記録―07 影神と太陽神
本当はエロースとのXmasパーティ(時期外れ)にしようかと思っていたのですが、今回はアポロン回にしてみました。
※一応言っておきますが、アポロンはヒロインです。
「ぬぁぁぁぁっ! もう何なのよ! そろそろ負けてくれたっていいじゃない!」
「はいはい、わかったわかった。次こそ負けてやるから」
「あ、あらそう……?」
そんなことを言いながら、僕は迷うことなく次も勝つつもりであった。
目の前には広げられたトランプ。
僕はそれらを集め直し、入念にシャッフルをすると再びそれらのカードを裏向きで並べ始める。
目の前にはその並べ方に不正がないかをじーっと見つめているオレンジ色の髪に金色の瞳をした少女が座っており――
「あ、あー! い、今不正したわね! したって言いなさい!」
「してなかったら、罰ゲ――」
「見間違いだったわ!」
楽しそうに笑を浮かべる彼女を見ながらも僕は考える。
何故、こんなことになってしまったのか――と。
☆☆☆
始まりは唐突だった。
「神界に行こうか!」
父さんがいきなりそんなことを言い出したのだ。
時期としては、僕の修行がだいたい終わり、後は極めきれていないスキルを練習するのみと言った感じになっていた頃。
僕は疲れたようにそちらへと視線を向けると、彼はビシッとこちらを指さしてきた。
「もちろん銀、君も一緒だよ!」
「は、嫌なんだけど」
「反抗期っ! 二十歳すぎて未だに反抗期っ!」
反抗期というかなんて言うか。
この父親に付き合うのがだるいだけで、別に反抗期とかそういうのじゃないんだけどな。
そんなことを考えていると、父さんはおちゃらけた様子で本音を語り出していた。
「いやね? 銀だって一応は神様なわけじゃん? 後々神々の力を借りることもあるかもだし、一応顔見せってことで行っておかないと印象悪くなるよ? って話しさ」
「いいよ別に。困らないし」
「君の父親たる僕が困るんだよ! 僕の印象まで悪くなっちゃうじゃないか!」
「いいよ別に。全く困らないし」
頭を抱える父さんを尻目に僕は寝返りを打つと、僕の目の前に白夜が立ちはだかった。
「のぅ主様よ」
「嫌だからな」
「たまにはお父上の話も聞いても良いのではないか? 親の心子知らず、お父上とて苦労しておるのじゃ。いつまでも家でゴロゴロしてないで、たまには外で遊んできても良いと思うのじゃが?」
僕の言葉を華麗に無視して彼女はそんなことを言ってくる。
どこからか「白夜ちゃん! なんていい子なんだ、銀の嫁にこないかい!?」と声が聞こえてきたが、そこら辺は無視してもいいだろう。
「お前は僕のお母さんか。家でゲームしてゴロゴロいってる子供を優しく諭すお母さんか」
そう言いながらも僕らゴロンと逆の方向へと寝返った。
するとそこには、仁王立ちする恭香の姿が。
「こらもう、家でゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロ……たまには外行って遊んできなさい! そんなことしてたら豚になるわよ!」
「オカンか! お前ら僕のオカンか!」
何なんだこいつら、どんだけ僕がゴロゴロしてるのが気に食わないんだよ。
僕は両サイドからしつこいオカンに眉をしかめて両耳を手で塞いだが、二人はその手を無理矢理にどけてでもそう言ってくる始末。
僕は「あぁぁぁぁぁもうっ!」と言って叫ぶと、立ち上がってヤケクソ気味にこう言った。
「分かったって! いちいちうるさいんだよ! いきゃあいいんだろいきゃあ!」
その言葉は、まるでお使いをお母さんに頼まれた、反抗期真っ盛りの息子のようでもあった。
☆☆☆
「へぇ……ここが神界かぁ」
僕は、目の前に広がるその花畑を見てそう呟いた。
