僕に触れるな、話しかけるな。でなけりゃ……殺すぞ?」


 その言葉に「ひぃ」と悲鳴を上が、尻餅をついたまま後ずさるその神族。

 ……この程度で音を上げるなら、そんな下らない正義感なんて振りかざすなよ。

 そんな下らない正義感を振りかざして傲慢に歩いてんなら……神の一人くらいさ――


 頼むから――救ってやってくれよ。


 気がつけば、僕の周囲を多くの神族が囲んでいた。

 見ればその殆どが紺色の制服に身を包み、中にはそいつらとは別格――おそらくは中級神、そして数人の上級神の姿も目に付いた。


「こんなに暇してんのに、一人も助けられないのか」


 ――失望。

 そんな感覚が良く似合う。

 父さんに、ゼウスに、エロースに、死神ちゃんに、創造神に……アポロンに。僕は強い神々にしか会ってこなかった。

 だからこそ、無意識のうちに神界へと信頼にも似たなにかを抱いていたのかもしれない。

 だけど――


「それも、もう無い」


 神界への信頼は、地へと堕ちた。

 だからどうって訳でもない、やるべき事が変わるでもない。

 ただ、もしも万が一、神界に住む何者かが僕へと敵対してきた場合、その親族が信頼という盾の元にその命を失わずに済むか――


「信頼を失い、皆殺しにされるか」


 僕の体から更なる威圧感が迸り、中級神以下は全員が一歩後ずさる。上級神はなんとか耐えたようだが――無理しているのが目に見える。

 今の僕は誰から見ても重傷者。そんな、松葉杖を付いてやっと歩けている相手にこんな体たらくじゃ、確かに守るものも守れやしない。

 そう考え、拳を握りしめた僕は――



「あー、はいはいそこまでー。おいテメェら、一旦落ち着け」



 僕のすぐ側に、死神ちゃんが姿を現した。

 その姿を見て僕は威圧感を治めると、それに気を良くしたのか今更になって神族共が余裕な表情を浮かべ始めた。

 神族故に、人族――いや、正確には吸血鬼族には負けられない。そんな下手なプライドでもあるのだろうか。


「神界って、案外汚いところもあるんだな」

「そう言うな。神も人も知ってる俺様からすると、お前の意見には全面から肯定したいところだが――」


 死神ちゃんはそう言うと、その周囲の神族共へと向かって声を張り上げた。


「おいテメェら! コイツは死神たる俺様と最高神全員の客人だ。ここにいる武器持ってるヤツら全員、後で俺様の神殿に来い! 賓客に手ェあげようとしたんだ、どうなるか分かってんだろうな!」


 そんな、呼ばれてきた訳では無いのだが。

 まぁ、最高神たちとは知り合いだし、それくらいの融通は効かせてくれるだろう。

 神族たちはその事実を知った途端に焦り出しており、比較的にまともな上級神達は安堵の息を、対して死神ちゃんはため息をついた。


「お前もお前だ、なーにちょっと可愛いだけの知り合いが行方不明になったからって荒れてんだ。俺様の前で不順異性交遊未遂とはいい度胸だな。ぶっ殺すぞ」

「悪かったって。だからやめてくれ、今死神ちゃんに襲われたら多分普通に死ぬから」


 にしても不順異性交遊未遂ってなんだよ。どんだけ男に飢えてるんだこの人は。


「軽く『お前でもいいか』と思ってしまう程度には」


 あぁ、そうですか。

 僕はその言葉にため息を吐くと、その場からペコペコ頭を下げながら去っていく神族たちを尻目に、死神ちゃんにへと視線を向けた。


「……今回ここに来たのは、死神ちゃんに聞きたいことがあったからなんだ」

「……アポロンが生きてるかどうか、についてだな?」


 その言葉に僕はコクリと頷くと、死神ちゃんは周囲を見渡して聞き耳を立てている奴がいないか探ると、「付いてこい」と言って歩き出した。


 その先は――太陽神の神殿だった。




 ☆☆☆




 その神殿の中には、死の気配が充満していた。


「……何が、あったんだ?」

「俺様にも詳しくは分からん。だが、一番最初に神界の門を警備している警備員共が死に、次に警備のヤツらが数人死に、そして最後に、この神殿にいたアポロンの部下が全員死んだ。俺様のところに来た魂に聞いたところ、見たこともない黒軍服の『男』に胸を一突きだったそうだ」


 黒軍服の――男、ねぇ。

 全くもって予想通りのその犯人像に、僕は思わず眉を寄せた。


「間違っても、過去会った二回のうちどちらかで殺しておけばよかった、だなんて思うなよ? 今の怪我したお前はもちろん、昔のお前でも勝てやしねぇ。その怪我が完治して、件の野性とかいう能力も使いこなして、それでやっとまともにやり会えるかどうかだ。一人で勝とうだなんて土台無理なんだよ」

