閑話 Xmas
時期外れ
「今日はクリスマスですっ!」
その日の朝。
いきなり部屋に突撃してきたエロースが、よく分からないがそんなことを言い出した。
まぁ、たしかにそう言われてみたらこの国でもそれらしい風潮が見られていたような気もしたが……。
「で、なに?」
「のでっ、パーティをしようっ! も、もちろん二人っきりで……ねっ?」
僕の問いかけにそう即答するエロース。
昨日まで超絶シリアスだっただけに、その彼女の明るさは少々僕には眩しすぎた。
けれども、ここで『嫌だね、なんでよりにもよってお前とそんなことしなきゃなんないんだよ? 恭香呼んで出直してこいポンコツ』――とか言ってしまった日には、「しんゆうぐんのどあぼー!!」と言って泣いてしまうのは目に見えている。
めんどくせぇなこの寵愛神。そんなことを思いながらも、僕はため息混じりに口を開く。
「はいはい、わかったわかった。で、パーティって言っても何するんだ? あんまり出歩いたり体を動かしたくはないんだけど」
「もっちろーんっ! そこら辺はきちっと分かってるよ! だからこそ――」
エロースはそう言うと懐へと手を突っ込み――って、どんなところに何を隠してるんだこのエロ女神――そのなにかを取り出した。
「じゃじゃーん! 皆に『病人にそれはやめて上げて!』と止められたけど無理矢理に買ってきたこの国名物! 激辛! ロシアンルーレットまんじゅうっ!」
「……あぁ」
僕は、エロースの運勢値を思い出して頭を抱えた。
「説明しようっ! この100個のおまんじゅうの中に一つだけ神様すら悶絶する激辛おまんじゅうが入っています!」
「わかってる、もう全部わかってるから」
「ぬぬっ? もしかしてもうこのおまんじゅうのこと知ってたりなんかしたってたりしたー?」
そんなことを言うエロースだったが、僕のいう『わかってる』とこれから彼女がたどる未来についてだ。
僕は一つため息を吐くと、その百個のまんじゅうの中から一つ摘んだエロースへと視線を向けて――
☆☆☆
「ぎやああああああああああ!!」
とまぁ、語るまでもなく。
彼女は最初っからそのハズレを引いてきた。
「……いろいろと、見直したよエロース」
「み、水ぅぅぅぅぅっ!」
僕はアイテムボックスの中から水筒を取り出すと、それを間髪入れずに飲み始めるエロース。
いやはや、まさかこんなにも一瞬で終わるとは。ロシアンルーレットなんてやったことが無かったが、とりあえず予想外に予想通りだった、って感じかな。
そうこうしていると、外からドドドドっと足音が聞こえてきた。
バンッ! ドアが思いっきり開かれ、その向こうから顔を真っ赤にしたスメラギさんが姿を現した。
「え、エロース殿! 私たち王族は全能神様よりギン様を安静にしておいてくれと頼まれているのです! 勝手な真似はよしてください!」
「うわー! 親友くんのストーカーちゃんだ! にっげろー!」
「ストーカーではありません! トイレとお風呂とご飯の時以外二十四時間見守っているだけです!」
知ってたか、それを変質者って言うんだぞ。
そんなことを考えている間にもエロースが窓から外へと逃げてゆき、「はぁ、はぁ」と荒い息を吐いているスメラギさんが膝にをておいてため息を吐いた。
「……悪いな、スメラギさん。うちの馬鹿が世話かけてるみたいで」
「いっ、いえいえっ! 私は普段から訓練しかしてませんでしたので、ギン様のハーレ……お仲間の方々との日々は新鮮で楽しいすぞ!」
今もしかしてこの子ハーレムって言おうとした? あの深海魚ばっかりのゲテモノ海鮮丼みたいな組合のことを?
