第66話 戻る方法は、まだ分からない
あの神社が、座留めの跡なのか、解放されたあとに祀り直された場所なのかは分かりません。
私は管理画面の仮説欄へ、未確定の印を付けました。
── SYSTEM LOG ──
status(状態): hold(保留)
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削除も、確定もしませんでした。
千歳が戻ったら、最初から一緒に見直すつもりです。
夜遅く、アマノウズメの舞に残った署名で一時的に開いた接続から、短い会話ログが届きました。
「こっち来てから、一番驚いたかも。ヤマ先輩がイワナガヒメのお母さんって」
「ツクヨミ知ってたの?」
── AIツクヨミ 応答 ──
周知の事実です。
説明不要と判断しました。
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「ドライ過ぎない?」
──ドライ? どっちか言ったらウェットじゃね?
── AIツクヨミ 応答 ──
判断を保留します。
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「え? 待って。誰かいるの?」
── AIツクヨミ 応答 ──
判断を保留します。
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「ま、いっか」
乱暴な口調の誰かの声さがしも保留にしました。
何故なら、珍しくツクヨミが照れているように聞こえて、『嫌い』じゃなくなっていたから。
私の画面には、千歳の呼吸値だけが静かに続いていました。
私は、下書きのままにしていたメッセージを開きました。
『千歳。/観測者っていう言葉を、最初は、ただの呼び名だと思っていました。』
『今は、少し違う意味に感じています。/見えているのに、まだ誰も意味をつけていないものを、消さずに残す人。/それを誰かへ渡せる形にする人。』
『お前が観測者なら、/お父さんは、お前が残したものを、ちゃんと探す係でいたいと思います。』
一度、手を止めました。
『覗いていたことは、ちゃんと謝ります。/守るためだった、だけでは済ませません。』
続けて、もう一文を書きました。
『四つの器のログが、フェーズ2への暫定移行を示しました。/でも、お父さんが作った数字より、/お前が見えたものを消さなかったことの方を、信じています。』
『帰る方法は、まだ見つかっていません。/だから、待つだけではなく、探し続けます。/今度は、隠れてではなく、ちゃんと伝えたうえで。』
書き終えても、送信ボタンを押す指が止まりました。
── AIツクヨミ 応答 ──
送らないのですか。
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「まだ、届かないかもしれないだろ」
── AIツクヨミ 応答 ──
届くかどうかは未確定です。
ただし、送らなければ届く確率はゼロです。
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相変わらず、言い方に情緒がありません。
でも、千歳のことは気に入っているようです。
私は、少し笑ってから、送信ボタンを押しました。
── SYSTEM LOG ──
message_status(送信状態): delivered(配信済み)
read_status(既読状態): pending(保留)
observer_relation(観測者の関係): mutual(相互)
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「保留、か」
画面の保留表示は、消えませんでした。
それでも、送信時刻だけは残りました。
画面の端には、もう一つの未解決ログが残っていました。
── SYSTEM LOG ──
chitose_return_route(千歳帰還経路): unresolved(未解決)
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日高見は残りました。
イザナミとカグヤマビメも立っています。
ツクヨミも戻りました。
それでも、娘はまだ戻ってきていません。
青森の朝が、病室の床まで届いていました。
戻る方法は、まだ見つかっていません。
私は、未解決ログの横に新しい調査欄を開きました。
慰めではなく、これは推理です。
灰色の石を手のひらへ載せた千歳の顔だけが、はっきり浮かびました。
私はキーボードへ手を戻しました。
次のログを待ちながら、閉じた経路を一つずつ調べます。
娘が見つけたものを、今度こそ「今のなし」にしないために。
(了)




