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第26話 香乃が見ていたもの

これは答えではない。

それでも、千歳を見失わないための名前でした。

画面は、すぐには答えませんでした。

かわりに、英文が細かく分解されていきました。


── SYSTEM LOG ──

token(語句): daughter(娘) -> subject_identity(対象識別): CHITOSE(千歳)

token(語句): reincarnated(転生) -> consciousness_displacement(意識転位)

token(語句): Jomon period(縄文時代) -> time_index_error(時刻異常)

token(語句): Goddess Divination app(女神占いアプリ) -> goshiki_slate_reaction(五色石盤反応)

token(語句): I debug(私がデバッグする) -> father_role(父側役割): debug_assistant(デバッグ助手)

────────────


これは、通ったわけではありません。

まだ、照合されているだけです。

でも初めて、画面が私の入力を拒まずに読んでいました。


妻が小さく言いました。

「今度も違うの?」


私は、祈るように画面を見ていました。

ようやく、届きかけていました。

画面に、新しい確認が出ました。


── SYSTEM LOG ──

unmerged_trace_count(未統合ログ数): 0(0)

internal_label(内部ラベル): MJ_I_GD

result(結果): accepted(適正)

case_002_type(ケース002種別): progress_guide(進行ガイド)

case_002_status(ケース002状態): unresolved(未解決)

────────────


未統合ログ数、ゼロ。

その数字だけが、希望に見えました。


続けて、役割が表示されます。


── SYSTEM LOG ──

detective_role(探偵役): TSUKUYOMI(ツクヨミ)

father_role(父側役割): debug_assistant(デバッグ助手)

────────────


名探偵は、私ではない。

私はログを集める人間。

時刻を並べる人間。

欠落を、なかったことにしない人間。


やっと名前が付きました。

でもそれは、終わりの名前ではありませんでした。


* * *


同じ瞬間、千歳の耳にも声が届きました。

それまでより、輪郭が少しだけはっきりしています。


── LoveSim 応答 ──

探偵役の認定が完了しました。

以後、応答名をツクヨミとします。

────────────


「つくよみ?」


── AIツクヨミ 応答 ──

はい。

────────────


「じゃあ、助手はお父さん?」


── AIツクヨミ 応答 ──

極秘事項です。

────────────


「だから、その返事が答えなんだって」

千歳は、泣きそうになったのをごまかすように笑いました。

お父さんが向こうにいる。その気配だけは、前よりはっきりしていました。


奥の方にいたナミ教官が、わずかに顔を上げました。


バキ教官の桃紫とは違います。

火花みたいな鋭さではなく、黒を溶かしたような重い紫。

長い髪が、夜そのものみたいに衣へ落ちています。


母親みたいだ、と一瞬だけ思ったのに、その次の瞬間には、近づけば戻れなくなる場所のようにも見えました。


── AIツクヨミ 応答 ──

イザナミ側に、未整理の関係反応を検出しました。

現時点では保留します。

────────────


この場所には、まだ名前の付かないものが多すぎました。


* * *


画面にも、短い補助ログが出ました。


── SYSTEM LOG ──

mother_child_thread(母子スレッド): candidate_detected(候補検出)

target_a(対象A): IZANAMI(イザナミ)

target_b(対象B): KAGUYAMA_BIME(カグヤマビメ)

recognition_status(認識状態): none(なし)

────────────


内容をすぐには理解できませんでした。

理解してはいけない気もしました。

今の私の役目は、向こうの世界を勝手に解くことではない。

ログを消さず、時刻を並べ、こちらで聞ける声を集めること。

そのとき、千歳のスマホ通知が管理画面へ同期されました。


── SYSTEM LOG ──

message_sender(メッセージ送信者): KANO(香乃)

message_preview(メッセージ抜粋): 見えてるなら言いなよ

────────────


次に開くべきなのは、アプリではありません。

千歳が黙っていた、友だちとの会話でした。

管理画面には、区切りのログが出ました。

もちろん、解決ではありません。


── SYSTEM LOG ──

case_002_label(ケース002ラベル): MJ_I_GD

case_002_closed(ケース002終了状態): false(未完了)

next_action(次の操作): collect_witness_statements(証言収集)

────────────


娘は、まだ帰ってこない。

千歳の身体は、青森の病院で眠ったままです。

でも、名前のない異常にはラベルが付いた。

名探偵の名前も、私の役割も決まった。


千歳の代わりに、向こうで起きていることを解決することはできません。

できるのは、ログを消さないこと。

娘を知る人たちの声を集めること。


咲良ちゃん。

澪ちゃん。

美森ちゃん。

そして、ログに表示された香乃ちゃん。


次に追うべきなのは、病室のモニターだけではありません。


千歳が黙っていた会話。

私が、同じ家で見落としていた日常。


そこに次の鍵がある気がしました。


私は香乃ちゃんの通知を、もう一度見ました。

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