↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
25/66

第25話 娘を見失わない名前

私は、また候補を入れました。


── ADMIN INPUT ──

candidate(候補): CHITOSE_IWANAGA_MISMATCH(千歳イワナガ不一致)

────────────


── SYSTEM LOG ──

result(結果): rejected(不適正)

reason(理由): identity_layer_only(自己認識層のみ)

────────────


また、不適正。


でも、理由は見えてきました。

このケースは、千歳の容体でもない。

場所だけでもない。

時刻だけでもない。

女神キーだけでもない。

身体の不一致だけでもない。

全部が同時に起きている。


「一語じゃ無理だろ」


その時、画面にAI応答が出ました。


── LoveSim 応答 ──

圧縮前の状況記述を推奨します。

現状を削らず入力してください。

────────────


削らずに言う。

それが一番、難しいことでした。


画面に残ったログを見直しました。


── SYSTEM LOG ──

current_site(現在地点): SANNAI_MARUYAMA(三内丸山)

location_status(位置状態): fixed(固定)

time_index_error(時刻索引異常): active(発生中)

estimated_offset(推定差分): approximately_5000_years(約五千年)

body_anchor(身体アンカー): IWANAGA(イワナガヒメ)

────────────


場所は動いていない。

三内丸山のままです。


でも、時刻だけが現代から外れている。

しかも約五千年前。


ログ上では、千歳の意識反応が、イワナガヒメという身体アンカーに接続している。


読み間違いであってほしかった。

でも、何度見ても同じ行に戻ってきました。

千歳が聞いた答えへ、私は近づいていました。


「縄文時代……?」


口に出した瞬間、自分で否定しました。

違う。

そんな言い方をしてはいけない。

開発者として、そんな単語をログに入れたくない。


時刻異常。

身体アンカー。

意識トレース。


そういう言葉で処理するべきです。

でも、システムはそれらを全部はねました。


時刻異常だけでは足りない。

イワナガヒメ接続だけでも足りない。

五色石盤同期だけでも足りない。


妻が小さく聞きました。

「今、縄文って言った?」


言いたくない言葉ほど、画面の中では輪郭を持ちはじめていました。

現代の千歳は病院にいる。

でも、別のログでは、千歳の意識反応が約五千年前の三内丸山にある。

しかも、イワナガヒメの身体アンカーに重なっている。


これは移動ではありません。

場所は変わっていない。


これは単なる意識不明でもありません。

現代身体とは別の反応がある。


では、意識を失った千歳が見ている夢なのか。

一瞬、そう考えました。

けれど、夢だけでは説明できません。

夢なら、現代の端末に千歳とつながった応答が残り続ける理由がない。


私は、認めたくない言葉を頭の中で繰り返しました。


転生。


そんな言葉を管理画面に入れたくない。

でも、今の千歳を追うために必要なら。

仮の言葉としてでも、使うしかないのかもしれません。


私は、まず頭の中で状況を言葉にしました。

娘が、約五千年前のどこかへ……。


そこで考え直しました。

違う。

場所は不明ではない。

三内丸山です。


千歳の意識は、イワナガヒメの身体情報に重なっている。


だから、短く言えばこうなる。

娘が、縄文時代に転生した。


そして、その娘を追うために、父である私が女神占いをデバッグする。


認めたいわけではありません。

でも、ラベルは信仰告白ではない。

追跡するための仮名です。

現状を削らずに束ねるための、苦しい名前でした。


私は、ふざけたタイトルのような英文を思いつきました。


あまりにも長い。

あまりにも変です。

でも、今起きていることを一番削っていない。


── ADMIN INPUT ──

candidate(候補): My daughter reincarnated into the Jomon period, so I debug the Goddess Divination app.

(娘が縄文時代に転生したので、父は女神占いをデバッグします)

────────────


── SYSTEM LOG ──

label_status(ラベル状態): evaluating(評価中)

────────────


Enterキーを押したあと、すぐ後悔しました。


転生。

縄文時代。

女神占い。

デバッグ。

父。


全部、今の千歳に向けるには重すぎる言葉でした。

けれど、どれかを抜くと、千歳のログがまたばらばらになる。

私は、evaluatingの文字が変わるのを待ちました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。