そこはかつて、恭香たちが聖国の主神を屠ったと言われている花畑なのだが、さすがは神界と言うべきか、日本でも異世界でも、これほどまでに綺麗な風景はそうそうないだろう。
「凄いだろ? 何せここは神界の入口だからね、結構力入れてるんだよ? ほら、見てごらん」
そう言って父さんは周囲をぐるりを見渡して行った。
僕もそれに沿って視線を巡らせてゆくと、それと同時に父さんが口を開いた。
「ほら、一面に広がる花畑、その上を飛び交う少女。逃げる太陽神、怒ってるロキちゃん、大きな太陽! これぞ神界ってね!」
「……今おかしかったよね。二つほど要らないのはいってたよね」
「さて、何のことだか」
しらを切るつもりらしい父さんだったが、けれどもその叫び声が聞こえてきてはそれを続けるのも難しくなってくるというもの。
「いやあああああああっ! なんでっ、なんで私のこと追いかけてくるのっ! なんで私のことそんなに怒ってくるのよ! なんで私ばっかり――」
「うるさあああああいっ!! あんたが自分の仕事サボって一日中漫画とかアニメとか見てるからでしょうが! このニート! ヒキニート! クソオタク! アンタなんて太ってチェック柄の上着しか着れなくなって、目が悪くなって丸メガネかけてリュック背負ってろぉぉぉぉ!」
「それはいやあああああああ!!」
「……って、言ってるけど」
「…………」
僕の言葉に父さんは死んだ魚のような目をすると、ハッとなにか思いついたように手を叩いた。
「そうだ、あれは神界名物、お花畑でかまってくれる人を探してるアポロンと、それを見つける度に仕事を押し付けられてる恨みを晴らそうとしているロキちゃんだね」
「そんなものが名物なのかこの場所は……」
そんなものが名物の場所を神界って言っていいのだろうか。きっと言っちゃいけないんだろうけど……まぁいいや、どうでも。
そんなことを思って歩きだそうとした――その時だった。
「あーっ! そ、そこのアンタっ、わ、私のこと匿ってちょうだい!」
「ぎ、ぎぎぎ、ギン君!? ダメだよ! ソイツのこと女だと思わなくていいからぶん殴っちゃって! ぶん殴って気絶させちゃって!」
瞬間、僕の方へと一直線に駆け寄ってくるその二人。
見れば父さんは『一時間後にまた来ます』と書き置きを残して消え去ってしまっており、僕はその早業にため息をつくとともに――
「やだなぁ、ロキさん。このジェントルメンな僕が女の子を殴れるわけがないじゃないか」
「この野郎っ! 私知ってるんだからね! ギン君がエロース様とか日常的に殴ってたの知ってるんだからね!」
エロース? 誰だそれは?
「僕はね、昔の女のことは忘れる主義なんだ」
「ぷぷっ、その顔面偏差値で何言ってんのさ」
「おい、ぶん殴るぞこのアマ」
「さっきと言ってること違くない!?」
悪い、都合の悪いことも忘れる主義なんだ。
そうこうしているうちにも僕の元までそのオレンジ色の髪の女の子がたどり着き、彼女は僕の背中に隠れるようにロキから身を遠ざけた。
「ふっふーん! どうよ、どうなのよロキ! あなたの大事なお友達が取られた気分は!」
「「あ、友達とかじゃないんで」」
「……へ? あ、そ……そうなんだ」
いや、マジでロキと友達とかやめて欲しいんだけど。胸糞悪すぎて蕁麻疹が出そうになる。
と、そんなことを考えていると――
「そうっ、私たちは友達以上の存在っ、言うなればお義母さんであり、恋人でもあ――」
「よし、ぶっ殺す」
「って、ちょっとおおおお!? なんで恋人たちのお母さんに殺気向けてにじり寄ってきてんの!?」
そうして僕は左拳に銀炎を纏って駆け出してゆき、それを見たロキは焦ったように逃げ出して行った。
