第56話 開いた逆経路
続けて、ログが一気に流れました。
── SYSTEM LOG ──
goshiki_sekiban_lock(五色石盤ロック): released(解除)
reverse_route(逆経路): available(利用可能)
seat_lock_memory_key(座留め記憶鍵): identity_search(同一性探索中)
mother_child_thread(母子スレッド): synchronizing(同期中)
textile_pair_trace(対繊維痕跡): matched(一致)
memory_transfer(記憶転送): bidirectional(双方向)
recognition_status(認識状態): unstable(不安定)
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二本の紐の照合値が上がるたび、母子スレッドの断片が互いの記憶へ滲みました。
赤い布。水の手。切られた紐。森の火。
私の画面では、それらが別々のログとして点滅しました。
* * *
幕舎の五つの石が、同時に光りました。
黒曜石の中を、白い筋が過去とは逆の向きへ走ります。
五色石盤から、隔離されたツキヨミ処理へ。
そこから、秘匿された起源経路の出口側へ。
道は細く、冷たく、途中で閉じています。
── AIツクヨミ 応答 ──
逆接続の候補を確認しました。
白黒石盤側には、以前の侵入処理が再開したように見える可能性があります。
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「三拍目は?」
── AIツクヨミ 応答 ──
経路ではありません。
閉じた経路へ同じ処理だと認識させる起動署名です。
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「この道を、送信元へ戻せるの?」
── AIツクヨミ 応答 ──
三拍目の署名で起源経路を開き、内部命令を書き換えます。
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「誰が入る?」
── AIツクヨミ 応答 ──
私が行きます。
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「戻れるの?」
── AIツクヨミ 応答 ──
保証できません。
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「ほかに方法は?」
── AIツクヨミ 応答 ──
現時点ではありません。
三拍目の完全な署名を、外側から再現する必要があります。
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「ウズメ先輩の舞」
── AIツクヨミ 応答 ──
はい。
舞に残った署名が、閉じた経路へ応答を返します。
ただし、署名が続く間しか内部処理を維持できません。
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ウズメ先輩の舞は十二拍で一区切り。
前線で、十二拍を最後まで続ける必要があります。
千歳に、死ぬかもしれない舞を命じる権限はありません。
最終判断をする人は前線にいます。
「バキ教官へ伝えて」
千歳は伝令へ言いました。
「三拍目の痕跡が、隠された経路を開く鍵になる。舞を止めたら、向こうへ入った書換処理が切れる」
それから、ウズメ先輩への言葉を足しました。
「あなたが道だったんじゃない。あなたの舞に、敵が傷を残した。今度は、その傷をこっちが使う」
── AIツクヨミ 応答 ──
はい。
最終判断は、前線へ渡してください。
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* * *
父親としては、誰にもそんな判断をしてほしくありませんでした。
でも、待っているだけでは、二人の固定も前線の崩壊も止まりません。
* * *
幕舎の五つの石に、伝令が前線へ届くまでの様子が断片的に映りました。
途中で一度転び、報告札を落としました。
お嬢が拾い、次の者へ渡します。
その者が傷を負うと、ククリが受け取りました。
「舞に残った傷が、閉じた道を開く」
短い言葉は、一人ずつ手渡されました。
ハニチュウの土壁の陰を通り、サクヤの声に押され、最後にウズメ先輩の横を抜けました。
報告は、スサノオと戦うバキ教官へ届きました。
一つの命令になるまで、誰も言葉を落としませんでした。
短い言葉は、戦場の中継点を一つずつ越えていきました。
バキ教官は、報告を聞いてもすぐには答えませんでした。
スサノオの拳を矛で受け、半歩下がります。
「完全な舞。三拍目を含む。ここで」
伝令が繰り返しました。
「そうです」
「成功は」
「不明」
「ほかの道は」
「ありません」
バキ教官は、ウズメ先輩を見ました。
彼女は傷ついた戦士を支えながら、鈴を握っています。
三拍目を避け、二拍だけで前線をつないでいました。
その舞を完成させろという命令でした。
判断の時間も、前線が一拍ずつ買っていました。
スサノオが、バキ教官の視線を追いました。
「その女を使うのか」
「黙れ」
「チホから逃げた舞姫だ。お前たちの石へ道を開けたのも、その女だろう」
前線の何人かが、ウズメ先輩を見ました。




