帰路
早乙女リカ様の専属メイドの零野でございます。
私は今の時間に何をしているのかと申し上げますと、リカ様の今日の学校での全行程が終了いたしましたので、下校のお供をさせて頂いております。
「零野、何処か寄りたい所はあるかしら?」
御嬢様から突然の提案でございます。
質問の意味を5秒程考えましたが、私に搭載されているスーパーコンピューターを駆使しても、御嬢様の崇高な考えの一端すら理解出来ませんでした。
「御嬢様・・・私には一体御嬢様が何をおっしゃっておられるのか、皆目見当が付きません。」
「難しく考えないで、私はアナタに日頃お世話になっている礼として、“寄り道”などしてアナタを労ってあげようと、ふと思い付いたのよ。それで?何処か寄りたい所は無いの?」
「滅相もございません。メイドである私が、主人である御嬢様をお世話するのは当たり前の事でございます。」
御嬢様の寛大なお心には頭が下がりますが、お礼などさせてしまっては、私の電子回路がショートしそうでございます。
「オホホ、そう堅く考えないで頂きたいわね。さぁ言ってごらんなさい、何処に“寄り道”したいの?」
これは何処か言わないといけない雰囲気です。私には“KY(空気読まない)防止装置”が付いている為、ここまで言われると、多少無理矢理にでも、何処か言わなくては。
「じゃあ、焼肉屋に。」
私の言った事に、御嬢様が目をパチクリさせています。私は何かおかしい事を言いましたかね?
「アナタ焼肉が好きなの?」
「はい、牛カルビ、ミノ、レバー、豚トロ、ゼンマイ・・・言い出したらキリがありません。ジュルリ。」
「零野・・・アナタ涎を垂らす機能まで付いてるのね。良いでしょう、いささか私の理解の範疇を越えていましたけど、焼肉屋に寄り道しようじゃないの。」
この御嬢様の言葉に、私は顔には出せませんが、狂喜乱舞致しました。
御嬢様、マジ天使にございます。
「御嬢様、私がおんぶしますから空から焼肉屋に参りましょう。」
「零野、わざわざジェットで行かなくても焼肉屋は逃げなくてよ。歩いて向かいますわよ。」
御嬢様は中々に意地悪でございます。こちらは辛抱たまらないというのに。
“ドンッ”
そんな折に、とある殿方が私にぶつかり倒れました。
「うわ!!」
普段なら避ける事はベリーイージーだったのですが、不覚にも焼肉に胸を踊らせ過ぎました。
「申し訳ございません。」
私は倒れた殿方に頭を下げました。
「い、いやぁ、コチラこそすいません。少し急いでいまして。」
そう言って申し訳なさそうにする殿方は、中肉中背の30歳前後で、ニット帽のよくお似合いの方でございます。
「ウチのメイドが粗相を致しましたわね。もし何処か痛めましたなら慰謝料をお払いますわ。」
ぶつかった人に対して、偉そうな態度を取りながら、手を差し伸べる御嬢様。
男の人はその差し伸べられた手を握りながら立ち上がました。
「いえ、大丈夫です。それでは急いでますから、どうもお騒がせしました。」
慌ただしく走り出した男の人は、町中の雑踏の中に消えて行きました。
「私から慰謝料をせしめないなんて、奇妙な男だこと。さぁ、行きますわよ零野。」
はい・・・と言いたい所ですが、用事が出来てしまいました。
「いえ御嬢様、私は先程の方を追います。」
「何を言っているの零野?」
「先程の方は御嬢様から・・・。」
ここで突然のブラックアウト、私のAIが機能を停止しまし・・・。




