↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
54/66

第54話 記憶が順番を取り戻す

五色石盤が残した入力にあるはずでした。


「候補を並べてくれ」


── AIツクヨミ 応答 ──

神名候補、装置名候補、五色名称、十三柱識別子、ケースラベル由来候補があります。

────────────


「全部、違う気がする」


── AIツクヨミ 応答 ──

根拠はありますか。

────────────


「千歳が、どれもそう呼んでない」


父親としての根拠でした。


* * *


幕舎では、千歳が前線から届く報告を聞きながら、五つの石を並べ替えていました。


「アラハバキ様、左肩負傷」

「新人線、再び十歩後退」

「ウズメ様、前線中央へ移動」


報告のたびに、手が震えます。

自分が答えを出せなければ、前線の時間だけが減っていきます。


「急がなきゃ」


── AIツクヨミ 応答 ──

急ぐことと、候補を捨てることは別です。

────────────


それは、カミムスヒ様が出立前に言った言葉と似ていました。


急いでいい。

慌ててはいけない。


「前線の音、聞かせて」

水晶から、武器の音とウズメ先輩の鈴が届きました。


一、二。


少し間が空く。


一、二。


三拍目だけが抜かれています。


抜かれた場所に、冷たい痕跡だけが反応しました。


「三つ目を踏んでない」


── AIツクヨミ 応答 ──

休眠痕跡の再起動を避けています。

────────────


「三拍目が経路なんじゃないよね」


── AIツクヨミ 応答 ──

はい。

経路情報は秘匿されています。

三拍目に残るのは、過去の侵入処理と一致する起動署名です。

署名があれば、閉じた経路へ呼びかけられる。

しかし、経路そのものを新しく作れるわけではありません。

────────────


「じゃあ、残ってる道を探すしかない」


ツクヨミの表示が止まりました。


── SYSTEM LOG ──

processing_load(処理負荷): critical(限界)

memory_fragment_alignment(記憶断片整列): executing(実行中)

────────────


幕舎の黒曜石から白い光があふれました。

転生の途中で見た破片が、今度は順番を持って戻ってきました。


――千歳が来る数日前・白黒石盤側――


白と黒だけで組まれた石盤の前に、まだ若い軍師が立っていました。

周囲の者が呼んだ名は、軍師ツキヨミ。

ツキヨミは遠くの五色石盤を見ながら、指先で細い黒い線を引きました。

「五つに聞くから遅い。白か黒へ落とせ」


── SYSTEM LOG ──

payload_name(侵入処理名): TSUKUYOMI

target(侵入対象): GOSHIKI_SEKIBAN

route_record(経路記録): suppressed(抑制)

────────────


「入口は残すな。成功すれば、向こうの判断はこっちの命令になる」

黒い線が白黒石盤の奥へ沈みました。


――同時刻・日高見――

五色石盤は、色を失いませんでした。

けれど白、黒、赤、青、黄が、同じ命令を返し始めました。


「味方か、敵か。それだけ答えろ」

「外から入った痕がない。中の誰かが通したんだ」

日高見の民の声が、白と黒へ割れていきます。


石盤から手を離さず、変化の順番を見ていた女神がいました。


転生時には、白い光に切られて名前まで分からなかった横顔。

岩木山の石輪で見た顔と重なりました。

アンジュヒメでした。

「最初に変わったのは白石です。鈴の三つ目より前でした」


視線が舞姫へ向き、次に石盤の中枢へ触れられる女神へ向きます。


アラハバキが、その視線の間へ立ちました。

「証拠のない目を、仲間へ向けるな」


── SYSTEM LOG ──

takeover(乗っ取り): failed(失敗)

foreign_logic(外来ロジック): quarantined(隔離)

────────────


――侵入事件の数日後・千歳転生直前――

夜の五色石盤に、イワナガヒメが一人で向き合っていました。


アンジュヒメの証言を刻んだ石と、舞の型に残った冷たさを交互に読みます。

「三つ目は入口じゃねえ」

イワナガヒメは黒石を裏返しました。

「もう入ってたものが、そこで目を覚ましただけだ」

冷たさを追うと、痕跡はアカデミー脇の水辺へ続いていました。

イワナガヒメは水辺の黒曜石へ手を置きます。


石の奥で、月のような印が開きました。


── 応答元不明 ──


観測を停止してください。


────────────


イワナガヒメは笑いました。

「見るなって言われて、やめるかよ」


── SYSTEM LOG ──

quarantined_logic(隔離ロジック): reactivated(再起動)

observer_trace(観測者痕跡): attached(付着)

────────────


白い光が指先から腕へ上がり、水面に映るイワナガヒメの姿だけが消えました。

身体が水辺へ倒れ、記録はそこで途切れました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。