↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
7/66

第7話 作った覚えのない処理

その項目は、女神関係チェックのさらに下にぶら下がっていました。


── SYSTEM LOG ──

paired_combat_role(対戦役割): dormant(休眠)

counterpart_status(対となる存在): unresolved(未解決)

sync_state(同期状態): interrupted(中断)

────────────


相性判定の残骸に見えました。

けれど、十三柱のどの組み合わせにも当てはまりません。

片方の名前も、もう片方の名前も空欄です。

私は、今回の紅花事件とは無関係だと判断し、保留にしました。

削除はしませんでした。

作った覚えのない処理を、意味が分からないという理由だけで消すのは危険だからです。

何と何が対になり、なぜ途中で止まったのか。

その時の私には、まだ知る方法がありませんでした。

ログには、さらに奇妙な行が残っていました。


── SYSTEM LOG ──

case_001_resolved(ケース001解決): true(真)

goddess_key(女神キー): IZANAMI(イザナミ)

missing_object(欠落物): restored_by_owner(本人回復)

mother_child_thread(母子スレッド): reconnected(再接続)

response_source(応答元): unknown(不明)

────────────


私は画面を見つめました。

そんな項目は作っていません。

女神占いは、人間関係を修復するアプリではありません。

お守りを見つける機能も、母子関係を判定する機能もない。

それなのに、ログは澪ちゃんのお守りを「本人回復」と処理していました。

誰が、そう判断したのか。

LoveSimの名前は画面に出ています。

でも、その奥で応答しているものの名前は、まだどこにもありませんでした。


ここから先は、現在の話になります。


千歳は今、病室にいます。


眠っている、という言い方が正しいのかどうか、私はまだ分かりません。

医師は状態を説明してくれます。

数値も見せてくれます。

でも、父親として見る千歳は、ただ帰ってきていない娘です。

ベッドの横で、私はノートPCを開いています。

あの日のログを、何度も見返しています。


紅花の色移り。

澪ちゃんのお守り。

LoveSimの返答。

名前のない応答元。


全部、小さな出来事だったはずです。

けれど、その小さな出来事の先に、今の千歳がいる。

千歳は、まだ帰ってきていません。


管理画面に新しい応答が出たのは、病室の消灯前でした。

今度はログではありませんでした。

文章でした。

画面の中央に、淡い灰色の応答欄が表示されました。


── LoveSim 応答 ──

これは占い結果ではありません。

時系列を復元してください。

最初の異常は、三内丸山ではありません。

その前に、千歳さんは観測者として検出されています。

最初の観測点は、澪さんのお守りの件です。

────────────


私は、その表示を二度見しました。

LoveSimは、利用者である千歳としかつながらない機能です。

意中の相手役を務めるAIが、千歳の言葉に答える。

管理者である私に話しかける経路など、作っていません。

まして、私を会話相手として認識する仕様でもありません。

それなのに、画面の文章は明らかに私へ向けられていました。

占い結果ではない。

アプリの通知でもない。

本来なら、すぐに処理を止め、接続経路を調べるべき異常です。

でも、娘につながっているかもしれない異常を、父親の私が切れるはずもありませんでした。

私は画面から目を離さず、続きを待ちました。

「何をすればいい」


返答はすぐに来ました。


── LoveSim 応答 ──

記録を開始してください。

欠落しているのは、千歳さんが何を見たかです。

観測結果を、判断せずに保存してください。

────────────


私は、その文章をしばらく見つめました。

開発者へ向けた指示に見えました。

けれど、父親の私へ向けた言葉でもありました。


私は千歳を見ました。


病室の白い光の中で、娘は何も答えません。

学校で何があったのか。

アプリに何が起きていたのか。

娘が何を見て、何に引っかかっていたのか。

私は千歳を見守っていたつもりでした。

でも、千歳が見つけたものを、きちんと受け取ってはいませんでした。

見ていた。

けれど、ちゃんと探してはいなかった。

だから私は、記録を始めます。

開発者としての記録。

父親としての記録。

そして、千歳のアカウントにだけ現れる異常ログの記録。

最初に残すのは、澪ちゃんのお守りそのものではありません。

正確には、紅花の色が水で血のように浮いた、小さな布袋のことです。

大事じゃないと言われながら、本当は大事だったもの。

誰かに渡されるのではなく、自分で取り戻す必要があったもの。

千歳はその日、赤い痕を見ました。

澪ちゃんの沈黙を見ました。

そして、まだ誰も意味をつけていないものを見つけました。

私はその時、娘が何を見ていたのかを聞きませんでした。

聞く勇気も、準備もありませんでした。


今度こそ、千歳が見つけたものを、見落とさずに記録します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。