その時の僕は知らない――彼女、太陽神アポロンが、その時の僕をぼーっと見つめていたことに。
☆☆☆
「あの……そのっ、あ、ありがとね! 感謝してあげるから光栄に思いなさいっ!」
「えっと……はぁ」
僕は、目の前でふんぞり返っているその少女へと、そんな生返事を返した。
感謝してあげるから光栄に思いなさい、か。なんだか新しいキャラだなおい。
そんなことを思っていると、彼女は困ったように顔を曇らせ、不安げにこちらを見上げてきた。
「も、もしかして……、き、気分害しちゃった……?」
「え? あぁいや、別にそんなことはないですよ。もっと酷いやつとつい最近であったばかりなんで」
そう、僕はつい最近今まで史上いっちばん嫌いな奴に出会ったのだ。誰とは言わないけど。赤ローブに天蓋かぶった誰とまでは言わないけれど。
すると彼女は安心したようにほっと息を吐くと、少し頬を緩めて口を開いた。
「にしても、驚いたわ。まさか見たこともないようなアンタがあのロキを追っ払っちゃうなんてね! 私思わず感動しちゃったわ!」
「そう? ロキなんてやろうと思えばいくらでも追っ払えるでしょうに……」
そう、言うなれば、ロキなんてしばしばちょっかいかけに来る猫みたいなもんだ。
こっちがガチになって攻撃しようとすればピューと逃げて言ってしまう。せいぜいがその程度だ。
けれどもどうやら彼女からしたらそうでもないらしい。
「わ、私たちは昔から……、それこそ子供の頃から一緒に居たから……、いつも私はロキより劣ってて、だから――」
引きこもって、アニメばかり見るようになった、と。
なんだか似たような――というか、どこかよ妹ちゃんと全く同じ症状ですな。どこかのクソ兄貴が優秀すぎて(頭だけ)、もういいやって諦めちゃうその感じ。身をもって知ってます。
だからこそ、僕は彼女をどこか他人だとは思えなかった。
「ならさ、強くなって見返してやればいいんじゃないですか?」
「……へ?」
僕の言葉に、彼女は驚いたように声を上げた。
「見たところ、アポロンさん全然強くないでしょ。でもそれはあくまでも『現時点』であって、弱いってことはそれだけ伸び代があるっていうこと。アポロンさんがその伸び代を引き出せれば、きっとロキにくらい簡単に勝てちゃいますよ」
僕はそう言って笑って見せた。
なにせアポロンといえば太陽神だ。僕ら吸血鬼が最も苦手とする太陽。その太陽の化身――否、その太陽を作り出した存在が彼女なのだ。彼女が潜在能力を限界まで引き出したとしたら……きっと、僕なんかじゃ相手にならないだろう。
ロキより強いだろう僕が相手にならないんだ。ロキにくらい勝てるだろう。
「ま、勝てるようになるまでは僕のこと頼ってくれていいですよ。なんか嫌なことあったら――って、あれ?」
けれども、僕は気がついてしまった。
「うぐっ……ひくっ、こ、この馬鹿ぁ……」
アポロンが号泣していることに。
久しぶりに女の子が目の前で号泣してる場面に立ち会ったということもあって僕は慌ててしまい、何をどうすれば泣き止んでくれるのか、というかなんで泣いてるのかすらも想像出来なかった。
「え、えっと、あれ? もしかして弱いって言っちゃったことですか? だったら謝――」
「いいわよもうっ!」
気がつけば彼女はそう叫んで僕のことをキッと睨みつけており、その鋭い眼光に僕は思わず身をすくませた。
そんな僕へと向かって、彼女は――
「貴方、私に名前を教えなさい! あと住所! それと最後に……」
彼女はそう言ってニヤリと笑うと――
「私の、友達になりなさい!」
こうしてぼっち系吸血鬼の影神と、全く友達のいない太陽神は邂逅を果たしたのだった。
次回、閑話 アポロンの友達
超絶シリアス再び。




