依頼
「十人からスって2万7500・・・92円。」
俺は最後の財布から金を抜き取ると、用済みのソレを公園のゴミ箱に叩き込んだ。
流石に不景気だ。
明日は狩り場を変えてみよう。
俺は水浦っていう・・・スリ師だ。
別に成りたくてスリ師になったんじゃない、たまたまスリの才能があったのさ。
子供の頃から何をしても、好きな事においても並み以下の凡庸だった俺。
高校生の頃にすれ違った同級生のケツポッケを見ると、財布が非常に抜き取りやすそうだった。
それが俺の人生のターニングポイント。
財布は簡単にスれたし、相手は全く気づいてなかった。
563円しか入って無かったけど、こんなに物事がスムーズに行ったのは生まれて始めてで、罪悪感より感動が勝った。
それが俺の転落人生の幕開け。
結局スリ以外の才能を見つけられなかった俺は、高校を中退をして家出。
ロクに仕事もせずに、善人、悪人から財布をスリまくり、やることも無いのでパチンコやら競馬に勤しむ日々。
そんで、スリが上手くても運が悪ければ捕まる、今まで六回捕まり、警察から付けられたアダ名が“ニットの水浦”。
年がら年中ニット帽を被っているってだけでアダ名にしやがって 、癪に障るが、これでニットを脱いだら負けた気がするから、今も被っている。
スリの仕事をしていると定期的に嫌気が差してくる。
他の奴等は知らんが、俺って結構ナイーブなんだわ。
30過ぎてスリ師なんて・・・小学校の文集に、夢はサッカー選手と書いた俺は何処に行った?
まぁ、だからと言って、今更他の生き方は出来ないわな。
「水浦様ですか?」
唐突にイケメン執事に声を掛けられた。
執事なんて初めて見たが、執事服を着ているから執事だろ?
「そ、そうだけど、アンタは?」
「寺島と申します。今日はスリ師で在られるアナタに、依頼を頼みにやって参りました。」
依頼?依頼なんてスリ師やってて初めてだぜ?なんだかキナ臭い。
「ヤバい仕事ならやらねぇぞ。」
俺のこの発言に執事は首を捻った。
「何故ですか?」
「な、何故って・・・ヤバい仕事なのかよ?」
「はい。しかし、この仕事によってアナタは力を得ます。私はこの依頼をアナタに受けさせる事により、ご主人様から特別手当てを貰えます。」
「力?具体的には何をスれば良いんだ?」
「小さなリモコンです。それをスって、力を使って適当に暴れてもらえればオッケーです。お金は前払いで1000万円差し上げます・・・良いですねアナタ、私がネコババしたいぐらいです。」
「い、1000万!!ど、どうしてそんなに!!」
クソみたいな俺の人生にまさかのボーナスだ。
「まぁ、これだけ払えばアナタがなびくと、ご主人様は考えたのでしょう。あと、身の程もわきまえず、これ以上望まれますなら、「少し痛い目に逢わせてでも、やらせろ!!」と申されていましたね、痛い目みます?」
ゴキゴキと執事は右手を鳴らした。
お、俺の細い首なんて簡単に折られてしまいそうだ。
これでは依頼されているのか脅されているのか分からないが、俺は1000万円の時点で決めていた。
「やるよ・・・たまにはハットトリック決めたいしな。」
スリ師としての大勝負を前にして、俺の心は震えた。
「手を使ったらハンドでは無いですか?」
この執事の発言に、少しやる気が削がれた。