はっはっは、スメラギさんも冗談が言えるようになったんだな、そう考えていると、彼女は椅子をベットの前まで引っ張ってきて、そこにちょこんと腰を下ろした。
「……そう言えば、ギン殿には嘘はあまり効かないのでしたな。実を言うと、他の方々――主に白夜殿とソフィア殿には少々困っておりまして……、どうすれば良いかご教授願えますでしょうか?」
「あー……、あの問題児共か……」
ちなみに嘘がどうのこうのという点に関しては完全に無視した。その通り過ぎて返事に困ったから。
「御二方ともは『主様に合わせるのじゃ』と、何故か手にアダマンタイト製の縄を持っていらしておりまして……。一度宮内へと招いたこともあったのですが、白夜殿が『のうソフィアよ、こういうところに飾ってある花瓶はな、主の肉奴隷がそれはそれはわざとらしく割り、それを見た主がお仕置きと称して色々なプレイをするためにあるのじゃ』等と、よくわからないことを言い出し――」
すいません、それ教えたの僕です。
そんなことを言える雰囲気ではなかった。
ので。
「全く、アイツの変態性には困ったもんだ。一体どこからそんな情報を拾ってきたんだか。今度アイツの部屋を捜索してみるしかないな」
最近僕の下着が数枚無くなってきたことだし、そろそろ白夜の部屋が僕の下着で溢れかえってることだろう。
そんなことを考えながら鬱っていると、それを見たスメラギさんが「はっ」と声を上げた。
「そ、そうです! せっかくギン様が将来の我が家へといらっしゃったのです! この際ですからこの国について、紙芝居でもいかがですかな? これでも私は子供たちには紙芝居上手として有名なのですぞ?」
その言葉(主に上半分)については思いっきり反論してあげたかったが、まぁ思う分には好きにさせてあげよう。
そう考えながらも「頼むよ」と口を開くと、彼女は嬉しそうに「はいっ」と答えると、急いで紙芝居を取りに走っていった。
その姿を見送った僕は――
「…………ん?」
少しだけ、視界の端の太陽が歪んだような、そんな嫌な感覚を覚えた。
☆☆☆
スメラギさんの紙芝居は、流石の一言に尽きた。
僕でもこう上手くはできまい、そう思えるほどにその紙芝居は上手に出来ており、思わず話にのめり込んでしまうような、そんな語り方をしていた。
のだが――
「何この国の歴史、まんま桃太郎じゃん」
「……モモタロウ? 誰ですかそれは? まさかこの国の歴史を真似した不届き者が――」
「いやいやいや、気のせいだった、うん気のせい」
気のせいだったということにしておこう。
――ある日異世界へと転移した主人公が川で溺れていたところ、川へと洗濯に来ていたおばあさんに助けられ、その後おじいさんとも知り合い、山で修行を積み――その数年後、周囲一帯の集落を騒がせているブラックオーガを討伐しに行く事になった。
道中で空腹の獣人族(美少女)三人を仲間に加えた桃太……じゃなかった、主人公は、冒険の果てにブラックオーガを見事討伐することに成功する。
そのブラックオーガはかなり宝を溜め込んでいたらしく、それらの宝はすべてそのオーガを倒した主人公のものとなったのだが、主人公はそれをおじいさんとおばあさんが幸せに暮らせるように分け与え、そのブラックオーガを討伐した主人公の勇姿に惹かれたのか、周囲の村々が集まり、最終的には一つの国ができた。
その王になったのがその主人公で、その国こそが今の和の国の出発点となった――
と言った感じの物語だったのだが、まぁそういう事だ。詳しくは聞くな。
「とりあえず初代国王、妄想乙」
「……? 何の話ですかな?」
「いやいや、こっちの話」
そう言いながらも僕はベットから立ち上がった。
未だ松葉杖なしには歩けないが、それでも一日中寝ていれば数日間の筋肉が落ちるとかどうとか。少しは歩かねばなるまいさ。
「ああ、そう言えばそろそろ晩御飯の時間だっけ?」
「はいっ、……こうしていると、夫婦みたいですな」
「気のせいだろ」
僕は松葉杖を付きながら、それでも崩れそうになる体を彼女に支えてもらいながらも歩き出す。
目指すは食堂、大して遠くはないのだが、この体では嫌に遠く思えてしょうがない。
けれど――
「……なんか、騒がしくない?」
「……気のせいではないですか?」
明らかな嘘をつくスメラギさん。
その普段からは考えられないような彼女に僕は内心で困惑しながらも、何とかその小うるさい食堂の扉を開き――
パンパンパンパァンッ!
瞬間、いくつものクラッカーが鳴り響き、そのいきなりの事態に僕は思わず目を見開いて固まってしまった。
その視線の先には、テーブルを埋め尽くす料理の数々と、そしてクラッカーをそれぞれ片手に持っているみんなの姿が。
「ギンってばいつも月光眼発動してて隙がないからねっ! たまにはこうしてドッキリっていうのもしてみたくてさ」
そういったのは、ミニスカサンタのコスプレをした恭香だった。よく見れば他のみんなも全員がそんな格好をしており、その予想外極まりない現状に僕は。
「全く、似合ってないんだよ、馬鹿野郎」
そう苦笑して、仲間の元へと歩き出した。