「それは、分かってる」


 僕も、薄々分かってるんだ。

 混沌には――僕一人じゃ勝てない。

 きっと僕やゼウス、そしてまだ見ぬ獄神。現時点でいえばこの三人が力を合わせてやっと勝負に挑めるレベルの相手だった。

 けれども――


「けれど、それも難しくなった」

「……あぁ、やっぱりテメェもその想像はしてたか」


 僕の言葉に、死神ちゃんはそう言った。


「まず一つ目の壁、混沌にまでたどり着くには、あのサタンという怪物を倒さなきゃなんねぇ。俺様たち神界側もサタンの強さを測りかねていたからこそ大規模な戦争を起こそうだなんて思っていなかったが、お前との戦いを見て確信した、あの男はお前クラスの奴でも引っ張って来ねぇと勝てやしねぇ」


 そう、サタンの存在だ。

 僕とゼウス、獄神がそれぞれ同格だと考える。

 父さんが味方につくと考えると、メフィストもまたこちら側につくと考えても問題なく、どこかのペンギンもまた、金さえ払えばこっちにつくような気がする。なにせ所詮はペンギンだし。

 だが、そう考えてもサタンの存在が厄介すぎる。

 もしも万が一、混沌とサタンが常に共に行動するようなことがあれば――その時は、勝ち目があるかどうか皆目検討がつかなくなる。


「だが、それだけじゃねぇ」


 けれども、死神ちゃんには他に壁について心当たりがあるらしい。彼女は「お前も知ってるだろ」と前置きして、その名前を口にした。


「――ギル。あの戒神衆のコスプレ野郎のことだ。お前も戦って、直に話してるからわかるだろうが、アイツは混沌よりもさらに強い。しかも何故か混沌の下についていると来た。混沌を倒そうにもアイツが――」

「……アイツは、多分来ないよ」


 けれども、それについては僕は考えていなかった。

 アイツは、多分僕らと混沌が戦争を始めたとしても、あの仮面の下で薄ら笑いを浮かべながら傍観に徹するだろう。

 そして僕らが勝てばつまらなそうに『次の機会』を伺い、僕らが負ければ――きっと、満を持して登場する。

 まるで、遅れて現れるヒーローのように。まるで、遅れて覚醒し出す魔王のように。


「だから、アイツに関しては考えなくていいよ。問題は混沌とサタン。そして――もう一人」


 僕はそう言って、その部屋の中へと足を踏み入れた。

 少し前まではゲームに溢れていたであろうその部屋は、服でも選んでいたのだろうか、いろんな服がベットに乱雑に置かれており――入口から窓際にかけて、超高温で焼かれたような、そんな後がへばりついていた。


「『炎天下(ヴァーミリオン)』……ここまで遠慮なく使ってるってことは、やっぱり相手は混沌か」

「……まさか、お前太陽神の能力を知ってるのか?」


 それについては、まぁ、うん。アポロンが自分の能力について自慢げに話してくれたからな。『強いでしょー! ねぇねぇ強いでしょー!』と。

 そんなことを思いながらも、僕は死神ちゃんへと、僕の予期しているあることについて聞いてみた。


「死神ちゃん、いくつか聞きたいんだけど」


 僕はそう言って――



「アポロン、九尾の狐、……そして、ルシファー、アスモデウス、バアル。この中で、今現在、死神ちゃんの手元に届いていない、あるいは『消えた』魂が何個ある?」

「――ッッ!? な、なんでお前がそれを!?」



 その反応を見れば分かる。

 多分――全てがそうなのだろう。

 全ての魂が行方不明――まぁ、九尾のは久世の身体の中に入ってると考えられるし、他の魂の居場所については大体の想像がつくか。


「もしも、もしも万が一、混沌の能力が、死体にその器が持っていた魂を無理矢理に強奪して注ぎ込み、自らの配下として生まれ変わらせる能力だとしたら――」


 九尾の魂は、死神ちゃんの元まで届く前に強奪され、その器に注がれたと考えられる。

 大悪魔達の魂は、死神ちゃんの元に届いた後、輪廻転生する前に強奪されたと考えられる。

 そして、アポロンは――


「一瞬だけ揺れた、太陽」

「ま、まさかッ!」


 その、まさかの可能性が非常に高い。

 僕は鬱になりそうな現状なため息を吐くと――


「僕らの前に立ちはだかる壁は、サタンに、歴代の大悪魔達全員。そして――」


 僕は一言、敵となった友の名を口にした。



「最大の壁は、太陽神アポロンだ」



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【新連載】 史上最弱。 されどその男、最凶につき。 無尽の魔力、大量の召喚獣を従え、とにかく働きたくない主人公が往く。 それは異端極まる異世界英雄譚。 規格外の召喚術士~異世界行っても引きこもりたい~
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