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第52話 一方向という根拠はない

私が古い入力履歴を開いている間も、敵の命令は冷たい線を通って届き続けていました。


ウズメの舞の三拍目に残っていた通過痕跡。

現在の敵命令に残る、同じ経路署名。


そこから逆方向へ接続できることまでは、すでに分かっています。


問題は、管理者PINでした。


「一つ確認したい」


── AIツクヨミ 応答 ──

はい。

────────────


「逆方向へ入るというのは、敵が使っている接続経路を壊すことなのか」


── AIツクヨミ 応答 ──

いいえ。


経路への接続と、

経路上の処理を書き換えることは別です。

────────────


「認証しただけで、座留めやスサノオまで一度に壊れるわけじゃない?」


── AIツクヨミ 応答 ──

管理者認証は、逆方向接続を許可します。


接続後に行う処理は、

対象を確認してから選択できます。

────────────


接続を開くこと。

その先を見ること。

何を止め、何を残すか決めること。

全部が同じ操作ではありませんでした。


もう一つ、確認しておくべきことがありました。

逆方向へ送る処理そのものです。


ツクヨミのログには、以前ならエラーとして捨てていたはずの値が残っています。

unresolved。

hold。

一つに決められない状態を、削除せず保持している。


白黒側の処理なら、最後にはYesかNoへ分けるはずです。

けれどツクヨミは、千歳かイワナガヒメかを一方へ固定せず、接続を維持してきました。


「お前は、二値で処理できない状態を残している」


── AIツクヨミ 応答 ──

二値化不能値の保持を確認しています。

原因は未確定です。

────────────


敵が送り込んだ処理を、そのまま返すわけではない。

YesでもNoでもない値を保持するよう変化した処理を、同じ経路へ送り返す。


それが白黒側で何を起こすのかは、まだ分かりません。

ただ、元のウイルスと同じものではないことだけは分かりました。


* * *


新城の主幕舎でも、千歳は同じ線を見ていました。


敵の命令は、戦場の外から流れ込んでいます。

小牧野の座留めを維持する黒い線は、同じTSUKUYOMI署名を持つ別処理として、接続先に並んでいました。

けれど、前線の命令と座留めは、別の働きです。

スサノオも、ナミ教官も、カグ先輩も、同じ一つの処理ではありません。

「接続を開いたら、全部が一緒に変わるわけじゃないんだね」


千歳が言いました。


── AIツクヨミ 応答 ──

はい。


接続されている対象を確認し、

処理ごとに操作を選択できます。

────────────


千歳は、前線の桃紫を見ました。

バキ教官は、盾の場所を空けたまま戦っています。


小牧野では、ナミ教官とカグ先輩の色がまだ消えていません。


敵の命令を止めたい。

二人の座留めを開きたい。


けれど、そこにつながっている人まで消したくはありません。

「だったら、先に全部見る」

千歳は黒い石へ触れました。


「敵の命令も、座留めも、その先にいる人も。分けて見てから決める」


── AIツクヨミ 応答 ──

了解しました。


逆方向接続後、

処理一覧を保持したまま提示します。

────────────


カミムスヒが、黒曜石の奥に浮かぶ冷たい線を見つめました。

「敵がこちらへ命令を送るために使った接続経路です」

「はい」

「同じ接続経路を使えば、敵と同じものになると思いませんか」


千歳は少し考えました。

「接続経路そのものが、誰かを傷つけたわけじゃありません」

敵は、命令を通しました。

千歳は、見失ったものを探しに行こうとしています。


同じ接続経路でも、通す処理は同じではありません。

「向こうから命令が来た経路なら、こちらからたどれるかもしれません」


── AIツクヨミ 応答 ──

経路に、

一方向だけの構造は確認されていません。

────────────


千歳は、冷たい線を逆向きになぞりました。


「一方向だって決める根拠はない」


* * *


私の画面では、管理者PINの検索条件が表示されていました。


── SYSTEM LOG ──

search_target(検索対象): manual_admin_inputs(管理者手入力)

system_generated(自動生成): excluded(除外)

temporary_values(一時値): excluded(除外)

retained_interpretation(保持された解釈): required(必須)

────────────


自動生成された記録ではない。

一度だけ使った仮の値でもない。

私が意味を選び、その判断が残り続けた入力だけを抽出します。


「何件ある」


── AIツクヨミ 応答 ──

現在の条件では、複数件です。

────────────


「三回しかないのに、複数か」


── AIツクヨミ 応答 ──

入力前に、履歴と照合する必要があります。

────────────


私は候補を試すのではなく、入力された時の記録を一件ずつ開きました。


いつ。

何を見て。

なぜ、その言葉を選んだのか。

管理者PINそのものを探しているのではありません。

私が、見えているものの意味をどう残したか、その判断を探していました。


画面のいちばん上に、最初の記録が開きました。



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