第65話 戦で使った手
ウズメ先輩は、まだ足の感覚が戻らず、地面に座っていました。
「もう、誰もあたしを疑わないよね」
笑って聞きましたが、声は震えています。
千歳は、すぐに都合のいい答えを返しませんでした。
「疑う人は、まだいると思う」
ウズメ先輩の笑顔が止まります。
「でも、前線でみんな先輩の拍を踏んだ。疑いが消えたからじゃなくて、命を預けるって決めたから」
そこへ、あの古参の男が鈴を差し出しました。
「次の祭りの拍を、俺たちにも教えてくれ」
古参の男は、鈴を差し出したまま返事を待っていました。
ウズメ先輩は、両手で受け取りました。
セヲ様は、血の跡が残った石畳へ、静かに水を流していました。
「証明はいらない、と言ったばかりだけど。浄めるのは、好きにさせてもらうわ」
ゲツ先輩は、負傷者へ椀を配り続けています。
「食べる子は、ちゃんと治るから」
若い戦士が、一口飲んで笑いました。
「いつもより、しょっぱいっすね」
「贅沢言うな。塩がないと傷は塞がらないんだよ」
ハニチュウは崩れた土壁を撫で、ククリは切れた縄を結び直していました。
お嬢は、欠けた翡翠を一つずつ布へ包んでいます。
血の匂いが、少しずつ食事と湿った土の匂いへ戻っていきました。
誰も手を止めませんでした。
新入生たちも、それぞれ戦の後始末へ戻りました。
お嬢は割れた翡翠を集め、途切れた交易路を、今度は救援路として結び直します。
ハニチュウは、座留め印から祀り印へ回った石の向きを、土器の文様へ写して残しました。
「次に逆向きへ置かれたら、すぐ分かるように」
ククリは、日高見を離れたい男たちと、残って話したい女たちの条件を、一つずつ短い言葉へ整えます。
サクヤは、その輪の中心を走り回り、話からこぼれそうな人を連れ戻しました。
戦で使った手が、そのまま暮らしの傷を直していました。
ヤマ先輩は、高台からその様子を見下ろしていました。
「留年、続けようかな。見るべきものが、まだある」
高台の下では、千歳とサクヤが石盤の破片を運んでいます。
「お姉ちゃん、そっち重いよ」
「サクヤこそ、前だけ見ないで」
ヤマ先輩は、二人がぶつかる前に石を一つ蹴って道を開けました。
「二人とも、足元」
その声に、サクヤが一瞬だけ立ち止まりました。
「お母さん、ちょっとあからさまだよね」
小声でサクヤが言いました。
千歳は軽いめまいを覚えました。
「お母さん?」
「声大きい。皆に聞かれる」
「ごめん、今のなし」
「そこは、今のなしが正解かも」
二人はお互いに笑いました。
ヤマ先輩はすぐに「同郷は面倒だ」と笑って背を向けます。
けれど、二人の足元から目を離しませんでした。
* * *
私は、一つの疑問を持っていました。
今ある神社や環状列石は、いずれかの女神が座留めされている状態なのだろうか。
── AIツクヨミ 応答 ──
現時点では、直接結びつける証拠が不足しています。
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「形というか、仕組みが似てると思った」
── AIツクヨミ 応答 ──
形が似ていても、機能と意味が同じとは限りません。
今回確認できたのは、
祈りや供物が固定処理へ利用される場合があるという一例です。
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「解放されたあと、祀り直された可能性は?」
── AIツクヨミ 応答 ──
小牧野では、座留めの解除後に石の向きが変わり、
祀り印へ変換されました。
現存する神社や環状列石のほとんどは、座留めの解除後、祀り印へ変換された形を残しています。
ただし、ごく一部には、今も座留めが残っている可能性があります。
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近所の小さな神社へ、千歳と初詣に行った日のことを思い出しました。
まだ小さかった千歳は、賽銭箱へ硬貨を入れること自体が楽しくて、何度も私の財布を見ました。
私たちは、深く考えずに手を合わせました。




